それと、地味に忘れてたんですけど、私の中での板垣総理のイメージCVは若本規夫さんです。
少しイメージしにくいかもしれませんが、一度でも染み着くと、もう逃れられません。
時間の流れとは残酷なまでに早いもので、弥生が周囲から四苦八苦しながらボッチを貫いて(いるつもり)、学園生活を頑張っていると、あっという間に一年が過ぎ、弥生達は二年生に進級した。
進級すれば、当然のように新しく新入生が入ってくるわけで、そうなると、必然的に弥生達にも後輩が誕生することになる。
毎度の如く、弥生は自分の評判を完全に勘違いしていて、周囲からの視線を自分に対する蔑みと捉えている。
実際には、非常に教師や生徒達からの評判も良く、中等部の先輩達や高等部の生徒達にも弥生の噂は広まっている。
人の口には戸が立てられないが世の常で、弥生の評判は生徒達の口コミから広がっていき、やがては外にまで浸透していくことになった。
中には、弥生の噂を聞きつけて聖マリアンヌ学園に入学を希望する者まで出る始末。
板垣弥生と言う少女の評判は勝手に独り歩きしていき、当然のように尾ひれ背びれが追加されていくことに。
知らぬは当人ばかり也。
中学での弥生の勘違い生活は、まだまだ終わらない。
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諸君は『四十院神楽』と言う少女を知っているだろうか。
IS学園一年一組の生徒で、原作ではお世辞にも出番が多いとは言い難い少女。
そんな彼女だが、実は弥生と意外な接点がある少女だったのだ。
本編においてもセリフは愚か、存在すら示唆されていなかった彼女だが、その理由は中学時代に起きた『ある出来事』に起因している。
弥生と神楽。
この二人の初めての出会いは、中学二年生の桜舞い散る春のことだった。
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それは、神楽が渡り廊下を一人で歩いていた時のこと。
彼女のポケットからハンカチが落ちてしまうのだが、その事に神楽は全く気が付かず、そのまま歩いて行ってしまう。
そこに、偶然にも後ろからやって来た弥生が落ちたハンカチの存在に気が付いて、迷わずソレを拾い上げてから、手の中にあるハンカチが目の前を歩いている少女が落とした物だと勘付くが、それを渡す時の言葉が思いつかない。
(ど…どうしよう……。これがないとあの子も困るだろうし、かと言って、私みたいな得体の知れない女がいきなり自分のハンカチを持って現れたりしたら、確実に怪しまれるよね……。下手すれば、先生がやって来て生徒指導室に連行されるかも……)
などと考えている間にも神楽は悠々と歩いて行く。
それに焦りを覚えた弥生は、もうなりふり構わずにストレートに行くことにした。
何か起きた時は、全力で土下座して謝る覚悟を持って。
「あ…あの……」
「はい?」
声を掛けられて神楽が振り向くと、そこには自分のハンカチを持って立っている弥生の姿が。
神楽も弥生の学園内での評判は知っていて、彼女に対して悪感情など微塵も抱いていない。
それどころか、一人に女として尊敬の念すら抱いているぐらいだ。
その有名人が、今、自分の目の前にいる。
しかも、見覚えのあるハンカチを持って。
「ど…どうしたんですか?」
「これ……」
緊張しながら返事をすると、弥生がハンカチを差し出した。
それを見て、神楽はハッとなり、急いで制服のポケットを探る。
しかし、幾らポケットを探しても、入っている筈のハンカチは無い。
だとすれば、導かれる答えは一つだけ。
「お…落とし…まし…たよ……」
自分が何か言う前に弥生が答えを言ってくれた。
自分の不手際で、学園の有名人に迷惑を掛けたと思った神楽は、急に恥ずかしくなって顔を赤くする。
(お…怒ってるっ!? やっぱり、ちゃんと考えてから渡すべきだったか……)
だが、弥生がそんな思春期の少女の感情の機微を読み取れるはずもなく、毎度のように盛大な勘違いをしていた。
「あ…ありがとうございます。このお礼はいずれ必ず……」
慌てず騒がずの精神で、そっと弥生の手からハンカチを受け取る神楽。
その心の中は、有り難さと申し訳なさで一杯になっている。
これでこの話は終わり……と思いきや、実は続きがあったりする。
神楽にハンカチが渡る直前、弥生は僅かではあるがハンカチが汚れている事に気が付く。
渡り廊下の床に落ちた拍子に汚れてしまったのだ。
(あ……なんか汚れてる。このまま使うのは衛生上よくないよね…。そうだ!)
この時、弥生の頭に閃きが走った。
「ちょ…っと……待って……」
「え?」
いきなり止められて神楽が困惑している間に、弥生は自分の制服のポケットを弄る。
数秒で目的の物を見つけて、ソレを神楽に手渡す。
「これ……使っ…て……」
「あの……これは……」
弥生が出したのは、真っ白なレースのハンカチだった。
「そのハ…ンカチ…落ちた時……に汚れ…たみたい……だ…から……」
「汚れ………あ」
ここで、ようやく汚れを発見する神楽。
確かに、このまま使う訳にはいかないだろう。
「し…しかし、それを私に渡したら、板垣さんがお困りになるのでは……」
「同じ…の…をもう一枚…持って…るから……大丈…夫……」
「でも……」
普段はコミュ症な癖に、こんな時だけ強情な弥生。
このままでは埒が明かないと判断し、半ば無理矢理に近い形でハンカチを渡した。
「ちょ…ちょっとっ!?」
「それ……あげる……」
そのまま、脱兎の勢いで早歩きで去っていった弥生。
彼女の背中を見つめながら、暫しの間、神楽は呆けていた。
(ただ落ちたハンカチを拾ってくれるだけでなく、御自分のハンカチを渡して、アフターフォローもするなんて……)
時間にして十数分の出来事。
だがしかし、この僅かな時間の間に起きた事は、神楽の心の中にしっかりと刻み込まれた。
「板垣弥生さん…………素敵……♡」
弥生のくれたハンカチを顔に当てて、ポッと顔を赤らめる。
今までの人生の中で他人を必要以上に意識してこなかった少女が、初めて誰かの事を強く意識し始めた。
(き…緊張した~……。でも、間違えて同じハンカチを二枚持ってきていてよかったよ~)
去りながら、弥生は心からの安堵を感じていた。
ボッチを謳いながらも、結局は他人に優しくしてしまう弥生であった。
因みに、その後の神楽は一日中、機嫌がよくて、終始笑顔のままだったと言う。
余談だが、この時のハンカチは神楽の手によって額縁に入れられ、彼女の自室に飾られていると言う。
後々にIS学園で弥生と再会する神楽だったが、弥生はその事を全く知らなかった。
と言うのも、神楽にとっては掛け替えのない一時でも、弥生にとっては何気ない日常の1ページに過ぎなかったから。
神楽の名前はおろか、顔すらも覚えていないだろう。
だが、それでも神楽は影から弥生の事を想い続ける。
それはきっと、これからも変わる事は無いだろう。
少なくとも、互いに卒業をするまでは。
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聖マリアンヌ学園の食堂にはテラス席が存在している。
流石に夏の暑い時や冬の寒い時は私用する生徒は少ないが、春や秋の心地いい陽気の時には、多くの生徒達が使用する。
そんなテラス席の一角に、奇妙なサークルが出来ていた。
そのサークルは人だかりで出来ていて、その中心には毎度お馴染みの弥生が座っていた。
弥生の座っている席はテラスの一番左端。
本来ならば、最も目立たない場所にある筈の席なのだが、この時ばかりは非常に目立っていた。
と言うのも、弥生が髪をかき上げながら本を読んでいたから。
傍には一杯の紅茶があり、全身から謎のオーラを発していた。
「あれが噂に聞く弥生お姉さま……」
「なんで優美な読書姿なのかしら……♡」
「きっと、何かの文学作品を読んでいるに違いないわ……」
カバーをしているから周囲には分からないが、弥生が今読んでいる本は完全なラノベで、タイトルはまぁ……男装をした一人の少女と、言葉を話す一台のバイクの旅物語……と言えば、賢明な読者諸君は分かるだろう。
本に夢中になっている時の弥生の集中力は凄まじく、ちょっとやそっとじゃビクともしない。
少なくとも、周囲の喧騒ぐらいでは彼女の集中は乱せないだろう。
(バイク……いいな……。おじいちゃんに頼めば、免許を取らせてくれるかな……)
そして、この時の本が後に弥生がバイクに目覚める切っ掛けでもあった。
流石に、ラピッド・レイダーはエルメスのように喋ったりはしないが。
弥生がページを捲ると、そこに一つのショートケーキが運ばれてくる。
そこで初めて弥生は我に返るが、彼女はケーキなど頼んだ覚えはない。
「えっと……」
「あちらのお客様からです」
「は……?」
店員が後ろを指し示すと、そこには笑顔で手を振っている銃磨がいた。
勿論、弥生は彼女の事なんて全く知らない。
分かる事と言えば、制服から相手が高等部の先輩だと言う事だけ。
「あ…ありがと…う…ござい…ます……?」
「どういたしまして」
爽やか笑顔で応える銃磨だったが、その心の中は興奮の坩堝にいた。
(これでさり気なく『優しい先輩アピール』が出来た! ここから慎重に攻略を進めていかなくては……!)
弥生の角度からは死角になって見えないが、銃磨の手には彼女のお手製のデフォルメされた『弥生ちゃん人形』が握られていた。
人形の口の部分が妙に湿っているのはご愛嬌。
使用目的を深くツッコんではいけない。
「は…………?」
いきなりのケーキに困惑しつつも、フォークを手に取ってケーキを一掬い……しようとしたところで、初めて自分の周囲が変な空間になっている事に気が付いた。
(な…なんで皆してこっちを見て……?)
弥生にとって、ここは数少ない穴場のつもりだったが、今日に限って何故か目立ちまくっている。
弥生がここに来た頃には、まだ人の姿も疎らで、のんびりと読書が出来ていた。
しかし、今の弥生はものの見事に晒し者と化している。
こんな状況で正常でいられるような、鋼の精神を持っていない。
弥生の精神は、鋼どころか障子紙レベルである。
「…………あむ」
取り敢えず、半端に口に運ぼうとしたケーキを食べる。
(あ、美味しい……。これ、ワンホールで食べたいな……)
口の中に広がる生クリームを味わいながらの現実逃避。
そこに、弥生を更に追い詰める存在が姿を現す。
「あ~、ここにいた~」
弥生を一方的に友達認定している桜井美保である。
周囲の状況など気にせずに、屈託のない笑顔を浮かべながら弥生の座る席に近づいて行く。
「弥生お姉さまと同じクラスの、美保お姉さまよ……」
「あの方も素敵だわ……♡」
サバサバした性格が幸いし、桜井は弥生とは別のベクトルで人気が出ていた。
「それに加え、高等部のアイドルである銃磨お姉さまもいるし……」
「私……ここに入学してよかった……♡」
学園での人気者が揃ったこの状況は、憧れを持って入学した新入生たちには、とても輝いて見えた。
だが、当の本人達は彼女達の羨望の眼差しを微塵も気にしていない面々。
桜井は元々から気にしていないし、銃磨は弥生に夢中でそれどころではない。
弥生に至っては、緊張と混乱のあまり、頭がぐるぐるとなっていた。
「いきなり消えて、どこに行ったかと思ったわよ? ここ、座るわね」
「あ……」
弥生が何か言う前に桜井は遠慮無く座る。
この性格が弥生は非常に苦手だった。
「何読んでるの? あ、これ私も持ってる。面白いわよね~」
横から覗き込むようにして本を見て、コミュ力が高い事を存分にアピール。
そんな様子を見て、弥生の事を特に想っている少女達が黙っているわけがない。
「なんなんだ彼女は……! まさか、板垣さんの恋人……!?」
銃磨は桜井と弥生の関係を深読みしすぎて、静かにライバル意識をメラメラと燃やし……。
「弥生さんは私のもの。弥生さんは私のもの。弥生さんは私のもの。弥生さんは私のもの。弥生さんは私のもの。弥生さんは私のもの、弥生さんは私のもの。弥生さんは……」
物陰から密かに弥生に熱い視線を送っている神楽は、ドロドロとしたオーラを漂わせながら、ハイライトの消えた瞳で桜井を強く睨みつけていた。
「ひぅ……!?」
「ど…どうしたのよ?」
「な…なに…か……背筋……がゾク…ってなった…よう…な気が……」
「背筋がゾクって、もしかして風邪を引きかけてる? 気を付けた方がいいわよ。風邪は引きかけが肝心なんだから」
「ん………」
まだ温もりを保っている紅茶を口に含んで、喉に流し込む。
その頃には周囲の野次馬達は解散……しているわけではなく、ある者は歩きながら、またある者は集団で話している振りをしながら、未だに弥生達の事を遠目で見つめている。
「あれ? 他の子達がいなくなってる?」
「ほっ………」
まだ桜井が傍にいるが、それでも、あのミーティア・フルバーストのような視線の雨に晒されているよりは幾分かマシだった。
「そのケーキ美味しそうね。私も頼もうかしら。すいませ~ん!」
手を上げて店員を呼び、弥生と同じケーキを注文する。
その隙を狙って、弥生は再び本に集中しようと試みた。
すぐに弥生は本に夢中になり、無言で視線だけを動かしていく。
その様子を桜井は面白そうに見つめながら、ふと空を見上げる。
「今日も、いい天気よね~」
こうして、今日もまた一日が過ぎていく。
弥生がIS学園に入学するまで、あと1年。
ここでまさかの新キャラ(?)の四十院神楽の登場です。
何らかの形で原作に出てきたチョイ役のキャラを絡ませたいと思って、原作を少しだけ見ていて、彼女をチョイスしました。
詳しい設定は知らないんですけど、二次創作とかではよくお金持ちのお嬢様設定だったので、別にいいんじゃね?って思って、ここで登場して貰う事に。
と言っても、完全にキャラ崩壊してますけどね。
まさか、最後の方でヤンデレ化してしまうとは……。
次回は三年生編。
今度で中学時代の話は終了し、本格的に夏休みの話に突入します。