なんでこうなるの?   作:とんこつラーメン

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危うく最近始めたグランドオーダーやシンフォギアにハマって更新を忘れそうになった作者です。

最近になってかなり気温が上がってきて大変ですね。

暑い時にこそ熱い食べ物を食べる。

それが私。





天災兎と夏の海

 簡単に今起きた出来事を説明しよう。

 

 青く綺麗な空を眺めながら皆と一緒に花月荘の別館にある更衣室に向かっていたら、いきなり上空から明らかに人工物と思われる巨大な人参が落下して来て、私は一夏に下着を見られて、人参の中から例の天災兎が現れた。

 

 この展開は知っていたけど、だからと言って防ぐことは絶対に不可能だ。

 何故って? それは、私が何の能力も無い凡人であり、相手がこの世界における最高の頭脳の持ち主だからだよ。

 ま、今はそれよりも気になっている事があるんだけどね。

 

(……この人、さっきなんて言った?)

 

 基本的に身内以外の人間を路傍の石ころ程度にしか見ていないこの女が、私の事をよりにもよって『渾名』で呼んだ?

 なんで? どうして?

 私と彼女が会うのは間違いなく今日が初めての筈なんだけど……。

 

「いや~、いっくん。相も変わらずはっちゃけてるね~」

「俺のこの恰好を見て、そんなセリフが吐けるって……そっちこそ相変わらずですね……」

 

 篠ノ之束のいきなりの登場に一夏以外の全員が完全に硬直しているが、女子達の中央で一夏は見事にボコボコになっていた。

 私のパンツを見た代償だと思えば、これも安いもんだろ?

 何事も『等価交換』が大事なんだよ。

 女の子の下着はそれだけの価値があるって事さ。

 いい教訓になったな? 一夏。

 

「でも、今回はやっちゃんに用があるんだよね!」

「やっちゃん……?」

 

 満面の笑みを浮かべながら篠ノ之束が私と真っ直ぐに向き合った。

 その際に自然と目線が合ってしまった。

 

「どうも! 初めまして、板垣弥生ちゃん!」

「は…初めまして……」

 

 なんでこんなにも好意的な反応をするのかは全くの不明だけど、ここで下手に機嫌を損ねる訳にはいかない事もまた事実。

 言葉選び一つとっても慎重に選択しなくては……!

 

「ずっとこうして直接会う日を楽しみにしてたよ~! うん! やっぱり束さん好みの美少女だね!」

 

 これほどまでにグイグイ来るキャラは初めてなので、どう反応していいのか分からない……。

 ウィングゼロでも黒の騎士団のゼロでもマジンガーZEROでもいいから教えて欲しい。

 私はこの状況でどうしたらいい?

 

「あ…あの束さんが弥生の事を渾名で呼んでる……?」

 

 一夏も彼女の異常性を理解しているから、この状況がどれだけおかしいのか分かっているみたい。

 そう思うのならば今すぐにでも止めて欲しいんだけど。

 

「え…えっと……その……」

「お!? こうして直に見ると、想像以上にオッパイが大きい!? これは是非ともこの身で色々と確かめねば!」

 

 こっちが戸惑っているのをいい事に、篠ノ之束はいきなり私に抱き着いてきて、その顔をこっちの胸に埋めると言う暴挙に出た。

 力が強い事もあるが、それ以上に逆らってはいけないと言う思いが強くて身動き一つとることが出来ない。

 

「ん~♡ プニプニでポヨポヨで、とってもいい匂いがするね~♡ あ~…癒される~♡」

 

 人に勝手に抱き着いて癒されないでください。

 こちとら緊張でガッチガチになってるんですから。

 

「プハ~♡ 満足した~♡」

 

 さっき以上の笑顔に顔をテッカテカさせた篠ノ之博士は、周囲を少しキョロキョロとし始めた。

 

「今気が付いたけど、箒ちゃんは一緒じゃないの?」

「今頃!? 箒なら……」

「あ、言わなくても大丈夫。この『ウサ耳型箒ちゃん探知機』を使えば一発だから。それじゃあね! また必ず会いに来るから、元気でね! やっちゃん!」

 

 チュッ! っと私の頬にキスをしてから、自分が乗ってきた巨大人参を両手に抱えてどこかへと去っていった。

 

「あ…あの方は一体……?」

「箒の実の姉……って言えば分かるか?」

「それって、あの人が篠ノ之束博士!?」

「は…始めて見たよ~……」

「あまり人前には姿を現さない人だからな……」

「色んな意味で凄い人物だったな……」

 

 ……あまりにもさりげなかったけど、私……初めて他人にキスされちゃった……。

 ほっぺただけど。

 

「で…でも、その篠ノ之博士がどうして弥生を知っていたの?」

「俺にも全く分からねぇ……」

「どういう事だ?」

「束さんは基本的に俺や千冬姉や箒以外の人間とはまともな会話すらしようとしないんだ。自分の両親にですら冷たい態度を取るのに、どうして弥生にはあんな風に……」

 

 一夏は本気で理解不能らしく、さっきからずっと頭を捻っていた。

 

「ここで考えても仕方があるまい。今はとにかく水着に着替えるのが先決ではないのか?」

「そ…それもそうですわね」

「先に行った箒に置いて行かれちゃうかもだし。急ごうか」

「そ~だね~」

 

 少し呆けながらも皆は揃って更衣室へと改めて向かった。

 天下の篠ノ之束に出会った衝撃が強すぎたのか、誰からもほっぺにキスされた事を指摘されなかった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 弥生を除く面々は一緒に浜辺に向かい、海を見つめながら立っていた。

 

「姫様は遅いな……」

「少し時間が掛かるから先に行っていて欲しいとましたわね……」

「早くやよっちの水着見たいよ~」

「そうだな……」

 

 そう呟く少女達の水着はと言うと、セシリアは自身の専用機の機体色を意識したのか、ブルーのパレオ付きのビキニ。

 ラウラは以前に購入したフリル付きの少し露出が高めのビキニで、シャルロットはセパレートとワンピースの中間のようなデザインの黄色い水着、箒はどこで手に入れたのか、純白のビキニを着ていた。

 因みに本音はデフォルメされたキツネの着ぐるみのような水着(?)を着ている。

 

「本音さん……それ、暑くはありませんの?」

「だいじょ~ぶだよ~。これ、通気性は抜群だし、この下にはちゃんと水着を着てるしね~」

「「「「意味が無い!?」」」」

 

 全員が思わずツッコむほどに本音の姿は明らかに浮きまくっていた。 

 余談だが、一夏はネイビーのトランクスタイプの水着だ。

 

「お待…た…せ……」

「やっと来たか。待ちくたびれ…た……ぞ……」

 

 少し遅れてやって来た弥生の恰好を見て、その場にいた全員が凍りついた。

 何故ならば、弥生がしている姿と言うのが……

 

「「「「「ダイビングスーツ!?」」」」」

 

 あろうことか、プロのダイバーが御用達にしているメーカーのダイビングスーツ一式だったからだ。

 ちゃんと手の部分にはゴム製の手袋が着けられていて、足には既に水かきが履いてあった。

 

(確かにこれなら傷跡を隠したままで海を堪能できるけど、なんか本格的すぎじゃない!?)

 

 事情を知っているシャルロットでさえも、弥生のこの恰好だけは全く予想が出来なかった。

 弥生の手にはちゃんと酸素ボンベなどのダイビングに必要な道具が握られている。

 もう海に潜る気満々である。

 

「よ…よくそんな物を持ってたな……」

「前…に何回…か……おじいちゃん…と一緒…に……海にダイビング…をしに…行った事…がある…か…ら……」

「お…泳ぐのは人並みだと仰っていませんでしたか?」

「泳ぐの…は…ね…。でも……潜る…のは……得意……になった……」

「なった?」

「一番最初……のダイビング…の時……に……プロ……の人…に指導…して貰った……」

「そ…それは凄いですね……」

 

 いつもならば真っ先に弥生を褒めるラウラでさえも、この姿には驚きを隠せないでいた。

 同時に、あの大荷物の正体がなんなのか判明した瞬間でもあった。

 

「あの無駄に大きな荷物の中身はそれだったんだね……」

「おじいちゃん……に頼んで……家…から送って…貰った…」

 

 弥生は最初から臨海学校の備えて予め準備をしていたのだ。

 本来ならば休みたいと思っていたが、それを言えば色々と理由をつけられて強制的に連行される事は自明の理。

 どうせ行くことが確定しているのならば、それを想定した準備をすればいい。

 その答えこそが弥生が今、身に纏っているダイビングスーツだった。

 

「それじゃ…あ……行ってきます……!」

「「「「「い…いってらっしゃい」」」」」

 

 ドヤ顔でサムズアップをして、海へと向かって行く弥生を手を振りながら見送る一夏達であった。

 

「まさか……あのような姿で来るとは夢にも思いませんでしたわ」

「僕もだよ……」

「やよっちの水着……見られなかったね~……」

 

 各々が残念そうにしている中、一夏だけは諦めていなかった。

 

「でも、ダイビングスーツを着ているって事は、勿論、あの中にはちゃんとした水着も着ているって事だよな?」

「「「「!!!!」」」」

 

 完全な盲点。

 下に何も着ずにそのままスーツを着ることは有り得ない。

 ああしてダイビングスーツを着ていると言う事は、それはつまり、中に他の水着を着ていると言う事と同義だった。

 

「やっぱり、中に来ているのはあの時購入した水着なのかな……?」

「その可能性が高いだろうな。姫様は物を大事にするお方だ」

 

 弥生が一体どんな水着を中に来ているのか。

 それは本人のみぞ知る。

 しかし、妄想とは人間だけに許された最高の特権の一つ。

 彼、彼女等はその特権をフル活用して、弥生のダイビングスーツの中を妄想していた。

 

 因みに、この後にセシリアは原作通りに自分の体にサンオイルを塗ろうと思ったが、折角なら弥生が上がってくるのを待って、彼女に塗って貰おうと画策し、そのまま準備だけして弥生の事を待ち続けたと言う。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 海は広いな大きいな~っと。

 バスの中から見た通り、この海の水はかなり透き通っている。

 私についてくるように周りには多数の熱帯魚が一緒に泳いでいる。

 まるでファンタジーの世界に迷い込んだような錯覚さえ覚える光景。

 いや、ある意味では私は立派に架空の世界に迷い込んではいるんだけどね。

 

(皆には悪いけど、今は少し一人で考えたい気分なんだよね……)

 

 本当は考え事をする為にダイバー装備一式を持って来たわけじゃないんだけど、こうなったら利用できる物はなんでも利用したい。

 

 美しい海や魚たちや珊瑚を眺めながら、私はずっとさっきの事を考えていた。

 

(なんで今日初めて会う筈の篠ノ之束が私の事を知って、しかも渾名で呼んできたんだろう……)

 

 さっきも同じ事を考えたけど、今なら冷静になって分析が出来る。

 

(これはあくまで勝手な予想だけど、あの女はずっと何らかの手段でIS学園…と言うよりは、自分のお気に入りの身内である一夏や箒、唯一無二の親友である織斑千冬の事を監視するようにモニタリングしていたんだろう)

 

 クラス対抗戦の時に介入してきた無人機は十中八九、あの女の差し金だろう。

 そして、原作通りに無人機ことゴーレムが箒に攻撃しようとしたのを私が身を挺して防いだから、そこを評価された……?

 

(そう考えれば一応の納得はできる。けど、あの時の箒は別に一夏に対して叫んだりとかはしていなかったし、あの場には私も一緒にいた。彼女の事だから、そこまで想定した可能性は非常に高いけど……)

 

 『会う日を楽しみにしていた』『私に用がある』

 あの時、確かにそう言っていた。

 けど、私には彼女にそれだけ執着される理由が見当たらない。

 

(それとも、私の『知らない過去』に関係しているのか……?)

 

 もしそうだとしたら、それこそお手上げだ。

 だって、知らない事が理由だなんて、こっちにどうしろって言うんだ。

 あ、あのシャコ貝デカッ!?

 

(ハァ……。どっちにしても、『また必ず会いに来る』と宣言した以上、間違いなく有言実行するだろうな。少なくとも、明日には絶対に会う事は確定しているわけだし)

 

 私が知らない所で箒が姉に専用機(紅椿)の事を懇願したのか、それとも、向こうから勝手に渡しに来るのかは分からないけど、それでも、来ることだけは確実と言える。なんせ、福音の事もあるんだから。

 

(馬鹿の考え休むに似たり……か。どれだけ考えても、これからどうすればいいのか分からない。いや、あの相手に理屈で対抗しようとすること自体が間違いなのかもしれない。全てを理論的に考える相手に有効なダメージを与えることが出来るのは、計算すらも出来ない程の天然馬鹿ぐらいか。少なくとも、私の周りには一人もいないタイプだな)

 

 これまで私は原作におけるトラブルに巻き込まれないようにしてきたけど、結局は巻き込まれるような形になった。

 紆余曲折はあったけど、それらのトラブルはなんとか無事に解決する事は出来た。

 けど、今回ばかりはあまりにもトラブルの規模が違いすぎる。

 相手はあの『天災』篠ノ之束。

 頭脳、身体能力の両方において超がつくほどのチートであり、その思考は常人には全く理解出来ない程に明後日の方向にぶっ飛んでいる始末。

 原作知識があるとは言え、彼女の行動の予測なんて出来ようもない。

 

(こうなったら、場の流れに身を任せるしかないのか……)

 

 今はそれしかないかもな……。

 

(ん?)

 

 背中を下にして泳いでいると、海面の方に見覚えのあるシルエットが見えた。

 

(あのツインテールは……鈴か?)

 

 海にいるって事は、原作みたいに足がつって溺れるかもしれない。

 ちょっと上に行って様子を見に行こうか。

 

 私は鈴の方に向かう為、海面に向かって浮上し始めた。

 

 

 

 

 

 




つーことで、弥生は水着じゃなくてダイビングスーツを着ました。

これなら肌も出さずにすむ?

ここからは少しだけオリジナル展開になるかもしれません。

因みに、弥生の水泳技術についてですが、あくまで本人が人並み程度と思っているだけで、実はかなり上手だったりします。
自覚が無いんですね。


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