なんでこうなるの?   作:とんこつラーメン

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今回から原作第二巻に突入です。

今話はある意味でネタ満載になってます。






久々の帰省

 6月初頭の日曜日。

 私、板垣弥生は久方振りに実家へと帰省していた。

 学園を出る際に一悶着あったけど、それは一先ず横に置く。

 

(たった数か月の事なのに、随分と懐かしく感じるんだな~……)

 

 門の前で家……と言うよりも屋敷と言った方が正しい目の前の建築物を見上げる。

 

 私の住んでいる家である『板垣家』は、非常に大きい屋敷と同じ位大きな敷地を持っている。

 簡単に言うと、敷地だけで東京ドーム丸々一個分ぐらい。

 屋敷はそれを少しだけ縮小したぐらいの広さがある。

 

 この屋敷は4階建て(地下一階と上に三階)の和風建築で、家の殆どの場所に木材が使われているのが特徴。

 畳の部屋も結構多くて、私はかなり気に入っている。

 私の部屋はフローリングだけど。

 

 他にも色々と紹介したいけど、それは入ってからする事にしよう。

 

「え……っと……」

 

 門の柱の所にある特殊な機器に自分の手を翳す。

 すると、そこから近赤外線が放射されて、私の静脈を検知、これで門が開く仕組みになっている。

 因みに、この機械に登録されているのは、私とおじいちゃんを除けば、他にはおじいちゃんの知り合いの人が少数だけ。

 それ以外の人間では門を開く事すら叶わない。

 もしも無理矢理にでもここを乗り越えようとでもすれば、次の瞬間には超強力レーザーにて灰になる。

 実際に被害に遭った人間は一人もいないけど。

 

 門をくぐって石畳の上を歩いて行くと、屋敷の玄関が見えてきた。

 大きな木製の扉で、これを見ると帰ってきたんだな~って実感する。

 

「ただい…ま……」

 

 扉を開けて玄関をくぐると、私の大好きな木の匂いが鼻孔を擽る。

 これだよ! これ! これこそ我が家の匂い!

 

「ワンワン!」

「あ……」

 

 私が靴を脱いで上がったのと同時に、奥から一匹の雌の柴犬が走ってきて私の目の前で座った。

 

「ただ…いま……外務…大…臣……」

「ワン!」

 

 このワンコこそが、おじいちゃんの愛犬にして我が家の数あるペットの筆頭格である『外務大臣』だ。

 名前こそアレだが、つぶらな瞳とふわふわの尻尾がたまらないんだよね~♡

 

 私が外務大臣の頭を撫でていると、スマホにおじいちゃんからメールが来た。

 

【すまん! 本当は私も家に帰ろうと思っていたんじゃが、急な仕事が入ってしまった! 本当にすまん! この埋め合わせは必ずする! 必ずじゃ!!】

 

 まぁ……仕方が無いよね。

 なんせ、おじいちゃんは()()()()()()()()()()だから。

 

【気にしないで。それよりも、お仕事頑張ってね】

 

 これでいいだろう。

 家に入った時におじいちゃんの出迎えが無い時点で、なんとなく予想はしてたけど。

 

(他の皆の事も見たくなったな……)

 

 ここには外務大臣以外にも、複数のペットがいて、それら全てがおじいちゃんの大事にしている存在だ。

 でも、おじいちゃんも私もいない時、おじいちゃんの知り合いの人達がこの子達の世話をしてくれるから、その点に関しては問題無い。

 

 外務大臣と一緒に自分の部屋(二階の一番端)まで行って、荷物置いてから私服へと着替えて、念の為に携帯と財布をポケットに入れてから部屋を出る。

 そして、そのままこの家に一緒に住んでいる大事な『家族』達の顔を見に行くことに。

 

 まずは、縁側でポカポカと日向ぼっこをしていた猫の『財務大臣』。

 アメリカンショートヘアの雄で、おじいちゃんと同じくらい私に懐いてくれている。

 私も猫好きだから、この子を見ているだけで心が癒されていく。

 

「ただ…いま……」

「ニャ~オ」

 

 一回だけ鳴いて、私の足にすり寄って来た。

 あぁ~…可愛いなぁ~…♡

 

「おい…で」

「にゃう」

 

 私の腕までジャンプしてきた財務大臣を腕に抱きながら、次の場所に移動開始。

 

 お次に来たのは、屋敷の端の方にある大きな部屋で、そこには多くの設備と一緒に非常に大きな水槽が設置してある。

 その水槽の中にいるのが、なんでかおじいちゃんがこの家で飼っているマグロの『農林水産大臣』

 一体何処でこの子を手に入れたのか、冗談抜きで謎。

 最初見た時は、余りの迫力におしっこちびりそうになったっけ。

 今では大事な家族になってるけど。

 

「帰ってきた……よ……」

 

 おう……。こっちに向かって口をパクパクしてますよ。

 餌が欲しいのかな?

 

「うんしょ……っと」

 

 備え付けのバケツを持ちながら脚立を昇って、農林水産大臣の餌であるお魚(名前は知らない)を一匹ずつ投げ入れた。

 彼がすぐに魚に反応し、あっという間に食べてしまった。

 

「また後……で…ね……」

 

 彼に手を振って、最後の一匹の所に行こうか。

 財務大臣、いつも思うけど、ジッと農林水産大臣の事を見るのは止めなさい。

 あの子、地味に怖がってるよ?

 

 今度は裏口にあるサンダルを履いて、そこから屋敷の裏にある少し開けた牧場のような場所に行く。

 そこに、おじいちゃんの愛馬である雄のサラブレッドの『文部大臣』がいる。

 休みの日とかは、よく文部大臣の背に乗って乗馬を楽しんでいる。

 因みに、私も少しだけなら乗馬できますよ?

 おじいちゃんに習ったからね!

 

 外務大臣と財務大臣を柵の外で待たせて、私だけが柵の中に入り、のんびりと過ごしている文部大臣の傍まで近寄る。

 

「帰った……よ……文部…大…臣……」

 

 私が来た途端、彼は僅かに頭を低くして、私に合わせてくれた。

 

「ん……」

 

 彼の頭を撫でると、サラサラの体毛が気持ちいい。

 夏休みとかになったら、また彼に乗ってみるのもいいかもな……。

 

 その後、いくつかニンジンを食べさせて、そこを後にした。

 

 屋敷に戻った私は、中庭にて外務大臣と財務大臣にも食事を与えて、その様子を静かに縁側から眺めていた。

 

「美味…しい……?」

「ワンッ!」

「ニャ~ウ」

 

 返事してくれたし。

 まさか、人の言葉が分かる……わけないか。

 

(私もお腹空いたな~……)

 

 外務大臣の散歩がてら、私も外に食べに行こうかな……。

 広い屋敷で一人で食事ってのも、なんだか味気ないし。

 それに、前々から行ってみたい場所もあったし。

 

(……そうしよう。外務大臣のリードってどこにあったっけ……)

 

 この子達の食事が終わり次第、私も出かける準備をして、外務大臣と一緒に少し早い昼食に向かう事にした。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「はぁ~……」

「人の家に来るなり、溜息ばっかり吐いてんじゃねぇよ」

「はぁ~……」

「だめだこりゃ」

 

 俺、織斑一夏は現在、休みの日を利用して中学からの親友である『五反田弾』の家まで遊びに来ていた。

 

 あの無人機事件から色々とあったが、なんとか事態は収束した。

 事件自体は学園側から箝口令が敷かれて、表向きは何も無かったことにされた。

 それで全て解決……とは流石にいかなくて、新入生の内の十数人が自主退学をしてしまった。

 幸いな事に、俺が所属する一組からは一人もいなかったが、鈴のいる二組や更識さんがいる四組は数人、三組に至っては十人近くが辞めたらしい。

 

 それを聞いて、俺は改めて、あの事件がどれだけ大変なものだったのか実感した。

 

 気晴らしにと思って、こうして弾の家まで来たが、やっぱり色々と考えてしまう。

 

「そういやメールでも言ってたけどよ、鈴も転校してきたんだって? どうよ?」

「どうって言われてもな……」

 

 なんて言えばいいのか迷うな……。

 変わってないと言えば変わってないし、変わってる所も多々あるし……。

 

「お前……また何かやらかしたな?」

「またって何だよ、またって」

「自覚ねぇのかよ……」

 

 なんなんだよ、勿体ぶった言い方しやがって……。

 

「にしても、お前の溜息って、まるで恋煩いみたいだな」

「………!!」

 

 こ…恋煩い……。

 なんで、その言葉を聞いた途端に弥生の顔が思い浮かんだんだ……?

 

「………図星かよ。適当に言ったのに……」

「図星って言うか……なんか気になる女の子ならいる……かも」

「マジでっ!? ど…どんな子だ!? 写真とかあるのか!?」

「一応、携帯になら……」

 

 俺は密かに携帯で撮影した弥生の写真(本人未許可)を弾に見せた。

 

「え……?」

 

 ……なんでそこで黙る?

 

「おいおいおいおいおい! これ……マジで言ってるのか!?」

「いや……何が?」

「だって……この子……」

「弥生の事を知ってるのか?」

 

 弥生と弾に何か接点があるのか?

 ……なんか面白くねぇな。

 

「お前覚えてないか? 俺等が中学の時に、隣町にある学校にクールビューティーな超絶美少女がいるって噂!」

「そんなのあったか?」

 

 全然知らないぞ?

 

「……お前は昔から、その手の話には無関心だったもんな……」

「うっせ」

 

 余計なお世話じゃ。

 

「まぁ……簡単に説明するとだな。隣町に超セレブな子しか通えない超お嬢様学校、名前は確か……『(セント)マリアンヌ学園』…だったかな? があって、そこに……」

「弥生が通ってたって?」

「そうなんだよ!」

 

 こら、こっち指差すな。

 聖マリアンヌって……昔のアッチ系の漫画に出てきそうな学校名だな……。

 そんな場所に弥生は通ってたのか……。

 

「あれ?」

 

 そうなると、弥生って実は超がつくほどのお嬢様? マジで?

 

(俺……とんでもない子に勉強を教わってたのかも……)

 

 お…俺……何か失礼な事をしてないよな……って、思いっきりしてるじゃん!

 裸を見たり、押し倒したり!

 

(あはは……オワタ)

 

 弥生が優しくなかったら、今頃どうなっていたんだろう……。

 

「前に俺も噂を確かめる為に、数馬と一緒にそこまで行ったし」

「お前等……」

 

 呆れるっつーか……暇人だな~…弾も数馬も。

 因みに、数馬ってのは、もう一人の俺の男友達である『御手洗数馬』の事だ。

 

「いや~…ぶっちゃけ、一目見ただけでスゲーって思っちまったね。スタイルは抜群だし、顔も申し分なし。クールな表情がまたよくて……」

 

 中学時代の弥生か……俺も見てみたいな。

 俺も誘ってくれればよかったのに。

 

「しかも、かなりのエリート校であるにも関わらず、成績は常にトップクラスで、裏でかなりの人気があったみたいだぞ」

 

 それはなんとなく分かる。

 弥生の成績は今でもトップクラスだし、箒達を筆頭にかなりの人気がある。

 噂では『弥生ちゃんを愛で隊』なる存在があるとか無いとか。

 

「そんな子とテメェはお近づきになりやがって……!」

「お近づきって……。一緒のクラスなだけだって」

「嘘つけ!! 学校中の人間から揃って朴念神とまで言われたお前がそこまでお熱になる程の相手だぞ!! 絶対に何かあったに決まってる!!」

「勝手に決めつけんなよ。あと、勝手に人を神にするな」

「いいから話せ! ほれ!」

「暑苦しいから離れろって……」

 

 弾の奴、いきなり首に腕を回してきやがって。

 俺はソッチの趣味は無いぞ。

 

「……別に特別な事なんてしてねぇよ。弥生の部屋で勉強教わって、その時に役に立つアドバイスも貰って、俺が試合に負けた時は慰めて貰って……」

 

 そうだ。俺と弥生の関係なんて、所詮はその程度。

 俺は彼女に何もしてあげられなかった。

 病気で寝込んだ時も、体を張って箒達を守って倒れた時も……。

 

「うぉっ!?」

 

 弾が無表情のまま血涙を流している!?

 

「リア充爆発しろ!! もしくは死ね!!」

「全力で断る!!」

 

 冗談抜きで意味が分からんわ!!

 

「こんな超セレブ系美少女と二人っきりで勉強会をした挙句、慰めて貰うとか……! お前は世のモテない男子全員に喧嘩売ってんのか!!!」

「別に売っとらんわ!!」

「生まれてこの方、一度も女子と二人っきりの空間で勉強とか教わった事なんて無いのに……! 羨ましいやら、妬ましいやら……!」

「中学の時に鈴と一緒に勉強したじゃねぇか」

「あの頃はお前や数馬も一緒だったろうが!! あんなの問答無用でノーカウントだ!!」

 

 こいつの価値基準が全く理解できない……。

 なんで弾はここまで切れてるんだ?

 

「負けてたまるか!! 俺も絶対に可愛い彼女を作るぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

「が…頑張れ……」

 

 と言うか、こんな場所で大声とか出すなよ。

 そんな事をしたら……

 

「お兄!! さっきからずっとお昼が出来たって言ってるじゃん!! ちゃんと返事してよ!! それと、普通に五月蠅い!!」

 

 ほらな。

 部屋の扉を蹴破って、弾の妹である『五反田蘭』が入ってきた。

 歳は一個下の中学3年生。

 タンクトップとショートパンツを着ているけど、家では思ったよりもラフな格好をしてるんだな。

 

「い…一夏さん!? 来てたんですか……」

「おっす。邪魔してる」

 

 蘭とこうして会うのも久し振りに感じるな。

 

「全寮制の学校に通ってるって聞きましたけど……」

「その通り。今日は外出届を出して、家の掃除をしたついでにここに立ち寄ったんだ」

「そうだったんですか……」

 

 久々の家の掃除も大変だった。

 思った以上に埃が溜まっていたからな。

 

「蘭、せめてノックぐらいは「それよりも! なにやら気になる事が聞こえたんですけど!?」……俺は無視かい」

 

 気になる事? なんだ?

 

「い…一夏さんが気になる女性がいるって……」

「あぁ……弥生の事か?」

「や…弥生……さん?」

 

 一応、さっき弾に見せた写真を蘭にも見せる。

 

「す…凄い美少女……」

「ほら、前にお前にも話しただろ? 噂のクールビューティーなセレブ系美少女の事」

「昔、お兄がウザいくらいに熱く語ってた、あの……?」

「そうだ! この子がその美少女だ!!」

 

 蘭にも話してたのかよ……。

 この話、どこまで広まってるんだ?

 

「終わった……」

「あらゆる面で向こうの方が上だよな……」

 

 それを具体的に説明したら、お前の命が危ないぞ。

 だから、絶対に言うなよ? 絶対だぞ!

 

「上ってどこが?」

「そりゃ……胸t「ら…蘭! さっき昼飯が出来たって言ってたよな!? 早く行こうぜ! 俺もすっかりお腹空いちまったよ!」い…一夏……」

 

 速攻でフラグ回収してんじゃねぇよ!

 俺がフォローしなかったら、間違いなくお前はあの世行きだったぞ!?

 

「そ…そうですね! ほら、お兄!」

「お…おう……」

 

 なんとか誤魔化せたか……。

 一緒に部屋を出て、階段を下りて店舗になっている一階に向かう。

 

「お兄」

「なんだ?」

「ちゃんと聞こえてたからね……」

「うぐ……!」

「一夏さんに感謝しなよ……」

「ハイ……」

 

 ん? 二人してなにひそひそ話してるんだ?

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 俺達が一階に降りた直後、店の扉が開かれて、一人のお客さんが入ってきた。

 蘭は途中で自分の部屋に戻って着替えてくるって言って、今はここにいない。

 

「いらっしゃいませ~」

 

 二人の母親である蓮さんが挨拶をして、お客さんを出迎える。

 優美な感じで礼をして、とても絵になる。

 

 だが、それとは反対に、入ってきたお客さんを見て俺達は絶句してしまった。

 

「嘘……だろ……?」

「お…おぉ~……!」

 

 五反田食堂に入ってきた客とは……私服を着た弥生だったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本当は一回に纏めたかったんですけど、例の如く、またまた二話構成に……。

次回、別の意味で弥生無双!?

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