私は忠実に原作に沿っているだけだから。
今回は珍しくシャル視点でお送りします。
待ちに待った週末の日曜日。
今日は僕と弥生のデートの日!(ラウラも一緒についてくるけど)
空は快晴……とはいかずに、今にも雨が降りそうな曇り空。
晴れた時はそこそこに暑いのに、太陽光が無いだけで心なしかひんやりとした空気が辺りを漂う。
でも! そんな空気なんて、弥生と一緒にいればどこかに吹き飛ぶさ!
僕は先に校門の所に行って弥生の事を待っている。
弥生の私服って見るのは初めてだから、凄く楽しみだよ~!
「お待…たせ……」
来た!!
「おぉぉ~……」
弥生の姿を見て、僕は思わず身動きを止めてしまった。
襟や手首の部分に僅かなフリルがついた白い服を着ていて、胸からお腹の辺りに掛けて黒い紐がバツ印を描くように結ばれていて、赤と白と黒のオーバーチェック柄のロングスカート。
長い髪は黄色いリボンで纏められていて、歩く度に左右に揺れていた。
勿論、その手は腕袋で、足はタイツで隠れている。
結論。
冗談抜きで可愛いと思いました。
(弥生の全身から『お嬢様オーラ』が漂ってる気がする……)
一応、僕も立場上は『お嬢様』なのかもしれないけど、弥生には絶対に負ける……。
「あれ?」
隣に立って弥生と手を繋いでいるラウラ(不思議と嫉妬心は沸かなかった)も、珍しく私服を着ている。
前に聞いた話だと、学園の制服以外では祖国の軍服しか持ってなかったんじゃ?
「ラウラのその服は……」
「虚さん……に貰った……」
「虚さんって確か、本音のお姉さんで三年生……だよね?」
「ん」
そっか~。
本人は恥ずかしそうにしているけど、僕はとても似合っていると思う。
服装自体は至ってシンプルで、首元に小さな黒いリボンがついた薄紅色のシャツと、フリルがついた膝下まである紺色のスカート。
ラウラのスカート姿自体が物珍しいから、凄く新鮮に見える。
「姫様……なんだかスースーします……」
「気持ち…は分かる…けど……これも慣れ…だ…よ……」
「りょ…了解しました……」
なんて言いつつも、モジモジしながら顔を赤くしているラウラ可愛すぎ。
「なんだか天候が不安定だから、早く行こうか?」
「うん」
「そうだな」
僕達は一路、モノレールに乗る為に移動をする。
私服の弥生と一緒に外を歩ける……。
それだけでもう僕は大満足だよ~!
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・・
・
無事に時間に間に合ってモノレールに乗り込んだ僕達。
休みの日なのに席が空いているのは、今日の天気が悪いから?
モノレールの席は丁度良く三人ぐらいが乗れる大きさになっていたので、僕達は一緒に並んで座った。
因みに、弥生が窓側、ラウラが真ん中、僕が通路側の順になっている。
「今日…は…ラウラ…の服……も買いたい…って思って…る……」
「本当ならば私一人ですべきことを、申し訳ございません……」
「気…にしない…で…。私…は好き…でしてる…だけ……」
微笑みながらラウラの頭を撫でる姿は、間違いなくお母さんだよ…弥生……。
「じゃあ、先にラウラの服を見に行く?」
「後…でもいい…よ……?」
「いいの?」
「ん。時間…はタップリ…とある…から……お昼…を食べた後…でゆっくり…と見て回れ…ばいい…でしょ……?」
「そうだね。時間は有効活用しないと」
まずは当初の目的である水着を買いに行って、それからお昼を食べて、その後にラウラの服を見に行く……と。
向こうに着いてからの予定はこれで決まりだね。
「にしても、折角のお出かけなのに、この曇り空は無いよね……」
「梅雨…が明けた…とは言っても……まだま…だ天候…は不安定…だか……ら……」
「日本は四季を楽しめる国とは聞いてはいますが、それはメリットばかりではないのですね」
それは僕も思った。
あくまでネットや本での情報だけど、日本は季節ごとに咲く花もあるようで、特にサクラとか言う花がとても綺麗だったのをよく覚えている。
今はもう夏に差し掛かっているから、季節的にも見れないけど。
「念…には念…を……と言う…ことで……折り畳み傘…を持って来た……」
「流石は姫様。用意周到ですね」
そのセリフが出るって事は、自分は傘を持ってきてないって言ってるようなものだよ?
僕? 僕は実際に雨が降ったらコンビニとかで買おうって思ってるけど。
「あ。そろそろ着くよ」
モノレールが僕達の目的地である駅前の『レゾナンス』前に到着しようとしている。
天気……本当に大丈夫かな?
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駅前に到着し、三人並んで歩く弥生達の背後に、複数の人影が現れる。
ポニーテールにツインテール、ブロンドの髪に青い髪に袖がダボダボの服。
言わずもがな、箒に鈴にセシリアに簪に本音の五人組である。
「シャルロットめ……! 一体いつの間に弥生と一緒に外出する約束なんぞしていたのだ……!」
「最近までなりを潜めていたから、完全に油断していましたわ……!」
「でもね……このままで終わると思ったら大間違いなんだからね……!」
「まだまだ逆転のチャンスは残されている……!」
各々に決意を胸に燃え上がる少女達だったが、その中で一人だけ、本音がぽつりと言葉を零す。
「みんな~、ラウラウのことはいいの~?」
当然の疑問に全員が本音の方を向いた。
「ラウラは~…その~……」
「不思議と嫉妬のような感情は沸きませんわね~……」
「なんつーか……あの子の場合は弥生の事を本当の母親のように慕ってるから……」
「そう言った事からは完全に除外してる」
「そ~なんだ~」
知らない所で身の安全が保障されたラウラであった。
「でも、ここに楯無さんが来なかったのは意外だったわね」
「あの方も弥生さんをお慕いしていますからね」
「実際の所はどうなんだ?」
「お姉ちゃんは……」
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「はい! まだまだ書類は山のように有りますからね!」
「なんでよぉ~~~~!? 今日は日曜日なのにぃ~~~~!!」
「お嬢様が今までサボって溜め込んだからでしょうが! 弥生さんの力になりたいと思う事は素晴らしいですが、だからと言って生徒会の仕事をサボっていい理由にはなりません!!」
「本音ちゃんは出かけてるのにぃ~~~!?」
「あの子は最初から戦力外通告してますから」
「うわぁぁぁぁぁぁん!! 弥生ちゃ~~~ん! 簪ちゃ~~~ん!! お願いだからお姉ちゃんを助けて~~~~~~!!!」
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「……的な事になってる」
「「「哀れな……」」」
後輩に本気で同情される生徒会長。
ある意味でもう末期である。
「つーか、本音はそれでもいいわけ? 戦力外通告って……」
「ん~? 私ならだいじょ~ぶだよ~? 別に気にしてないし~」
この時、全員が同じ事を思った。
((((この子は鋼の精神の持ち主だ……))))
もしかしたら、本当の意味でIS学園最強は本音かもしれない。
「ところで、さっきまで一緒にいたロランはどこに行った?」
「あそこで女の子をナンパしてる」
簪が指差した所で、ロランがお得意のイケメンスマイルで女子高生をナンパしていた。
「ふふ……。君の美しさに私はもうクラクラだよ……」
「キャ~♡」
傍から見ると、完全に馬鹿丸出しである。
「あのバカ!!」
見るに見かねた鈴が飛び出して、ロランの腕を掴んでから連れ戻してきた。
「おいおい、君も思いのほか強引な子だね」
「アンタがアホなだけでしょうが!! 弥生達を追いかけてる時に何をやってるのよ!!」
「私は幼少期からずっと『可愛い少女を見たらナンパをしたくなる病』に掛かっていて……」
「んなアホな病気があってたまるか!! ほら、弥生達が行っちゃうでしょ!!」
「おっと。我が麗しの姫の可憐なる姿を見失っては、まさに一生の不覚。急いで追跡しなくては!」
「あたし達も行くわよ!」
いつの間にか鈴がパーティーのリーダー役に収まっていて、皆も彼女の指示に従っていた。
余談ではあるが、今回ダリルやフォルテは候補生としての仕事の都合で一緒に来れなかった。
しかし、思った以上にしっかりしている後輩達にロランの手綱を任せることにしたのだ。
彼女達の目の前で、弥生達三人は横断歩道を仲良く渡っていった。
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「ここがレゾナンス……。本当に大きな場所なんだね~」
「日本は色々な物資が一堂に会する国とは聞いてはいたが、ここはまさにそれを体現したかのようなモールだな……」
弥生曰く、この駅前のショッピングモール『レゾナンス』は、あらゆる種類のお店が全て並んでいて、食事においても和・洋・中の全てを完備。
果ては僕でもよく知っている海外の一流ブランドのお店もあるらしい。
交通の便においても問題が無く、バスや電車は勿論、タクシーや僕達が乗ってきたモノレールからもアクセスが可能。
弥生も昔はよく通っていたらしく、IS学園の生徒達も場所柄、よく利用しているとの事。
「まずは水着専門店に行くんでしょ?」
「ん…。で…も……歩きな…がら……ウィンドウ…ショッピング…をして…もいい…と思う……」
それ最高!
なんだか本格的なデートみたいになってきたね!
なんだかテンション上がっちゃうよ!
案内図によれば、目的地である水着専門店は二階の真ん中辺りで、午後の目的地であるレディースショップは5~6階にある模様。
実はこれも地味に楽しみだったり。
僕もラウラは可愛いんだから、もっと着飾ればいいと日頃から思っていたし。
移動ルートを確認した後に、僕達はゆっくりと時間を掛けてから様々なお店を見て回った。
ラウラにとっては見るもの全てが珍しく見えるようで、何を見ても目をキラキラさせていた。
そして、それを見ながら弥生が一つ一つ丁寧に説明をしていく。
そんな弥生も、所々で立ち止まったりしていたっけ。
本屋さんやゲームショップとかを見てジ~って凝視していた。
そう言えば、弥生の部屋って矢鱈と色んなゲームや漫画とかが並べられていたな~。
簪が言うには『弥生は私と同じ人種の人間』らしいけど、それってどう言う意味なんだろう?
そうして歩いていく内に、僕達は最初の目的地である水着専門店へと到着した。
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「あの三人……どうやら真っ直ぐと水着売り場へとは向かわないみたいね」
「少しでも弥生と共に過ごす時間を堪能しようと言う算段か……」
「羨ましいですわ…羨ましいですわ…羨ましいですわ…羨ましいですわ…羨ましいですわ…」
未だに後ろからコソコソと後を着けている謎の集団。
第三者目線からすれば、怪しいことこの上ない。
よく警察に話しかけられないものだ。
そんな箒達が話している間も弥生達は着々と歩みを進めていく。
その途中でゲームショップに立ち寄った際、簪の目がキラ~ンと光った。
(あれは最新作の対戦格闘ゲーム……! 確かオンライン対応だから、例え部屋が離れていても弥生と一緒に楽しめる! よし、後で絶対にあれを買おう。そして、同じ物を弥生にも勧めよう!)
こけてもめげないのが更識の血の成せる技か。
簪はこの状況で既に次の一手を考えていた。
「ふむ……。弥生は漫画やゲーム、所謂『オタク文化』が好きなのか……。これは新たな発見だ。早速メモをしなくては」
ロランはロランでちゃっかりと弥生の好きなものをメモしていく。
彼女が手にしているメモ帳には『弥生の攻略本』と書かれていた。
「まるで、本当の家族みたいだね~。もぐもぐ」
ここでもまだ余裕を見せる本音は、いつの間にか買ってきていたおでんパンを口にしながらお茶を飲む。
その姿は完全に王者の風格。
「……なぁ……皆……」
「どうしたの、箒?」
「私は今…とんでもない事実に思い至ったのだが……」
「なによそれ?」
ゴクリと唾を一飲みして、箒はゆっくりと口を開ける。
「今回、弥生達は水着専門店に行くんだよな?」
「そう聞いてますわ」
「それがどうかしたの?」
「水着専門店に行くと言う事は……」
顔から汗を出しながら、その場にいる全員を戦慄させる一言を放った。
「弥生も……水着を試着するのではないか……?」
「「「「「はっ!?」」」」」
その瞬間、確かに全員の体に電撃が走った。
「や…弥生の水着……」
「や…やはり、弥生さんはスタイルがいいからビキニなどがお似合いですわ……♡」
「いやいや。ナイスバディだからこそ、セパレートな水着が映えるって事も……」
「パレオの隙間から除く生足とかセクシーだよね~」
「フフ……フフフ……! 弥生の水着姿となれば、かの美の女神達でさえ嫉妬を覚えるに違いない……。これは是非とも写真に収め永久保存にしなくては……!」
あろうことか、全員が揃って鼻血を垂れ流していた。あの本音ですらも。
更に言えば、ロランは自分の言った事を有言実行しようと、その手にデジカメを構えていた。
どこに持っていた、とか野暮なツッコみはご勘弁願いたい。
「ロラン……貴様……!」
「まさか、弥生の艶姿を写真に収めるつもり?」
「貴女と言う人は……!」
「ぐぬぬ~……!」
「ロラっち~……!」
ロラン以外の全員の手がプルプルと震えだし、そして……
「「「「「私達にも一枚ください!!!!」」」」」
一斉に自分達の財布から千円札を取り出してロランに差し出した。
だが、そこに謎の存在が姿を現す。
「私なのよ」
「……誰ですの?」
現れたのは一人の中年女性。
髪が無駄に長いのが特徴的だ。
「私が来たのよ。ここパリに」
「パリじゃないし……」
呆れる鈴を余所に、簪と箒は彼女の正体に気が付く。
「ふ……」
「
「知っているのかい?」
「ま…まぁな……」
【妖怪船婆】
昔は幕張メッセのワールドビジネスガーデン近辺に、最近ではこのレゾナンス付近でよく出没する低級妖怪。
よく『10円ちょーだい』と低額の金銭を要求してくる。
彼女の所望する金額を渡すと『どうもね。どうもね。どうもね』とジェット・ストリーム・アタックのように言い放ってくる。
「船婆。今の私達は貴様に構っている暇は無いんだ」
「早く千葉県に帰りなよ」
「帰らない。ここ私の楽園」
「なんで日本語が片言なのよ」
鈴が思わずツッコむと、いきなり船婆が箒に寄ってきた。
「箒ちゃん。暫く会わない内に可愛くなったわね~」
「お前は親戚のおばちゃんか」
あまりにもしつこい船婆に痺れを切らせた鈴は、思わず大声を上げる。
「いい加減にどっか行きなさいよ! アタシ達は今、忙しいのよ!!」
だがしかし、そんな事には微塵も怯まず、船婆は冷静に言葉を紡ぐ。
「あら、そこのお嬢さん」
「な…なにかな? マダムフナバー」
「もしかしてそのデジカメ。水着専門店の試着室を覗いた上に写真に収めるつもり? それって普通に犯罪よ?」
全員の心に言葉の剣が突き刺さる。
「その盗み取った写真を皆が寝静まった夜中に、こっそりとベッドの中で見て『ハァーハァー』しようとしてるわね?」
船婆の更なる追撃。
しかしここで怯まないのが彼女達。
起死回生の一手を打つ為に、箒は自分の財布から100円玉を取り出して船婆に見せた。
「船婆」
「!!?」
それを見た途端、船婆の顔色が変わる。
箒は100円玉を親指でピンと弾いて飛ばす。
「はうぅっ!!」
それをそのまま追いかけていく船婆。
地面に落ちてくるくると回転する100円玉を見て興奮し、その動きが止まってから嬉しそうに両手で包み込む。
「ありがとね。ありがとね。ありがとね」
「100円だと『どうもね』ではなくて『ありがとね』に変化するんだな」
「新発見だね」
100円を貰って満足したのか、船婆は嬉しそうにその場から去っていく。
「箒ちゃんって美少女よね~」
「わかったから、さっさと行け」
船婆の姿が遠くに消えてから、全員はほっと胸を撫で下ろした。
「どうやら……」
「行った……」
「ようですわね……」
邪魔者が消えてから急いで弥生達の姿を探すと、既に彼女達は水着専門店へと入る直前だった。
「し…しまった!」
「急いで後を追わなくては!!」
「行くわよ!!」
「撮影は任せたまえ!」
「弥生の水着…弥生の水着……」
「なんだかワクワクするね~」
興奮を隠しきれないまま、少女達も弥生達を追って水着専門店の近くまで移動する。
だがしかし、ここで彼女達は『信賞必罰』と言う言葉の意味を身を持って思い知る事になる。
いつの世も、邪な考えが本当の意味で成功した試しは無いのだ。
シャルロットとのデートと思いきや、まさかのフナバー登場。
因みに、フナバーの漢字は、調べても分からなかったので、適当に婆の字を使いました。
次回は後編です。