原作ではここで箒が紅椿を束から受領しますが、今回はそれだけじゃありません。
ちゃんと、主人公らしく弥生にもパワーアップアイテム(?)を用意しています。
それと、今回また幕張からとあるキャラが登場する予定です。
臨海学校二日目。
今日はほぼ一日中を使ってISの各種装備試験運用とデータ取りを行う事に。
特に、自国から多数の装備などが送られてきている専用機持ちの皆はかなり大変だろう。
まぁ、昨日あれだけ遊んだんだし、これぐらいはしないとね?
他の生徒達はそれぞれに早朝から皆で運び込んだ訓練機の前に待機をしていて、それとは別に専用機を所持している面々は別の場所に集まっている。
意外な事に、この専用機持ちの集団の中に箒の姿は無く、彼女は他の生徒達に交じって訓練機の前にいる。
(やっぱり、箒は束さんに紅椿の事をお願いしてないのか……? でも、昨日ここにいたのは紛れもない事実だし……。だとしたら、向こうが勝手に持って来た……?)
一応、箒が専用機を持つ大義名分なら存在はしているが、彼女がそれを普通に利用するような殊勝な性格をしているだろうか?
否、それは無いと断言できる。
それは、昨日散々と彼女につき合わされた結果、この身を持って思い知った。
「…………ん?」
なにやら、妙な視線を感じるような……。
「う…美しい……」
視線の正体はロランさんでした。
この人も代表候補生である以上は専用機を所持していて、当然のように私達の中に混ざっている。
何気に彼女のISスーツ姿を見るのって初めてな気がするが、別に気にする程の事でもないでのスルーしよう。
と言うか、下手に絡んだら絶対に碌な事にならないのは目に見えているので、何もしたくないと言うのが本当の気持ち。
しかし……出るとこは出ていて、引っ込んでいる場所はちゃんと引っ込んでるよな……って、なんでこの人、鼻にティッシュを丸めて突っ込んでるんだ?
「あぁ……これかい? 別に、姫のISスーツ姿が余りにもセクシーで興奮のあまり鼻血を出してしまったとか、そんな事は無いから安心したまえ」
モロに答えを言ってるじゃねぇか……。
「さて、これで全員が揃ったな」
私達の前にいる織斑先生が私達全員を見渡し、満足そうに頷く。
昨日の夜とは違い、完全にお仕事モードになっています。
その隣には、山田先生がいつものように並んでいる。
「なにやらボーデヴィッヒが眠たそうにしているが、昨日はよく眠れなかったのか?」
「いや、そうではないようです」
比較的距離が近い場所にいた箒がこっちを見ながら言ってきた。
「逆に熟睡しすぎて、朝上手く起きれなかったみたいです」
「それでよく起きれたな……」
「姫様に起こして貰いまし…ふぁぁぁ……」
本当に、今朝は危なかったよ~。
でも、この私の目が黒いうちは、同室の子から遅刻者なんて絶対に出したりはさせませんよ?
原作と同じようにラウラを遅刻させなかった功績で、私は少しだけご機嫌なのです。
「近くで初めて弥生とラウラの朝支度を見させてもらったが……」
「本当の親子みたいだったよね~♡」
それは仕方が無いじゃない。
ちゃんと布団から起こしてから、寝ぼけたラウラの髪を整えて、歯を磨かせて、服を着させて、今日はいつにも増して大忙しだったよ……。
「……話には聞いてはいたが、本当にお前も苦労してるんだな……」
「恐縮……です……」
これぐらい、もうどうって事無いけどね。
完全に慣れちゃったし。
「寝慣れない布団故に遅刻しそうになったのは分かったが、二度目は無いと思え。あまり板垣に手間を掛けさせるなよ?」
「了解でありまぁぁぁぁ……」
言い終わる直前にまた欠伸が出ちゃった。
さっきから欠伸ばっかしてないか?
「では、これより各班ごとに予め振り分けられた機体の装備試験を行って貰う。お前達、専用機持ちは各種専用パーツのテストだ。それでは、素早く的確にするように」
先生の言葉が終わると同時に皆が一斉に返事をし、一斉に作業に取り掛かった。
「あれ? 俺はどうしたらいいんだ?」
「織斑の白式には元々から他の機体のような換装パッケージは存在しない。だから、お前は他の連中の作業の手伝いをし、少しでも多くの知識を吸収しろ」
「分かりました」
成る程、そう言う手で来たか。
何もする事が無い一夏を助手にして、彼に勉強の機会を作ってあげた訳ね。
私的にも、そのアイデアはとてもいいと思う。
ISを動かすだけが全てじゃないからね。ちゃんと整備をしなきゃ、ISもパイロットも十全に実力を発揮できない。
「弥生は何か届けられているの?」
「フレームと言う特性上、換装パッケージだけならリヴァイヴと打鉄の両方を利用出来そうですけど……」
むふふ~。他の皆と同様に、ちゃんと私のアーキテクトにも色々なパーツが届けられているのですよ。
「色々……と届い…てる……」
「へぇ。ちょっと興味があるわね」
そんなに大したものでもないと思うんだけどね。
にしても、この海に面したロケーションにISスーツって、見た目的には昨日と大して違いはないよな。
ただ、ISがあるかどうかの違いだ。
「んん?」
「どうした、ボーデヴィッヒ」
「まだ寝ぼけているのでしょうか……なにやら、向こうから土煙と共に何かがこっちに向かって来ているような気が……」
「なに?」
ラウラが指差す方を全員が注目すると、そこには確かに土煙を上げながら何者かが私達のいる場所に向かって全力疾走をしているように見えた。
(来たか……)
それにしても、なんでこの足場最悪の場所で全力疾走なんて出来るんだ?
下手したら足を挫いて捻挫をとかしちゃうぞ?
「ち~~~~~~~~ちゃ~~~~~~~~~ん!!!!」
案の定、織斑先生の事を大声で叫びながらやって来たのは、昨日も姿を現した稀代の天才科学者である篠ノ之束その人。
「やっちゃ~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!!!」
って、なんでそこで私の名前も叫ぶっ!?
恥ずかしいから止めてっ!?
「た…束っ!? なぜ貴様がここにっ!?」
どうやら、織斑先生も何も聞かされていなかったみたい。
だって、この人マジで驚いてるよ?
「とうちゃ~~~~~~くっ!!!」
キキ―――――ッ!!と、これまた全力のブレーキで私達の目の前に停止してから、こちらに向かっての全力スマイル。
「久し振りだね、ちーちゃん! さぁ! 今こそ再会のハグを「黙れ」ブニャ~~~~~~~っ!?」
言葉を最後まで紡ぐ事をさせず、有無を言わさずのアイアンクロー。
ここまでギリギリと言う擬音が聞こえてきそうです……。
「ね……姉さん……?」
箒も尋常じゃない驚きようを見せている。
やっぱり、何にも連絡とかしていなかったんだ。
「ちーちゃん……ギブギブ。このままじゃ本当に束さん、頭蓋骨骨折しちゃう……」
「別に死ななきゃ大丈夫だろう」
「なんと言う暴論!?」
すげー……織斑先生スゲー……。
この天災と付き合うには、これぐらいの豪胆さがないとダメなのか……覚えておこう。
もがいた末になんとかアイアンクローから解放された束さんは、数回ほど頭を振ってから、箒の方を見てこちらに手招きをした。
「箒ちゃん、こっちこっち!」
「……………」
無言でこっちに来る箒だったが、その顔はお世辞にも姉に再会できて喜んでいるようには見えなかった。
「やっ! 箒ちゃんとも久し振りだね! 元気だった?」
「おかげさまで……」
姉妹間でテンションが違いすぎる……。
この差は余りにも激しいな……。
「それと……」
ギクリ。
彼女がこっちを見た途端、猛烈に嫌な予感がした。
「昨日振りだね! やっちゃん!」
「「なぁっ!?」」
昨日の事を知らない箒と織斑先生が、目が飛び出しそうな勢いで驚いた。
「ね…姉さんが弥生の事を渾名で呼んでいる……?」
「しかも……昨日振りとは何の事だ……?」
「そんなの決まってるじゃん。私とやっちゃんは、昨日沢山イチャイチャしたんだも~ん♡ ね~? やっちゃん?」
「私……に振らない…で…くださ…い……」
その笑顔が眩しくて、別の意味で直視できません……。
「イ…イチャイチャ……?」
「あれ……? 昨日は午前に更衣室に行く途中であっただけじゃ……」
そうだよね! それだけだよね! 何も余計な事を言うなよ!? 絶対だぞ!?
「姉さん……」
「何かな箒ちゃ……いたたたたたたたたたたたたっ!? やめてっ!? そこら辺に落ちていた巻貝の先端で束さんのプニプニほっぺをグリグリするのはやめてっ!?」
い…痛そ~……。
今にも頬を貫通しそうなんですけど……。
「弥生が困っているじゃないですか。少し離れてください」
「で…でもぉ~……」
「幾ら姉さんでも、弥生を困らせるのだけは絶対に許しませんよ…! もしも、これ以上弥生を困らせると言うのであれば、この場で姉妹の縁を切ります」
「それだけは勘弁してください」
速攻で謝った。
流石の我儘姫でも、妹と親友には勝てないようだ。
「束さん……」
「あっ! いっく~ん! ちーちゃんと箒ちゃんが私をいじめるよ~!」
「弥生とイチャイチャってどういう事ですか……?」
い…一夏の目にハイライトが無いんですけど~っ!?
なんか殺意の波動に目覚めとりますがな~っ!?
「そうだ……雪片の試し切りついでに束さんの髪を切ってあげますよ……。スキンヘッドとモヒカン、どっちがいいですか?」
「ある意味で究極の二択っ!?」
束さんがここに来ただけで一気に場がカオスになった……。
どんだけ破天荒なんだよ、この人は……。
「よし、私が許可する。思いっきりやれ」
「了解」
「私に味方はいないのっ!?」
寧ろ、いると思っていたのか?
「やっちゃ~んっ! やっぱり、束さんの事を一番分かってくれるのはやっちゃんだけだよ~!」
「「「「「「「「「「あ~~~~~~~~~~っ!?」」」」」」」」」」
どさくさに紛れて私に抱き着くな~~っ!!
しかも、しれっとお尻に手が当たってるんだよ!!
「束…さん……。なにか…用事…があって……来た…んじゃない…んです…か……?」
「おっと、そうだった。やっちゃんが余りにも可愛くて、ついつい燥いじゃったよ」
ついってなんだ、ついって。
「弥生の言う通りだ。束、一体何をしにここに来た。ここは基本的に関係者以外立ち入り禁止だぞ」
「いや、私はある意味で滅茶苦茶関係者じゃない?」
「それもそうだな……」
そこで納得しちゃうんですか?
いやまぁ……別に間違っちゃいないけど。
「い…いいんですか?」
「ここまで来てしまった以上は仕方があるまい。昔から、こいつの行動を止められる者はいない。私でさえもな」
「はぁ……」
山田先生が凄く困った顔をしてる。本当にご愁傷様です。
「実はね、今回は箒ちゃんにプレゼントを持って来たんだよ」
「プレゼント?」
当人は小首を傾げているが、私にはその『プレゼント』の内容は分かっている。
この世界において、これ以上にド派手な誕生日プレゼントも無いだろう。
「それは~……箒ちゃんの専用機で~す!!」
その瞬間、場の時が止まった。比喩でなく。
「「「「「「「「「「えっ~~~~~~~~~!?」」」」」」」」」」
今度は専用機持ちの皆だけじゃなくて、この場にいる全員が驚いた。
私も一応、顔だけは驚いた振りをした。
「そ…そんな事、なにも聞いてませんよっ!? それに、私の実力じゃ専用機なんて……」
あの箒が謙虚な考えになってる。
この子もこの子で成長している……のかな?
「ま、箒ちゃんがそう言うのは分かってたんだけどね」
あら意外。こちらもまた普通の反応。
「でも、箒ちゃんには専用機が必須である理由が存在している。それはなんでしょうか? はい、やっちゃん」
「え……?」
わ…私? 答えろと? うわ……なんか全員の視線がこっちに集中してるし……。
う~ん……箒が専用機を必要とする理由? 別にこの箒は力に溺れているわけじゃないから、その答えは論外として……。
いや、ここは私の原作知識を活かす時では?
まず、箒は言わずと知れた篠ノ之束の妹である。
束さんはISを開発した張本人で、世界的な超重要人物であると同時に、全世界指名手配をされている人でもある。と言う事は、つまり……
「あ………」
そっか……そーゆーことか……。
「分かった?」
「はい……」
「んじゃ、答え合わせ」
多分、この答えであっている筈……!
「箒……に専用機…が必要……な理由……それ…は……」
「それは?」
「自衛の為……です…ね……?」
「自衛……?」
「うん……。束さん……の頭脳……を自分達…の物……にする為…に……その妹……である箒…が狙われる…可能…性……があるか…ら……」
実際、箒やその家族を護る為に彼女はこれまで各地を転々としてきたと聞いている。
確か……政府のなんちゃらプログラム……だったっけ? よく覚えてないや。
「そんな事が……「無い……とは言い切れんな」千冬姉……?」
一夏が何かを言おうとしたら、織斑先生がそれを遮った。
「私としたことが、その可能性を全く考慮していなかった……」
「そうですね……。IS学園にいれば安全かも知れませんが、一度外に出れば……」
そこには危険が一杯だ。
ISは指定された場所以外で展開してはいけないと言う規則があるが、それでも、専用機を所持しているだけでも充分に抑止力にはなりえる。
決して問題が無いわけじゃないけど。
「言いたい事は理解した。学園の上層部には私から後で報告をしておく。で、その専用機はちゃんと持ってきているんだろうな?」
「勿論! 早速お披露目をして「いやぁ~…相変わらず、弥生ちゃんは頭がいいなぁ~」……はい?」
今度は束さんの言葉が誰かによって遮られた。
でも、今回聞こえてきた声はこの場にいない人の声だ。
だって、明らかに男性の声だったし。
ついでに言えば、私はこの声に聴き覚えがある。
さっき束さんがやって来た方向から、一人の男性が歩いてきた。
一言で言えば『髭眼鏡』なその人は、私がよく知っている男性だった。
「数か月振りだね、弥生ちゃん」
「鬼瓶……さん……?」
その人物の名は『鬼瓶久吉』
おじいちゃんの古くからの知り合いであり、私もよくお世話になった……催眠術師だ。
紅椿のお披露目は次回になりました。
お楽しみは後に取っておくって事で。
そんでもって、幕張の魔術師こと鬼瓶久吉の登場!!
勿論、『おじいちゃん』を通じて弥生とも知り合っていて、催眠術も使えます。
私的なイメージCVは焼け野原でお馴染みの『藤原啓治』さんです。