この話でやっと『おじいちゃん最強説』のタグが仕事をします。
その意味はご自身の目でお確かめください。
束さんと鬼瓶さんがやって来て、私にラピッド・レイダーを、箒に紅椿をくれて、和やかな空気だったのが一変し、急に超シリアスムードになった私達。
いきなり今日の予定が全て中止になり、急遽、IS学園は作戦行動に移る事になった。
この時点ではまだ詳しい事は話されてはいないが、私だけはその理由を明確に知っている。
他の生徒達は全員がこの場を片付けた後に旅館の自室にて待機を命じられ、それとは逆に代表候補生を初めとする面々は、織斑先生に呼ばれて一緒に着いて行くことに。
その際、候補生ではない専用機持ちである私と一夏と箒の三人も念の為と言う事で一緒に呼ばれる事になった。
突然の予定変更に、何も事情を把握してない生徒達はかなり混乱していたが、織斑先生の喝で大人しくなり、静かに旅館へと戻っていった。
本音は私達の中で唯一の一般生徒であるが故に、皆と一緒に旅館へと帰っていったが、彼女の場合は同室である私と箒とラウラの三人が一気にいなくなるため、特別に他の子の部屋で待機をする事を言われた。
私もそうだが、他の皆も目に見える緊張を隠しきれないようで、普段は余裕の表情を見せている、あのロランさんですらも滅多に見せない真剣な顔をしていた。
それを見て、私は改めてこれから起きるであろう戦いの大きさを思い知った。
さっきから手に汗が滲んで止まらない。
私はちゃんと皆の役に立つことが出来るのだろうか……。
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数時間前 アメリカ ハワイ沖 米軍所属大型空母
甲板の上で悶えながら倒れている二つの人影があった。
二人共女性で、ISスーツを着ている事から、アメリカ所属のIS操縦者である事が分かる。
「う……チクショウが……!」
「ク……!」
そして、それを冷たい目で見下している二人の女。
これまでにフランスとドイツに姿を現した、ラケシスとアトロポスの姉妹だった。
今回は、この二人もISスーツを身に付けている。
ラケシスは黒地に白、アトロポスは白地に黒と、姉妹で真逆のデザインになっていて、彼女達の性格を表しているようだ。
「随分と呆気なかったですね。アメリカ代表とその相棒と聞いて、少しは期待をしていたのですが……」
「…………」
「そうですね。彼女達と『彼等』を同列で比べてはいけませんね」
今回もラケシスは一言も喋らないが、それでも何故か意思の疎通は出来ている。
そのラケシスの傍には、一体の白銀のISが聳え立っていた。
「返して……返しなさい!!」
「『返せ』と言われて素直に返すようでしたら、最初からこんな場所まで来て強奪なんてしませんよ」
「テメェ……!」
「アメリカ代表イーリス・コーリングに、この『
「それは……どういう意味……」
「そのままの意味です」
苦しそうにしながらも目だけは二人を睨み付けているイーリス。
その周辺にはISの装甲の破片と思われる金属片が散乱している。
「このアタシが、あんな小娘にISで圧倒されるなんて……!」
「私に勝てないようでは、姉さまに勝つなんて一生かかっても不可能ですよ」
ナターシャとイーリスに興味が無くなったのか、アトロポスは二人から目を逸らして、手元にある端末を使って何かを操作し始めた。
すると、ラケシスの隣にある銀の福音の装甲がいきなり開かれて、搭乗体勢になった。
「ま…まさかっ!?」
「そのまさかです。姉さま、準備は出来ました。いつでもどうぞ」
コクンと頷き、ラケシスは慣れた動きで銀の福音の操縦席へと乗った。
「やめなさい!! そもそも、正式なパイロット以外が専用機を動かす事は出来ないのよ!! それぐらい分からないのっ!?」
「馬鹿にしてるんですか? その程度の知識ぐらい知ってますよ。だから、ちょっとした『裏ワザ』を使うんじゃないですか」
「裏ワザって……もしかしてっ!?」
二人の脳裏に最悪の状況が過った。
「ふざけんなっ!! んなことしたら、コアにどんな負担が掛かるか分かんねぇぞ!!」
「そうですね。でも、これは私達のISじゃありませんので、別に知った事ではありません」
相変わらず、冷たい氷の視線を見せつけながら、なにやら端末を操作し続けるアトロポス。
「よし……これで……」
彼女が何かを呟いた瞬間、なんと、ラケシスが乗った銀の福音が起動して、中に浮遊し始めたのだ。
「そ…そんな……」
「嘘……だろ……」
自分以外の操縦者を愛機が受け入れた。
その事実が信じられないナターシャは、その目に涙を浮かべた。
「少し強引ではありましたが、コアのハッキングには成功しました。これで、その機体は姉さまの思うがままに動きます」
妹の言葉を聞いて、ラケシスは試運転のつもりで付近の空を高速移動して、体と機体を馴染ませる。
「首尾は上々のようですね。ならば、後は作戦通りに」
一回頷いてから、ラケシスはバイザーに隠れた目を海の向こうに向けて、凄まじい速度で飛び去って行った。
「スペックデータは知っていましたが、直に見ると、中々の高性能機のようですね」
「「……………」」
アメリカ代表と現役の軍人が揃いも揃っているにも拘らず、目の前で最需要機密とも言うべき軍用ISを強奪された。
その事実は、ナターシャとイーリスの心に確実なダメージを与えた。
(後は、アメリカ軍のコンピューターにハッキングをして、銀の福音が『強奪』ではなく『暴走』した事にして、IS学園に救援を要請するように仕向ければ、全ての作戦は完了する。こちらの情報が正しければ、IS学園の一年生は臨海学校とやらで、姉さまが向かった方角の旅館に宿泊していると聞きます。そして、そこにタバネ・シノノノも向っているとも。あの女はどのような動きを見せてくれるでしょうかね……)
ここでの仕事を終えたアトロポスは、姉に続いてこの場から去ろうとするが、そこに傷ついた体を振り絞って立ち上がったナターシャとイーリスの二人が立ち塞がった。
「テメェだけは帰すかよ……!」
「貴女だけは……絶対に許さない……!」
「別に許す、許さないは勝手ですが、そんな風に風下に立ってもいいんですか?」
「「は?」」
そう言うと、アトロポスは拡張領域から一個の手榴弾を取り出して、二人の間に放り投げた。
「ちっ!」
「しまったっ!?」
しかし、手榴弾は爆発はせずに、その代わりに大量の煙を吐き出した。
「こ…これはっ!?」
「人間にだけ効果がある特殊な催眠煙幕です。では、おやすみさない」
完全に油断をしていた上に、精神的にも肉体的にも疲弊していた二人は、その煙を思い切り吸いこんでしまった。
「い…意識が……」
「クソがぁ……!」
意識が段々と遠ざかり、自身の体が甲板に倒れる中、ナターシャは一つの疑問を感じていた。
(人間にだけ効果があるって言ってたのに、どうして…あの子には通用…してない……の……?)
その考えを最後に、ナターシャの意識は真っ黒になった。
誰かがどこかへと歩いて行く靴音が、静かな海に響いた。
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花月荘の最奥に設けられた宴会用の大座敷である『風花の間』では、私達全員が揃って正座をした状態で織斑先生の説明を聞いていた。
部屋には各種モニターや機器が持ち込まれていて、簡易的な会議室兼司令室となっている。
実際に、山田先生がコンソールを操作しながらデータを整理を行っていた。
「ところで……」
「「ん?」」
「どうして……二人がいる……!?」
眉間に血管を浮きだたせながら、説明途中の織斑先生が私達の後ろにいる部外者である二人、束さんと鬼瓶さんを睨み付けていた。
「私なら、色々と役に立つと思うけど~?」
「それ以上に、お前は周囲に迷惑と混乱を撒き散らすだろうが」
「ひっど~い! やっちゃ~ん! 束さんを慰めて~!」
「むぎゅ……」
「姉さん!!」
この空気の中で、よくそんな発言が出来るなっ!?
って、私に後ろから抱き着くな!! 胸に手を伸ばそうとするなよ!!
「ほらほら。若い子達の間の前で刺激の強い行為は控えた方がいいと思いますよ?」
「えぇ~?」
「それに、弥生ちゃんにセクハラもよくありません。彼女に何かあれば、『あの人』が黙ってませんよ?」
「それを言われると……ね」
鬼瓶さんが言ってる『あの人』って、おじいちゃんの事だよね……?
え? 何? 束さんっておじいちゃんには頭が上がらないの? マジで?
「それで? 貴方は何故いるのですか?」
「俺? 俺はですね……」
いつの間にか手に持っていた端末を操作して、ある映像を私達に見せつけた。
「ここにいる全員に、作戦なんか立てなくてもいいって言いに来たんですよ」
「なんだと……?」
訝しげに鬼瓶さんの見せる映像に視線を向ける織斑先生に合せて、私達も一緒に映像を見る事に。
そこには、綺麗な青空が映っていて、下には海らしき水面が見えたから、これはどこかの海域周辺を映した映像なんだろう。
どうやってこれを映しているとか、そう言ったツッコみは野暮なので誰も言わない。
勿論、私も言わない。
「この空がどうかしたのか……?」
ラウラが私達全員の言葉を代弁してくれたが、それに答えるように鬼瓶さんは映像をズームさせた。
拡大された映像を見て、私は我が目を疑った。
「う…そ……!?」
そこには、どこかで見た緑色の恐竜(?)を模したキグルミのような物体が宙に浮き、見事なガイナ立ちを披露していた。
「もう既に、この国における『最大防衛戦力』が出撃しているんですよ」
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緑色の着ぐるみ――『スペースガチョビンスーツ』は、沈黙を保ちながら何かを待ち続けていた。
「…………来たか」
その視線の先から、光り輝くナニかが高速飛行でこちらへと向かってきた。
ナニか……『銀の福音』は、スペースガチョビンスーツの眼前で静止し、互いに対峙するような形になる。
「成る程。あの『銀の福音』が暴走して、この海域を高速で飛行中だと聞いていたが、どうやら本当だったようだな」
『……ザザ………』
ノイズのような音が聞こえた後、福音からボーカロイドのような合成音声が聞こえてきた。
『ココデ待チ構エテイタト言ウ事ハ、貴様ガココデ私ヲ食イ止メルツモリ……ト言ウ事カ?』
「そうだと言ったら?」
『決マッテイル』
福音が構え、臨戦体勢を取る。
『押シ通ル』
……が、福音の目の前にいた筈のスペースガチョビンスーツはどこにもいなかった。
「出来るのか? お前に」
『!!?』
突然の声に反射的に距離を取る。
スペースガチョビンスーツは、福音の背後に回っていたのだ。
『貴様……!』
「ここは何があっても絶対に通さん」
そこで初めて、スペースガチョビンスーツは腕組みを解いて構えを取る。
(情報では『暴走』と言っていたが、こうして会話が成立すると言う事は、間違いなく何者かによって福音が『強奪』されて、何らかの方法で半ば強制的に運用されていると見るのが普通だな……)
全く表情が変化しないキグルミの中で、冷静に状況を整理する。
両者の間に潮風が吹き、緊迫した空気が流れる。
二人の下で魚が跳ねて、ポチャン……と海に落ちる。
瞬間、両者の姿が消え、激しい音と共に激突した。
激突の衝撃だけで海面に波紋が生まれ、その壮絶さを物語る。
福音は僅かに上空に昇り、そのウィングスラスターから無数の光弾の弾幕を展開する。
それ光景はまさに光の雨であり、一つ一つが羽のような形状をしている。
その圧倒的な火力は、それだけで見る者を戦慄させる。
だが、スペースガチョビンスーツは微塵も怯む様子を見せず、降り注ぐ光の雨に向かって突撃した。
『ナニッ!?』
一発でも被弾すれば、そこから一気に倒される。
そんな状況であるにも関わらず、スペースガチョビンスーツは全ての光弾をギリギリで回避していく。
まるで物理法則を無視したかのような、急停止、急加速、急旋回を駆使して、緑の軌跡を青空に描いていく。
『クッ!』
相手の圧倒的な回避力を見て、下手に射撃戦に持ち込むのは逆効果だと早々に判断した福音は、すぐに光弾を止めて、その出力をスラスターに回し、射撃は必要最低限にしながら、高機動戦闘へと移行した。
勿論、スペースガチョビンスーツもそれをすぐさま察し、相手を追撃するように超高速で福音を追尾する。
遥か上空で、白と緑の軌跡が何度も激突し、その度に大気が震え、紫電が迸る。
国家代表でも不可能な人知を超越した死闘が、この海域で繰り広げられた。
見た目からは想像も出来ない超高性能を発揮するスペースガチョビンスーツ。
これが現在、日本を守る最強にて唯一の希望である事を、大多数の人達は全く知らない。
緑の恐竜と銀の機械天使の死闘は、加速する。
御覧の通り、今回、弥生を初めとする専用機持ち達は全く活躍の場がありません。
絵的にはシュールかもしれませんが、実際、スペースガチョビンスーツはかなりのチートです。
無論、それを着こなす人物もチートです。
福音VSスペースガチョビンスーツの戦いは次回に続きます。
この死闘を制するのは、果たしてどちらなのか?