多分、これも何回かに分けると思います。
海での楽しい(?)時間も終わりを告げ、今は夜の19時30分。
大広間を三つも繋げた大きな大宴会場にて、私達は揃って夕食を楽しんでいた。
そうそう。なんでかこの旅館での食事中は浴衣の着用が義務付けられているみたいで、今は生徒達も教師達も皆揃って浴衣姿にコスチュームチェンジしている。
私の場合は、普通に浴衣を着れば首元や胸元、足や腕の一部が露出してしまうので、首元にはバンダナを巻いて、浴衣は可能な限りギュッと締めて、いつもと同じように手には手袋、足にはニーソックスを特別に着用する事が許された。
この事は女将さんも了承済みで、どうやら、おじいちゃんから既に私の体については教えられていたみたい。
「美味し…い……♡」
「…………」
「おいおい………」
「なんと………」
ん? どうして皆して私に注目する?
早く食べないと、夕食の時間が終わっちゃうよ?
因みに、夕食のメニューは、お刺身と小鍋、それから今朝獲れたての山菜の和え物に赤出汁のお味噌汁とお新香のセット。
お刺身に至っては、なんとカワハギ。
なんでも、このカワハギは漁港から直送で運んできているみたいで、それが美味しくない訳がない。
実際、さっきからずっと私の箸は止まる気配が無い。
「い…いつ見ても、姫の食べっぷりは凄いな……」
「まるで椀子蕎麦を食べてるみたいだ……」
「これでもう何杯目だ……?」
私の右に座っているラウラと、左に座っているロランさんが目を丸くして箸を止めている。
正面には一夏が座っていて、同じように口がポカ~ンと開けっ放しにしている。
他の皆はそれぞれにバラバラの場所に散ってしまって、特にセシリアが悔しそうにしていた。
「おかわり……」
「早っ!?」
「板垣さんの周りに空の御茶碗が山のように重なっていく……」
「まるで、テレビに出てくる大食いの人みたい……」
なんか周りが騒いでいる間に、従業員さんがやって来て私の目の前にあるお茶碗におかわりをついでくれた。
流石にお刺身などはおかわり出来ないが、それでもここのご飯は本当に美味しいから、十分に満足している。
「と…ところで、ラウラ君はここで本当に良かったのかな? 日本人ではない君には正座は辛いのではないか?」
「それならば心配無用だ。ドイツにいた頃から教官から似たような訓練は受けてきたし、姫様と一緒に暮らすようになってからも、正座に少しでも慣れておくようにと、普段の生活から正座を多用してきたからな」
「千冬姉……ドイツで何を教えてきたんだよ……」
IS学園は基本的に多国籍な学校だ。
それは生徒も教師も同じ事で、中には宗教上の理由や正座をする事が辛いと言った生徒だって少なくない。
そう言った人達の事も考慮して、旅館側で特別にテーブル席も用意して貰っている。
最初はセシリアも意地で正座をしていたけど、数分後には限界に達してしまったらしく、箒の勧めで大人しくテーブル席に移動していた。
「おや? なにやら向こうが騒がしいね?」
「どうやら、シャルロットが間違って山葵の小山を丸々口に入れちまったらしい」
「ワサビとは、この緑の香辛料の事だな? よく姫様も様々な料理に使っていた」
ここの山葵はそこら辺に流通している一般的なヤツとは違い、新鮮な生山葵を厨房にて直接摩り下ろしている。
だから、物凄くお刺身と合って超美味しい!
この鼻に来るツーンって感じが最高だよね~♡
「確かにこのワサビの味は独特だが、嫌いじゃないな。日本に来て初めて和食と言う物を口にしたが、個人的にはとても気に入ったよ」
「それ…は…よか…った……」
故郷の味を美味しいと言われると、やっぱり嬉しいよね。
だから、原作第一巻の時の一夏のように、他国の料理を貶めるような発言はしてはいけません。
って言うか、私が許さん。
料理には、国それぞれの良さがある。
皆違って皆いい。
「お前達。ちゃんと静かに食べているか?」
いきなり後ろの襖が開いて、私達と同じ浴衣姿の織斑先生が姿を現した。
なんつーか……色っぽいです。
先生が来た途端に皆が静かになって、彼女に視線を集中させる。
「ん? 板垣……ソレはなんだ?」
「お茶碗……」
「いや、そうじゃなくて……」
「弥生がお代わりをした形跡……だよ」
「そ…そうか。ある程度の予想はしていたが、まさか本当にわんこ蕎麦みたいな状況になっているとは思わなかったぞ……」
まだまだいけますからね~。
この程度じゃ、まだ腹八分目にも満たないし。
「で…では、あまり騒がずに食事をするんだぞ。それと、あまり食べ過ぎないようにな、板垣。主にこの旅館の為に」
「は…い……」
ここはIS学園とは違うからね~。
あまり食べ過ぎたら、ここの経営を圧迫してしまうかもしれない。
今回は大人の広い心で我慢をするべきか。
なら……あと20杯食べたら止めにしよう!
少し顔を引き攣らせながら、織斑先生は食事に戻っていった。
「姫の胃は、もう既にブラックホールと言う言葉すら生温いな……」
何杯食べても全然飽きないな~♡
よし! おかわり!!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
夕食後。
生徒達は思い思いの場所で夜の時間を過ごしていた。
かく言う私はと言うと、旅館内にあるお食事処でさっきの夕飯の続きをしていた。
だって~! あれだけじゃどうも物足りないんだも~ん!
私と同じ部屋であるラウラと本音と箒の三人は、他のメンバーと一緒に温泉に行っている。
最初は私も誘われたけど、まだ食べ足りないから何か食べてくると言ったら、何故か速攻で納得された。
こっちの事情を知っているシャルロットがさり気無く私の事をフォローしてくれたのが大きかった。
彼女にはいつかお礼をしなくては。
で、今の私が何を食べているかと言うと……。
「替え玉……ください……」
「はいよ! 替え玉一丁!」
ラーメンです。
しかも、これは唯のラーメンじゃない。
油が浮くほどにこってりしているように見えて、その実、口に入れたら凄くあっさりとしているとんこつスープ。
いい具合に縮れた麺がスープと絡み合って、いくら食べても飽きが来ない。
シャキシャキのもやしときくらげもいい味を醸し出している。
なにより、食べた途端に淡雪のように溶けて消えてしまうチャーシューが最高です!!
「板垣さん……と言いましたか。何度見ても、貴女の食べっぷりは見事の一言に尽きますね」
「小泉さん……も…気持ち…のいい……食べ方……だね……」
「それほどでも。あ、私も替え玉をください」
このラーメン屋で知り合った、謎の美少女の小泉さん。
金髪に見えて、実は黄色い髪をしている女の子で、どう見ても同い年ぐらいの女子高生に見えるんだけど、どうしてかこの花月荘にいる。
一見するととてもクールに見えるけど、ラーメンを食べている時は本当に美味しそうな顔をしていて、思わず見とれてしまう。
「おい……あそこのポニーテールにしている美少女二人組……」
「さっきからスゲー食ってないか……?」
「あれでもう何杯目だ?」
「分からねぇ……」
なんかまた注目されている気がする。
あ、あれか。小泉さんが可愛くて皆が見惚れてるんだな。
確かに可愛いよね、小泉さん。
「いつか機会があれば、また今回のように板垣さんと一緒にラーメンの食べ歩きをしてみたいですね。後で番号の交換をしてくれませんか?」
「喜ん…で……」
小泉さん程のラーメン通と一緒に行く食べ歩き。
きっと、どこもかしこも名店揃いに違いない。
想像しただけで涎が零れてしまいそうだ。
おっと。もう無くなってしまった。
では、ここでもう一声いきますか。
「「替え玉ください」」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
ぷは~♡ 食った食った~♡
あんなにもラーメンを食べたのは久し振りだよ~♡
特に、最後のラーメンライスが最高だった~♡
やっぱ、締めは絶対にラーメンライス一択だよね!
とき卵をかけて少し煮込んで食べると猶よし!
しかも、小泉さんと言う『食友』まで手に入れて、私は大満足なのです♡
「ん? 板垣か?」
いい気分で部屋に帰ろうとしていると、廊下でばったりと織斑先生と出会った。
でも、今の私はとてもいい気分なので、この人に対しても何にも思わないのデ~ス!
「……何か食べてきたのか?」
「向こう…のお店……でラーメン…を食べてきま…した……」
「そ…そうか……。(その店、潰れたりしないだろうな……)」
おや~? もしかして、先生もラーメンを食べたいのかにゃ~?
そう言えば、この人ってかなりの酒豪だって一夏が言っていたっけ。
お酒とラーメンの愛称(相性?)もまたいいんだよね~!
サラリーマンの人とかは、よく酒の締めとしてラーメンを食べる人もいるって聞くし。
「温泉には……まだ入れないか」
「はい……」
温泉となれば必然的に大勢で入る事になる。
そうなれば嫌でもこの体の傷跡を晒す事になってしまう。
可能な限り、それだけは避けたいと思っているから、私は温泉に入りたくても入れないのだ。
ちょっぴり残念ではあるけど、こればかりは仕方が無いと諦めている。
「ふむ……。ならば、もう少ししてから入ればいい」
「え?」
もう少ししてから……とな?
「入浴時間が終了する少し前ならば、誰も入ろうとはしないだろう。念の為に私から女将さんにも伝えておこう」
おぉ~! これは実に嬉しいサプライズ!
偶には先生らしいこともするんですね。
「何か言ったか?」
「なに…も……」
出ました。お得意の読心術。
ほんと、この人って間違いなく超人の類だよね……。
「今はまだ他の連中が入っているんだったな……」
顎の手を当てて何かを思案する先生。
何を考えているかは知らないけど、今の私ならば大抵の事は許せる自信がありますよ~。
「板垣……いや、弥生。今から時間はあるか?」
「別…に大丈夫……です…けど……」
「そうか。ならば、私の部屋まで一緒に来てくれないか?」
「はい……?」
織斑先生の部屋まで一緒に……?
一体何をする気なんだ? 全く目的が分からない。
でも、ここで断る理由も無いし、この人が何を企んだのか興味もある。
ここはひとつ、行ってみるもの一興か。
「いいで…すよ……」
「そうか! ならば、早速行くとしよう!」
「わ……」
いきなり私の手を掴んで、嬉しそうに歩き出す先生。
ラウラとおじいちゃん以外の人と手を繋いで歩くなんて、初めての経験だな……。
でも、なんでだろう……
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
確かに私は言ったよ?
今ならば大抵の事は許せる自信があるって。
うん……まぁ……別に嫌じゃないよ? 嫌じゃないけど……。
(どうしてこうなった……)
現在の居場所は旅館内に与えられた織斑先生(と一夏)の部屋。
一夏の姿は無くて、どこかに行っているみたい。
で、重要なのはここからで……
「どうした?」
部屋の中で正座をしている私の膝の上で、織斑先生がまるで生娘のような顔をして頭を乗せている。
先程、織斑先生が私に頼んできた事とは、なんと、耳掃除をしてほしいと言う事だった。
私に耳かきなんてされて何が嬉しいのか分からないが、折角の担任様からの頼みだ。
なんかかんだ言っても、私だってこの人に世話になっているのもまた事実。
この機に少しでも恩を返しておくものいいかもしれない。
「ジッとして…てくださ…いね……?」
「分かっているよ」
そっと織斑先生の頭に手を当てて、右手に耳かき棒を持ってから彼女の耳の中を覗きこむ。
勿論、傍にティッシュを一枚敷いておくことも忘れてはいけない。
(思ったよりもきれいにしてるじゃないか)
耳垢は殆どと言っていい程に無い。
でも、よ~く観察したら、細かな耳垢が見て取れる。
「で…は……いきま…す…よ……」
「あぁ」
静かに耳の中に耳かき棒を入れていって、表面をなぞるように棒を動かしていく。
「おぉ……」
「痛かっ…た…です…か……?」
「い…いや。そんな事は無いぞ。少しくすぐったかっただけだ」
成る程。もう少し気を付けて動く事にするか。
(これは……聞いていた以上に気持ちがいい!! 一夏の奴め……! こんな気持ちのいい事を弥生にして貰ったのか……!)
先生の髪ってサラサラしてるな~…。
この肌触りは、同じ女としても羨ましいと思ってしまう。
(あ。少し奥の方に大きな取り残しと思われる垢があった。ちゃんと取れるかな……)
角度を考えながら、そ~っと奥の方まで棒を侵入させていく。
「んん……♡」
……なんか、艶めかしい声が聞こえた気がするけど、気のせいだよね?
決して喘ぎ声とかじゃないよね?
「そこ……いいぞぉ……♡」
変な声を出さないでよ! 集中できないじゃんか!
こっちも気恥ずかしくなってくるし……。
「弥生は上手だな……。本当に気持ちがいいぞ……」
「そうで…すか……?」
もう少しで取れる…………取れた! 後はこのまま外まで持ってこれれば……。
「……弥生には色々と感謝しているんだ」
「………?」
い…いきなりどうした?
「一夏に勉強を教えてくれたお蔭で、アイツもなんとか授業に追いついてこられるようになった」
最初の切っ掛けはアレだったけどね~。
まぁ、流石の私も、クラスメイトから落第生を出したくは無かったしね。
それが例え、あまりいいイメージを持ってない原作主人公でも。
「それに加え、お前は箒達の事を命懸けで守ってくれた」
あの時は、ああするしか選択肢が無かったしね。
じゃなきゃ、私の命も危なかったし。
「更には、弥生はラウラの事をいい意味で変えてくれた。無責任と思われるかもしれないが、私には出来なかった事をしてくれたお前に、私はとても感謝している」
ラウラに関しては、私が好きでやってるだけだし。
今では寧ろ、進んでやっている感が大きいしね。
「あのラウラがあそこまで弥生に懐くとは思わなかった……ありがとう」
「どうい…たしま…して……?」
お? やっと取れましたよ。
では、この戦利品をティッシュの上に置いて……っと。
「反対……を向いてくださ…い……」
「よし」
おや? 反対側を向く際に、なにやら織斑先生の顔が愉悦していたような気が……。
(どうやら、アイツ等が来ているみたいだな。今はこのままにして反応を窺ってやるか……)
……気にしてもしょうがないか。
今は先生の耳かきに集中しよう。
おや。こっちも綺麗にしてるじゃないのさ。
これなら、さっきと同じ要領でなんとかなるかな。
さて、それじゃあ始めますか。
まさかの小泉さんと、千冬の耳かき。
いずれは全員分の耳かきをするつもりだったので、これはいいタイミングだと思いました。
さて、次回は別視点からのスタートになります。
弥生が千冬を耳かきしている間に、他のヒロインズは……?