やる気と体調が上手く噛み合う時が最近になってめっきり減ってきてます。
朝から『今日はやるぞ~!』と思っていても、いざ書く時になって何故か体調が崩れてしまったりとか。
気温の緩急が激しいせいなのか、そんな事が頻繁に起きます。
ほんと、普段から体には気を付けないといけないですね。
なんやかんやで、人知れずデュノア家の問題が解決した次の週の月曜日。
私はラウラ、一夏と一緒に教室へと向かっていた。
シャルロットは一緒じゃなくて、一夏が言うには、休みの内に再転入の手続きが早くも終了して、彼女は朝早くに部屋を出て織斑先生や山田先生の元に向かったらしい。
となると、原作よりもかなり早めにシャルロット再転入ですかにゃ?
「そ…それは本当なの!?」
「嘘じゃないでしょうね!?」
「いや……まさかそんな事が……」
「それは聞き逃せない……!」
「いいなぁ~……」
……なんか、教室の中から聞き覚えのある声が聞こえてきたんですけど?
つーか、約2名、他のクラスの子が混ざってない?
「なんでしょうか?」
「「さぁ?」」
そんなの私が知るわけがない。
ラウラの純粋に疑問を感じている顔を眺めながら、私達は教室へと入っていくことに。
すると、入った途端に奇妙な話が耳に入ってきた。
「うん。私も風の噂で聞いた程度なんだけど、なんか変な噂が学園中に広まっているのは事実だよ」
「なんでも、今度開催されるって言う学年別トーナメントで優勝すれば、何故か板垣さんから耳かきをして貰え……」
んん~? 気のせいかな~? 私の名前が聞こえた気がするぞ~?
「おい貴様等。何を話している?」
「「「「「きゃぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!?」」」」」
声デカッ!? 朝から元気あり過ぎでしょ……。
「ラ…ラウラさん!?」
「弥生に一夏も!?」
「い…いつの間に教室に……」
「も…もしかして聞かれてた……?」
「かもね~」
少しだけなら聞こえたけどね。
私がどうのとか、耳かきがどうのとか。
細かい部分は流石に聞こえなかったけど。
「なんか弥生の事を話して無かったか?」
「そ…そうかしら!? 気のせいじゃない!?」
「そ…そうですわ! 若いのに白昼夢を見るなんて、貴方も困った人ですわね!?」
「白昼夢って……今はまだ朝なんだけど」
「なら寝ぼけていたって事で」
「なんでそうなる!?」
明らかに何かを誤魔化そうとしている?
そういや、この時期って言えば学年別トーナメントがあったよな……。
来る途中に廊下にイベント告知の張り紙もしてあったし。
(あれ? 学年別トーナメントって事は……)
原作では、女子達がある噂で持ち切りだったっけ。
確か……『学年別トーナメントの優勝者は一夏と交際できる』……だったよね?
でも、さっきは一夏の名前なんて少しも出てきてないし……。
(……これってどゆこと?)
う~ん……分からん。
(あ、トーナメントと言えばもう一つ大変な事があったじゃん!)
ラウラのIS『シュヴァルツェア・レーゲン』に密かに仕込まれていた『VTシステム』の起動と暴走。
大抵の事は『原作パワー』でなんとかなると思って楽観的になるけど、こればっかりは別問題だ。
今や、ラウラは私の中で簪や本音と同じぐらいに大切な存在へと格上げされている。
そんな彼女が危険に晒されるなんて、私は絶対に看過できない。
出来れば起動の阻止を。無理ならば起動してから意地でも救出してみせる。
今回ばかりは、マジでいかせて貰うよ……!
「姫様? どうされました?」
「なんで…もない……よ……」
「???」
可愛らしく小首を傾げる彼女を見て改めて決意する。
いざとなったら、アーキテクトにまた無理をさせるかもしれない。
でも、私は信じてる。アーキテクトならば必ず私の想いに応えてくれると。
「あ…あたしはそろそろ二組に戻るわね! じゃ!」
「私も四組に戻る。またお昼にね、弥生」
「ん」
鈴と簪が脱兎のように一組の教室を出て行く。
ま、このままいたんじゃ、織斑先生の出席簿の餌食になるのは目に見えてるから、当然の行動だけど。
「なんだったんだ……?」
「「さぁ?」」
このやり取り、二回目じゃね?
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「皆さ~ん……おはよ~ございま~す……」
私達が全員、自分達の席に着いた直後、教室の扉が開かれて、かなり疲れた感じの山田先生がふらふらとした足取りで入ってきた。
その手には某栄養ドリンクのビンが握られている。
なんとなく疲労の原因には想像がつくけど、そんなに大変だったんだ……。
話では楯無さんも手伝ったって聞いてるけど、それでもこの疲労度……。
きっと、織斑先生や楯無さんもクタクタになってるんだろうなぁ~……。
「……ちょっとだけ待っててくださいね」
そう言うと、徐に山田先生がビンの蓋を開けて、その中身をグビグビグビ~! と胃の中に流し込んでいく。
「プハァ~! 少しだけ元気が出ましたぁ~!」
少しだけかよ。
「はい。今日はですね、皆さんにお知らせがあります」
『お知らせ』と聞いて、一部を除いた皆がザワ…ザワ……ザワ…ザワ……としだした。
私達はその『お知らせ』の内容を知っているんだけどね。
「まずは説明するよりも直に見て貰った方が早いですね。では、入って来てください」
「分かりました」
廊下から『彼女』の返事が聞こえ、扉が開かれる。
そこには、見事な女子の制服を着た少女…『シャルロット・デュノア』が立っていた。
「え……?」
「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~っ!?」」」」」
案の定と言うか、何も知らない少女達は目を見開き、口を大きく開けて驚きを隠せないでいた。
約数名、箒とセシリアと本音だけは『やっぱりな……』って顔をしていたけど。
「えっと……シャルル・デュノア改め、シャルロット・デュノアです」
「実はですね、彼女は国やお家の都合でどうしてもほんの一時期だけ男子として過ごさなければいけなかった理由があるんです。その理由についてはここでは言えませんが、少なくとも、彼女は悪意があって皆さんを騙そうとしていた訳じゃないと言う事だけは理解してあげてください」
そりゃ、ここでは言えないよね。
両親が謎の存在に脅されていて、自分も密かに命を狙われていて、それをなんとか躱すために男装していたなんて。
裏の世界を全く知らずに今まで過ごしてきた彼女達には、余りにも話が重すぎる。
「皆さん……本当に申し訳ありませんでした!」
シャルロットの心の底からの謝罪を見て、クラスの皆が少しだけ静かになる。
「大丈夫! 別に気にしてないよ!」
「え?」
一人が言い出した事を切っ掛けに、次々とシャルロットを労わるような言葉が飛び出していく。
「噂の転入生の正体は美少年じゃなくて美少女だった……ね。いいんじゃない?」
「そうよね。男装女子なんて、今の世の中、そこまで珍しくないし」
「だよね~。寧ろ、それって一種の個性じゃない?」
「それ言えてる!」
誰一人として責めるような意見は無い。
お人好しと言えばそれまでだけど、この年頃の少女達にしては珍しいと思う。
それとも、運よく1組にはそんな風なメンバーが集められただけか。
「皆……ありがとうございます!」
涙ぐみながら礼を言うシャルロット。
もうそこには、友情とスパイの二重苦に悩まされていた少女はいなかった。
私達の前に立っているのは、同じクラスの仲間のシャルロット・デュノア、それだけだ。
「あれ? でも確か、デュノアさんと織斑君って同じ部屋だったよね? それで気が付かないって事は……」
「そ…それは~……」
「い…いや! シャルル…じゃなくてシャルロットはさ、俺に勘付かれないように上手に立ち回っていたから、一緒の部屋にいる俺でも全く分からなかったんだよ!」
一夏、必死すぎて逆に怪しい。
「……そっか。そうだよね。簡単にバレちゃったら男装の意味無いもんね」
え? まさかの納得? それでいいの?
結局、真実は隠蔽されて、一夏は今の今までシャルロットの正体を知らなかったことになった。
もしも嘘がバレていたら、即座にクラスの女子全員から『制裁』が与えられただろうな。
勿論、その制裁には私も加わるけど。
「話は終わったか?」
「織斑先生」
おっと、丁度いいタイミングで織斑先生の降臨ですか。
もしかして、廊下で話が終わるのを待ってたりする?
「はい。つい先程」
「そうか……」
山田先生とは違って、織斑先生は疲れた様子を見せていない。
元世界王者は伊達じゃないって事かしら?
「お前等も聞いたと思うが、これからもデュノアの事を今まで変わらないように接してやれ。いいな? 分かったなら返事!!」
「「「「「はい!!!」」」」」
うん。モロに軍隊方式です。
そして、私にそんなに大きな声は出せません。
もしも出したら、喉が破裂しちゃう。
「デュノア、お前の席は今まで通りだ」
「はい」
シャルロットが先週まで男子として座っていた席に座ると、そこで山田先生と織斑先生の立ち位置が交代する。
「では、これより朝のSHRを始める。今日の連絡事項は……」
こうして、本人からすれば大きな、全体的に見れば小さな変化があって、またいつもと同じ一日が始まる。
今日こそが、シャルロットにとって本当の意味で初めての学園生活の始まりなのかもしれない。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「「「本当にゴメンなさい!!!」」」
「え…えっと……」
一時間目が終わった後の休み時間。
私は、以前に無人機騒動で知り合った例の三人組の少女達に屋上に呼び出されて、開口一番いきなり謝られた。
ぶっちゃけ、訳が分からないよ。
「あの……今、学園に広まっている噂って知ってますか?」
「私…が耳掻きをする…とか……って言う……?」
「そう、それです! 実はその噂……」
「広まった原因、私たちかもしれないんです……」
ん? それはどういう事かな?
「あれは先週の事でした。校舎の廊下を生徒会長が嬉しそうにスキップしながら歩いてていました」
おい生徒会長。生徒の長たる者が廊下をスキップするとは何事か。
「で、会長は誰に話しているわけでもなく、一人で嬉しそうに呟いていたんです。『弥生ちゃんの耳かき最高だった』って」
あ~……そこまで聞かされた時点で、なんとなくオチが読めた。
「それを聞いた私達は羨ましくなって、『今度の学年別トーナメントで、私達の中で一番いい成績を取った子が板垣さんに耳かきをしてもらえるように頼んでみようか』って話になったんですよ」
「恐らくですけど、その時の話を誰かに聞かれていて、それに色々な尾ひれ背びれが着いていった結果……」
「最終的に『学年別トーナメントで優勝した子は板垣さんから耳かきをして貰える』なんて噂に発展していたんだと思います……」
成る程ね~。
確かに、噂なんてものは、いつの間にか大きくなっていって、気がついた時には最初の話の原型すら無くなる程に変貌する事が往々にしてあるからね。
特に、それが学園なんて言う『閉鎖社会』ともなれば猶更だ。
年頃の少女達の噂好きのレベルは、世間一般の人達が想像しているよりもずっと上だから。
「まさか、ここまで話が大きくなるなんて想像もしなくて……」
「本当にすいませんでした……」
謝罪の気持ちは受け取るけど、そこまで気にしなくてもいいと思う。
噂が学園中に流れても、誰も本気にはしないでしょう。
それに、私の耳かきなんて興味無いだろうし。
それ以前に、上級生には私の事を知っている人なんていないでしょ。
「大丈夫……だよ」
「「「え?」」」
「人の噂も七十五日……だよ。放っておけ…ば……自然消滅する……と思う……」
「そんなもんでしょうか……」
「そんなもん……だよ」
年頃の女子高生なんて、熱しやすく冷めやすいのが常だ。
一カ月もすれば、別の話題で持ち切りになって、彼女達の頭から綺麗サッパリと消え去る……と思う。
「それ…に……」
ポケットから専用のケースを出して、そこから耳かきを取り出して見せる。
「耳かきぐらい…なら……いつで…もする……よ?」
「「「い…板垣さぁ~ん!」」」
うぇぇぇぇっ!? なんでそこで泣きそうになるの!?
そんなに私に耳かきされるの嫌だった!?
「で…でも、ここで板垣さんの好意に甘えたら、却って駄目になりそうな気がする……」
「「うんうん」」
「……よし!」
何が『よし』なの?
「最初の話の通り、私達の中で一番の成績を取った子が板垣さんの耳かきを体験できることにします!」
「「賛成!!」」
結局、元の鞘に納まるってことね。
本人達がそれでいいなら、私としては何も言えないけど。
「もうそろそろ休み時間が終わるかも」
「早く行かないと授業に遅刻しちゃう!」
「それじゃ、私達は行きますね! 板垣さん、お話に付き合ってくれてありがとうございました!」
あ……行ってしまった。
「……私…も行かない…と……」
次の授業は織斑先生だった筈。
私も急がないと、本気で遅刻してしまう。
屋上から早歩きで教室まで急いだ結果、なんとかギリギリで教室には辿り着いた。
教室に入った直後にチャイムが鳴った時はかなり焦ったけど。
まずはここまで。
時系列で言えば、次はラウラが鈴とセシリアをボコボコにするシーンですが、ここでのラウラはそこまで好戦的じゃないから、どうなるか……?