なんでこうなるの?   作:とんこつラーメン

67 / 107
予告通り、少しだけ寄り道して中学生の時の弥生の話をしようと思います。

別に本編には微塵も関係無いので、読むか読まないかは個々人に委ねます。







板垣弥生の中学生日記(一年生編)

 聖(セント)マリアンヌ学園。

 中高一貫の女子校で、在学している殆どの生徒が超のつくほどのお嬢様である。

 学園全体の偏差値も非常に高く、入学試験もかなりの難関とされている。

 規律が多少厳しくもあるが、それでも、ここを入学しようとする人間は後を絶たない。

 完全男子禁制の女子の花園とも言うべき学園の門を、一人の少女が潜ろうとしている。

 少女の名は『板垣弥生』

 この物語の主人公であり、神によって第二の人生を歩む事を義務付けられた転生者。

 そして、内閣総理大臣である『板垣平松』の義理の娘である。

 

 これは、そんな彼女の中学生時代の物語。

 

 舞台は、今から約3年前に遡る。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

・

 

 

 

 

 桜舞い散る並木道。

 綺麗に舗装された歩道を歩く、紺色のブレザーにグレーのスカートを履いた一人の少女。

 その黒く長い髪を美しく靡かせて、長い前髪によって顔の左半分が完全に隠れている。

 傍から見ると分かりにくいが、前髪の下には包帯が巻かれている。

 その手には真っ白な手袋が嵌められていて、足には真っ黒なストッキングを穿いていた。

 首から下の肌が全く露出していなかったが、それが逆に彼女の美しさを引き立てていた。

 

「見て、あの子……」

「うわぁ……凄く綺麗……」

 

 彼女と同じ制服を着た少女達が立ち止まり、まるで道を開けるように端に避けて視線を向ける。

 これから同級生となる少女達の視線を一身に集めている者こそが、板垣弥生その人である。

 

 学園から支給された鞄を体の前で両手で持ち、ごく自然な足取りで歩いている。

 その瞳はどこまでも真っ直ぐに前だけを見つめていて、その顔には喜怒哀楽のいずれの感情も浮かんでいない。

 それもその筈。何故なら、弥生の心の中は……

 

(ちょっとぉ~っ!? なんで皆して私の事を見ているの!? やっぱ……こうして前髪で目を隠しているのが怖く見えてるのかな……。自分でも暗く見えるしな~……。でもでも、だからと言って、横に逸れてひそひそ話をしなくてもいいんじゃないっ!? 私のハートはガラス以上に壊れやすいんですけど~!?)

 

 周囲の視線を完全に勘違いしていた。

 弥生は自分が美少女である事を全く自覚していない。

 それどころか、薄気味悪いとすら思っている始末。

 それはIS学園にいる時も変わらないのだが、この頃はその思い込みが更に酷かった。

 

(まぁ……私の事をどう思おうが別に気にしないんだけど。こっちに干渉さえしなければ、何も文句は無いよ)

 

 これである。

 周囲は弥生の出す『お嬢様オーラ』に魅了されて近寄りがたくなっているのが真実なのだが、当の弥生本人は、それを完全に自分を避けていると勘違いし、自分から近づく事もしない。

 マイナスとマイナスが合わさった結果、微塵もプラスにはならず、逆にボッチがひどくなった。

 一番の問題は、その事を弥生が気にしておらず、寧ろそれを望んでいる節がある事。

 

 この頃の彼女は、色々な相乗効果が組み合わさった結果、孤高の美少女と相成ったのだ。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

・

 

 

 

 

 聖マリアンヌ学園の門を一人で潜る弥生。

 他の子達は保護者が同伴しているのだが、彼女は一人である。

 それもその筈。弥生の義父は内閣総理大臣。

 そう簡単に国会を抜け出せるはずもなく、仕方なく一人で入学式に赴かなくてはいけなくなったのだ。 

 しかし、弥生は転生者であるが故に大人の事情はちゃんと把握している為、義父が入学式に来れなかったからと言って癇癪を起すような心の狭さは持っていない。

 

 入学式を緊張のままで終えた弥生は、そのまま自分が配属される教室に向かう事に。

 普通の中学校ならば、ここでガヤガヤと騒ぐところだが、そこは流石お嬢様学校と言うべきか。

 一切の私語を慎んだ状態で生徒達は教室に足早に向かって行った。

 弥生の場合は、普通に話しかける勇気も度胸も無かっただけだが。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

・

 

 

 

 

 弥生にとって、自己紹介ほど苦手なものはない。

 唯でさえ自己表現が苦手だと言うのに、何が悲しくて自分の事を紹介しなくてはいけないのか。

 少なくとも、弥生はそんな風に考えている。

 そんな苦手な自己紹介が、今目の前に迫ってきている。

 

 入学式の直後に教室に入り、自分達のクラスの担任の紹介と、学園の規律などに関する簡単な説明。

 その後に各教科書の配布などが行われ、最後にクラス全員の自己紹介が行われた。

 

「はい、次は……」

 

 一人の生徒が自己紹介を終えて席に座り、担任が次の生徒を指名する。

 この過程が弥生にとって死神の足音にしか聞こえていない。

 

(じ…じじじじ自己紹介って何を言えばいいんだ……! 趣味……はストレートに言ったら普通に引かれるわ!! 下手に目立つのは得策じゃないし、ここはやっぱり当たり障りのない事を言うのが妥当か……)

 

 板垣弥生の『い』の番はすぐにやって来る。

 弥生は自慢の頭脳をフル回転させて、この窮地を乗り切る方法を模索していた。

 

「あの子……校門の所で見かけた……」

「うん……あの綺麗な子……だよね……」

「同じクラスだったんだ……」

「なんて美しいお顔なのかしら……」

 

 このようなひそひそ声も、今の弥生には微塵も耳に入ってこない。

 そんな余裕が無いのだから、仕方がない事なのではあるが。

 

「はい。では次は板垣さん。お願い出来るかしら?」

「…………」

「板垣さん?」

「……………」

「板垣さ~ん?」

 

 そこまで来て、ようやく弥生は自分が呼ばれている事に気が付いた。

 

「あ……はい……」

 

 本気で混乱している時ほど、意外と噛んだりしないものだ。

 変な声を出す事無く、弥生は普通に(周りから見たら優雅に)立ち上がった。

 

「い…板垣…弥生……です……」

 

 まずは名前は言えた。

 問題はここからだ。

 

「趣味……は……アニソン(音楽)鑑賞…と……漫画やラノベ(読書)……です……」

 

 ものは言いようとはよく言ったもんである。

 本当はここに『ゲーム』と『プラモ製作』も加わるのであるが、流石にそれは言わずに飲み込んだ弥生であった。

 

「音楽……。やっぱり、クラシックとかお聞きになさるのかしら……」

「きっと、シェイクスピアや夏目漱石とかお読みになるのでしょうね……」

 

 んなわけねーだろ。

 生粋のオタクである弥生とは縁も所縁も無い単語を言われても、困惑しかしない。

 

「ありがとうございました。では、次は……」

 

 何もツッコまれずに自己紹介が終わった。

 これさえ終われば、後はどうとでもなる。

 ホッと肩を撫で下ろしながら、弥生は静かに椅子に座った。

 

 当たり障りのない自己紹介を終え、後は目立たぬように学園生活をエンジョイするだけ。

 せめてもの幸いは、弥生の席が窓際の一番後ろである事か。

 偶然にも、ここは後に入学する事になるIS学園での弥生の席と全く同じ位置だった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

・

 

 

 

 超がつくほどのお嬢様学校と言う事は、即ち超がつくほどのエリート学校である事と同義である。

 

 聖マリアンヌ学園は中一の段階からかなりレベルが高い授業を行っているが、それについてこられないような生徒はここにはいない。

 それは弥生も例外では無く、彼女は普通に授業についていけていた。

 

 ここまで読破した読者の諸君ならば既に知っているとは思うが、弥生はかなり頭がいい。

 あのIS学園でも次席になれる程の頭脳の持ち主であり、その明晰っぷりは中学時代から健在だった。

 

 中学に入っての初めての中間試験。

 学年別に成績上位者が廊下に順位付けされて張り出され、生徒達の目に晒される。

 事実、順位が張り出された廊下には、多くの生徒達が集まっていた。

 

「え~と~…私は~……無いかぁ~…」

「当たり前じゃない。貴女、古文でかなり苦戦していたし」

「そうだけどさ~……」

「学年一位に輝いたのは……板垣さん?」

「板垣さんって、あの……?」

「みたいね。新入生の中でも特に注目された、容姿端麗の美少女」

「同じ一年生とは思えない程にスタイルも良かったし、神に二物を与えられた人って、本当にいるんだね……」

 

 実はこの時、弥生は全ての教科で満点を取っているのだが、弥生本人は『ここに通っている子達なら、これぐらいは当たり前だよね』と思っていて、別に気にはしていない。

 そんな全教科満点を取った本人はと言うと……

 

(お腹空いたな~……。早く食堂に行こう)

 

 少女達の後ろを気配を消しながら通過していって、頭の中で食事の事だけを考えていた。

 頭脳だけでなく、その大食漢っぷりも、この頃から健在だった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

・

 

 

 

 

 通常、中学での昼食と聞くと、大抵は給食か弁当を持参するのが普通だろう。

 だがしかし、ここは天下の御嬢様学校。

 校舎以外の施設もIS学園に負けず劣らずの充実っぷりで、これまたIS学園に匹敵する程に広く綺麗な食堂が見事に完備されている。

 入学以来、弥生の昼食は主にここでとられていた。

 勿論、端の方の席に座って。

 

(本当は別の場所で食べたいんだけど、中庭も屋上も人が多くて居づらいんだよな~……)

 

 別に食堂があるからと言って、弁当を持参しない生徒がいないわけではない。

 中には家から弁当を持ってきて、弥生が言ったように屋上や中庭で陽の光を浴びながら食べる者も少なくない。

 だが、この頃の弥生に、そんなリア充な事は出来ないし、そもそも、自らその輪に飛び込むような愚行はしない。

 結果とて、こうして食堂の端の方で一人寂しく(とは微塵も思っていない)食事をしている。

 

 だがそこに、食事と言う弥生にとって数少ない至福の時間を邪魔する存在がいきなり現れた。

 

「ごめんね。ここ、いいかな?」

「え?」

 

 自分の分の食事をトレーに乗せてやって来たのは、セミロングの髪を三つ編みに纏めた少女。

 宝具『水流豊胸機(モデル・バスト)』を所持している狂戦士(バーサーカー)のサーヴァント、桜井美保。

 容姿だけなら美少女と言っても差し支えないが、その中には猛獣を飼っている。

 まだこの頃は巨乳ではない。

 

「あ? なんか言った?」

 

 ナンデモアリマセン……。

 

「で、いい?」

「え…えっと……」

 

 中学に入って、まともに他人と会話をした弥生は、いきなりの事で戸惑っていた。

 

(なんだろう……ここで傍に逆らえば、命に関わるような気がする)

 

 桜井から何かを感じ取った弥生は、本能的に危機を悟った。

 ここで弥生に掲げられた選択肢は『YES』の一択しか残っていない。

 

「ど…うぞ……?」

「ありがと~♡」

 

 満面の笑みを浮かべながら、弥生の隣に座る桜井。

 その顔は弥生が食べているものを見た瞬間に凍りつく事になるが。

 

「な…なにそれ……」

「…………?」

 

 弥生が食べているのは、超大盛りのビビンバ。

 石造りの容器が熱を持っていて、未だにジュ~ジュ~と音を立てていて、食欲をそそる。

 

「美味しそうだけど……この量は……」

 

 確実に弥生の体の殆どを覆い隠す大きさの容器の中身は半分以上が空になっていて、桜井の視線を気にしながらも、弥生の手に持つレンゲは止まる気配が無い。

 

「普通にすご……」

 

 この時のことが切っ掛けになり、これから桜井と微妙な腐れ縁になっていくとは、この時の弥生は思いもしなかった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

・

 

 

 

 

 

 この聖マリアンヌ学園はお嬢様学校である。

 まるで一昔前の百合系の漫画やアニメに登場しそうな校風で、別に校則で決められていないにも関わらず、何故か先輩の事を『お姉さま』と言うようになっていた。

 

「あ! 高等部の銃磨(がんま)お姉さまよ!」

「凛々しくて、今日も素敵だわ……♡」

 

 中庭を歩く高等部1年生の少女。

 名を『落合銃磨』と言う。

 生まれつきの茶色い髪を腰の辺りまで伸ばし、頭頂部からは二本のくせっ毛が飛び出している。

 目が鋭く、額から一筋の傷跡が見えるが、それが却って彼女の凛々しさを強調させていた。

 多少は男っ気が強く感じるが、それでも立派に美少女と呼べる容姿をしている。

 

 そんな、中等部、高等部の隔てなく後輩たちに人気のある彼女だが、実は、自他ともに認める典型的な同性愛者(レズビアン)だった。

 

(新入生たちの中に、私好みの美少女はいるだろうか……)

 

 高等部に上がってからこっち、こうして新入生の中から自分の好みに合った少女を探すのが、彼女の日課になっていた。

 顔には決して出さないが、その内心はドキドキワクワクしている。

 

 その銃磨がふと、視界の端にある姿を捉えた。

 

「あ……あれはっ!?」

 

 姿はすぐに曲がり角を曲がって消えてしまったが、急いでその後ろ姿を追いかける。

 そこには、自分と同じように、周囲の羨望を集めている一人の少女が歩いていた。

 

「彼女は……?」

「あれ? 知らないんですか?」

 

 彼女の傍まで来ていた後輩が、目の前にいる少女に関して説明した。

 

「あの子は中等部一年の板垣弥生さんと言って、容姿端麗で成績優秀、間違いなく今年の中等部の新入生で注目の一人ですよ」

「彼女が噂に聞く……!」

 

 銃磨の耳にも弥生の事は聞こえていた。

 中学一年生とは思えない程に大人びていて、成績も常に一番をキープをし続けている。

 銃磨も一度は会いたいと思っていた新入生の一人だった。

 

「そうか……あの子が……ふふふ……♡」

「お…お姉さま?」

 

 本人が全く知らない所で、弥生は厄介な人物に目をつけられてしまう。

 中学の頃から、弥生の日常は波乱に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  




まずは一年生から。

この頃から弥生はそこそこの胸があって、中学生離れした容姿をしています。

お約束のように、弥生には全く自覚がありませんけど。

次回は二年生です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。