敢えて、それ以外は語りません。
今回の話の中盤以降は一夏の姿を自分に投影すると、より楽しめるかもしれません。
お昼になって、私達はいつものように食堂に向かうが、今日は少しメンバーが違っていた。
「ぼ…僕も一緒でよかったのかな?」
「気にすんなって。どうせ、これから嫌でもここには何回も通う事になるんだし。場所を覚えるついでに、こうして皆と少しでも交流出来る。一石二鳥じゃないか」
「そう……かもね」
まず、例の二人目の男性IS操縦者(仮)ことシャルル君が同行。
それに加え、私の隣には例の如くドイツからやって来た可愛い護衛さんが座っている。
一夏の事はやっぱり毛嫌いしているみたいで、彼もそれを察してか、ラウラからは離れた場所に座っている。
「そこの金髪は一夏が誘ったにしても、なんでアンタまでいるのよ……」
「私は姫様の護衛。姫様の行く所に私ありだ」
「そこまで堂々と言われると、逆に納得してしまいそうですわね……」
結果として、私達が座っている席には合計で9人もいることになる。
なんだ、この個性に溢れまくったグループは……。
明らかに目立ちまくっている……。
「と…ところでさ……」
「ん? どうした?」
「その……板垣さんの目の前に置いてあるソレは……」
「「「「「「「あぁ~…」」」」」」」
え? 私のお昼ご飯がどうかした?
なんで皆して納得したような顔になってるの?
「ひ…姫様……。本当にその量を食べるのですか……?」
「そう…だ……けど……?」
今日の私のお昼は、超大型のハンバーグ5段重ね。
ジュージューと言う音が食欲をソソリ、ナイフで切ればたっぷりの肉汁がジワァ~っと滲み出てくる。
このデミグラスソースの香りが最高だよね~♡
「弥生さんのお食事には早めに慣れた方がよろしいですわよ?」
「もうこの光景は日常茶飯事」
「IS学園の名物の一つになりつつあるわね」
嘘でしょ? 私は普通に食事をしているだけだよ?
「ほらほら。早く食べましょ」
「そ…そうだね……」
「う…うむ……。姫様の食事に口出しをするなど言語道断だしな」
口の中が涎で一杯になってきた……。
もう辛抱たまらん! いただきま~す♡
「はむ……♡」
んん~♡ 美味し~♡ なんてジューシーなんでしょ!
さくさくとナイフとフォークが進んでいくよ~!
「えぇ~!?」
「なんと言う食べっぷりか……。はっ! そうか! 姫様は有事の際に備えて、こうして日頃から栄養を蓄えているのか!」
んなわけねぇだろ。
単純に普通の量じゃお腹いっぱいにならないだけだよ。
「いつ見ても、弥生の食事風景は凄いわよね~」
「見慣れてくると、清々しさすら感じてくるな」
「やよっちは本当に美味しそうに食べるからね~」
実際に美味しいからね。
食事をしながら、初めて顔合わせをした簪が自己紹介をしていた。
そうだ。後で一夏を呼びださないといけないんだった。
皆の目を盗みつつ、私はテーブルの下に携帯を隠して、密かに一夏の携帯にメールをしておいた。
これを食べ終えたら、まずは購買部に行かないと。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
昼飯を食べ終えた後、俺は弥生に屋上へと呼びだされた。
俺から行くことはあっても、彼女の方から俺を呼ぶことはこれまで一度も無かった。
だからだろうか。
俺は心臓をバクバクさせながら屋上へと向かっていた。
(女の子から呼び出されて、その場所が屋上……。このシチュエーションは…まさか……)
違うと頭で理解していても、どうしてもソッチの妄想が先走ってしまう。
自然と足が速くなっていき、すぐに屋上へと続く扉に到着した。
「ぼ…僕の名前は織斑一夏……」
緊張のあまり、何故か自己紹介をしてしまった。
震える手でドアノブを握りしめて、そっと扉を開ける。
昼の太陽が眩しく照りつけて、俺の目に直撃する。
腕で目元を隠しながら歩いて行くと、そこには……
「やっと来た……ね……」
髪を美しく靡かせながら優美に佇んでいる弥生がいた。
冗談抜きで、彼女の姿に見惚れてしまった。
「ど…どうし…た…の……?」
「えっ? あ……ははは……」
あ…あれ? どうしちまったんだ俺?
頭が沸騰して、思考が上手く回らないぞ……。
「ど…どうして俺をここに呼んだんだ?」
「お礼……をした…くて……」
「お礼?」
俺、何かしたっけかな?
「さっき…の授業……で……」
「あ……」
山田先生が落ちて来た時の事か。
確かにあれは危なかったよな。
「こっち……来て……」
「お…おう……」
弥生の手招きに応じて近づくと、彼女は屋上に備え付けてあるベンチに座った。
「ここ……座って……」
ポンポンと自分の隣を叩くので、俺はそっと弥生の隣に座った。
「な…何をする気なんだ?」
何であっても、弥生のする事なら俺は全てを受け入れるけどな。
「じっと……してて…ね……」
「ん?」
や…弥生さん!? 俺の顔に手を添えて何をなさるおつもり!?
ま…ままままままままままさか本当に!?
(俺は……俺は遂にやっちまうのか!? やっちゃうのか!?)
心臓の鼓動が最高潮になっていく。
顔も凄く熱くなって、きっと真っ赤になっているに違いない。
よく見たら、弥生の顔も赤くなっている。
彼女も緊張しているのか?
「うんしょ……っと」
「ぬわっ!?」
いきなり顔を持っていかれて、視界が反転する。
気がついた時には、俺の顔は横になっていた。
(あれ……? この側頭部に感じる柔らかな感触は……)
弥生の顔が上に……って、胸に隠れてよく見えないし!
弥生の胸ってこんなに大きかったの!?
(これは……膝枕か!?)
弥生の膝枕……だと……!?
これは本当に現実なのか……?
「動かない……でね……?」
弥生の手に握られているのは……耳掻き棒?
「男の人……が喜びそう……な事って分からな…くて……」
「それで耳かきを?」
「う……ん……」
弥生に膝枕をされながらの耳かき……。
なんだこの天国は!?
俺は一生分の幸運をここで全て使い果たしてしまったんじゃないのか!?
「い…痛かった…ら……言って…ね……」
「わ…分かったよ……」
ある意味、さっき以上に緊張してるよ!!
ヤバイ~…! 動悸が激しくなっていく……。
「お……」
弥生の耳かき棒(意味深)が俺の耳に入ってくる……。
「まず…は……手前…から……」
き…気持ちがいい……♡
女の子にしてもらう耳かきって、こんなに気持ちがいいものだったのか……。
弾……俺は今、間違いなく新たな境地に立った気がするよ……。
「思ったより……も……溜まって…る……ね……」
最後に自分で耳掃除をしたのっていつだっけ?
一々記憶してないしな。
(最高だ……最高すぎる……! 今日は間違いなく、今までの人生で最良の日だ……!)
耳から直接聞こえる音を聞きながら、弥生のしてくれる耳かきの快楽に溺れていく。
こんなに気持ちのいい事が、この世の中に存在したのか……。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
一夏が弥生から耳掃除をして貰っている場所から少し離れた場所に、複数の影が見えていた。
「弥生の様子が少しおかしいと思っていたら……!」
「や…やややややややや弥生さんがあの男に膝枕をををををを……」
「なんて羨ま……げふんげふん。けしからんことをしているのかしらね……!」
「私の嫁に耳掃除をしてもらうなんて……! 許さん……!」
「私も頼んだらしてくれるかな~?」
屋上のドアから顔を覗かせているのは、弥生に好意を抱いている女子達。
その顔は様々な色に染まっていて、怒りや嫉妬、果ては純粋に羨ましがっている者も。
「おのれ~…! なんで姫様はあのような男に~…!」
「って言うか、どうして僕まで連行されてるのさ……」
そして、今日やって来た転入生組も一緒にいた。
ラウラも他の女子達と同様に怒りを露わにし、シャルルは明らかに疲れている。
「ちょっと待て皆。ここはひとつ、冷静に考えようじゃないか」
「そ…そうですわね。ここで弥生さんが織斑一夏に好意を抱いていると考えるのは早計ですわ……」
「確かに、動揺しすぎて冷静さを欠いていたわね」
「深呼吸をして……ス~…ハ~…」
箒とセシリアと鈴と簪が揃って深呼吸。
傍から見れば、なんじゃこれな光景である。
「まず、なんで弥生が一夏にあんな事をするに至ったかを考えよう」
「えぇ。恐らくですけど、今日の午前の実習で助けられたのが直接の原因でしょうね」
「弥生って優しいだけじゃなくって義理堅くもあるしね。助けられた以上はちゃんと相手にお礼をしなくちゃ……って考えたんじゃないかしら?」
「何があったかは知らないけど、それなら納得」
恋する乙女の推理力は凄まじい。
この瞬間だけ、彼女達の頭脳はコ○ンに匹敵しているかもしれない。
「姫様……いくら助けられたとはいえ、あのような男にすら慈愛の心をお与えになるとは……。なんとお優しい人なんだ……。まるで聖母のようなお方だ……」
「それはちょっと大袈裟なんじゃ……」
この場にて貴重な常識人枠のシャルル。
しかし悲しいかな。彼(彼女?)の言葉は誰に届いていない。
「もしもあの時、おりむー以外の人が助けてたら、あそこには別の人がいたのかな~?」
「「「「「はっ!?」」」」」
本音の何気ない疑問に、箒とセシリアと鈴と簪とラウラの五人に雷が落ちた。
「や…弥生の耳かきか……。それは素晴らしいな……♡」
「弥生さんの耳かき……弥生さんの耳かき……弥生さんの耳かき……」
「や……ちょ……ダメよ~♡ そこは耳じゃないってば~♡」
「なんで私は別のクラスなんだろう……」
「ひ…姫様からの耳かき……だと……! して……ほしいな……」
箒は頭がお花畑になり、セシリアは完全にオーバーヒート。
鈴は妄想の世界に入り込み、簪は別クラスである事に絶望。
ラウラは純粋な心で弥生からの耳かきを求めていた。
「一夏と板垣さんって……もしかして付き合ってるの?」
「「「「「「あ?」」」」」」
シャルルの迂闊な発言をしっかりと聞き取った面々は、言った本人に向かって全力のメンチを切る。
「ひぃっ!? ご…ごめんなさい……」
己の発言が彼女達の逆鱗に触れるどころか、思いっきり正拳突きをかましてしまった事を瞬時に理解したシャルルは、速攻で謝った。
彼女達がコント染みた事をしている間も、弥生と一夏の耳かきタイムは続いていた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「ここ……に……大きい…のが……」
お……おぉぉぉぉ……!
頭が別の意味で痺れてきた……!
「………取れた」
耳から耳かき棒を抜いてから、先端についている耳垢を傍に敷いているティッシュの上の置く。
俺の脳内フィルターには、その様子すら眩しく見えて仕方が無い。
「仕上げ…にこの……反対…のフワフワ…で……」
「はふ……」
フワフワ(名前は知らない)で耳の中をかき回される感触もまた……。
「最後…に……フ~……」
「ひゃうっ!?」
み…耳に息を吹きかけられた!?
弥生は俺を萌え殺す気か!?
「くす…ぐった……かった……?」
「す…少しな」
嘘です。最高に気持ちよかったです。
「逆……向い…て……」
「おう……」
少しだけ頭を浮かせて、顔を逆向きにする。
「………!?」
ちょっと待てよ……反対側に向くって事は、つまり……。
(弥生の方を向くってことじゃないか! や…弥生の匂いが直に!? 吸い込め! 肺一杯に吸い込め俺! しかも、顔の近くに弥生の腰とかがががががが……)
ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!! 沈まれ! 沈まれ我が分身よ!!
ここが一番の頑張り時だぞ!!
「いく…よ……」
さっきとは逆側の耳の中に棒が優しく侵入してくる。
手つきが丁寧で、全く痛みとか感じないんだよな……。
今までにも誰かに耳掃除をしてあげた事があるんだろうか?
「一…夏……」
「なんだ?」
「ありがとう……」
……なんでもない一言の筈なのに、その言葉が俺の心に深く響いた。
これが胸キュンってやつか……。
「一夏……が助けて…くれな…かった…ら……どうな…っていた…か……分からな…かった……」
「あれぐらい、どーってことないって。寧ろ、俺の方が礼を言いたいぐらいだよ。弥生にはいつも勉強とか教えて貰ってるし……」
弥生にはどれだけ礼を言っても言い尽くせない。
それなのに、恩返しをされているのは俺なんだよな……。
おほ……♡ そこ……そこいいぃ……。
「それこ…そ……気にしな…くても…いい……。勉強…を教えている……のも……お礼……をしている……のも……私……が勝手……にしてる…だけ……だか…ら……」
弥生……お前はどれだけ……。
「本当に優しいんだな……」
「そん…な…事は……ない…よ……」
そして、どれだけ謙虚なんだよ……。
俺だけじゃない。箒達も弥生に感謝しまくってるんだぞ?
「あ………」
余りにも気持ちがよくって、なんだか眠気が……。
「眠い……の……?」
「みたいだ……」
弥生が俺の頭を優しく撫でてくれた。
「午後……も忙し…く…なりそう……だか…ら……少し……仮眠…すれ…ば……? 時間……になった…ら……私が…起こす……から……」
弥生の目覚ましか……最高だな。
「おや……すみ……」
弥生の声を聞きつつ、耳から感じる気持ちよさを堪能しながら、俺は重たくなった瞼を素直に閉じることにした。
今、この瞬間だけは……俺は間違いなく世界一の幸せ者だ。
だって、自分が惚れた女の子に耳かきをして貰って、その上、その膝枕で眠る事が出来るのだから……。
君の事を好きになったのは……間違いじゃなかった……。
自分で書いていて思いました。
マジでリア充死ね~~~!(血涙)
今回、なんで耳かきなのかと言うと、つい最近になって『耳かきボイス』なる物にドップリとハマってしまいまして。
聞いた途端に『絶対に耳かきのシーンを作品内に取り入れよう!!』と固く決意しました。
『一夏編』と書いてある通り、これからも別のキャラの耳かきシーンを書く可能性が非常に高いと思います。
もしかしたら、近いうちに2人のキャラの耳かきシーンを書くかも……?