弥生の元に生徒達は集まるのでしょうか?
山田先生と鈴、セシリアとの模擬戦が終了し、その後に私の専用機を紹介してから、本格的な実習が始まった。
「これから専用機持ちをグループリーダーにしてから実習を行う事にする。確か……織斑にオルコット、凰にデュノアにボーデヴィッヒ、それから板垣の6人か。ならば、各グループにつき8人……は無理そうだから、5~6人ごとのグループになってから実習をする事にする。では、早速分かれろ」
……やっぱり、私もするんですね~……。
まぁ……何気に人気がある一夏や噂の転入生であるデュノア君、代表候補生としての実績があるセシリアと鈴に現役軍人であるラウラの所には皆は来るだろうが、私みたいに専用機を持っているだけの女の所に来るような酔狂な奴なんて一人もいる訳が……。
「よろしく頼むぞ! 弥生!」
「わ~い! やよっちと同じグループだ~!」
いましたよ……。
箒と本音が真っ直ぐに私の所にやって来ましたよ……。
「私達も来たよ! 板垣さん!」
「何気に板垣さんって成績優秀だし、期待してるよ!」
「うんうん!」
あ…あれぇ~? なんでかな~?
いつもつるんでいる二人はともかく、他の子達が私の所に来る理由が分からないですよ~?
(って言うか、成績だけならセシリアの方が上なんですけど)
色々と言われているけど、私はあくまで学年次席。
つまりは二番目、ナンバー2に過ぎないんだよ?
オリンピックで言えば銀メダル。
金メダルと銀メダルの間には山より高く海より深い隔たりがあるのですよ?
試しに他の所を見てみると、意外や意外、思ったよりも皆が均等に分かれていた。
「さっきの織斑君、カッコよかったよ!」
「デュノア君! 丁寧に教えてね!」
「セシリアなら大丈夫でしょ」
「鈴、お願いね!」
「さっきの説明、丁寧で分かりやすかったよ! ボーデヴィッヒさん!」
な…なんと言う事でしょう……。
まさか、織斑先生に何か言われるよりも前に皆がやるべき事を成してしまった……。
これはもう、やるしかない流れになってますな……。
「よし、ちゃんと分かれたな」
「それじゃあ皆さん、これからグループリーダーさんが訓練機を1班につき1機ずつ取りに来てくださいね。機体は『打鉄』と『リヴァイヴ』がそれぞれ3機ずつです。どちらでも好きな方を班の皆で決めて取りに来てくださいね。一応言っておきますけど、早い者勝ちですからね~」
……だ、そうだ。
さて、やると決めた以上は、中途半端な事はしたくない。
どっちの機体にしようかな?
念の為、他の皆の意見も聞いておこうか。
「み…皆…は……どっちが…いい……?」
「私はどちらでも構わないぞ」
「私も~」
「「「私達も」」」
どっちでもいいと言うのが一番困るんですよ?
(行ってから決めるか)
こんな時は、適当に決めてしまおう。
別に今から試合をするわけじゃないんだ。
細かい機体性能なんて気にする必要は無いか。
テクテクと訓練機が置いてある場所まで歩いて行くと、もう既に何体かは無くなっていた。
今あるのは打鉄とリヴァイヴが一機ずつ。
「あ、板垣さん。どちらにしますか?」
「え……っと……」
訓練機の隣に立っていた山田先生がにこやかに訪ねてくる。
言い方がまるで店員さんみたいだけど、学生時代にコンビニとかでバイトをしていた経験でもあるんだろうか?
「こっち……で……」
「リヴァイヴですね。分かりました」
実は私、リヴァイヴみたいな無骨な機体が好きなんだよね。
機体色が緑色なのも私的にポイントが高い。
なんか、ミリタリーっぽいから。
「あ、大丈夫ですか? ちゃんと運べますか?」
「なん……とか……」
いくらインドア派だからと言って、これぐらいは運べますよ?
重そうに見えるけど、IS自体はタイヤがついた移動式のコンテナの上に乗ってるわけだし、コンテナ自体にもある程度の自走機能は搭載してあるから。
つーわけで、ゴロゴロ~っと皆がいる場所まで運んできました。
「お待た……せ……」
コンテナの上からリヴァイヴを降ろして、地面の上に置く。
勿論、これも簡単な操作で自動的に行われる。
「誰から……にす…る……?」
「出席番号順でよくない? その方が分かりやすいし」
確かに。
こっちとしても、そのほうが有難い。
「じゃあ……出席…番…号…で……」
そんで、このメンバーの中で一番早いのは誰よ?
「んじゃ、まずは私だね!」
そんな訳で、私指導の下で行われる実習が開始された。
ちゃんと教えられるか不安だけど、やるっきゃない!
「と…取り敢えず……は……装着…をしてから……起動して……少しだけ歩いてみ…ようか……?」
「うん! りょ~かいです!」
意気揚々と最初の子がコックピットに乗り込んで、装着、起動、歩行と順調にこなしていく。
「上手……だ…ね……」
「そ…そう? 前に授業で乗った事があるから……って、あの時は板垣さんは休んでいたんだっけ……」
「うん……」
因みに、あの時、私が休んでいた理由は一夏以外の皆が知っている。
同じ女子と言う事もあって、あの苦しみは女なら誰しもが共通して必ず体験する事だから、敢えて知らせておいた……と、後で織斑先生から聞かされた。
「また何かあったら遠慮なく言ってね? アレに関しては、ここにいる皆(一夏は除く)が関係しているんだから」
「そう……だね……」
なんて優しい子なんでしょ……。
名前は知らないけど。
一人目の子が終了し、二人目の子に移る。
二人目の子も一人目の子を見習って、何の問題も起こさずに装着から歩行までを済ませていった。
「ちゃんとやっているな」
おや、織斑先生がやって来た。
見回りでもしているのかな?
「少し見ていたが、矢張り板垣は人に教えるのが上手だな」
「そうかも。板垣さんの教え方ってすっごく分かりやすかったし」
そ…そこまで褒められると……少し照れる。
「板垣の教えに関する才能は、織斑の一件でなんとなく分かってはいたが、こうして直に見せられると、改めて実感する」
「そう言えば、前に弥生は一夏にも勉強を教えていたことがあったな」
「マジで!?」
そんな事もあったね~……って言ってるけど、実は何気にあれってまだ続いてるんだよね。
アイツってば、流石に部屋まで押しかけるような事は無くなったけど、それでも授業で分からない所があれば真っ先に私に聞いてくるんだよ。
お蔭で、私の貴重な休み時間がパーですよ。
「私は他の連中の所を見回る。その調子で続けていくように」
「「「「はい!」」」」
ははは……元気だね。ホント。
言われた通り、調子を崩さないようにしながら実習を続けていくと、箒の番になった時にちょっとしたトラブルが起きてしまった。
「あ! しまった!」
なんと、三番目の子が立った状態のままで装着解除をしてしまったのだ。
基本的にISは降りる時には膝立ちとかして姿勢を低くしないといけない。
そうしないと、コックピットが高過ぎて次の人が乗る事が出来ないから。
「ご…ごめんなさい……。これどうしよう……」
「弥生、どうする?」
ムッフッフッ~。
心配ご無用なのですよ、御両人。
普通ならば原作のようにISを展開してお姫様抱っこ~…的な展開になると思われるかもしれないが、こんな事もあろうかと! 実は密かにこのような時の対策に関する勉強をバッチリとしてきているのですよ! ニャッハッハッ~!
「任せ…て……」
え~っと……私の記憶が確かなら、この辺りの装甲に~……
「あった」
見つけましたよ~。
脚部にあるこのハッチを開けてから、そこの緊急用のタッチパネルをピピピ……とな。
すると、あら不思議。
さっきまで立っていたリヴァイヴがゆっくりとしゃがんだじゃありませんか。
「「「「おぉ~!」」」」
むふふ~……驚いてる驚いてる。
頑張って勉強をした甲斐があるってもんですよ。
「す…凄いですね~…。まさか、緊急用のタッチパネルを使うなんて……」
おっと。いつの間にか傍まで来ていた山田先生に褒められた。
「緊急用?」
「そうです。ISには緊急用の対策として、普段は使えないタッチパネルが設置してあるんです。今回みたいに、立った状態での装着解除などをしてしまった場合、ほんの少しではありますが、これを使って外部からコントロールをして、ISを動かす事が可能なんです」
私が勉強してきたことを全て言われてしまった。
流石は山田先生。そこに痺れる! 憧れる~! ……って、これ前にも言わなかった?
「板垣さん。どうしてコレの事を知っていたんですか?」
「いざ……という時…の為…に……勉強……していたん…です……」
「えぇっ!? これって、習うのは3年生になってからですよ!?」
「「「「はぁっ!?」」」」
え……マジ?
私、普通に勉強しちゃったんですけど……。
「はわ~……板垣さんって本当に勉強熱心なんですね~……」
「そ…れほど……でも……」
しまったな~……。
まさか、そこまで先の事を予習してしまっていたとは。
これは完全に予想外。
「板垣さんって……」
「うん……。私達が想像している以上に凄い子なのかも……」
「普通に尊敬しちゃうな……」
尊敬しないで! しなくていいから!
「弥生はやっぱり凄いんだな……♡」
「やよっち……♡」
はいそこ! 目をハートマークにしてないで、さっさとやるよ!
じゃないと、織斑先生の雷ならぬ出席簿が落ちるからね!
「次…は箒……だよね……?」
「おっと、そうだったな。では、よろしく頼む」
「ん……」
箒もここで遅れればどんな目に遭うかは分かっている為、素早く丁寧にやってくれた。
勿論、降りる時はしゃがんでくれた。
「最後……は本音……」
「よ~し! がんばるぞ~! お~!」
この掛け声だけで不安になってしまうが、実際にはそんな事は無かった。
「うんしょ……うんしょ……」
こちらの想定以上の動きをしてくれて、今まで一番早く終わった。
「終わり~!」
「早……」
「本音ちゃんって、こんなにキビキビした動きが出来たんだね……」
「意外な一面を垣間見た感じがする……」
コラコラ。そんな事を言うもんじゃないぞ?
気持ちは理解出来るけど。
本音のお蔭で、私達の班が一番早く終わることが出来た。
これは余談だが、原作では険悪なムードを漂わせていたラウラの班だったが、ここでは……
「そうだ。その調子だ」
「よし……と。これでいいのかな?」
「よくやった。では次!」
この通り。私の心配が杞憂であった事を思い知らされた。
もしかして、このラウラは私が知っている彼女よりも『いい子』なのでは……?
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「では、午前の実習はこれで終了にする。午後からは今回使用した訓練機の整備の実習を行う予定なので、昼休みが終わり次第、教室ではなくて第1格納庫へと直接集合するように。猶、専用機持ちは訓練機と自身の専用機の両方の整備をしてもらうから、そのつもりで。……解散!」
全ての起動テストを終わらせた私達は、使ったISを格納庫に戻してから、またグラウンドに戻ってきた。
私達以外の班も比較的順調に終わらせたから、時間に余裕を持って格納庫に置いてこれた。
先生コンビは連絡事項を言い終えてから、そそくさと去っていった。
(そう言えば……まだ私、一夏にお礼言ってなかったな……)
形はどうであれ、一夏に助けられたわけだし。
お礼位は言っておいたほうが……。
(いや……それだけじゃ物足りないかも)
もしも一夏が動かなかったら、絶対に重傷、下手をすれば死んでいたかもしれない。
礼を言うだけで終わりって言うのは、流石にどうだろう。
(もうちょっとちゃんとした礼をして……)
でも、何をすればお礼になるのかな?
一夏が喜ぶような事と言えば……。
(……さっぱり分からん)
いかに一夏が鈍感大魔王とは言え、一応は男にカテゴライズされる存在だ。
ならば、一般的に男が喜ぶような事をしてあげればいいのではないか?
(男が喜ぶ事……男が喜ぶ事……)
……なんだろう?
前世が男だったから、私が昔されて嬉しかったことをしてやれば……
(前世の私ってば最強クラスのボッチだったじゃねぇか!! 女の子と付き合ったことは愚か、手も繋いだことも無いよ!!)
いや……何かある筈だ! よ~く思い出せ! 私!!
(…………そうだ)
『アレ』なら喜んでくれるかもしれない。
元男だから分かるけど、男ってのは大抵が馬鹿ばっかりだからな。
女が大した事ないって思っているような事でビックリするくらいに喜んだりするんだよ。
(よし! そうと決まれば早速、一夏に……)
「弥生? ボ~ッとしてどうしたの?」
「……!? な…なんでもない……よ……」
顔を覗きこむようにして、いきなり鈴に話しかけられてビックリした……。
授業が終わったのに、ここでジッとしているのはよくないよな。うん。
キュ~……
「「「「「「「あ……」」」」」」
「うぅぅ……」
このタイミングでお腹の虫が鳴るし~!
これはかなり恥ずい……。
「空腹なのですか!? ならば、急いで食堂に急ぎましょう! 姫様!」
「そ…そうだ…ね……」
「私達もお腹が空きましたわね。早く着替えて行きましょうか?」
「だな」
今はとにかく、お昼の事に集中しようか。
一夏へのお礼はその後って事で。
(あれ? この辺りで箒から屋上で弁当食べよう的なお誘いがあるんじゃなかったっけ? 何も言われなかったな……)
別に、何も無いなら私はいいんだけど。
その方がこっちには都合がいいし。
(今日は何を食べようかな~?)
午前で色々と疲れたし、ガッツリとしたものを食べたいよな~。
多分、ラウラも一緒に来るよな……。
でも、そうなるとシャルル君は?
実習が終わり、お昼ご飯に。
でも、屋上には行かないっぽい?
そして、弥生が一夏へのお礼に考えた事とは?