なんでこうなるの?   作:とんこつラーメン

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来週も忙しそうで、今からげんなりとしている私です。

今回はお馴染みの日常回。

もしかしたら、ここから少しだけ臨海学校絵への準備の話が続くかもしれません。

短く纏めたいと思っていても、書いている内にいつの間にか長くなっているのが私クオリティですから。





もうすぐ夏ですね。気取るつもりはありません。

 空が暁に染まる頃。

 某所にある小さくもしっかりとした一戸建ての家に、一人の少女が帰宅した。

 彼女の名はシャルロット・デュノア。

 現在、シャルロットはとある少女達と一緒に暮らしている。

 

「今日も疲れたな~……」

 

 首をコキコキと鳴らしながら自宅の扉を開ける。

 

「ただいま~!」

 

 ご近所に迷惑にならない程度の大声で家の奥へと叫ぶと、キッチンの方から誰かが歩いてくる複数の足音が聞こえてきた。

 その足音は次第に近づいてきて、その主達が姿を現す。

 

「おかえ…り……」

「おかえり!」

「うん。ただいま、弥生、ラウラ」

 

 玄関までやって来た、長い前髪で顔の半分を隠してエプロンを着用している少女こそが、シャルロットがこの世で唯一愛する存在、板垣弥生その人だった。

 長い付き合いの末に二人は同棲生活を初め、今ではまるで本当の夫婦のような関係になっていた。

 弥生の傍にいる銀髪の少女はラウラ・ボーデヴィッヒ。

 彼女は弥生の養女であり、シャルロットにとっても弥生と同じぐらいに大切な存在だ。

 

「ご飯…にする…? お風呂…にする…? そ…れと…も……」

 

 いきなり弥生はエプロンを外し、少しだけ服をずらして肌を露出する。

 

「わ・た・し……?」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「僕はいつでも弥生一択だよ!!!」

 

 カーテンの隙間から朝日が漏れて、窓の外からは小鳥の鳴き声が聞こえる。

 今まで何度も見てきたIS学園の朝の光景だ。

 

「…………夢オチ?」

 

 正解。

 そこまでまだ話はぶっ飛んでいない。

 幾らなんでも展開が早過ぎである。

 

「そんなぁぁぁ~……」

 

 朝一からシャルロットの口から盛大な溜息が零れる。

 新しい朝が来た、希望の朝だと言うのに、なんとも景気の悪い顔をするフランス人である。

 

「まさか、弥生と一緒に暮らす夢を見るなんて……。にしても、なんでラウラが子供役で出演してるの……?」

 

 普段のイメージが如実に表れている夢だったが、それでも妄想が過ぎる夢だった。

 ここまで自分の欲望を忠実に再現した夢もまた珍しい。

 

「……朝から元気ね~」

 

 泡立った歯ブラシを口に咥えたままジト目で洗面所から顔を出している同室の少女が、起床してからのシャルロットの一連の行動を見て呆れていた。

 

 彼女の日常は、今のところは順風満帆のようだ。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 今日は珍しく二人揃って携帯のアラームよりも早く起床してしまった。

 最初は少しだけ損をした気持ちになったが、日本には『早起きは三文の徳』と言う諺も存在する。

 時にはこんな日も悪くは無いだろう。

 そんな訳で、私とラウラはいつもよりも時間に余裕を持って朝の準備をしていた。

 

「~♪~♪」

 

 テレビをつけて朝のニュースを見ながら、私は椅子に座ったラウラの綺麗な銀色の髪を櫛で梳いていた。

 毎度の事ながら、この子の髪は本当にサラサラ艶々で、こうしているだけで地味に楽しい。

 ……私も随分と乙女チックな性格になってきたな。

 まだまだアニメやラノベは大好きだけどね。

 

「日本は本当に平和な国のようですね。ニュースの殆どがのんびりとしたものばかりだ」

「治安…はいい……から…ね……」

「道端一つとっても凄く綺麗で、他の国では考えられません。これほど美しい国で生まれ育ったのであれば、姫様や教官がお美しいのも納得です」

「ははは……」

 

 VTシステムの一件以降、ラウラは今まで以上に素直になった。

 皆の前で思いっきり泣いたのが功を奏したのか、今ではラウラはクラスのマスコット的な存在にまで格上げされている。

 ラウラが皆に好かれるのは私としても嬉しい限りだけどね。

 

「弥生、ラウラ。少し早いが、一緒に朝食を食べに行かないか?」

 

 おっと、ここで箒さんのご登場です。

 思った以上に大人しいので、今のところは安心して付き合える仲。

 

「もうちょっと…だけ……待って…て……」

「姫様。廊下で待たせるのもアレですから、部屋に入って貰ったらどうでしょうか?」

「そうだ…ね……」

 

 ラウラの提案を受け入れ、私達は扉の向こうにいる箒に部屋に入って待つように伝える。

 すると、箒はすぐさま扉を開いて入ってきた。

 けど、なんでか私達の姿を見た瞬間に固まってしまった。

 

「お……」

「「お?」」

「お母さん……?」

「なんでやねん」

 

 箒のまさかの一言に思わずツッコみ。

 部屋に入っての第一声がソレかい。

 

「す…すまない。ラウラの髪を梳いている弥生の姿が一瞬だけ私の母さんとダブってしまった……」

 

 本物の母親と姿が似るって……私ってそんなにも老けてるの?

 一応、体はまだまだピチピチ(死語)の女子高生のつもりなんですけど?

 

「しかし……」

 

 なによ? あんましジロジロ見ないでほしい。

 

「弥生がそうしている姿に違和感が無さ過ぎて逆に凄い」

 

 ……マジで? 嘘でしょ?

 いやいや……箒は普段からあまり冗談とか言わない子だから、これは本心……?

 だとしたら、ちょっぴりショックかも……。

 

「やっぱり、弥生は『お母さん』なんだなぁ~……」

 

 やっぱりって何!? やっぱりって!!

 その意味を小一時間ほど問い詰めたい!!

 けど、その時間が無い!!

 

 その後、私達は少しだけ急いでから準備を済ませてから、箒と一緒に食堂へと向かった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 今日の朝食は、箒に合わせて私も和食にする事に。

 そんな訳で、本日最初のご飯は『焼き魚定食(勿論超大盛り)』です。

 なんと、お魚さんはでっかい尾頭付き。

 テーブルの中央で、その強烈なまでの存在感を放っています。

 

(こうして魚を食べていると、家にいる農林水産大臣を思い出すな~)

 

 かと言って、別に悲観しているわけじゃないけどね。

 それはそれ、これはこれ。

 

「メニュー自体は普通なのに、その量で全てを台無しにするな……」

「そう……?」

「魚の目には栄養が豊富に含まれていると聞きます。姫様は普通に食べるだけではなくて、栄養もちゃんと考慮なさっているのですね」

 

 それは当然だ。

 お腹いっぱい食べる事も大事だけど、それ以上に栄養配分はもっと大事だ。

 『貧乏よりも健康! 生きてさえいれば明日は来る!』と言う名言もあるぐらいだし。

 

 因みに、ラウラはコッペパンとコーンスープ。

 箒は私と同じ和食の定食だけど、私とは違っておかずは煮魚とほうれん草のお浸し。

 うん。これも悪くないかも。

 鉄分は大事だしね。

 

「今日の板垣さんは魚か~……」

「あれ、テレビの漁師さんのドキュメントとかに出てくる超でっかい魚じゃないの?」

「それを朝から尾頭付きで食せる……。驚きを通り越して、もう普通に尊敬できるわ……」

「あんだけ食べて、あのスタイルなのよね……。ほんと、世の中って理不尽……」

 

 流石の私も、自分の食事風景がすっかりこの学園の名物になってきている事は分かりますよ?

 だって、道行く皆がこっちを見るんだもん。

 ま、今更そんな事を気にはしないけどね。

 

「ハァ~……。正夢にならないかな~……」

 

 私を横目で見る集団に交じって、シャルロットが食堂に入ってきた。

 けど、なんで朝っぱらから溜息なんて吐いてるの?

 

 そのまま彼女は販売機で適当に食券を買って、カウンターに向かった。

 その道の背中からも、元気は全く感じられない。

 

 注文の品を受け取ってからこっちに気が付いたようで、真っ直ぐ一直線に私達がいるテーブルへとやって来た。

 

「お…おはよう。弥生、ラウラ、箒」

「「「おはよう」」」

 

 なんでこっちを見た途端に顔を真っ赤にする?

 

(あんな夢を見た直後に弥生に会うなんて~! 嫌でも意識しちゃうじゃないか~!)

 

 よく分からんけど、なにやら混乱しているのは分かる。

 だって、さっきから百面相してるし。

 

「お前も苦労してるんだな……シャルロット」

「そ…そう? アハハ~……」

 

 んでもって、箒はシャルロットに共感してるし。

 これが女子同士の会話なのか……!

 

「や…弥生」

「な…に……?」

「し…幸せに……なろうね?」

「うん………?」

 

 人間である以上、幸せを求めるのは当然の事では?

 シャルロットの言いたい事が本気で分からない。

 

 一応言っておくと、私達は遅刻はしていない。

 一夏は遅刻ギリギリだったけど。

 本人曰く、『今回は単純に目覚ましをセットする時間を間違えた』らしい。

 

 朝一から、一年一組の教室に凄まじい炸裂音と一緒に一人の男子高校生の悲痛な叫びが木霊した。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 頭からプシュ~…と煙を出している一夏をよそに、朝のSHRが始まった。

 教壇には一夏に一撃を加えた張本人である担任の織斑先生が立っている。

 

「さて、今日は通常授業の日だった筈だな。いくらIS学園が専門校に近い場所とは言え、名目上はお前達も立派な高校生だ。言わずとも分かると思うが、このクラスから赤点なんて出すなよ? 特にそこで痛みに悶絶している男子」

「だ…誰のせいだと……」

「何か言ったか?」

「ナンデモナイデス……」

「よろしい」

 

 相変わらず、織斑家におけるヒエラルキーは先生の方が上のようだ。

 一夏があの人に対して優勢になれるのは家事全般をこなす時だけだな。

 

「それから、来週からは校外特別実習期間が始まる。小難しい言い方をしているが、ようは臨海学校だな。勿論、忘れ物などは絶対にするなよ? 僅か3日間だけとは言え、完全に学園から離れる訳だからな。自由時間であまり羽目を外しすぎないようにしないように」

 

 臨海学校……! 序盤での最大の難所……!

 顔はいつも通りのポーカーフェイスをしているつもりだけど、心の中はドキドキしっぱなしだ。

 だって、この臨海学校は本当に大変な事のオンパレードなんだもん!!

 あの『天災兎』がいきなりやって来て、これまたいきなり箒に専用機を渡す。

 そんでもって、『福音』の暴走事件。

 シリアスに次ぐシリアスのオンパレードじゃないか!!

 私みたいな奴は絶対に役に立たないイベントばかりだ!!

 

(そう言えば……箒はあの人に専用機を強請ったのか?)

 

 原作では本人に直接電話をして専用機を欲していたけど、ここではどうなんだろう?

 少なくとも、私が知る限りじゃ今の彼女は専用機を欲しがっているようには見えない。

 

(仮に箒が何も言わなくても、無理矢理な理由をつけてやって来そうだよな……)

 

 あの人物の破天荒さは私が最も苦手とする部類のものだ。

 出来れば彼女には私の事はそこら辺の石ころと同じように思ってくれていると本当に助かる、パスカル。

 

「では、これでSHRを終了する。お前達、今日もちゃんと勉強に励めよ」

 

 それは勿論。

 勉強こそが学生の本分ですからね。

 

 最後に一夏の後ろの席の子が山田先生の不在について質問をしていた。

 あの人は原作と同じように、臨海学校の視察に出かけているとの事。

 教師の仕事はなにも授業をするだけじゃないってことね。

 

 あ、水着どうしよう。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 放課後になって、私はラウラとシャルロットと一緒に図書室で勉強をする事に。

 他の皆も来たがっていたけど、それぞれに用事があって来れなかった。

 因みに、代表候補生ではない箒は部活で、一夏は普通に補習。

 ここに来る途中でロランさんにも掴まりかけたけど、間一髪でダリルさんとフォルテさんの上級生コンビに助けられた。

 今度、なにかお礼をしないと。

 

「ね…ねぇ……弥生」

「ん……?」

 

 ラウラが横で参考書を読んでいる時、シャルロットがそっと耳打ちしてきた。

 

「臨海学校ってことは、必然的に海に行くんだよね……?」

「そうな…るね……」

「そうなるとヤバくない? 海って事は水着になるんだよね? 弥生はまだ体の事を話すつもりはないんでしょ?」

 

 それね。確かに私にとって水着は最大級に懸念すべき事だ。

 

「大丈夫……」

「え……?」

「手…は打ってる……から……」

 

 こんな事もあろうかと、私は密かにおじいちゃんに『ある物』を送ってもらうように頼んであるのですよ。

 アレさえあれば、海であっても無駄に肌を露出しなくても問題ナッシング。

 

「弥生がそう言うなら信じるけど……」

 

 あ、念の為に言っとくけど、私は別にカナヅチじゃないからね?

 インドア派な私でも、ちゃんと泳ぐことは出来るんだから。

 

「そ…それじゃあさ……」

「ん?」

 

 急にモジモジし始めちゃって。今度はなんですかね?

 

「僕…さ、フランスから日本に来る時に水着とか持ってきてないんだよね……」

 

 そりゃ、一度は男として潜入したんだし、女物の水着とか持って来れないよね。

 で、この流れはもしかしてとは思うけど…まさか……?

 

「今度の日曜日に、僕と一緒に買い物に行かない?」

 

 だと思ったよ。

 

「買う…のは……」

「勿論、水着だよ」

 

 デスヨネ~。

 

「ラウラ…も一緒……に来たがる…かも……」

「別に構わないよ。……あの夢が再現出来るし……」

 

 なんか最後の方、声が小さくてよく聞こえなかったけど、なんて言ったの?

 夢って聞こえたような気がするけど。

 

「ダメ……かな?」

 

 そんな風に捨てられた子犬みたいな目で見られて『嫌です』とは言えないでしょ。

 

「私…でよけれ…ば…いいよ……」

「ホント!?」

 

 ちょ……! 声が大きい!

 

「あ……ゴメン」

「図書室……では静か…にね……?」

「うん……」

 

 マナーはちゃんと守らないとね。

 

「と…とにかく、一緒に行くことはいいんだよね?」

「ん……」

 

 何の因果か、私は原作での一夏の代わりにシャルロットと一緒に買い物に行くことに。

 でも、今回の場合はラウラも一緒だし、特に問題は起きない……よね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はシャルロットのデート(?)回になるかも?

と言っても、約一名がおまけで一緒に来ますけど。

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