シャルルの正体がバレて一夏に裸を見られて、弥生とラウラが部屋に来て、弥生が楯無を電話で呼び出した。
楯無が変な意味でぶっ飛んでいた。
楯無さんが来てくれたのは普通に心強いんだけど、マジで来るの早すぎじゃない?
まだスマホから楯無さんの声が出てて、なんか二重に聞こえるんですけど。
「で? これはどういう状況なのかしら?」
「私……が説明しま……す……」
スマホの通話を切ってから、彼女にこれまでの事情を説明する。
「かくかくしかじか……」
「かくかくうまうま……」
あくまで私が把握している範囲だけど、大丈夫だよね?
この人は鋭いから、多少なりとも情報に不備があっても問題無いと思う。
「ね…ねぇ……一夏」
「なんだ?」
「日本人って、情報の交換をする時はいつも、あんな風に話しているの?」
「いや……違うんじゃないかな? 少なくとも、俺は『かくかくしかじか』なんて言った事ないし……。それにほら、あれ見てみろよ」
「あれ?」
……なんでラウラは私の隣で納得顔をして頻りに頷いているの?
「なんかボーデヴィッヒさんが満足気に頷いてる……」
「ドイツ軍人だから、ああ言った暗号めいた言葉も即座に理解出来るのかな……?」
そんでもって、そこの二人組はひそひそ話をしているし。
「ふむ……流石は姫様と生徒会長……。私にすら理解不能な暗号でここまで会話を成立させるとは、素直に感服するな……」
いや……別に暗号じゃないよ?
普通に話しているだけなんですけど?
「成る程ね……。大体の事は理解したわ」
「「あの会話で!?」」
「うん」
そこまで驚くような事?
「ま、実は私もシャルル君の正体が最初から男装をした女の子で、その目的が織斑君の専用機のデータ、もしくは実機の強奪だって事は分かってたんだけど」
「この人にも……」
楯無さんに関しては、驚くような事じゃない。
代表、暗部の長、生徒会長。
三足の草鞋を穿いていて、それらを立派にこなしているような人物ならば、これぐらいは楽勝だろう。
「普通に調べたんだけどね」
眼力とかじゃないんだ……。
まぁ……それでも充分に凄いんだけど。
「や…弥生……。さっきからずっと気になってたんだけど、この人って誰だ? リボンの色から察するに、上級生なのは分かるんだけど……」
「「「「え?」」」」
今ここでその発言をぶちかますの? 嘘でしょ?
「一…夏……。この人……は……更識楯…無さん…って言って……二年生で……ロシ…アの国家代…表……で…I…S学園…の生徒…会長さん……だよ……」
「そして! 弥生ちゃんの将来のフィアンセよ!」
余計なこと言うな。
「最後の一言は取り敢えず置いといて……」
「置いておくんだ……」
それが賢明だ。
「この人が生徒会長……? しかも、ロシアの代表って……」
「なんだ貴様。この学園に在籍していて、全く知らなかったのか?」
「あ…あぁ……」
……これには普通に呆れる。
少し調べれば簡単に分かる事なのに……。
「一夏……。これは僕でも擁護出来ないよ……」
「なんで!?」
「IS学園のパンフレットに顔写真と一緒に簡単なプロフィールは掲載されてるし、同じような内容は学園の公式サイトにも載ってるよ?」
「どっちも見た事がありません……」
少しは自分がいる学校の事を知ろうとは思わないのかよ。
いくら普段の生活が大変だからって、それはよくないと思うぞ?
「私の事についてはこれから知ってもらうとして……」
大して気にしてない風を装って、楯無さんはシャルル君の方を見る。
「今は彼…いや、彼女の事が先決よね」
「だな」
さっきまでとは完全に打って変わって、かなり真剣な表情になる。
「スパイは未遂だから、まだ大丈夫だとしても……性別を偽って入学したのは少しヤバいかもしれないわね」
「そ…そうなんですか!?」
「唯でさえ、ここはISなんて言う世界的に貴重な存在を取り扱っている稀有な学園なのよ? IS学園は、一皮剥けばそこら中に最重要機密がゴロゴロと転がっているの。だからこそ、ここで働く教師達や入学する生徒達の情報や動向は凄く注目されている。そんな場所に経歴詐称で入学しました~…なんて言った日には、普通に捕まるわよ?」
「そんな!?」
一夏が焦りながら立ち上がる。
その顔には若干の汗も滲んでいた。
「でも……」
……? どうしたのかな?
「ラウラちゃんの疑念も理解出来るのよね。なんでそんな、すぐにバレるような変装でスパイなんて危険な行為をさせようと思ったのか」
「それは……会社がピンチで焦っていたから?」
「だからこそ、変装には細心の注意を払うんじゃないかしら?」
「う………」
一夏、瞬殺。
「それにね、もう一つ気にかかる事があるの」
「なん…で…すか……?」
「シャルル君、貴女のご両親についてよ」
「僕の両親?」
シャルル君の親がどうかしたの?
原作通りの話で、何もおかしな点は見受けられなかったけど……。
「確認の為に聞くけど、貴女のご両親……特に継母の方はシャルル君の事を憎んでいた様子だったのよね?」
「は…はい……。思いっきりビンタされた事もあります」
だよね? どこが気にかかるって言うんだ?
「この際だからハッキリ言うけど、もしも本当にシャルル君の事が憎くて疎ましく感じていたのならば、君の事を間違いなく殺害している筈よ」
「さ…殺害……!?」
ちょ…ちょっと!? なんか話が急に物騒な事になってるんですけど!?
「デュノア社程の大会社の社長夫人ならば、幾ら経営が傾いていても、いかようにも処理する方法はあるわ。例えば、事故に見せかけて殺したり、プロの殺し屋を雇ったり……ね」
「………………」
シャ…シャルル君が顔を青くしてから黙って俯いてしまった。
これは流石に見ていられない……。
「い…いや! そんな奴がいるのかよ!? そんな……実の子を殺すような奴が!」
「いるのよ。この世にはね、私達が想像すらも出来ないような腐れ外道が至る所に蔓延ってるの。君が知らないだけでね……」
「…………」
今度は一夏も黙ってしまった。
シャルル君に至っては今にも泣きそうだ。
で、なんで楯無さんは悲しそうな目で私を見るの?
「大丈…夫……?」
「板垣さん……?」
彼女を少しでも安心させる為に、その頭を撫でてみる事に。
気分が悪い時こそ人肌ですぜ。
「気分を害してゴメンなさいね。でも、さっき言った通りにシャルル君をいつでも殺せるはずなのに、実際に行った事と言ったら、君に対して直接的な暴力を振るってからの適当な変装をさせてのIS学園入学。これは幾らなんでもおかしいわ」
「ど…どこが変なんだよ?」
「分からない?」
……なんとなくだけど、私にも想像がついてきたかも……。
「そうか……」
「その顔、弥生ちゃんとラウラちゃんにも分かったみたいね」
「一応……ではあるが……」
「え? えぇ?」
一夏……結構ヒントは出てるよ?
ちょっと脳みそコネコネすれば分かる問題だよ?
「分からないようなら、私達が教えてあげようか?」
「お…お願いします」
「……これから話すのはあくまでも私達の想像…と言うよりは推理ね。それでも聞く?」
「念を押さなくても大丈夫です……。例え推理でも、僕はあの人達の真意が知りたい……」
「……いいわ。話してあげる」
張りつめた空気の中、私達による推理ショーが始まった。
「まず最初に、シャルル君は何者かにその身を狙われていた。けどそれは、君の両親じゃない」
「あの人達じゃない……?」
「そうだ。恐らくだが、お前の両親はお前の身柄の安全を確保する為に、敢えてIS学園に送ったのだろう。その『何者か』から少しでもお前を遠ざける為にな」
「け…けど! だったらなんで男装させてスパイなんかを……」
「普通…に日本……に送るだけ……じゃ……相手…も普通に来てしま…う……。だか…ら……IS学園…に入学……させ…る……『大義名分』…が必要……になる……」
「大義名分って……」
一夏も徐々にではあるが全貌が見えてきたようだ。
ホント、日常生活ではニブニブ星人なんだから。
「会社の為に男性IS操縦者の専用機、または操縦者自身のデータを入手すること。つまりはスパイをするって事よ。シャルル君の事を狙っている連中の真の目的は、何らかの理由でデュノア社を手中に収める事」
「その為にデュノアを人質にして、会社の経営権を譲渡するように迫ったとしたら……織斑、お前ならばどうする?」
「そりゃ……護る為に何かを……はっ!?」
「分かっ…た……?」
一夏の顔に汗が溢れて、それを袖で拭う。
「相手の目的は会社で、その会社の為って名目なら、敵も容易には手を出せない……?」
「正解。更に言えば、適当な変装をさせた理由は、最初からシャルル君の正体がばれる事を前提にしていたんだと思われるわ」
「不必要に暴力を振るったのも、その為だろうな。お前の口から自分達の悪辣な部分を喋らせて、自分達を必要悪とする為に」
「必要悪……」
シャルル君は信じられないような顔で、静かに私達の言葉に耳を傾けている。
「両親……から暴力…を振るわ…れて……会社の為……に無理矢…理スパイ……をさせ…られて男装……をしてい…た……女…の子……。そん…な事情……があれ…ば……学園側……も人道的…な見地…から見て…無下……にはしない……から……ほぼ確実……に保護され…る……」
「そうしてシャルル君の当面の安全が確保されたら、その間に自分達の手で会社と娘を狙った輩をなんとかしようとする。最悪の場合は、自らの命を賭けて……」
「お父さん!?」
わっ!? な…なんですか!? 急に叫んだりして……。
私はビックリサプライズが苦手なんですよ?
「落ち着いて……」
「僕は……僕は何にも知らないで……僕は……」
暴れようとした彼女の体を押える為に、その頭に腕を回してギュッと抱きしめた。
恰好的に私の胸に顔を押さえつけているようになっちゃったけど、地味に窒息とかしてないよね?
(弥生のハグ……)
(いいなぁ~……。私も弥生ちゃんのオッパイに顔を埋めて、その匂いを堪能したいわ……♡)
(なんだ……このモヤモヤとした感じは……)
落ち着いた……かな?
「大丈…夫……?」
「うん……」
こらこら。何気に手を私の背中に回さない。
離れられなくなっちゃったじゃない。
「……これだけは覚えておいて。本当に大切だと思うものはね、自分達から一番離れた場所に置いておくものなのよ」
実感が籠ってるな……。
楯無さんにとっての『大切な存在』って、やっぱり簪の事……だよね……。
「それと、お前に暴行をしたのは、もう一つの意味があったと思われる」
「もう一つ……?」
「娘のお前と両親との関係が不仲だと分かれば、向こうもお前に人質としての価値を見出さなくなる……かもしれない。可能性の話だがな」
「シャルルの両親は、シャルルを護る為に何重にも作戦を考えてたんだな……」
「自分の身を犠牲にしてまで娘を助ける……ここまで出来る人はそういないわ。間違いなく、貴女はご両親に愛されている」
「う……うぅぅ……」
抱き着いたまま、遂にシャルル君が涙を流す。
ここで『制服が汚れる~!』とか言ったら、間違いなくぶっ飛ばされるな。
「会社と娘を天秤に掛けられた時、かなり苦しんだでしょうね……」
目を伏せながら楯無さんがそっと呟く。
「………と、私達の推理はここまで。事の真相は本人に直接聞いた方がいいでしょうね。緊急連絡用の直通の通信機ぐらいは持ってるんでしょ?」
「はい……」
あ……やっと私から離れてくれた。
地味に手が痺れました。
「でも、その前に織斑先生にも報告しておくべきでしょうね。君達の担任だし」
「それには私も賛成だ」
右に同じ。
「い…いや……千冬姉には……」
「言わないつもり?」
「その……千冬姉には迷惑を掛けたくないって言うか……」
……成る程ね。
道理で、真っ先に私の所に来たわけだ。
「織斑君。それは織斑先生……君のお姉さんの事を馬鹿にしてるわよ」
「は…はぁ!? なんで!? 家族に迷惑を掛けたくないって思っただけで……」
「それを馬鹿にしているって言うの」
いつにも増して楯無さんの口調が厳しい。
怒ってるのか?
「『迷惑を掛ける事』と『困った時に相談する事』は全く違うわよ」
「どこが違うってんだよ……」
「全然違う。……織斑君。もしも織斑先生に何か困った事があって、それを君に一言も相談せずに勝手に色々と決めて、君が知らない場所で全てを解決してしまったら……どう思う?」
「それは………」
言葉にしなくても、その表情が全てを語っているよ……一夏。
「今の君は、それと同じ事をしようとしているのよ」
「俺は……そんなつもりじゃ……」
「それと」
さっき以上に強い口調で一夏を睨む。
「家族には迷惑を掛けたくないって言いながら、他人である弥生ちゃんやラウラちゃんには迷惑を掛けていいの? それってちょっとふざけてない?」
「そんな事は無い!!」
全力否定ですか。
でもね、今の一夏の言葉には、あまり説得力は無いよ。
「だったら、別に話しても問題無いわよね?」
「…………はい」
「よろしい」
全く……世話がかかる男だよ、こいつは。
でもね、そんな辛気臭い顔をされると、こっちも迷惑なんだよね。
「一夏……」
「弥生……俺は……」
「大切…に思ってい…る家族……に頼られ…て……迷惑…に思う人…はいない…と思う……。一夏……は織斑先生……に頼ら…れて……迷惑…に思った…りする…の……?」
「いや……思わない……」
なら、ちゃっちゃと顔を上げろっつーの。
「私……には血…の繋が……った家族…がいない…から……そんな風……にいつで…も相談…出来る家族……がいる……のは羨ましい……な……」
「え……?」
ったく……贅沢な事で悩みやがって。
世界中の孤児達に謝れっつーの。
「いや……おじいちゃんがいるって……」
「弥生ちゃんは……養子なのよ」
「そう……だったのか……」
やっぱり、それぐらいは知ってたんですね。
いや、この人なら当たり前か。
「姫様もですか……。私も訳あって血縁者はいません」
「お前も……」
「軍事機密故に詳しい事は話せんがな」
因みに、私は知っているよ。
ここでは話さないけどね。
「はいはい。シリアスな空気はここまで。織斑先生の所に行くわよ」
「「は…はい」」
「了解」
「は…い……」
そういや、織斑先生の部屋に行くのって初めてだな。
噂通り、汚部屋になっているのだろうか?
……お腹が空いてきた。
食堂……間に合うよね?
なんか文字ばっかりになってしまいました。
しかも、話は殆ど進んでいない……。
次回もシャルルが中心の話です。