今日の20時頃にハーメルンにアクセスしようと思ったら開かなくて、割とガチで焦った作者です。
今回からアニメ第一期のクライマックスである臨海学校編に突入です。
果たして、弥生はどんな風に過ごすのでしょうか?
僅かに揺れる座席に身を委ねながら、私は窓の外に映る景色を眺める。
太陽光が眩しく、どこまでも澄みきった青空。
「いや~! 最高の臨海学校日和だね~!」
少し後ろに座っている子が言った通り、今日は例の臨海学校の初日だ。
私の座っている席は右側の一番前で、通路を挟んだ反対側には先生達が座っていた。
そんでもって、私と一緒に座っている子は……
「むぎゅ~…」
私の癒しの一人である本音なんだけど、なんでかさっきからずっと私の胸に顔を埋めながら抱き着いてるんですよね……。
「な…んで……抱き着…くの……?」
「やよっち分の補給」
「は?」
いきなり意味不明な成分を生み出さないでほしい。
「『やよっち分』とは、やよっちの香りから分泌される癒し効果を持った成分で、これを毎日摂取することで私はとってもいい気持ちになれるのです」
説明しなくてもいいから。
「私も弥生さん分を補給したいですわ……」
「私もだ……。あのショッピングモールでの一件以降、時々、あの悪夢が脳裏に蘇ってくるからな……」
ショッピングモールでの一件って……船婆とか言う人の事?
そんなに凄まじい衝撃だったんだ……。
「いいなぁ~……本音。僕も弥生に……♡」
私の後ろの席にはシャルロットとラウラが並んで座っている。
その隣に箒とセシリアが位置している。
因みに一夏はと言うと……。
「ぐ~……す~……」
一番後ろの右端で爆睡中。
あいつの周囲にいる皆も、流石に起こすのは忍びないと思ったのか、声のボリュームを落としている。
「なぁ……真耶」
「なんですか? 織斑先生」
「教師が生徒に抱き着くのって絵的にアリか?」
「……時と場合によると思いますけど」
「そうか……」
なんかそこの教師二人がこそこそと話してるけど、気にしたら負けの精神で無視することに。
「あ~! 海だぁ~!!」
誰かが叫んだ事で寝ている一夏以外の皆が窓に注目する。
そこには、透き通った綺麗な海が一面に広がっていた。
「日本の海って本当に綺麗だよね~」
「全くだな。見ているだけで心が洗われるようだ」
そういえば、ラウラはこれまでに娯楽目的で海に行ったことが一度も無いんだとか。
流石に海自体には何回か行った経験はあるけど、そのいずれもが訓練などが目的だったらしい。
これを機に、海の楽しさを知ってくれると嬉しいな。
「そう言えば、弥生さんはとても大きなお荷物を持っていらしてましたわね?」
「私も見たぞ。あれは一体何なんだ?」
「秘密……だよ♡」
誤魔化すために人差し指を口に当てながらの笑顔攻撃。
これが想像以上に効果絶大だった。
「そ…そうですわね~♡ ここで全てを聞いては後の楽しみが無くなりますものね~♡」
「セシリアの言う通りだな~♡」
「僕もそう思うよ~♡」
箒とセシリアとシャルロットがほんわかとした顔でこっちを見つめ、ラウラは顔を真っ赤にし、私に抱き着いている本音は……
「やよっち」
「な…に……?」
「キスしてもいい?」
「ダメです」
鼻血を出しながら超真剣な顔でキスを迫ってきた。
勿論、速攻で断ったけど。
「ラウラは弥生の荷物の事は知ってるの?」
「残念だが、私もよくは知らない。姫様は朝早くから準備を済ませていたからな」
別に知られても問題は無いんだけど、ちょっと皆を驚かせたいと言う悪戯心が芽生えまして。
アレを見た時の皆のリアクションが本当に楽しみだ。
「因みに弥生は泳げるのか?」
「…………人並み程度……には……」
基本的に運動が苦手な私は、当然のように水泳もあまり得意じゃない。
流石にカナヅチと言う訳じゃないけど、早く泳ぐとか長時間泳ぐとか絶対に無理。
泳法だってクロールしか出来ないし。
「そ…そうか。もしよかったら、私が泳ぎ方を教えて……」
「もうすぐ目的地に到着する。ちゃんと椅子に座っているように」
箒が全てを言い終える前に、それを遮るかのように織斑先生が言葉を被せてきた。
「お…織斑先生……!」
「抜け駆けは許さんぞ……!」
……なんでこの二人は睨み合っているの?
そうこうしている内に、バスは宿泊予定地である旅館に到着した。
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・・・
・・
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複数のバスから生徒達が一斉に降りてきて、旅館の前に綺麗に整列する。
私達の前には旅館の従業員の人達が数名と、真ん中に美人女将さんらしき人が立っていた。
「ここが本日より3日間の間お世話にある『花月荘』だ。お前達、従業員の方々にご迷惑をおかけしないように心掛けろよ」
「「「「「よろしくおねがいしま~す!!」」」」」
あれ……? 花月荘? なんかどこかで聞き覚えがあるような気が……。
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いしますね。今年の一年生も元気があって羨ましい限りです」
今年も…って事は、IS学園は毎年、臨海学校でこの花月荘を利用しているのか。
つまり、常連さんってことになるんだな。
「それで、そこにいる男の子が例の……?」
「はい。ほら、前に出て挨拶をしろ」
ご指名を受けて、ちょっと気恥ずかしそうにしながら一夏が列の前に出てきた。
「え…えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」
「清州景子と申します。こちらこそ、よろしくお願いしますね」
清州景子……。
この名前もどこかで聞いた事があるような……。
「今年は男子が一人いるせいで浴場分けに面倒を掛けさせてしまい、申し訳ありません」
「お気になさらないでください。これもお仕事ですから」
割り切ってるな~。
正に『大人の女性』って感じ。
普通に憧れるわ。
「ところで、こちらに『板垣』と言う子がいると聞いているのですが……」
「板垣……と言うと、私のクラスの板垣弥生ぐらいですが……」
「弥生ちゃん! 本当にIS学園に入学していたのね!」
え? え? なんで女将さんが私の事を知ってるの?
「あ~…板垣? 知り合いか?」
「い…え……」
完全にこれが初対面なんですけど。
「あ……ごめんなさい。つい燥いじゃって。別に彼女と私がお知り合いって訳じゃなくて、その子のおじいさまと私が顔見知りなんです」
お…おじいちゃんとこの人が!?
あ~……なんか段々と思いだしてきたかも~……。
「そ…そうなんですか?」
「はい。よく弥生ちゃんのおじいさまとそのお友達がここに宿泊をしに来てくれて、完全に常連客になってるんですよ。よく義娘さんのこともお話してくださって……」
そう言えば、前におじいちゃんが酔った勢いでとある高級旅館に泊まった時の事を嬉しそうに話していた記憶が……。
その時に『花月荘』と『清州景子』って単語を聞いたんだ……。
「お…おじいちゃん…と皆……がお世話…になって…ます……」
「これはこれはご丁寧に。弥生ちゃんも、この3日間の間、楽しんでいって頂戴ね」
「ありがと…うござい…ます……」
意外な場所で意外な繋がりを発見してしまった……。
世の中、どこで何が起こるのか分からないな。
その後、私達は従業員の人達に案内される形で各部屋へと案内される事に。
海に行く場合は別館にある更衣室にて着替える事が可能らしい。
一日目は基本的に自由時間。
殆どの生徒が海へと直行するだろうが、その前に私は荷物を持っていきたいので、まずはおじいちゃんも気に入ったって言うお部屋を見させてもらいましょうか。
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・
私と同じ部屋なのはラウラと本音と箒の三人。
ラウラはいつも通りのリアクションだったけど、本音と箒はガッツポーズをして喜んでいた。
そこまで嬉しいか? と呆れてしまったけど、今更だと思ってスルーした。
同じ部屋になれなかったセシリアと簪と鈴はとても悔しそうにしていたけど、シャルロットだけは『仕方が無いよね』と言ってサッパリとした反応だった。
これが普通なんだよね、多分。
因みに、ロランさんはまたまた爽やか~な笑顔を振りまきながら私に抱き着こうと試みたが、寸前の所で三組の担任の先生が来て部屋まで連行。
床を引きずられながらもこちらに手を振る姿は、なんとも滑稽だった。
「おぉ~……」
「なんと美しい景色だ……」
「これは本当に凄いね~!」
皆が感動するのも無理は無い。
窓からは見事なオーシャンビューが広がり、部屋の内装も隅から隅まで綺麗に整っていた。
ここは間違いなく高級旅館に属する場所のようだ。
「弥生の父上が常連になるのも頷けるな……」
「全くだ……。ここならば、何回も来たくなってしまうだろう」
「お風呂広~い! あ、テレビも大きい~!」
箒とラウラは純粋に部屋と窓からの景色に感動しているけど、本音だけは早々に部屋の散策をし始めた。
あまり変な所を触っちゃ駄目だからね? 特に旅館特有の有料チャンネルとか。
「ところで、一夏の部屋はどこになったんだ?」
「それなら~、さっき織斑先生と話してたよ~」
「どこ…になる…の……?」
「ん~とね~…織斑先生と同じ部屋だって~」
あ、そこは原作と同じなのね。
「最初は個室にするつもりだったらしいけど、それだと就寝時間を無視した子達がやって来る可能性があるからって言ってたよ」
「成る程な。アイツは未だに女子達に持て囃されているからな」
唯一の男子と有名人の血縁者と言う肩書は伊達じゃないようで、それなりに月日が経った今でも一夏には一定の人気があるようで、少しでもお近づきになろうと試みる女子達が結構いる。
私には別に関係無いけれどね。
「む? どうやらもう海に行っている連中がいるようだぞ」
「気が早い奴等だ」
窓から浜辺の方を見てみると、もうポツポツと水着に着替えた子達が出てき始めていた。
ここからでも分かるほどにテンション上がってるな~。
「私達も行くか?」
「そうだな。折角、姫様に選んでいただいた水着があるのだ。ここで着ない訳にはいかんだろう」
「決まりだね~」
私としても海に行くことに異論は無い。
満場一致と言う事で、私達は必要な荷物を持って別館にある更衣室へと向かう事に。
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・・・
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・
更衣室へと行く途中で一夏、セシリア、シャルロットと合流した。
別にそれはいい。何も文句は無い。けれど……
「なんだこれは……」
中庭の地面にブッスリと突き刺さっている機械的なウサ耳。
しかも、ご丁寧に傍には『引っ張ってください』と言うメッセージが書かれた紙が添えてあった。
「なぁ……箒。これって……」
「言うな。そして聞くな。関わるだけ時間の無駄だ」
嫌っていると言うよりは、本当に呆れている表情だ。
非常に大きな溜息を吐きながら、箒は一人で更衣室へと向かって行った。
「……どうするの? これ……」
「抜くしかないんじゃないか?」
「馬鹿か。こんなあからさまなトラップに態々引っかかってやる必要は無い」
ラウラからも御尤もなお言葉を頂きました。
「ね…ぇ……」
「どうしたんですの?」
「あれ……」
私が指差した方向には、ワクワクした顔でウサ耳を引っ張ろうとしている本音がいた。
「言った傍から引っ張ろうとしてるし!?」
「こ~きしんには勝てないのだよ~」
「言ってる場合か!?」
猛烈に嫌な予感がしたので本音を止めようと思ったけど、時すでに遅し。
ウサ耳は簡単に抜けてしまい、その反動で本音がその場に尻餅をついてしまった。
「何にもないよ~?」
「罠ではない……だと? だとしたらこれは一体……?」
皆は頭を捻って考えているけど、私には分かる。
これは間違いなくあの『天災兎』のウサ耳だ。
原作通りならば、この後に待ち受けているのは……
「……ねぇ、何かが落ちてくるような音が聞こえない?」
「……気のせいじゃありませんのね」
「私にもハッキリと聞こえるぞ……」
「避難避難~!」
「もしかして……ここに落ちてくる!?」
本音が急いでこっちまで来た直後に、薄い赤色の大きな謎の物体がさっきまでウサ耳が刺さっていた場所に落下してきて、その衝撃で土煙と風が舞った。
「「「「「キャァァァァァァァァァァァァッ!?」」」」」
私を含めた女子達は片手で髪を押え、もう片方の手で急いでスカートを押えた……けど、私だけ一瞬遅れてしまい、スカートが思いっきり捲れあがってしまった。
幸い、他の皆は目を瞑っていたから見られていなかったけど、その中で一夏だけがこっちを凝視していた。
「きょ……巨大な人参?」
落ちてきたのは、機械的なデザインながらも少しデフォルメされた可愛らしい人参。
その大きさが軽く3~4メートルも無ければ、普通に私も可愛いと思っていただろう。
そんな事よりも、私には気になる事があるし。
「一夏……」
「な…なんでしょうか? 弥生さん……?」
「見た……?」
「何を……?」
「……スカート…の中……」
私が低い声で問いかけると、一夏は一瞬で顔を真っ赤に染め上げて、必死に首を振って否定した。
「み…見てない見てない!! 弥生の可愛い水色の縞パンなんて全く見てな………あ」
こいつ馬鹿だ。自分から白状しやがった。
「「「「き~さ~ま~…!」」」」
「ニ…ニンジャ……!」
四人の顔が瞬時に般若に変わり、同時に一夏をボコボコにし始めた。
「貴方と言う人は!! なんで写真に収めなかったんですの!! この役立たず!!」
「姫様に不埒をする輩はどんな奴でも絶対に許さん!! 教官の弟でも例外では無い!!」
「ウフフフ……♡ やよっちのおパンツを見ちゃった悪い目はこれカナ~? アハハハハ!!」
「これに関しては全面的に俺が悪かったです!! すんませんでした~~~~~!!!」
どうして、この男はこうもラッキースケベをする星の元に生まれついてるんだ……!
めっちゃ恥ずかしくて未だに顔が熱いんですけど!
って言うか、今しれっとセシリアがとんでもない事を言ってなかった!?
「にゃははははは~! 私もバッチリと見てしまったよ! やっちゃんの可愛いパンツ♡」
一夏が皆に『制裁』を受けている横で先程の巨大人参(人工物)が真ん中からパカッと割れて、そこから、この世界における最大最凶最悪の超要注意人物が姿を現した。
「やっほ~! いっくん! 久し振り~! そして……」
彼女―――――篠ノ之束はこっちを向いて無邪気に笑った。
「ずっと会いたかったよ! やっちゃん!」
その時、私の背筋がとてつもない悪寒が走った。
遂に邂逅!弥生と束!
一夏からラッキースケベを取ったら何も残りませんから、どれだけ真っ直ぐに真面目に覚醒しても、この属性だけはずっとついてきます。
これも宿命だと思って、彼には諦めて貰いましょう。
次回、遂に弥生が海に向かう!?
彼女はどんな格好になるのだろうか!?
購入した水着か、それとも……?