完全なオリジナル回になるので、どうかご了承を。
織斑先生(と一夏)の部屋で耳かきをして、他の皆と入れ替わるようにして部屋を出てきた私は、先生に言われた通りに温泉に向かう為の準備をする為に、自分の部屋で入浴の準備をして、その足で温泉のある場所まで歩いていた。
(ここの温泉ってどんな場所なんだろうな~? こんな事なら、おじいちゃんに予め色々と聞いておけばよかった)
事前情報は本当に大事だ。
特に、今回のような旅行ような事になる時は特に。
柄にもなく心の中で浮かれながら歩いて行くと、『温泉入口』と書かれた入口っぽい場所に着いた。
その前には待ってましたと言わんばかりに、女将さんがニコニコ笑顔で待っていてくれた。
「待ってたわよ、弥生ちゃん」
「女将…さん……」
「あら。女将さんなんて他人行儀な呼び方じゃなくて、私の事は別に名前で呼んでくれてもいいのよ? 彼の義娘さんなんですもの」
「はぁ……」
そう言われても、今日初めて会った大人の女性をいきなり名前で呼ぶような度胸は私には無い。
織斑先生だって、未だ嘗て名前で呼んだことが無いのに。
なんでか向こうはプライベートだと私の事を普通に名前で呼んでくるけど。
「次の機会があれば、その時は是非ともおじいちゃんと一緒に来てくれると嬉しいわ」
「おじいちゃん……に伝え…ておきま…す……」
この様子から察するに、おじいちゃんや皆はこの花月荘の常連さんと見た。
もしかしたら、ここでよく『会合』とかもしているのかも。
「って、ここで長話をしていたら入浴時間が終わっちゃうわね。ささ、誰も来ない内に入るといいわ。貴女の体の事は予めおじいさんや先生方から聞かされていたから」
「ありが…とう…ござい…ます…」
こう言った配慮が行き届いている所が、この旅館が人気ある所以なのかもしれない。
女将さん、もとい景子さんに軽くお辞儀をしながら、私は暖簾をくぐって温泉の待つ空間へと足を踏み入れていった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
カポ~ン。
そんな音が実際に聞こえてきそうな石造りの温泉が、そこにはあった。
(ある程度は想像していたけど、まさか本当に露天風呂だったとは……)
これでも、それなりに色々な温泉には入ってきた私だけど、実は何気に露天風呂は初めてだったりする。
だって……なんか恥ずかしいじゃん……。
そんな私の恰好は、真っ白なバスタオルを胸まで体に巻いて、頭には髪を纏めたタオルを同じように巻いてある。
勿論、普段から傷を隠すために使用している包帯や腕袋などは全て取り外している。
つまり、バスタオルを除けば、今の私は文字通りの一糸纏わぬ姿なのだ。
どうだ? 世の男共よ。私の裸体でも想像して興奮でもしたか?
……そんな奴がいたら、間違いなくリョナ属性の持ち主だろうよ。
自分でも、この体がお世辞にも色気ある体であるとは言い難いのは誰よりもよく知っている。
(いやいや。こんな下らない事を考えている暇があったら、さっさとお湯に浸かるとしよう)
ここには私しかいないんだ。何を恥ずかしがる必要がある。
と言う訳で、バスタオルを取ってから、体を洗い、その後に頭のタオルも外してから髪も洗った。
私の髪はかなり長い方なので、全て洗い終わるまで結構な時間が掛かる。
多分、この辺りは同じように髪が長い箒達も同様だと思う。
慣れればそうでもないんだけどね。
「ふぅ……」
頭と体を全て洗い終わり、またタオルで髪を纏めてから、ようやく念願の温泉に入浴。
私はこの時を……この瞬間を待っていたんだ!
「はふぅ~…♡」
足からゆっくりとお湯に入っていき、段々と体を浸していく。
肩まで体を浸からせると、全身の力を全て抜いた。
(これは……別に死んでないのに『生き返るぅ~♡』って言いたくなる気持ちがよく分かる……)
転生者である私は、ある意味では生き返っているから、この言葉は言っても問題無いかもしれないけど。
パシャっと体にお湯を掛けて、ふと、頭上に広がる夜空を見上げる。
「綺麗……だな……」
この辺は民家などが非常に少ないから、都会よりもよく星が見える。
よく星空の事を『カーテン』と描写する人がいるけど、これは本当に光り輝く星空のカーテンと言っても差し支えないレベルの美しさだ。
星座とかはあまり詳しくは無いけど、これを機に少しだけ勉強してみようかな……。
ブクブクブク……。
「???」
な…なんだ? 急に私の背後から泡が吹き出たような……?
い…言っておくけど、私はお風呂場でお湯に浸かりながら屁を出すようなお下品な女の子じゃありませんからね!
そんな真似をするのは一夏だけで十分でしょ!
(別に俺も風呂場で屁なんて出さねぇよっ!?)
どこかで一夏の空しいツッコみが聞こえてきた気がしたけど、気のせいに違いない。
(にしても、本当になんなんだろう……?)
まさか、私の前に誰かが密かに入って来てた?
いやいや……それは無いわ。
だって、入り口の前には景子さんがいたんだし。
入ろうとすれば、確実に彼女に見つかってしまうだろう。
少し警戒しながら周囲を見ていると、いきなりお湯の中から何かが飛び出してきた!
「や~~~~っちゃん♡」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
後ろから誰かに胸を揉まれたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?
つーか、今の声ってまさか!?
「あ~……やっちゃんの生オッパイをこうして直揉み出来るなんて、頑張って温泉の中で潜水していた甲斐があったよ~♡」
やっぱり篠ノ之束か!!
なんでこいつがここにいるんだ!? って言うか、今確かに『潜水』って言ったか!?
まさか、今までずっとお湯の中に潜んでいたのか!? 冗談だろっ!?
「いい匂~い♡ 体も柔らか~い♡ 髪もサラサラだよ~♡」
「ちょ……! 離れ…て……! 胸…放し…て……!」
なんとか彼女の拘束から逃れようともがくが、文字通りビクともしない。
力技でこいつから逃げる事は不可能か……!
(つーか、これだけ騒いでいるのに、どうして誰も来ないの!? 景子さんがそこにいる筈でしょ!?)
「あ。あの女将さんなら仕事があるからって、すぐにどっかに行ったよ」
マジですかっ!?
こっちの心を読んだかのように発言しないでくれますっ!?
織斑先生と言い、この女と言い……私の周りの大人の女性(一部だけ)はどうして、どいつもこいつも読心術の使い手なんだ!
「あれ~? やっちゃん……もしかして『先っぽ』が勃ってる?」
「!!?」
まだまだ青春真っ盛りの女子高生に向かって、なんつー事を言うんだこいつは!!
この……淫乱変態天災兎め!!
「本当はもうちょっとだけ、やっちゃんの魅惑のボディーを堪能したかったけど、やっちゃんの折角の温泉タイムを邪魔しちゃ悪いし、今はこれぐらいにしておこうか」
今っ!? 今はって言ったかっ!?
って事は、次回もあるって事なのか!?
宣言通りに私から少しだけ離れてからお湯に浸かりだした篠ノ之束だが、その顔は凄くほくほくしていた。
その理由は……聞きたくないからスルーで。
「うぅぅ……」
胸……揉まれた……。
一夏の時みたいに服越しじゃなくて、直に揉まれた……。
いくら同性とは言え、割とショックがデカい……。
しかも、思いっきり体の傷も見られたし……。
「一応言っておくけど、やっちゃんの体の傷なら、最初から知ってたよ~?」
うそ~んっ!? なんでっ!?
「天災科学者の束さんは~、なんでも知っているんだよ~?」
「知って…いる……ことだけ……じゃなく…て……?」
「そのと~り。どこぞの怪異が出てくるロングセラーの人気アニメみたいに、知っている事だけ知っているって訳じゃなくて、本当に
なんでも……か。
不思議と意味深に聞こえるけど、気にしたら負けだよな……。
「もしかして、私にオッパイを揉まれた事がショックだったり?」
「当然…で…す……!」
あんな風に胸を揉まれて喜ぶのは、媚薬漬けにされたAV女優だけだっつーの!
「じゃあ、お返しに私のオッパイも揉む?」
「結構です!!」
なんでそうなるっ!?
普通に謝って、二度しないって誓えばいいだけだろうが!!
「オッパイ揉み揉みされて、顔を真っ赤にして……本当にやっちゃんは可愛いな~♡」
ニヤニヤしながら、また私に抱き着くな~!
美人のアンタに言われても、皮肉にしか聞こえないんだよ!
「あの……」
「ん~? どうしたのかにゃ~?」
「なん…で…ここ…に……?」
「それは勿論、やっちゃんと一緒に温泉に入りたかったからだよ!」
本当にそれだけが目的だったのっ!?
「どうや…って……入って…きて……?」
「普通に上から来たけど?」
上って……空ぁっ!? 空から来たって言うのかっ!?
「ははは~! 空締りはしっかりとしないとね~」
空締りなんて言葉、初めて聞いたわ!
「にしても、本当にやっちゃんにこうして抱き着いていると、
……それは私も感じていた疑問だ。
何故かは知らないけど、篠ノ之束に抱き着かれて驚きはしたけど、嫌悪感は全く感じたりはしない。
寧ろ、安堵感すら感じてしまうほど。
それは織斑先生も同様で、手を繋いで貰ったり、さっきみたいに耳かきをしている時も、不思議と安らかな気持ちに包まれていた。
これは一夏と箒にも言える事で、最初は恐怖感などしか感じていなかった二人も、今では普通に接している。
それは他の皆も同じなんだけど、この二人だけは例外だった。
だって、一夏に勉強を教えている時は別に嫌な感じはしなかったし、無人機の時に至っては、絶対に箒の事を守らないといけないと言う謎の使命感に駆られた。
原作を知っている自分ならば、あそこで自分が行動しなくても、最終的にはどうにかなる事は知っている筈だったのに。
「そうだ。私の事は『束さん』って、名前で呼んでくれると嬉しいな~?」
「え…っと……」
「嬉しいな~?」
「あ…ぅ……」
「う・れ・し・い・な~?」
これは……言わないと離して貰えない流れだ……。
「…………束…さん……」
「なぁに~? ふふふ……♡」
今……分かった。
私はこの人には絶対に勝てない……。
この女と『親友』でいられる織斑先生をマジで尊敬するわ……。
「ねぇ……やっちゃん?」
きゅ…急にどうした? いきなり声のトーンが変わって、シリアスな空気になったんですけど……。
「やっちゃんはさ……ISは好き?」
ISは好き……か。
いきなり、そんな事を言われてもな……返答に困るって言うか……。
「嫌い……じゃない……です……」
「嫌いじゃない?」
そこでオウム返ししますか。
よござんしょ。ここは一つ、私の持論を言いますか。
「IS…は人類…に可能性……を示した…と思いま…すか…ら……」
「可能性?」
「人類…が遠い昔……から…夢見た……『空を飛ぶ』……こと…を実現させた…から……。空…を飛ぶ事…が出来る…の……なら……いつの日…か……もっと凄い…こと……も出来る…かもしれな…い……」
ISはその名の通り、人類と言う種に『無限の成層圏』に行ける可能性を示してみせた。
それでも、『人類には過ぎた代物』とか『オーバーテクノロジー』とか言われると何も反論出来ないけど、私的にはそれがどうしたって思う。
いつの世も、当時では考えられないような革新的な発明や理論や発見は数多く出てきた。
エジソン然り、ダ・ヴィンチ然り、ガリレイ然り、ニュートン然り。
某戦士な機動でZのラスボスが言っていたセリフに『いつの世も世の中を動かしてきたのは一握りの天才だ』と言うものがある。
少し語弊があるけど、これはある意味では正しいと思う。
世の中を動かすと言うよりは、人類を一段階次のステージに上げたって言った方が正しいけど。
今回は、それがたまたま目の前にいる『篠ノ之束』だったに過ぎない。
要はそれだけの話でしょ?
かと言って、彼女の精神構造までは流石に全肯定は出来ないけど。
それはそれ、これはこれだ。
「だから……私…は……IS……を発明…した貴女……を科学者…として…尊敬…して…ます……」
人としては全く尊敬の欠片も無いけどね。
あくまで『科学者』としてだからね!『科学者』として! そこ重要だからね!
勘違いとかしないでよね!
……いつから私はツンデレキャラになったんだ?
「やっちゃん……」
うぉっ!? 束さんが急に目尻に涙を溜めだしたんですけど!?
あ…あれ? 私なにか拙い事でも言った!?
「信じてた……やっちゃんなら、きっとISを……私を肯定してくれるって……」
あまり力は入っていないが、束さんが先程よりも深く私の事を抱きしめた。
「やっちゃん……私……」
そっと私の顔を両手で包み込み、そして……
「ん……」
いきなり、束さんにキスされた。口に。
「んちゅ……」
一切の遠慮も無く舌まで入れてきて、私の口内を蹂躙する。
なすすべなく、されるがままにされている。
けど、ここまでされていると言うのに、篠ノ之束と言う人間の事を嫌いになれない自分がここにいる。
「やっちゃんに出会えて……やっちゃんを見つけることが出来て……本当に良かった……」
「束……さん……?」
「この世界に生まれてきてくれて…………ありがとう……」
この人は……何を言って……?
「これで人類は……救われる……」
不思議な空気に包まれて、キスされた衝撃なんかがどうでもよくなるぐらいに、束さんの言葉が脳裏に鳴り響いた。
それから少ししてから、束さんは入ってきた時と同じテンションに戻って、私が上がる前に何処からか取り出したバスタオルを体に巻いてから、まるで特撮ヒーローのように飛び跳ねて夜空の向こうに去っていった。
明日もまた出会うと分かっていても、私はこの時の不思議な出会いをこれから先も忘れる事は無いだろう。
束さんの言った言葉の意味が理解出来る時、初めて私の…『板垣弥生と言う少女の体に刻まれた記憶』が初めて明らかになるのかもしれない。
不思議と……そう思った。
温泉回と言いながらも、前半と後半の空気が違いすぎますね……。
本当はもうちょっとギャグテイストにするつもりだったんですけど、何故か途中からシリアス風味に。
しれっと弥生のファーストキスが奪われましたが、それが薄くなる程に束が爆弾発言を最後に残していきました。
この特大のフラグを回収するのはいつになるでしょうね?