余りの痛さに耐えかねて、今日から歯医者への通院を始めた作者です。
一日目だから、流石にそこまで劇的な変化は無いですが、それでもかなりマシにはなりました。
やっぱ、歯のケアはちゃんとしないとダメですね。
身を持って知りました。
次の日。
私は流れでシャルロットと一緒に登校する事になった。
その途中でいつものメンバーと合流したのだが、その時の彼女達の顔が本気で怖かった。
なんと言いますか……今にもシャルロットを呪いそうな顔で睨みつけてたから。
当の本人は勝ち誇ったようにドヤ顔をしてたけど。
教室に入ると、昨日の騒動の熱がまだ完全に冷めきっていないようで、入った途端に
一夏とシャルロットと私、つまりはVTシステム事件の関係者に皆が集中して詰め寄ってきた。
「ね…ねぇねぇ! 昨日のアレってなんだったの!?」
「ボーデヴィッヒさんは大丈夫なの!?」
「織斑君と板垣さんの連携、カッコよかったよ~!」
いきなりグイグイ来られても困るだけなんだけど……。
こんな所でぐずぐずしていたら、先生達がやって来ちゃうよ?
「ちょ……皆! まずは落ち着いてくれって!」
「僕達も昨日の事については詳しくは知らされていないんだよ! 一応、箝口令が出てるんだから!」
シャルロットの『箝口令』と言う単語を聞いた途端に皆は大人しくなり、散り散りになっていった。
「ナイスだ、シャルロット」
「弥生が困ってたからね。これぐらいは当然だよ」
「そうだよな…………え?」
あれ~? 何かが聞こえたような気がしたけど、気のせいだったのかな~?
「………本格的に増えたね」
「理由は敢えて聞きませんけど……」
「あれはあれで強力なライバルの出現かもしれん……」
そこの三人も、早く席に着いた方がいいと思いますよ?
私が危惧していた通り、すぐに予鈴が鳴って、皆はあっという間に自分の席へと移動した。
全員が座り終えたナイスタイミングで織斑先生と山田先生がラウラを引き連れて教室へと入ってきた。
「ラウラさん、元気になったようですわね?」
「ん……」
近くの席にいるセシリアがそっと私に話しかけてくれた。
私も、元気そうなあの子の顔を見れて嬉しいよ。
「ひ…姫様……」
織斑先生が背中を軽く押す事で、ラウラは今にも泣きそうになりながらも、私の席の近くまでトボトボとやって来た。
「す…すみませんでした……。私のせいで姫様の御身を危険に晒してしま……」
全部を言い終える前に、私は立ち上がってラウラの事を思い切り抱きしめた。
「おかえり……ラウラ」
「ひ…ひ…ひ……」
限界まで目尻に涙を溜めてから、ラウラはその涙腺を崩壊させた。
「姫様ぁぁぁぁ~~~~!!! ごめんなさぁぁぁぁぁい~~~!!!」
「ん……私…は気にしてない……よ……」
泣き叫ぶラウラの頭を優しくナデナデしながら、そっと背中も擦ってあげた。
「ヒクッ……! 皆も済まなかった……。折角のトーナメントを台無しにしてしまって……」
うん。ちゃんと謝ることが出来たね。偉い偉い。
「わ…私達もそこまで気にしてないよ!」
「だ…だから、もう泣かなくても大丈夫だよ!」
「うんうん!」
「って言うか、泣いてるボーデヴィッヒさんを見てたら、微塵も責める気とか失せるんですけど……」
「ここで何か言ったら、それこそ真正の外道でしょ……」
ちゃんと分かってるじゃない。
やっぱ、可愛いは正義なんだね!
「しっかしさ……」
「うん……だよね……」
何? なんで皆してしたり顔で頷いてるの?
「「「「板垣さんって、やっぱりお母さんだよね~」」」」
やっぱりって何!? やっぱりって!
私はまだ未婚の16歳だよ!!
皆と同じ高校一年生だよ!!
「もはや、弥生の聖母説は不動のものとなりつつあるな……」
「弥生が母親か……。子供は男の子と女の子が一人ずつがいいか……?」
箒、勝手に不動のものにしないでくれます?
そして一夏! お前も勝手に私と自分の将来設計をするな!!
その妄想が実現する事は絶対に無いからな!!
「お前達、クラスメイトが無事に復帰したのを喜ぶのはいいが、早く静かにしろ。朝のHRが始められんだろうが」
織斑先生の鶴の一言で喧騒が静まり、私とラウラはそれぞれに席に戻る事に。
席に行く際の彼女の名残惜しそうな顔に罪悪感が抉られた。
(私も何か切っ掛けがあれば、ああして抱きしめて貰えるのだろうか……?)
ひゃぁっ!? また背中を凄まじい悪寒が走ったんですけど!?
か…風邪でも引きかけてるのかな……?
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
ドイツ某所にある違法研究所。
入口と思われる場所は完全に破壊されていて、高級感溢れる多数の機器も見るも無残な姿を晒している。
床には白衣を着た大勢の研究者と思わしき連中が気絶した状態で転がっていた。
そこに、二つの人影が現れた。
「全く……! 幾ら人手不足であるとは言え、どうして仮にも幹部である私達がドイツくんだりまで来なくてはいけないんでしょうか……」
「………………」
「……分かっていますよ、ラケシス姉さま。与えられた仕事に愚痴を零していても何も始まらない……ですよね? だったら、早く終わらせてホテルでゆっくりとしたいです」
褐色の少女と無口な美女。
そう、ラケシスとアトロポスの姉妹が破壊寸前になっている研究所に訪れていた。
「しかし、この様子を見る限り、どうやら先客がいるようですね……」
アトロポスの勘は正しかった。
電気系統が完全にショートしているのか、全体的に真っ黒になっていて、破壊された壁や天井の隙間から漏れている光が光源となっている空間の奥から、誰かが歩いてくるような足音が響いてきた。
「任務完了……ってか。意外と楽な仕事だったな………ん?」
「貴方は……!」
歩いてきたのは、肩に黒いベルトを装着した白いシャツを着たアフロヘアーの男で、その手には研究所の重要なデータが入っていると思われるUSBメモリが握られていた。
「コウスケ・ヤハゲ……! 吉六会のナンバー2である貴方が直々にこの場に来ているなんて……!」
「ラケシスにアトロポス。またお前等か」
アフロの男、矢禿康介は呆れながらも溜息を吐き、二人を見つめる。
「どうして幹部であるお前等が……って、それは聞くだけ野暮か」
「それはこちらのセリフです。でも、これで納得できました」
「何がだよ?」
周囲をぐるりと見渡して、足元で倒れている研究員の一人を軽く蹴ってから、改めて矢禿を見据える。
「嘗て、女性権利団体のモンゴル支部をたった一人で完全壊滅させた貴方ならば、この研究所を単独で制圧する事も容易でしょう。大方、私達がここに来る前に潰そうと思っていた権利団体のドイツ支部を先に潰したのも貴方の仕業でしょう? ミスターヤハゲ」
「そうだと言ったら?」
互いの視線が絡み合い、まるで時が静止したかのような静けさが辺りを支配する。
「別に何も。私達が潰しても、貴方が潰しても、別に違いはありませんからね。それに、支部のお金はちゃんと頂きましたから」
「俺の目的は別に金じゃなかったからな。でも、お前等に塩を送るような真似をしちまったのも事実か……」
苦虫を噛んだような顔で頭をガリガリと掻き毟る。
自分のミスで敵対組織に金を与えてしまった事が許せないようだ。
「出来ればそのUSBも頂けたら嬉しいのですが?」
「そう言われて大人しく渡すとでも思ってるのか?」
再びの睨み合い。
今度はラケシスも少しだけ腰を低くして、いつでも飛びかかれるようにしている。
「……いえ。悔しいですが、ここで貴方と戦う事は得策じゃありません。私達の『専用機』は現在オーバーホール中。生身でもそこら辺の連中には無双できる自信はありますが、それが貴方相手となると話は別になる」
「……………」
「はい。この男の実力は、私達二人がかりでも敵うかどうか……。この場にISを持ってきていない時点で、選択肢は嫌でも限られてきます」
何かを悟ると、アトロポスはラケシスを伴って元来た道を戻り始める。
「悔しいですが、ここに到着するのが遅れた瞬間から、私達の負けは確定していたようです。ここは大人しく撤退するとしましょう」
「逃げられると思ってんのか?」
「思ってますよ」
「このアマ……!」
飄々としたアトロポスの態度に少しだけイラついたのか、矢禿は自分の頭に手を掛ける。
「だったら……お前等の目がくらんでいる内に捕縛させて貰う!!」
なんと! 矢禿は自分のアフロ(実はカツラだった!)を大胆にも取り外し、その磨かれた頭を前方に向けた!
「くらえ!!
全てを覆い尽くす閃光が周囲を照らし、全ての者の視界を奪い去る!
その隙に矢禿は突進し、二人を捕まえようと試みる! だが……
「なっ!?」
閃光が収まった時、その場には二人の姿はどこにも無かった。
「消えた……?」
慌てて自分が破壊した出入り口から外に出て周囲を見渡すが、そのどこにも彼女達の姿は無かった。
「チッ……! 逃がしたか……!」
八つ当たり気味にその辺にあった壁を蹴ると、その衝撃で壁が粉々に砕け散る。
「一応、あの二人に会った事も含めて、全てを『元締め』に報告しなくちゃ駄目だろうな……」
その手に握っているUSBをポケットに仕舞いこんでから、矢禿は反対側のポケットからスマホを取り出して、どこかに電話を掛け始めた。
「あ~…警察ッスか? どこにでもいる善良な日本の観光旅行客なんですけど、今から言う場所にVTシステムの研究をしていた非人道的なクソ共の違法研究所があるッスよ」
その場から矢禿が去ってから数十分後、大勢の警官隊が瓦礫の山と化した違法研究所に駆け付けて、その場にいた全員を見事に逮捕した。
研究者達は全員が裁判にて終身刑を言い渡されたらしい。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
夜。ドイツのどこかにある某高級ホテル内にあるライトアップされた完全貸し切り状態の屋外プールにて、水着を着たラケシスとアトロポスが気持ちよさそうに泳いでいた。
因みに、ラケシスはかなりセクシーな黒のビキニ、アトロポスは反対に真っ白なビキニを着用している。
「今回は本当に焦りましたね。まさか、あそこでコウスケ・ヤハゲと出くわすとは……。唯でさえ吉六会の連中は厄介だと言うのに、そのナンバー2が来ているなんて、事前情報にありませんでしたよ……ったく……」
「……………」
「……承知していますよ。彼らの事ですから、私達に居場所を特定されないように入国、出国するなんて事は簡単に出来るでしょうね」
優雅に背泳ぎをしながら話すアトロポスとは対照的に、ラケシスはプールサイドにてのんびりとデッキチェアに凭れ掛かって、ジュースを飲んでいた。
その時だった。
もう一つのデッキチェアに置いてあるアトロポスのスマホにいきなり着信が来た。
「無粋な……。私と姉さまの至福の一時を邪魔するなんて、万死に値します」
などと文句を垂れつつも、素直に着信には出るアトロポスだった。
「はぁ……はい? どなたですか?」
電話の向こうの相手と話しながら、タオルで自分の髪を拭いていく。
「はい……はい。そうです。それは先程送った報告用のメールの通りです。吉六会幹部のコウスケ・ヤハゲに完全に先を越されていました。VTシステムの研究データは全て持っていかれたかと。私達はそこから撤退するだけで精一杯でした。なにせ、相手はあの男だったのですから」
アトロポスの報告に一応の納得はした通話相手は、次の話題に移行した。
「……え? 次はアメリカ? どういう事ですか? 詳しく説明してください」
次の瞬間、言われた一言にアトロポスは目が点になってしまった。
「アメリカとイスラエルが共同で開発した軍用ISの強奪をしろですって?」
物語は加速する。
一人の少女を中心にして。
少し短めですが、今回はこれで。
なんかフラグが立ちましたね。
次回からは原作第3巻に突入です。