なんでこうなるの?   作:とんこつラーメン

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今回はオリジナルの話です。

前回からトーナメントまでの閑話的な感じですね。







・・・・・・誰?

 徐々に運命の学年別トーナメントが近づいてくる毎日。

 本日もパートナーのラウラと一緒にトレーニングに励む……とは限らない。

 

 確かに訓練も大切だけど、元々が超インドア派な私がいきなりドイツ軍隊式のラウラブートキャンプをこなすのは流石に無理がある。

 時には休息も立派な訓練になる……とは本人の弁だ。

 

 そんな今日の私達はと言うと、静かな図書室にて勉強会をする事に。

 私とラウラの他には、簪と本音も一緒に同行している。

 

「文武両道をきちんとこなす……か。言うには簡単だが、それを実際に出来ている人間はかなり限られているだろう。やはり姫様は凄いな……」

「褒めら…れるよう…なこと……じゃない…と思う…けど……」

「ううん。私も凄いと思うよ? だって、世の中にはそれが出来てない人だって沢山いるんだし」

 

 そう言いながら机に体を預けながらダラ~ンとしている本音を見ないであげて。

 あれはあれで可愛いんだから。

 

「図書室はなんだか眠たくなっちゃうね~……」

 

 その気持ちは理解出来るけど、かと言って実際に眠ったら、カウンターで仕事をしている図書委員の人達に怒られるよ?

 

「箒達が言ってたけど、結局、二人は正式なルームメイトになったんだって?」

「うむ。最初は正式な部屋割りが決定するまでの暫定的なものだったらしいが、このままでも問題無いと学園側でも判断をしたらしく、このまま姫様と一緒の部屋に住む事になった」

 

 私が説明しようと思っていた事をラウラに全部言われてしまったけど、つまりはそーゆーこと。

 私としても異論は無いし、寧ろ大歓迎でもある。

 癒しが普段から傍にある生活……最高じゃね?

 

「やよっちはラウラウとペアを組んだんだよね~?」

「そう…だ…よ…」

「で~、かんちゃんはしののんと組んで~、せしりんとリンリンがチームになって~」

「織斑一夏がシャルロットと組んだ……だったな」

 

 あれから、皆も皆でそれぞれにペアを組み始めた。

 

 まず、互いに気が合うと言う事で箒と簪がコンビになり、以前に一度、授業中にペアを組んだ経験があると言う事から、セシリアと鈴がペアになった。

 そして、原作通りに女子の大群に追われた一夏は、元ルームメイトのよしみでシャルロットがコンビを組んであげた(・・・・・・)らしい。

 シャルロット曰く『あのままでは流石に不憫だったから』と言っていた。

 

「以前に助けようと思っていた相手に逆に助けられる羽目になるとは……なんとも情けない話だ」

「それ以前に、剣だけしかない猪剣士とペアを組んで十全に力を発揮出来る人なんて、かなり限定されると思う」

「それには同感だ。相棒が近接戦しか出来ないとなると、嫌でも作戦が絞られてくるからな」

 

 それについては激しく同感。

 原作通りのコンビではあるが、そこに至るまでの経緯が全く異なるからね。

 あれは間違いなく、シャルロットが無駄に突っ込む一夏をフォローする形になると思う。

 ……胃薬のおすそ分けでもしてあげようかな?

 

「あ……」

 

 私が取りたいと思っている本が、手の届かない場所ギリギリの高さにある……!

 前にもこんな状況があったっけ……。

 

「弥生、あれを取りたいの?」

「うん……」

「どこかに台は……」

 

 三人で辺りを見渡すが、備え付けの台はどれもが使用中。

 これも前にあったな……。

 前回の反省を生かせず、事前に台を確保しておかなかった私のミスか……。

 仕方が無い。あの本は素直に諦めて、別の本で代用を……。

 

「よっと。これでいいのかな?」

「「「え?」」」

 

 これまた横から手が伸びてきて、私の求めた本を手に取り、こっちに渡してくれた。

 ……似たようなシチュエーションに遭遇するの、これで三回目じゃね?

 なにこれ、デジャビュ?

 

「あ…ありが…とう……ござい…ます……」

「なに。君の為なら、これぐらいどうってことないさ」

 

 なに、この笑顔が眩しい人は……。

 銀髪のショートヘアの女性で、何故か歯が光っている。

 リボンの色を見る限りでは同じ一年生……なんだよね?

 

「む……誰だ貴様は……」

「おっと。私としたことが、君のあまりの美しさに自己紹介を忘れるとは……。全く、罪な女性だな……」

 

 それ、誰の事を言ってます?

 

「私はオランダの代表候補生をしているロランツィーネ・ローランディフィルネィ。君と同じ一年生で、今は5組に在籍しているよ。気楽に『ロラン』とでも呼んでくれたまえ」

「え…っと……私…は……「君の事はよく知っているよ、弥生」……は?」

 

 え……ちょ……何この人? 完全な初対面なのに、いきなり呼び捨て?

 

「貴様……初めて会ったと言うのに、いきなり姫様を呼び捨てにするなど……無礼ではないのか?」

 

 おっと、私の隣で大人しくしていたラウラが激おこプンプン丸ですよ~?

 私の為に怒ってくれたのは普通に嬉しいけどね。

 

「姫……? 姫か……」

 

 お…お~い? ラウラの怒りは無視ですか~?

 

「言われてみれば、弥生の美しさは『姫』と呼ばれても不思議じゃないな……。よし、ならば私も彼女に見習って弥生の事を『姫』と呼ばせて貰おうか」

 

 なんでやねん!! ラウラなら幾らでも呼ばれてもいいけど、何が悲しくて初対面の女の子に姫って呼ばれないといけないんだよ!?

 

「それにしても……」

「な…なんだ……?」

「ふふ……私の姫は随分と可愛らしい従僕を連れているんだね?」

「従僕……じゃない……」

「ん?」

 

 なんか言い方が気にくわないな。

 私にとってラウラや簪、本音はそんな下らない存在じゃ決してない。

 私にとって三人は……

 

「彼女達……は……私の大切…な人達……」

 

 だから、従僕なんて言い方は絶対に止めてほしい。

 

「弥生……♡」

「姫様……私は……」

「やよっち……♡」

 

 そもそも、この人って何が目的でここに来たんだ?

 まさかとは思うけど、私じゃないよな?

 

「……どうやら、これは私が失礼だったようだね。悪かった」

「あ……はい……」

 

 素直に謝ってくれた……?

 ま…まぁ……自分の過ちをちゃんと認められる人は嫌いじゃないけど……。

 

「君達も済まなかった。ドイツのラウラ・ボーデヴィッヒ少佐に日本の更識簪さん」

「私達の事を知って……?」

「同じ代表候補生だからね。軽いプロフィールぐらいは把握しているさ」

 

 彼女の場合、別の目的で覚えているような気がする。

 

「そして、そこの君もな」

「私は気にしてないよ~」

 

 本音は本当にそよ風みたいな子だな~。

 どんな事も軽く受け流す感じ。

 

「お詫びと言ってはなんだが、君達の勉強会が終わってからで構わないから、一緒に夕食でもどうだろうか? なんなら、姫の為に今から一番いい席を予約して……」

「なにしれっとナンパしてやがる」

 

 ぬぉっ!? 私の後ろから手が伸びてロランさんにアイアンクローをした!?

 アイアンクローと言えば織斑先生だけど、彼女の声じゃなかったし……。

 

「いきなり随分なご挨拶じゃないか……! アメリカ代表候補生のダリル・ケイシー先輩殿……!」

「ご丁寧な紹介どうも」

 

 ダリル・ケイシー? その名前どこかで聞いたような気がする……。

 この人も原作キャラの一人だったような気がするけど、どんな人物だったっけ?

 しかし……随分と大胆な格好をしている人だな……。

 制服が肌蹴て胸の谷間が完全に見えてるし。

 

「別に話しかけるなとか、仲良くなるなとは言わねぇけどよ、こんな子までテメェの毒牙にかけようとするんじゃねぇよ」

「毒牙とは失礼だね……。私は純粋に姫と親しくなりたいと思っただけであって……」

「99人の同性の恋人がいるって自称してる癖に、何言ってやがる」

 

 きゅ…99人の同性の恋人!?

 

「オランダに矢鱈と女の子に手を出す代表候補生がいるって噂で聞いた事があるけど、この人だったんだ……」

「ふふ……照れるな」

「照れる場面じゃねぇだろ……」

 

 ダリル先輩はロランさんの首根っこを掴んでから、そのまま引きずるようにして図書室を出て行こうとする。

 

「お前等の勉強の邪魔をして悪かったな。この馬鹿はオレが責任持って連れて行くから、安心して勉強会を続けてくれ」

「ははは……モテる女は辛いな……」

「アホなこと言ってないで、とっとと行くぞ」

 

 行ってしまった……。

 いきなり現れて、いきなり去っていってしまった……。

 

「……なんだったんだ?」

「わかんない……」

 

 私も同じく、本気で意味不明でした。でも……

 

(ダリル・ケイシー先輩……ちょっぴりカッコよかったかも……)

 

 姉御肌のアメリカ人女性の先輩……か。

 今までいなかったタイプだから、少しだけ胸がドキドキした……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 図書室での驚きの邂逅以来、ロランさんは私の行く先々に現れるようになった。

 

 食事時に私が座ろうとしている席に先回りしていたり、一度廊下に出れば一番で出くわすし、放課後にも即座に一組の教室の前で待ち構えていたりするし……。

 

 このパターン……私に懐き始めた頃の鈴と全く同じだ……。

 あれがまた繰り返されると言うのか……!

 

 私と一緒にいる時にはラウラ達にもニコニコ笑顔で接するが、逆に一夏には全く興味を示さず、それどころか存在自体を完全無視している感じ。

 男にはとことん関心がないんだな……。

 

 そんでもって、私がロランさんの事で困っている時に、時折ダリル先輩が助けに入ってくれる。

 先輩の威厳と言いますか、この人は頼りになるという認識が私の中で生まれた。

 

 私の知っている2年生には何とも言えない人間がいるのに、虚さんやダリルさんのような3年生は本当に尊敬できる人達だ。

 たった一年しか学年が違わないのに、この差は一体何処から生まれるのだろうか……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 今日も私はラウラと一緒にアリーナで体とISを動かして訓練を行った。

 まだまだ改善するところは一杯あると思うけど、それでも一応の形にはなってきた。

 ピットに入りながらISを解除し、ラウラと一緒に更衣室に向かう。

 

「姫様のアーキテクトは想像以上に武装が豊富ですね。これならば、作戦の幅もかなり広がります」

 

 アーキテキトに搭載されている武装は殆どがおじいちゃんセレクトなんだけど、私自身も全ての装備を把握しているわけじゃない。

 まだ使った事も無い武器が沢山あるからね。

 いつか機会を作って、全部の武装を試射とかしないと。

 

「お疲れ様。私の麗しのプリンセス」

「またか……」

 

 この子は本当に懲りないな~。

 ダリル先輩からアイアンクローだけじゃなくて、頭グリグリの刑や脳天拳骨まで喰らっておきながら、微塵もめげる事無く来るんだから。

 オランダ人ってこんなにも根性がある人達だったっけ?

 

「障害があればあるほど、愛はより一層燃えがるものさ」

 

 私の心を読むように返事をしないでほしい。

 

「それよりも、ほら」

 

 ロランさんが手渡してくれたのは、私達の分のタオルとスポドリ。

 これもまた前にあった状況と酷似してるな……。

 マジで歴史が繰り返しているみたいだ。

 

「あ…ありが…とう……」

「ふん……感謝はしておく」

「礼を言われる程のことじゃないさ」

 

 どうして、この気遣いだけで終わってくれないんだろうか?

 これだけを見れば、普通に友達になれそうなのに……。

 

「私としては、姫のISスーツ姿を間近で見られれば、それだけで十分すぎるからね」

 

 これだよ~! すぐにこんな風になるから、素直に感謝出来ないんだよ~!

 つーか、今すぐにその鼻血を拭け!!

 いくら容姿が整っていても、鼻血を出しながらの笑顔は普通に変態だよ!!

 

「あ。勿論、君のスーツ姿も素敵だよ。ラウラさん」

「別に何も言ってないだろう……」

 

 ラウラが本気で呆れている。

 割と冷静な子であるラウラがこんな顔を見せるのは珍しい。

 

「ほら、顔から流れている汗を拭いてあげよう」

 

 私が何かを言う隙も与えず、有無を言わさずこっちの顔を拭こうとする。

 決して強引じゃないから、逆に振りほどけないんだよね……。

 

(何も抵抗せずに私のタオルを受け入れている!? これはもしや、遂に姫が私に心を開いたのか!?)

 

 あ~……スポドリ美味し~。

 体が潤ってきますにゃ~。

 

「ひ…姫……」

「は…い……?」

 

 もう姫って呼ばれても何にも思わなくなってきている自分がいる……。

 なんか悲しい……。

 

「キスをしてもいいかい?」

「絶対に駄目です」

 

 またかよ……。これで何回目だ?

 私が時折、彼女のする事を黙っていると、すぐにキスをしようとせがんでくる。

 最初は私も皆も驚いたけど、二回目以降は完全にハッキリと断る事にした。

 このやり取りも何回目になるのかな……。

 

「懲りない奴だ、全く……」

 

 チュ~チュ~とスポドリを両手で持って飲んでいるラウラ可愛い~♡

 ロランさんがいなかったら、今すぐにでもギュ~ってハグするのにな~♡

 

「私はそう簡単にはめげたりはしないよ。何故なら、私は愛の為ならどこまでも頑張れるからね」

 

 その情熱をもっと別の方向に向けられれば、彼女は凄い人物になれるだろうに。

 

「む? この気配は……」

 

 いきなり遠くの方を見てどうした?

 そっちには何も無いよ?

 それとも、ロランさんは人には見えない『何か』が見える人?

 

「心残りではあるが、今日はこの辺でお暇させてもらうとしよう。では、また会おう。私の愛するプリンセス♡」

 

 別れ際にしれっと前髪で隠れていない方の頬にキスをしようとしてきたので、それを手で防ぐと、ロランさんは笑いながら更衣室を後にした。

 

 それを入れ替わるようにして、ダリル先輩がやって来た。

 

「ん? お前等だけか?」

「それはどういう事ですか?」

 

 流石のラウラも、二つも上の上級生には敬語を使う模様。

 この辺はしっかりしてるんだよね。

 

「なにやら、猛烈に嫌な予感がしたから急いでここまで来たんだけどよ……オレの気のせいだったか?」

「いや……その予感は間違いではないかと」

「って事は……さっきまでいたな?」

「はい。別の出口から出て行きましたが、つい先程まで確かに」

「はぁ~……」

 

 なんて大きな溜息。

 ダリル先輩も苦労人系の人と見た。

 

「何もされなかったか?」

「これと言って何も。タオルとドリンクを持って来たまではよかったのですが、それからはいつものように理解不能な発言を繰り返していました」

「そっか……。ま、お前等は理解しなくてもいいよ。つーか、理解出来るようになったら、ある意味終わりだ」

 

 正確に言うと『理解したくない』が正しいけど。

 

「なんかあったら、すぐにオレに連絡しろ。その為に番号交換もしたんだからな」

「了解であります」

 

 私達は密かに携帯の番号を交換して、いつでも連絡が取れるようにしておいた。

 勿論、ロランさんとは交換してない。

 したらどうなるか、容易に想像が出来るから。

 

「んじゃ、しっかりと汗を拭いて体を冷やさないようにな」

 

 私とラウラの頭を交互に撫でてから、爽やかな笑顔と共にダリル先輩も去っていった。

 

「……………」

「三年生で大国アメリカの代表候補生、ダリル・ケイシー……。何回か話して思いましたが、どうやら彼女は信頼に値する人物のようですね。姫様」

「そう…だね……」

 

 これからの学園生活において、頼りになる上級生が増えると言うのは本当に嬉しい。

 困った時は相談とかしてもよさそうだ。

 

 ……ダリル先輩に頭を撫でられた時、少しだけ胸キュンしたのは内緒。

 

 

 

 

    




今回はロランとダリルの話でした。

ロランのクラスは私が勝手に設定しました。

少し調べたところ、どうやら彼女は一年生(リボンが青)みたいだったので。


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