なんでこうなるの?   作:とんこつラーメン

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昨日、本気でクタクタになって泥のように眠った作者です。

ちょっとご要望があったので、今回から、クロスオーバーした武器類を後書きにて紹介していこうと思います。

では、本編をどうぞ。







これが私の初陣です!(後編)

 アリーナの管制室。

 普段は教師だけが入室が許可された場所にて、千冬と真耶が試合の様子を観戦していた。

 

「思ったよりも板垣さん、いい動きをしてますね~」

「確かにな。これまでアイツの試合を見た事は無かったが、案外、ISの操縦者としていい素質を持っているのかもしれん」

 

 モニターには、代表候補生であるシャルロットと互角の戦いを繰り広げている弥生の姿が映っていた。

 

「織斑君も頑張っていますけど、いかんせん、苦戦をしているみたいですね」

「これは単純に相手が悪いな。ボーデヴィッヒと織斑とでは実力もそうだが、操縦者としての経験値が違いすぎる。これは他の候補生達にも言える事だがな」

 

 少し前までISの事を殆ど知らなかった少年と、生まれた時から軍の中で育ち、ISに触れてきた少女。

 この差は想像以上に大きく、決して一夏に勝ち目がないわけではないが、そう簡単にダメージは許してくれない。

 

「それに、織斑達は上手い具合に板垣の『策略』に嵌っているな」

「策略?」

「そうだ。板垣も経験値などに関しては織斑と大差無いが、アイツとは違って決定的に勝っている部分がある。それが何か分かるか?」

「頭脳……ですか?」

「正解だ」

 

 臆病で戦いを好まない弥生が戦える理由。

 それは、アーキテクトの性能と、彼女が持っている原作知識が大きい。

 最初から相手の特徴や癖、戦法の殆どを把握しているが故に、それに対する対抗策を考えることが出来たのだ。

 

「観客の殆どが織斑や代表候補生達にばかり目が行っているかもしれないが、この試合の主導権を握っているのは間違いなく板垣だ。その事実に気が付けるのは果たして何人いるかな……」

 

 自分が気に掛けている少女と、自分のたった一人の弟。

 二人の勇姿を眺めながら、千冬は静かに微笑を浮かべていた。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

(思うように踏み込めない……! これが弥生の実力……!)

 

 チェンジリングライフルを装備した弥生の弾幕に阻まれて、シャルロットは苦戦を強いられていた。

 二人はステージを移動しながらの銃撃戦を繰り広げているが、それをリードしているのは弥生だった。

 

(あのライフルがかなり厄介だよ……! 武器を切り替える事無く、マシンガンとビームライフルを使用出来るなんて!)

 

 マシンガン形態で牽制攻撃を仕掛け、僅かでも隙が見えればビームライフル形態で一撃を狙う。

 このコンビネーションは傍から見ている以上に厄介なようで、シャルロットは額に冷や汗を掻いていた。

 

(でも、どれだけ万能だったとしても、所詮は射撃系の武器! なんとか懐にさえ飛び込めれば!!)

 

 多少のダメージは覚悟の上で一気に突貫をする決意を固め始める。

 しかし、その考えすらも、弥生にはお見通しだった。

 

(シャルロットにはお得意の『高速切替(ラピッド・スイッチ)』がある。少しでも懐に潜り込まれたりしたら、その瞬間に必殺のパイルバンカーをお見舞いされてしまう。けど、それを予め分かっていれば、幾らでも対処のしようはあるんだよ!)

 

 シャルロットには高速切替以外にも、もう一つの特技がある。

 それが『砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)』と呼ばれる技術で、常に一定の間合いと攻撃リズムを保ちつつ、攻防において非常に高いレベルで安定した戦法……なのだが、その事も転生者である弥生は既に知っている。

 だから、ここでは敢えて『砂漠の逃げ水』を逆に利用させて貰う事にした。

 

 他の戦法の例に漏れず、砂漠の逃げ水も使用の際には多大な集中力を必須とされる。

 しかも、そこに高速切替まで加えれば猶更だ。

 弥生は敢えてシャルロットに射撃戦を挑み、『砂漠の逃げ水』を使わざるを得ない状況に誘い出したのだ。

 そうなれば、シャルロットは一夏の援護が不可能になってしまい、必然的にラウラと一夏の一対一の状況が生み出される。

 無論、この作戦は弥生がシャルロットを釘付けに出来る程の実力を持っている事が前提となる。

 さもなければ、原作での箒のように秒殺される事は想像に難くない。

 だからこそ、弥生は普段ならば絶対にしない特訓をラウラと一緒に行ったのだ。

 彼女と一緒に戦う試合を惨めなものにしない為に。

 

(弥生の回避率もそうだけど、なんと言っても、アーキテクトが小さすぎて今までと同じ感覚でしていたら当たる攻撃も当たらない!)

 

 専用機と言えば聞こえはいいが、アーキテクトは結局のところ、ISの基本骨格に過ぎない。

 余計な外装が無い分、防御力は無に等しいが、そのサイズは通常のISと比べてもかなり小柄である。

 本来ならば命中する筈の攻撃であっても、アーキテキト相手には当たりはしない。

 無論、弥生はこの事も計算に入れている。

 

「こんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 遂にシャルロットがここで弥生に本格的な攻撃を仕掛ける。

 左右にジグザグと移動しながらも、確実に弥生に接近してくる。

 その際にチェンジリングライフルのダメージが入るが、そんな事にはお構いなしと言わんばかりに、瞬時加速で一気に飛び込む!

 完全に狙いを定めた直後、シャルロットは手に持っていたアサルトライフル二丁をショットガンに切り替える……が、ここである事に気が付いてしまった。

 

「え……?」

(弥生の手に……チェンジリングライフルが無い!?)

 

 そう。彼女の手にはいつの間にかチェンジリングライフルではなくて、銃口が二つ付いた黒光りするライフルが握られていた。

 

「それは……読んでいた…よ……」

「!!?」

 

 体勢を低くしながら、弥生は自分が新たに装備した『ショットガン内蔵式ビームライフル』でシャルロットの腹部を撃ち抜いた!

 

「ぐはぁっ!?」

 

 その一撃に耐え切れず、後方まで吹き飛ばされる。

 なんとか倒れる事無く足を踏ん張ったが、それよりも精神的なダメージの方が大きかった。

 

(弥生は……僕が瞬時加速を使って接近する事も読んでいたの!? 僕は一度も弥生に瞬時加速を使えるなんて話した事は無いのに!)

 

 これもまた原作知識の恩恵。

 シャルロットが瞬時加速を使用可能な事は知っていたし、それに気を付けるようにラウラにも予め注意喚起を促していた。

 これはシャルロットも言っていた事だが、どれだけ早くても、最初から来る場所が判明していれば、素人でも対処は十分に可能だ。

 

 ビームライフルを収納してから、今度は長大で巨大な両手持ちの銃火器を取り出す。

 横に折りたたまれていた銃身を展開し、それを体全体で支えるように持つ。

 

「セレクターハウザーライフル……。当たると痛い……よ……」

「ヤバイ!!」

 

 次の瞬間、その銃口からつんざくような轟砲がアリーナ全体に鳴り響いた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 弥生がシャルロットを自分のペースに巻き込んでいる頃、ラウラは一夏を相手に優位に試合を展開していた。

 

「どうしたどうした!? そんなに離れていては、お前の剣は一生届かないぞ!」

「んな事は分かってるっつーの! くそ!」

 

 レーゲンに装備されたリボルバーカノンの砲撃に晒されながら、一夏はラウラに近づく事が出来ないでいる。

 弥生の時とは違い一撃の攻撃力が桁違いな為、『肉を切らせて骨を断つ』戦法は通用しない。

 一発でも直撃を食らえば、それだけで致命傷になるのは見ただけで分かった。

 

(しかし、アイツも存外、回避するのが上手いな……。このままではジリ貧になってしまい、姫様に申し訳がない。ここは、姫様にお貸し頂いた『アレ』を使って、その後に例の作戦を実行に移すか……)

 

 ラウラは態とリボルバーカノンをリロードせずに、そのまま発射しようとした。

 当然、その銃口からは弾丸は発射されず、乾いた音だけが聞こえた。

 

「しまった!」

「隙あり!!」

 

 これまでの特訓で完全に習得した瞬時加速を迷わず使用し、一気にラウラの懐まで近づき、そこで必殺の零落白夜を発動! 一気に勝負を決めにきた!

 

「……なんてな」

「なっ!?」

 

 しかし、そんな簡単に攻撃を通させてくれる程、代表候補生は甘くない。

 

 一夏の放った光の刃は、ラウラが一瞬で左腕に展開した縦長の盾によって阻まれた。

 派手な装飾と中央に赤い宝石のような物が埋め込まれているが、それ以外には何の変哲もない普通の盾。

 鉛色をしたその無骨な盾の名は、ズバリ『鉄の盾』。

 

「姫様が言っていた」

「弥生が……?」

「『零落白夜は間違いなく反則級の攻撃力を持ってはいるが、その攻撃力が通用するのは、あくまでIS相手だけだ』とな」

 

 ラウラの言葉を実証するように、彼女が装備した鉄の盾には全く傷がついていない。

 完全に零落白夜の攻撃を防いでいた。

 

「零落白夜はあらゆる光学兵装を対消滅させる効果を持つ。それはISの持つSEも例外では無く、だからこそ、その攻撃力は規格外とも言うべき威力を誇っている。しかし、逆を言えば零落白夜はそれ以外の兵装、実体がある武器防具の類には悲しい程に無力。だからこそ、姫様はお前の相手をする予定だった私に、この『鉄の盾』を貸してくれたのだ」

「弥生の作戦勝ちって事か……!」

「その通り。この『鉄の盾』は一切の特殊な効果が無い普通の盾。だが、その防御力はISが装備出来る盾の中で最高だと聞いている。そして!」

 

 何も持っていない右手に89式5.56mm小銃を展開し、一夏に銃口を向けた。

 

「自身の弱点を補う為にパートナーから使用権限を解除された武器を貸して貰ったのは、貴様達だけではないぞ!!」

「ちっ!」

 

 急いで零落白夜を解除してその場からの離脱を計ろうとするが、それよりもラウラが引き金を引く方が早かった。

 

「くぅぅぅっ!!」

 

 銃撃に晒されながらも、なんとか後方に下がる事に成功はした。

 だが、その行動パターンも弥生は計算していた。

 

「姫様!!」

 

 いきなり、ラウラはあさっての方向へとワイヤーブレードを飛ばした。

 突然の奇行に一夏は目を丸くするが、すぐにその顔が青く染まる事になる。

 

「お待…たせ…」

「いっ!?」

 

 引き寄せたワイヤーブレードには弥生が巻きつかれていて、彼女はその両手にパーツ換装したセレクターミサイルランチャーを構えていたからだ。

 

「「ファイア!!」」

 

 弥生のミサイルランチャーとラウラの小銃とリボルバーカノンの同時攻撃。

 この攻撃が通れば、専用機と言えど唯では済まない。

 

「一夏!!」

 

 ここでシャルロットが瞬時加速で駆けつけての援護防御。

 パイルバンカー内蔵式の物理シールドを使って、なんとかダメージを最小限に抑えようと試みる。

 

「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 凄まじい衝撃が二人を襲い、一瞬にして辺りが煙に覆われる。

 

「やったか……?」

「ラウラ……それは言っ…ちゃ……ダメ……」

 

 煙が晴れると、見事にラウラのフラグ回収が成功して、まだ立っている一夏とシャルロットの姿が現れた。

 

「チッ……」

 

 思わず舌打ちするラウラに、少しだけ苦笑いの弥生。

 そんな二人とは対照的に、一夏とシャルロットは肩で息をしていた。

 

「まさかとは思うけど……弥生はここまで計算していたの……?」

「は? 計算?」

「そう……。僕が瞬時加速を使う事も、一夏の零落白夜に対してその盾を用意した事も、僕が一夏の援護防御をする事すらも……」

「…………ぶい」

「やっぱり……」

 

 一番想像したく無かったこと。

 二人の性格と技量とスキル。専用機の性能から長所、短所まで、原作知識をフル動員して考えた作戦だった。

 

「本当にしてやられたよ……。しかも、弥生達の一斉射撃で僕の切り札もパーになっちゃったし」

 

 弥生達の同時攻撃を全て受け止めたシールドは見るも無残な姿になって、その内部に隠されていたパイルバンカー『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』も罅だらけになっていた。

 

「僕等を一か所に集めて一網打尽にする。もしもそれで撃破出来なくても、こっちの切り札を一つ潰す。弥生はどれだけの状況を想定していたのさ……」

「どっちにしてもこっちが不利になるような試合展開だったって事かよ……」

「しかも、僕が自分の銃を一夏に対して使用許可を出している事も想定した……でしょ?」

「ん」

 

 嬉しそうに頷く彼女を見て、一夏は弥生と言う少女の実力を末恐ろしく感じると同時に、誇らしくも思った。

 まるでこの試合そのものが弥生と言う指揮者によって導かれているかのように、ことごとく自分達の行動が裏目に出る。

 これはきっと、莫大なまでの状況予想が出来なければ不可能な芸当の筈。

 自分の惚れた少女は、これ程までにずば抜けた頭脳の持ち主なんだと、改めて実感した。

 

「しかも、本来なら攻撃用のワイヤーブレードを移動に使うなんて、普通は考えつかないよ。恐らく、ボーデヴィッヒさんにAICを多用しないように言ったのも弥生なんでしょ?」

「そうだ。コレを多用すれば、必ずAICの弱点を突かれて隙が生じてしまうと言われてな」

 

 1体1では無敵に近いAICではあるが、その無敵性は相手が複数になった途端に弱点へと変化する。

 多大な集中力と意識を一点に向けなければいけない為、否が応でも多方向に対する注意が疎かになる。

 そこに何らかの攻撃が加われば、途端にAICは解除されて、僅かながらに隙が生じしてしまう。

 それを懸念した弥生は、ラウラを説得してからAICを緊急時の防御以外に使用しない約束をしたのだ。

 

「正直、弥生の事を完全に見縊っていたよ……。知略と戦略だけで、こっちの戦術を完全に上回ってみせるなんてね……」

「姫様の頭脳は貴様等が想像した以上だったと言う事だ」

 

 巻きついたワイヤーブレードを解除して、弥生が地面に降り立つ。

 それを見て、一夏達も構え直すが、明らかに両者の間で空気が違った。

 

「ここから巻き返す……と言いたいけれど、戦況は僕等が圧倒的に不利だね……」

「だな……。ラウラの実力は間違いなく本物だし、そこに弥生の頭脳が加われば……」

「凄い事になるよ……。もしかしなくても、あの二人って優勝候補なんじゃないの?」

 

 実はそうだったりする。

 密かに裏で生徒達にされたアンケートによると、一年の部で優勝すると思われている一番のタッグは弥生とラウラのコンビだったりする。

 勿論、当の本人達は全く知らないが。

 

「姫様、完全に流れは我々に向いています。このまま一気に決めましょう」

「うん。で…も……」

「分かっています。ボーデヴィッヒ少佐、ミッション終了する最後の一瞬まで油断をしません」

 

 少しだけ緩んだ空気が再び張りつめる。

 

「一夏! 今から僕は後方援護に集中する! 弥生に対して下手な作戦は自分の首を絞めることになるから!」

「合点!! 俺は只管に突っ込む! やっぱ、俺にはこれが一番性に合ってる!!」

「シンプル・イズ・ベストと言う事か! だがな! それで私と姫様を倒せると思ったら大間違いだ!!」

「終局……の時……!」

 

 四者がそれぞれに武器を構え、両タッグが三度激突する!……と思われたが、突如としてラウラの動きがピタリと止まった。

 

「な……なんだ……これは……!」

「ラウラ……?」

「姫様……お…お逃げくださ……」

 

 次の瞬間、シュヴァルツェア・レーゲンから紫電が迸った。

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「駄目だな」

 

「全くもって駄目だ」

 

「感情レベルが必要値にまで達しない」

 

「機体のダメージも殆ど無い」

 

「なにより、本人が全く『ソレ』を望んでいない」

 

「このままでは我々の研究が……」

 

「仕方が無い」

 

「こうなれば、試験体に多少の損傷が出る事は承知の上でするしかあるまい」

 

「致し方ないな」

 

「やるしかあるまい」

 

「では、やろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「VTシステム、強制発動」

 




チェンジリングライフルはビルドダイバーズのジムⅢビームマスターの専用装備から。

そして、ショットガン内蔵式ビームライフルは、分かりにくいと思いますが、ガンダムレオパルド・ダ・ヴィンチの装備しているビームライフルです。
持っている人は分かると思いますが、あれって実はショットガンを内蔵してるんですよね。

セレクターライフルはヘヴィウェポンユニットから。
幾つもの武器があって楽しいですよね。

ラウラが使った『鉄の盾』は、昔あった超マイナーなロボットゲーム『機甲世紀ユニトロン ~その序 光生まれる地より~』から。
知っている人は超絶少ないゲームだと思います。
原作でも特殊能力も属性も無い盾なんですが、盾としては劇中では最高でした。
条件が揃えば裏ボスの攻撃ですら2ケタに抑えられるチート防具で、メインストーリー攻略後に手に入りました。

89式5.56mm小銃は、1989年に自衛隊で採用された5.56mm口径の国産自動小銃で、今回は弥生からラウラに使用権限を解除して渡されました。

次回は対VTシステム戦に突入?

弥生達は暴走する機体にどう立ち向かうのか?

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