まだ7月でコレなんて……8月になったらどうなるのやら……。
毎年言っているような気がしますが、非常に大事な事なので何度でも言います。
熱射病には本気で気を付けて!! 水分補給は絶対!!
室内だからって油断は禁物!!
福音を巡る一件が私達が全く関与する事無く集結した日の夜。
私達は昨夜と同じように大宴会場にて夕食を食べていた。
けど、今の私は昨日以上にテンションが高い!
その理由は、言わなくても分かるよね?
「ねぇ~…結局、昼間のアレってなんだったの?」
「悪いが、機密事項だから言えん」
「えぇ~」
案の定、何も知らない皆は、昼間の件について聞いてきた。
けど、聞いた相手が間違っていたな!
普段の様子からは忘れがちだけど、ラウラは立派な現役軍人!
例え何をされても機密事項を言ったりはしない!
「他の皆も全く教えてくれなかったしな~……」
「うぅ~…気になる~!」
「その気持ちは痛いほど理解出来るけど、世の中には知らない方がいいって事もあるんだよ?」
「デュ…デュノアさん……ちょっと言い方が怖いよ……」
「だが、純然たる事実だぞ」
「もしも知ってしまったら、裁判沙汰になったうえで二年間もの間、監視されますのよ?」
「さ…裁判っ!? 監視っ!?」
「しかも、二年はあくまで『最低年数』らしいぞ」
「って事は……それ以上の年数の可能性も……?」
「充分、有り得る」
シャルロット、セシリア、ロランさん、箒の四人が一気に畳み掛ける。
あそこまで脅されれば、もう何も聞いてこなくなるだろう。
「ところでさ……」
「さっきから、板垣さんのテンション高くない?」
「ずっと笑顔のままで食べ続けてるし」
「笑いながらご飯を食べる板垣さん……可愛い……♥」
え? 私ってば笑ってる?
そんな自覚は無かったんだけどなぁ~。
無意識の内に笑っちゃってたか~。
「えっと……なんて言ったらいいのかしら……」
「ここは私に任せてくれたまえ」
お? ロランさん?
「ついさっきの事なんだが、弥生のおじいさまがこの旅館に偶然にも宿泊をしにいらしたんだ。向こうも弥生もここで会うとは思っていなかったようで、予想外の再会に喜びを隠せないでいるのさ」
おお~! なんかそれっぽい事を言って誤魔化してくれた!
確かに、今の言葉ならば、半分は真実で半分は嘘になっている。
「そっか~。それなら嬉しそうにしているのも納得だね~」
「よかったね、板垣さん!」
「ん……♥」
あ~♡ 心なしか、昨日よりも御飯が美味しく感じて、食が進むにゃ~♡
「い…板垣さんの隣にお茶碗の塔が建設されてる……」
「今にも倒れそうなのに、絶妙なバランスで頑張ってるわね……」
む? もうご飯が無くなった。おかわり!!
「そう言えば、織斑君の姿が見えないけど……」
「アイツなら、今日だけは別の部屋で食べてるわよ」
「きっと、ガッチガチに緊張してるだろうね」
その通り。
今回だけ、一夏は特別に許可を貰って、おじいちゃん達が宿泊する部屋で一緒に食事をしている。
でも、一夏に一体何の用があるんだろう……?
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
どうも、織斑一夏です。
早速ですが、俺は大ピンチになっています。
「どうした? 食べんのか?」
「このお刺身とか、脂がのっていて美味しいよ?」
「あ……はい」
何故なら、俺の目の前で弥生のおじいさんである板垣総理と鬼瓶さんがいるからだよ~!
いやね、鬼瓶さんだけならまだ大丈夫だよ?
でもさ、この人はあの弥生の一番大好きなおじいさんであり、この国の内閣総理大臣なんだぞ!!
よりにもよって、総理大臣と一緒の部屋で食事をするとか、一生に一度あるかないかだぞ!!
俺みたいな一市民に、この状況で緊張するなって方が無理あるだろ!!
「い…いただきます……」
震える手で箸を持ち、お刺身に醤油をつけて食べる。
(うぅ……昨日は物凄く美味しかったのに、今は緊張しすぎて味がよく分からない……)
手に力を入れていないと、箸すらも落としそうだ……。
「うんうん。若い内は沢山食べて、英気を養うんもんじゃ」
「総理だってまだまだお若いでしょうに」
「鬼瓶さんには負けるわい」
「はっはっはっ……」
どうして鬼瓶さんは総理と仲良くお話なんて出来るんだよ!?
幾ら昔馴染みだからと言っても、この人は総理なんだぞ!? 滅茶苦茶偉い人なんだぞ!?
つーか、アンタと総理は一体何処で知り合ったんだ!?
俺的にはそれが非常に気になるんですけど!?
「さて……と。織斑一夏君」
「は…はい!」
つ…遂に来た!
俺を名指しでここに呼んだ理由は、大体の想像がついている。
思わず背筋が伸びて、手に汗を握ってしまう。
前に千冬姉が総理官邸に呼ばれた時も、今の俺みたいに緊張してたのかな……。
「単刀直入に訪ねよう」
心臓がドキドキして止まらねぇ……!
「お主………弥生の事を好いておるな?」
「ブッ!!!」
分かってはいたけど、ここまでどストレートに聞いてくるか!?
冗談抜きで心臓が跳ね上がりそうだったぞ!!
「ど…どうして……」
「さっきの簡易司令室にて話をしておった時の、お前さんの弥生に向ける視線を見れば一目瞭然じゃ」
たったそれだけで!? 今時の内閣総理大臣って、ここまでチートじゃなきゃ勤まらないのか!?
「別に緊張しなくてもいいよ。ここには男しかいないんだし、ちょっとした男子会みたいなノリで構わないって」
無茶言うな!! ここで素直に白状できるほど、俺は度胸が据わってねぇんだよ!!
でも……言わなきゃいけない流れなんだろうなぁ~……きっと……。
ええい! 気合を見せろ! 織斑一夏!!
どうせ、弥生を嫁に貰いに行く(予定)の時、嫌でもこの人に挨拶をしに行かなきゃいけないんだぞ!!
それが早いか遅いかの違いじゃないか!!
「…………はい。俺は彼女が……板垣弥生さんが好きです」
「おぉ……言うねぇ~」
そっちが言うように仕向けたんだろうが!!
「そうか……」
総理の鋭い眼光が俺を捉える。
『蛇に睨まれた蛙』とはよく言ったもんだぜ……。
「一夏君」
「な…なんでしょうか……」
「お前さんは……弥生の為に全てを
「総理……?」
覚悟……か。
そんなもん……とっくに出来てる!!
「当然です!!」
「ほぅ……?」
「俺はもう、弥生が悲しむ姿を見たくない。弥生の大切に思っている全てを守りたい。初めて弥生と出会って、彼女の色んな顔を見た時から、俺の全部を弥生の為に使うと決めたんです!」
それが俺の決意。
俺は『皆を守る』んじゃなくて、『弥生に属する皆を守る』。
「言うほど簡単ではないぞ」
「分かっています」
「茨の道なんて言葉すら生温い地獄が待っておるかもしれん」
「その地獄の先に弥生がいるのなら、俺は喜んで地獄に行きます」
「織斑くん……君は……」
今の俺の偽らざる気持ち。
この決意は、これから先も絶対に変わらない自信がある。
「それに……」
「ん?」
「惚れた女を守るのに、理由なんていらないでしょう?」
……なんか勢いで色々と言っちゃったけど、俺……大丈夫だよな……?
「惚れた女を守るのに理由はいらない……か。くくく……」
「そ…総理?」
や…やっぱ、調子に乗りすぎたか!?
「ははははははははははっ!! 気に入った! 気に入ったぞい!!」
うぉっ!? びっくりした~……。
でも、どうやら怒らせてはいないみたいだな……。
「一夏くん。夏休みの予定は空いておるかな?」
「夏休み……ですか? えっと……今のところは特に予定は無いですけど……」
と言うか、基本的に俺の夏休みは家での家事全般で潰れるからなぁ~。
「総理……まさか?」
「その『まさか』じゃ。一夏くん、夏休みはワシ等の所で特訓をしてみんか?」
「と…特訓?」
「そうじゃ。今の自分がお世辞にも強いとは言えないと、自覚はしておるんじゃろ?」
「……はい」
ISの知識や操縦もそうだが、今の俺は単純に身体能力がかなり劣っている。
自己流や千冬姉が暇な時に訓練をして貰っているけど、まだまだ自分が未熟だと思っている。
「いいんですか?」
「構わんじゃろう。小栗君や兵庫君もいるし、夏休みならば『あの6人』も来てくれるじゃろう?」
「あの子達にも特訓を手伝わせる気ですか!?」
「そうじゃが?」
え……え~っと……? 小栗君って? 兵庫君って? あの6人ってなんだよ?
「織斑君……」
お…鬼瓶さんが同情するような目で俺の肩を掴んだ。
「無事に二学期を迎えられるように、祈ってるよ」
「はぁっ!?」
ちょっと待てぇ~い!! その言い方だと、下手をすれば無事に二学期を迎えられない可能性があるように聞こえるんですけどぉぉぉぉぉっ!?
で…でも、この人達の元で特訓をすれば、総理のような桁外れの強さにほんの少しでも近づく事が出来るのか……?
「で? どうする? 特訓を受けるか? それとも……」
「受けます。弥生と一緒に歩いて行く為なら、どんな特訓もやってみせます。あらゆる困難も乗り越えてみせます!」
「よく言った! それでこそ日本男児じゃ!」
「どうなっても知らないぞ……」
それから、俺は総理と鬼瓶さんと携帯の番号を交換して、いつでも連絡が出来るようにした。
まさか、天下の総理大臣の携帯の番号が、俺の携帯に登録される日が来るとは思わなかった。
鬼瓶さんの危惧するような言葉が気にはなったけど、もう俺は止まらないと決めたんだ!
弥生の為なら、どこまでもやってやるぜ!!
一通りの話が終わってから、部屋の空気が一気に緩和して、男三人で弥生談義で盛り上がった。
主に話していたのは、俺と総理だけど。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
旅館から少し離れた場所にある岬。
その柵に腰かけながら、束は投影型ディスプレイとコンソールを出して、何かをしていた。
「にしても、あの人にあれだけの戦闘能力があるとは、いい意味で予想外だったよ。吉六会……あれだけの戦闘能力があれば、万が一の時の保険にはなる……か」
普段は決して見せない真剣な顔で、福音とスペースガチョビンスーツの戦闘の光景のリプレイ映像を眺めている。
「このスーツ……。見た目はふざけているけど、性能は全能力を完全開放した紅椿をも完全に凌駕してる。悔しいけど、あの総理は戦闘能力だけじゃなくて、技術力も私より上だ……。嬉しい誤算だけど、素直には喜べないな……」
一人の科学者として、自分よりも上の技術を見せつけられて、あまりいい気分は出来ない束だった。
人格破綻者の烙印を押されていても、科学者としてのプライドだけは一人前らしい。
「途中で姿を見せなくなったと思ったら、こんな場所にいたのか」
「おや、ちーちゃん。よくここが分かったね」
「もうお前とも長いからな。束が行きそうな場所はなんとなく予想出来る」
腕組みをした恰好で千冬がスーツ姿で後ろからやって来た。
その顔は束に負けず劣らずの真剣さがあった。
「総理がやって来た直後、お前はどこに行っていた?」
「ちょっとした野暮用」
適当に誤魔化す束だったが、それを素直に聞き入れる程、千冬は馬鹿ではなかった。
だが、同時に束がそう簡単に本当の事を言わない事も、また知っていた。
「ねぇ……ちーちゃん」
「なんだ」
「やっちゃんって……本当にいい子だよね」
「そうだな。弥生は誰にも分け隔てなく優しい子だ」
だからこそ、多くの人間達が彼女に惹かれた。
千冬も束も例外では無い。
「何故、お前は弥生と身内のように接する?」
「あの子が箒ちゃんを命懸けで守ってくれたからだよ」
確かに、束にとって大切な妹である箒を救った功績は、彼女にとって弥生を好意的に見るには充分すぎる理由にはなる。
しかし、千冬は持ち前の勘の鋭さで、これだけが本当の理由ではないと察していた。
「いい機会だから聞いておきたい。なんでいきなり箒に専用機を持ってきた?」
「その理由は昼間に言った筈だけど?」
「本当にあれだけか?」
簡単に白状しないと分かっていても、聞かずにはいられなかった。
今回の束の来訪は、余りにも突然すぎた。
千冬でなくても疑うのは当然だろう。
「……まぁいい。お前が秘密主義なのは今に始まった事じゃないからな」
「いい女は、沢山の秘密を持っているものだよ♥」
「抜かせ」
昔に戻ったかのような会話に、少しだけ千冬が微笑を浮かべた。
「ここでちーちゃんに質問です」
「なんだ?」
笑いながら千冬の方を振り向いているが、その目は決して笑っていない。
「問題。白騎士は今、どこにあるでしょう?」
白騎士。
千冬にとって、切っても切れない存在。
束の質問の答えは、一瞬で浮かび上がった。
「白式を『しろしき』と呼べば、おのずと答えは導かれるんじゃないのか?」
これで束がどんな反応を見せるか。
だが、彼女は千冬の予想とは全く違う反応をした。
「ククク……。ちーちゃん、きちんと人の話は聞かなきゃ駄目だよ?」
「なんだと?」
「私は『白騎士はどこにある?』って聞いたんだよ? ただの一言も『白騎士のコアがどこにある?』なんて言ってないよ?」
「!!?」
完全に自分の答えが正解だと確信していた。
ならば、一夏の白式は一体何なのか。
「ちーちゃんが考えている事に、答えてあげようか?」
「束……」
「白式自体は、倉持技研で製作された普通の第三世代機だよ。ちょっと私の手で改造や調整は施したけど、それ以外は本当に何もしてないし、コアだってそのまんまだよ」
「ならば……あの零落白夜は……」
「ISに関する事で、私に不可能があると思う?」
それが全ての答えだった。
つまり、束は白式を改造し、コアに頼らず、意図的に零落白夜を発動出来るようにした。
その媒体として、彼女は千冬の愛刀に酷似した『雪片弐式』を製作した。
普通に考えれば一笑に伏すような事だが、目の前にいるのはISの生みの親である篠ノ之束その人。
他の事ならいざ知らず、ISに関して束に不可能な事などある筈も無かった。
「ならば……白騎士は一体どこに……」
「ちーちゃん」
千冬の目を真っ直ぐに見つめる束の視線に、彼女は初めて目を逸らした。
「ISの姿形は千差万別あれど、その内部にある物は何も変わらない。そう、肌の色や顔の形などが全くが違う人間の骨格の基本的な形状が同じであるように」
「お前は……何を言っている……」
考えたくなかった。否定したかった。
しかし、千冬の中にある『ナニカ』が、最も考えたくない可能性を示唆している。
「幾ら白騎士と言えど、その肌とも言うべき外部装甲を取ってしまえば、その姿形はそこら辺にあるISとなんら変わらなくなる。何故なら、
汗が出て、チリチリと喉が渇く。
千冬は自分が動揺している事に気が付き、必死に歯を食いしばり、表情を抑えようとする。
「そう言えば、一体だけいるよね。
「それ……は………」
千冬の脳裏に浮かんだのは、自分も想っている一人の少女の顔。
だが、その事を信じたくなく、自然と地面に視線を向けてしまう。
今になって初めて、千冬は篠ノ之束と言う人間を恐ろしいと感じた。
「偶然って本当に怖いよね。流石の私も、初めて知った時は驚きを隠せなかったよ」
「…………………」
「いや、これは『偶然』と言うよりも『運命』に近いかな? ま、私は運命論者じゃないから、そんな下らないものは微塵も信じちゃいないんだけど」
投影型ディスプレイを消し、束は徐に立ち上がり、スカートについた汚れを手で叩いた。
「お前の目的はなんなんだ……? お前は何を知っている……?」
表情をスッ…と消し、何かを憂うような目で星空を見上げる。
「古き神話に終止符を打ち、世界に光を取り戻す」
「なに……?」
今にも泣きそうな、悲しそうな笑顔を浮かべながら、最後に束は真っ直ぐに千冬の目を見た。
「大丈夫。『
その時、風が吹いた。
千冬の髪が彼女の視界を覆い、一瞬だけ何も見えなくなる。
「気を付けて……。今回の事件を切っ掛けに、亡霊に身を隠した連中が本格的に動き出すから……」
その言葉を最後に、束はこの場から完全に姿を消した。
残されたのは、未だに呆然としている千冬だけだった。
「お前の悪い癖だぞ……。いつもいつも、たった一人で全てを背負いたがる……」
千冬の目から一筋の涙が零れて、地面に静かに落ちる。
「私の事を親友だと言うのなら……私にもお前の荷物を少しでもいいから背負わせてくれ……」
袖で涙を拭い、顔を上げた時には、もういつもの千冬に戻っていた。
「お前が何を考えているかは知らんが、これだけは言ってやる」
千冬も星空を見上げ、強気に笑った。
「弥生は私達が全力で守ってやる。だから、お前はお前がやるべき事をやれ」
笑顔を浮かべる千冬の顔に、もう迷いは無かった。
決意を新たにした千冬がふと崖下を見ると、そこには見覚えのある少女が白いビキニを着て浜辺に立っていた。
「あれは……弥生?」
まだまだ、夜は終わらない。
シリアスなような、そうでないような。
なんとも言えない感じでしたね。
次回は今回の続き。
遂に弥生が海で水着になります!!
あと、キリがいい所で弥生のプロフィールも書こうと思います。