細心の注意をしていたにも拘らず、結局は軽い熱射病になって更新が少しだけ滞ってしまった私です。
昨日はマジで辛かったです……。
頭はガンガン痛むし、なんだか熱っぽかったし……。
でも、早めに寝たらなんとかスッキリしました。
そんな今回は、弥生の初めての戦闘シーン。
果たして、彼女は人生初めてのISの試合を勝利で飾れるのか?
え? 結末は既に知っている?
それを言っちゃあおしまいですよ~。
ロランさんとダリル先輩と出会ってから少しだけ時間が経ち、今日は遂に学年別トーナメント本番。
私とラウラは一緒にAブロックの第一試合に出場する選手が着替えをする更衣室に移動して、そこで出場の為の準備をする事に。
私達以外にも沢山の子達がいるが、この場に私達が知っている顔は見当たらない。
と言うのも、タッグになった事で選手の数も相当な事になってしまい、いくつかの場所に分けて待機して貰っているから。
因みに、セシリアと鈴は第2ブロック、簪と箒は第3ブロックになっているから、ここにはいない。
と言う事は、必然的に『あの二人』が私達と同じブロックにいる訳で……。
「姫様。こちらは準備完了しました」
「ん」
ISスーツに着替え終わったラウラが毎度のように敬礼をする。
もう見慣れた光景を見ながら、私も既に着替え終わった自分のISスーツを少しだけ整えてから最終確認をする。
更衣室に設置してあるモニターには、アリーナの様子が映し出されていた。
「凄い……ね……」
「はい。各国政府の関係者に研究員、果ては企業のエージェント等もやって来ているようです」
IS学園のイベントって、一つ一つが凄い規模だよね~。
つくづく、自分がいる場所が特別なんだと実感させられる。
「三年生にはスカウトが、二年生は去年の成果の確認を、一年はまだそれほど注目はされていないでしょうが、このトーナメントで上位に入賞すれば、間違いなく注目はされるでしょう」
そうだよね。
今回のトーナメントには代表候補生も数人混ざっている。
そんな中で上位に入れば、そりゃ色んな人達が放置はしておかないだろう。
(おじいちゃんは……来てないだろうな)
もしかしたら、強引に来ている可能性も否定出来ないけど、それは『あの人達』が許さないだろうから、それは無いと思う。
「もうそろそろ、対戦表が発表される頃でしょう」
「うん………」
対戦表……ね。
なんとなくだけど、私には最初の対戦相手は予想出来てるんだよね。
「我々はAブロックの一回戦の第一試合。よもや、一番最初になるとは夢にも思いませんでした」
「けど……一…番最後……よりはマシ…だ…と思う……」
「かもしれません。トリは嫌でも皆が注目するでしょうからね」
ぶっちゃけ、私はどっちでも緊張はするんだけど、一番最後よりは一番最初の方がずっといい。
だって、嫌な事が早く終わるから。
……今回の場合は少し話が違ってくるけど。
「む? 出ました」
「あ………」
案の定、モニターに表示された私達の対戦相手は……
【板垣弥生&ラウラ・ボーデヴィッヒVS織斑一夏&シャルロット・デュノア】
「よもや、アイツ等が私達の最初の相手とは……」
ある意味で、原作通りの組み合わせだった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
第一試合が行われるアリーナの観客席。
そこの一角に、ダリルと並んでもう一人、長い黒髪を三つ編みにした小柄な少女が立っていた。
リボンの色から見て、どうやら二年生のようだ。
「ダリルが気にしている弥生って子、どうやら一番最初の試合みたいッスね」
「らしいな。一番最初とか、オレだったら普通に嫌だな……。お前もそうだろ? フォルテ」
「そうッスね。無駄に緊張するッスからね」
彼女の名前は『フォルテ・サファイア』
ギリシャの代表候補生であり、楯無のクラスメイト。
そして、ダリルの恋人でもある。
「にしても、ちょっと嫉妬しちゃうッスね」
「何が?」
「ダリルが私以外の女の子を気に掛けている事が」
「はぁ~……。それに関しては何度も説明したろ? あのナンパなレズ女に傷物にされないようにしてるだけだって」
「それは聞いたッスよ。それでも、簡単には納得できないッス」
「気持ちは分かるんだけどな~……」
頭をボリボリと掻きながら、ダリルは自分の言葉で話す事に。
「冷静になってよく考えてみてくれ。何も知らない純情無垢な後輩の女の子が、目の前で毒牙に掛けられそうになっているの見て、お前は見て見ぬ振りが出来るか?」
「それは……無理ッスけど……」
「だろ? オレも同じだよ。あいつ等の先輩として、ちゃんと守ってやらないとな」
「こんな時だけ先輩面しても、なんか説得力に欠けるッス」
「なんだと~? このヤロ!」
急にフォルテの体に手を伸ばして、コチョコチョと擽っていくダリル。
たまらず、フォルテは噴き出してしまう。
「にゃはははははははは! ちょ…ちょっと! こんな所でやめるッスよ~!」
「い~や! 絶対に止めない! オレが好きなのは後にも先にもお前だけだって分からせるまではな!」
「分かった! 分かったから~!」
楽しそうにじゃれる二人の元に、無粋な乱入者がやって来た。
「随分と楽しそうだね。お二人さん」
「「げ」」
二人が話していた件の人物、ロランだった。
「ん? どうかしたのかな? フォルテ先輩?」
「い…いや……別に何も……」
「そうかい? 貴女のような可憐な美少女に見つめられたら、私も照れてしまうよ」
「あ~……」
この一連の会話で全てを悟ったフォルテ。
「ダリル……なんとなく、気持ちが分かったッス……」
「だろ?」
「あれは……後輩ちゃん達には毒っ気が過ぎるッスね……」
この瞬間から、フォルテもダリルを手伝って後輩達をロランの魔の手から助けようと決意をする。
「お? どうやら両者がやって来たようだよ」
ロランの言葉に反応し、二人もステージの方に注目する。
そこには弥生とラウラ、一夏とシャルロットの両コンビがISを纏って出場してきていた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
アリーナのステージにて、両タッグが静かに対峙している。
ラウラはジッと一夏を見据えていて、一夏はラウラと弥生を交互に見る。
弥生は緊張のあまり顔を強張らせていて、シャルロットはそんな彼女を見て少しだけ苦笑い。
「織斑一夏」
「なんだよ」
「IS学園に来た当初、私はお前の事を憎いと思っていた」
「なんで……って聞くのは野暮か」
「その様子だと、大方の見当はついているようだな」
「まぁな。『あの時』の事だろ?」
「そうだ。お前に会ったら、まず最初にその顔を殴ってやろうと考えていた」
確かに、ラウラは出会い頭に一夏に向かって暴力を振るおうとした。
その直後に弥生の顔を見て、それは未然に防がれたが。
「だが、今は不思議とお前に対して負の感情は一切無い」
「どういう事だ?」
「つまり、私の中ではもう憎しみを抱いていないと言う事だ。自分でも不思議だが、何故か姫様と一緒にいると、それだけで余計な事が忘れられるんだ」
「あぁ~……」
ラウラは弥生と共に過ごす事で、その心に巣食っていた憎しみを自ら浄化することが出来た。
故に、今のラウラは一夏に対して真っ白な感じなのだ。
「これだけは言っておく。私はこの試合、一切手を抜いたりしない。例えお前が素人だとしてもな」
「そんなの、こっちから願い下げだ。弥生の前でハンデなんかつけられてたまるかよ」
「それには同感だ」
二人が話している間、弥生はずっと試合開始の時間を刻々と待っていた。
(弥生……いつもとは違ってなんて真剣な顔なんだ……。話によれば、弥生は今まで公式戦は愚か、模擬戦すら一度もした経験が無いって話だし、人生初めての試合をするにあたって、色々と頭の中で考えているんだろうな……)
しかし、実際の弥生の頭の中は……
(うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? なんだよこの人の数はぁぁぁぁぁぁぁっ!? 外から見るのとステージから見るのとじゃ、迫力が段違いなんですけどぉぉぉぉぉっ!? うごごごごご……! 今更ながらにめっちゃ緊張してきた……! 部屋を出る前に吐き気止めを飲んできて正解だった……。じゃないと、間違いなくここでオェ~ってなってたし! こんな大衆の面前で女子高生の嘔吐ショーをするところだったよ! でも、今度は緊張でお腹が痛くなってきた……!)
もうぶっちゃけ、試合どころじゃなかった。
でも、いざ試合が始まるとスイッチが切り替わるのが板垣弥生と言う少女。
色々と言いつつも、彼女は本番にこそ強いタイプだったりする。
【それでは、これより学年別トーナメントAブロック一回戦の第一試合を始めたいと思います!】
アナウンスが聞こえ、四人共がそれぞれに構える。
アリーナの喧騒が一瞬で静寂に変わり、張りつめた空気がアリーナ全体を支配する。
弥生の頬を伝う汗が一滴、彼女の顔から落ちて、地面に落ちた。
【では……試合開始!!】
始まりの合図と共に、四人が一斉に動き出す。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「矢張りか……!」
一夏は真っ直ぐにラウラの方へと向かい、シャルロットも両手にアサルトライフルを装備して、弥生の方へと向かっていく。
(姫様の予想通り、こいつ等はまず私達を分断する事を考えたか!)
これが一夏達の作戦。
現役軍人と言う事もあり、ラウラは間違いなく現一年で最強クラスの実力を持つと思われ、弥生の実力は完全に未知数。
そんな二人を同時に相手にするのは今の自分達には無理と考えた一夏達は、弥生達を各個撃破する事にしたのだ。
しかし、それを実行するには一夏がラウラを釘付けにする必要がある。
だからこそ、彼は敢えて愚直なまでに突っ込んだのだ。
流石の一夏も、もう突貫だけが最善とは考えてはいないが、それでも、ラウラの視線を自分に向けさせるにはこれが一番だと思った。
(だがな……その程度の事は姫様も予想していた!!)
そう。原作知識を持つが故に、弥生は一夏達の行動をおおよその予想を立てていた。
それが100%正しいとは思わないが、それでも、かなり高い確率でそれを実行してくると考えたのだ。
「姫様!!」
「ん!!」
一夏達の分断作戦に全く怯むことなく、逆にそれに対応してきた。
ラウラはレーゲンの第三世代兵装『アクティブ・イナーシャル・キャンセラー』、通称『AIC』を使って一夏の斬撃を防ぎ、弥生も両腕にインパクトナックルを装備して、それで自分の体を覆うようにしてシャルロットからの銃撃を防いでみせた。
「「なっ!?」」
「貴様等が各個撃破を狙うであろうことは、予め予想済みだ!」
「マジかよ……!」
ラウラの高い実力と、弥生の頭脳と原作知識が組み合わさった結果、一夏達の先制攻撃を見事に無効化してみせた。
「これが慣性停止結界ってヤツか……!」
「ほぅ? お前がこれを知っているとは驚きだな?」
「お前が来る前に、弥生から教わったからな」
「成る程な……。図らずも、姫様のご厚意によって知識を得たと言う事か」
「そーゆーこった!」
次の瞬間、ラウラに向かってアサルトライフルの攻撃が飛んできて、すぐさまAICを解除して回避した。
「ちっ……!」
「この試合はタッグなんだy……」
「……っ!? シャルロット!!」
「え?」
シャルロットが一夏を助ける為に援護攻撃をした一瞬の隙を狙い、弥生が素早くインパクトナックルを収納し、なにやら見覚えのない武装を装備してシャルロットに標準を合わせていた。
彼女に向かって、一筋のビームが発射される。
「くっ!」
「………!!」
咄嗟に回避するが、見た事も無い武器にシャルロットは困惑を隠せないでいた。
三連装のマシンガンと、長い銃身が一緒に取り付けられた両手持ちの武器。
少なくとも、そんな形状の武装は今まで聞いた事も見た事も無い。
「それは……」
「チェンジリングライフル……」
銃身が上下入れ替わり、今度はビームマシンガンがシャルロットを襲う。
「タイムラグ無しでマシンガンとビーム砲を入れ替えられるなんて!」
「それ…がこれ……の特徴…だか…ら……!」
チェンジリングライフルを両手で固定し、横移動をしながらシャルロットを狙っていく。
その攻撃を回避しながらも、僅かな隙を狙って二丁のアサルトライフルの弾幕を厚くしていく。
そんな二人の攻防を横目に、ラウラと一夏は再び睨みあっていた。
「どうした? お得意の零落白夜は使わないのか?」
「こっちを挑発しても無駄だぞ。あれが諸刃の刃だってのは俺が一番よく分かってんだからな」
「そうか」
一夏の唯一無二の切り札である『零落白夜』
どんなISでも、直撃すれば致命傷。
掠っただけでもかなりのダメージが入ってしまう。
全てのISの中でも間違いなく最強クラスの攻撃力を持つが、その唯一の懸念材料は、それを使用しているのが素人である一夏であると言う事。
いかに攻撃力が最強でも、その攻撃自体が命中しなければ全く意味が無い。
それは使用者である一夏が最もよく理解していたし、これまでに何度も弥生によって指摘された事でもあった。
一番いいのは斬撃の瞬間だけ発動させることだが、そんな器用な事が一朝一夕で出来るようになれば誰も苦労はしない。
事実、一夏は練習だけはしたものの、それを完全に習得は出来なかった。
(仮に奴が零落白夜を使って攻撃してきても、こちらにはちゃんと対策がなされているのだがな……)
それもまた弥生が考えついた事。
原作知識と言うアドバンテージは、現状の弥生によって唯一の強み。
今回、彼女はそれを最大限に使用してきた。
試合の流れはまだ、どちらにも傾いていない。
長くなりそうだから、試合は前後編構成に。
武装に関しても、色々とクロスオーバーしていくつもりです。