なんでこうなるの?   作:とんこつラーメン

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今回で中学生篇はラストになり、次回から夏休み編に突入します。

更に、ここで弥生がIS学園に行った理由と、今まで言及されなかった弥生のIS適性も判明します。






板垣弥生の中学生日記(三年生編)

 月日は流れ、弥生達ももう中学三年生。

 中等部限定ではあるが、最上級生ともなれば、嫌でも後輩達から注目される立場となる。

 それが、学園内で有名となっている弥生を初めとする面々ならば猶の事。

 

「おはようございます。弥生お姉さま」

「お…おはよう……」

「今日もいいお天気ですわね。弥生お姉さま」

「そう…だ…ね……」

「実は、お姉さまの為にクッキーを焼いてきたんです! 是非とも食べてください!」

「あ…りがとう…ね……」

 

 このように、少しでも廊下に出て歩けば、その瞬間に彼女に強い憧れを抱いている女子生徒達に囲まれてしまう。

 

(うぅ~……どうして私に近づいてくるのかなぁ~…。別に私に関わったって何も面白い事なんて無いのに……。それと『お姉さま』って何? 前々からずっと気になってたけど、どうして上級生の事をそんな風に呼ぶんだろう……。まぁ、クッキーは普通に美味しかったけど)

 

 入学してもう三年目に突入しているにも関わらず、未だに自分の立場と言う物を正しく理解していない弥生。

 それと言うのも、実はこの頃の彼女は原作開始時よりも警戒心が増していて、幾ら原作に登場していない人間でも、どこでどんな風に原作ヒロインと繋がっているか分からない為、必要以上に他人に対する警戒心が強くなっているのだ。

 

(もうすぐ……原作開始……か……)

 

 自分が転生者である以上、否が応でも原作に関わらされると思っている弥生は、一日一日が憂鬱で、それ故に自分の気持ちを悟られないように、必死に仮面を被りながらも、自身のストレスを発散する事に全力を注いでいた。

 

 こうして、弥生の中学生生活最後の一年が幕を開けた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 三年生ともなれば、嫌でも『受験』と言う言葉と関わってくる。

 厳密に言えば二年生の後半辺りから進路相談などで受験の言葉は耳にするだろうが、本格的に関わってくるのは三年生になってからだろう。

 弥生とてそれは例外では無く、彼女は放課後に図書室にて自主的に勉強を行っていた。

 

「………………」

 

 完全集中モードに入っている弥生は、只管に目を動かして、ノートの上でペンを走らせる。

 ノートにはびっしりと公式や文法などが書かれていて、弥生の本気度が窺える。

 

 真剣に勉強に取り組む弥生の姿を見て、図書室に訪れた殆どの生徒が彼女に見惚れていた。

 本来なら注意すべき立場である図書委員ですらも。

 だが、そんな図書室にて約一名だけ、普通にしている少女がいた。

 

「ここをこうして……と。出来た」

 

 勉強をしている弥生の隣で、桜井が笑顔で彼女の髪を弄って、色んな髪型にしていた。

 今の弥生の髪型はポニーテール。

 頭を動かす度にポニーテールが揺れて、周囲の少女達を萌えさせる。

 

「今度は~……っと」

 

 ポニーテールを解いてから、次に変えたのは三つ編み。

 しかも、二つに分けて桜井と同じ髪型に。

 

「お揃い~♡ なんちゃって」

 

 だが、それでも弥生は全く反応しない。

 これで眼鏡でもかけていれば、瞬く間に委員長キャラの一丁あがりだ。

 

「お次は~……」

 

 完全に桜井の玩具となっているが、それを止める者は誰もいない。

 何故なら、次はどんな髪型にするのか気になって仕方がないから。

 

「サイドテール。一気にイメージが変わるわね」

 

 ここまでされれば普通は嫌でも気が付きそうだが、弥生の集中はこの程度では崩せない。

 だから、桜井は更に調子に乗る。

 

「まだ粘りますか~。そ~れ~な~ら~……」

 

 サササッ……っと櫛とヘアゴムを使って手早く弥生の髪型が変わっていく。

 今度の髪型は……

 

「王道にして魅惑のツインテール♡ やっば……このツインテールの弥生って可愛すぎ……♡」

 

 ここは図書室。

 大声を上げるなどもってのほか。

 だから、生徒達は声を立てずに鼻から『愛』を噴き出した。

 

 そんな生徒達の中に、あの二人も勿論いる訳で……。

 

「ナイスだ……ナイスだぞ! 桜井さん! まさか、図書室で板垣さんの色んな姿を見れるとは……♡ ちゃんと携帯で撮影したし、家に帰ってからプリントアウトして部屋に飾らなくては……」

 

 ある意味で弥生よりももっと深刻な状況にあると思われる、高校三年生になった落合銃磨。

 お前も立派に受験シーズンだろうに。

 こんな所で油を売っていていいのか。

 

「弥生さん素敵♡ 弥生さん可愛い♡ 弥生さん最高♡ 弥生さん萌え♡ あ……濡れちゃった……♡」

 

 完全に目をハートマークにした弥生のストーカーの四十院神楽。

 弥生のハンカチの匂いを嗅いだだけで興奮してしまう彼女が、弥生の髪型七変化を見せられて、我慢が出来る筈がない。

 結局、神楽は音も無く図書室を名残惜しそうに去っていき、そのまま女子トイレに直行。

 そこでナニをしたかは……読者諸君のご想像にお任せする。

 

 閉鎖時間ギリギリまで弥生は勉強を続けて、それまでずっと桜井は弥生の髪で遊び続けていた。

 勿論、最終的には元に戻してバレないようにしたが。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 月日が流れるにつれて、進路に関する三者面談や二者面談が徐々に増えてくる。

 

 弥生は会釈をしながら生徒相談室から出てきて、廊下で待っていた桜井に目配せをする。

 

「お待た…せ……」

「ん」

 

 別に弥生の方は桜井の事を友達認定してはいないが、それでも、学園内で数少ない気の許せる存在であることは確かだった。

 桜井は弥生の前に二者面談をして、その後にこうして彼女を待っていてくれたのだ。

 

「弥生ってさ、どこを受験するの?」

「IS学園……」

「えっ!? マジでっ!?」

「うん………」

 

 桜井が驚くのも無理は無い。

 世間でのIS学園のイメージは、聖マリアンヌ学園と同じ男子禁制の女性の花園であると同時に、世界中を賑わせているISの専門学校。

 入学倍率だけでもとんでも無い数値を誇るのだが、それでも毎年、世界中からIS学園の門を潜ろうとする少女達が後を絶たない。

 

「まぁ……弥生は中等部で一番の成績を誇ってるし、勉学の面に関しては大丈夫でしょうね」

 

 一年生の時からずっと無自覚のまま成績を一番でキープし続け、それが三年間続いた。

 それに加え、普段からの生活態度も申し分なく、教師達の中では『最も模範的な生徒』としてIS学園に密かに推薦状を送ったほど。

 

「そう言えば、この間あった『簡易IS適性検査』をした時、どんな結果が出たの?」

「それは……」

「あ~……そうだった。今はまだ家族以外の人に言っちゃいけないんだった。ごめんね」

 

 仮に高い適性値が判明し、それを口外して外部に漏れた場合、どんな連中がやって来るか分からない。

 だから、学園側は生徒達に検査結果を言わないように呼びかけていた。

 

(そうじゃなくても、最初から言う気は無いんだけどね……)

 

 廊下の向こうからやって来た後輩とすれ違いながら挨拶を交わし、弥生は頭の中で自分の適性値を反芻していた。

 

(まさにご都合主義だよな……。私にIS適性がSだなんて。これも絶対に『神』が仕組んだ事だろう……)

 

 『S』ランクと言う破格の結果が出た時、検査員は驚きを隠せなかった。

 しかも、それが内閣総理大臣の義娘ともなれば猶更だ。

 慌てて検査員は弥生に結果を言わないように言って、表向きは別のランクにするようにした。

 そうでもしないと、これからどうなるか分からないからだ。

 

「でも、なんでIS学園に? 何か理由でもあるの?」

「おじいちゃん……に薦め…ら…れた…の……」

「おじいちゃんって、弥生のおじいちゃんに?」

「ん……」

 

 総理大臣の義娘ともなれば、存在自体が超VIPだ。

 それに加え、適性検査でSなんて結果を出せばどうなるか、想像に難くない。

 だから、総理は弥生にIS学園行きを強く薦めた。

 あそこならば、セキュリティがしっかりしているから大丈夫と。

 来年から新しい校則も作られ、少なくとも三年間は安全が保障される。

 総理の義娘であることや、Sランクの事を誤魔化しながら、その旨を桜井に説明すると、意外とそっけない返事が返ってきた。

 

「ふ~ん……そっか」

(もうちょっと反応してくれても……って、別に友達じゃないんだから、これが普通か)

 

 しかし、弥生は知っている。

 IS学園は決して安全ではないと言う事を。

 例の校則にも穴がある事を。

 でも、だからと言って、ここで自分の事を心配してくれた養父の優しさを無下にするなど、弥生には絶対に有り得ない。

 

(私がこんな風に思う事も『神』の掌の上なんだろうな……)

 

 これが転生者である自分の宿命なんだと諦めて、最終的に弥生はIS学園を受験することを決めた。

 勿論、受験をすると決めた以上は全力を尽くす。

 受験日当日まで、やれる事は全部やるつもりでいる覚悟だ。

 

「桜井さん……は…どこ……を受け…るつもり…な…の……?」

「私は、ここから少し離れたところにある『幕南高校』に行くつもり」

 

 幕南高校。

 正式名称は『県立 幕張南高等学校』。

 一見するとごく普通の県立高校なのだが、実は裏にはIS学園に匹敵する秘密が隠されている謎の多い高校。

 

「中高一貫と言っても、私みたいに別の高校に行く子も結構多いみたいよ?」

「そう…な…んだ……」

 

 別に、そのまま高等部に上がるだけが全てではない。

 中高一貫教育を謳っておきながらも、意外とその辺に関しては柔軟な学校であった。

 

「ここを卒業したら、お互いに楽には会えなくなっちゃうわね……」

 

 別に桜井とはプライベートで関わりを持った事は無い。

 それなのに、自分との別れを惜しんでくれている。

 弥生は、初めて桜井に対して不思議な感情を抱いた。

 

(なんだろう……。桜井さんの寂しそうな顔を見たら、胸が締め付けられるように痛かった……)

 

 この時に感じた感情がなんなのか、弥生は後になっても分からないでいる。

 これが分かるようになった時、弥生はまた一つ成長するのかもしれない。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 受験シーズンも終わりを告げ、今日は聖マリアンヌ学園中等部の卒業式。

 何事も無く卒業式は幕を閉じ、今は講堂の外で卒業生たちが中学生最後の会話を楽しんでいた。

 

「ん~! 複数の意味で終わった~!」

「複…数…って……」

「複数じゃない。受験と中学生活と卒業式」

 

 卒業式で号泣する生徒が多い中、弥生と桜井だけは全く泣かなかった。

 桜井は生来の性格ゆえだったが、弥生はこの後に控えている原作開始が心配で心配で、泣いているような心の余裕が全く無かったのだ。

 

「「「「「弥生お姉さまぁ~!!」」」」」

「うわぁっ!? な…なんなのっ!?」

 

 後輩の1・2年生たちが一斉に弥生の所に押し寄せてきた。

 彼女達は全員が泣きまくっていて、目が真っ赤に腫れている。

 

「お姉さまと過ごした日々は絶対に忘れません!!」

「弥生お姉さまは、永遠に私達のお姉さまです!!」

「この思い出を胸に、私達はこれからも頑張っていきます!!」

「だから、お姉さまもIS学園で頑張ってください!!」

 

 もうどうしたもんやら。

 こんな経験は初めてな為、どう対応したらいいか困り果てていた。

 

(と…取り敢えず、頭でも撫でてみるか……?)

 

 なんでそこで頭を撫でると言う発想に行きつくのか。

 何気に弥生も天然である。

 

「ありがとう……ね……」

 

 一人一人の頭を丁寧に撫でていき、それぞれに感謝の意を述べる。

 その際に、自然と笑顔を浮かべていたのだが、それが彼女達のハートを直撃した。

 

「お姉さま……なんてお優しいの……♡」

「この髪……一生洗わないわ……♡」

「もう…何も悔いがありません……」

「お姉さまと同じ時代に生まれてよかった……♡」

 

 大げさ過ぎる反応に、増々困る弥生。

 何をしても堂々巡りになるのは目に見えていた。

 

「あの……最後に一つ、お願いをしてもいいですか?」

「なに……?」

「お姉さまの制服のボタンを一つください!!」

「え……?」

 

 ここでそれを言いますか。

 でも、ボタンを渡すだけで収まりがつくのであれば安いものだ。

 そう判断した弥生は、二つ返事でボタンを渡す事にした……が、それが弥生の運の尽きだった。

 

「えっ!? 弥生お姉さまの制服のボタンっ!?」

「私も欲しい!!」

「弥生お姉さまとの思い出、私にも頂戴!!」

 

 今日限定で地獄耳を発揮した後輩たちが一斉にやって来て、たちまち弥生の周りは後輩達で一杯になってしまう。

 因みに、桜井はしれっと退避して、遠くからその様子を眺めていた。

 

「あわわわわ~……」

 

 見る見るうちに弥生の制服からボタンが無くなっていき、気がついた時にはブレザーから全てのボタンが無くなっていた。

 

「「「「「ありがとうございました!! 弥生お姉さま!!」」」」

「ど…どういた…しまし…て……」

 

 この一連の騒動だけで、かなり体力と精神力を使い果たした弥生。

 肩を落として、近くの柱に体を預けて楽な姿勢になる。

 

「ご苦労様。弥生お姉さま」

「うぅ~……」

「ははは……」

 

 恨めしそうに桜井を見つめる弥生。

 そこに、一つの影が近づいてきた。

 

「あ…あの……板垣さん!!」

「ん……?」

 

 やって来たのは、弥生と同じように卒業する筈の四十院神楽。

 彼女も顔を真っ赤に染めながら、目尻に涙を溜めていた。

 

「私にもボタンを頂戴してもよろしいでしょうか!!」

「いや、アンタも同じ卒業生でしょうが」

「そんなの関係ありません!! 欲しい物は欲しいんです!!」

「我儘お嬢様かよ……」

 

 桜井が呆れている中、弥生も困っていた。

 もう制服にボタンなんて一個もない。

 渡したくても渡せないのだ。

 

「あ………?」

 

 何気なくポケットを探っていたら、奥の方に何かを発見した。

 試しに取り出してみると、それは袋に入った制服用の予備ボタンだった。

 

「これ…でよか…ったら……」

「いいんですかっ!? ありがとうございます!!」

 

 差出したボタンを一瞬で取って、まるで宝を持つように慎重な手つきで眺める。

 

「これは四十院家の家宝にするべきだわ……」

「「しなくていいから」」

 

 弥生と桜井のダブルツッコみ。

 卒業式にて初めて息が合った二人だった。

 

「では、私はこれで失礼します!! お母様~! お父様~! 神楽はやりましたぁ~!」

 

 去り行く神楽をジト目で見つめながら、桜井と弥生は大きな溜息を吐いた。

 

「あんな子が同級生にいたなんて、初めて知ったわ……」

「私…も……」

 

 本当は弥生は過去に一度、神楽に出会っているのだが、完全に忘却の彼方に行っていた。

 

「そういや、弥生のおじいちゃんはどうしたの?」

「おじいちゃん……なら……同級生達…や……後輩…との話…を邪魔す…る訳…にはいかない……って言って……保護者…の人達…が集まって…る場所……に行った…よ……」

「そっか~。何気に空気を読む、いいおじいちゃんね」

「自慢…のおじいちゃん……」

 

 舞い散る桜吹雪を眺めながら、弥生は青く透き通った空を見上げる。

 雲一つない快晴で、最高の卒業式日和だった。

 

(ここから……全てが始まる(・・・・・・)

 

 今日、弥生は中学を卒業し、一か月後にはIS学園へと入学する。

 そこで、自分の想像を遥かに超えた波乱に満ちた学園生活を送る事になろうとは、まだこの時の弥生は想像すらしていなかった。

 

 板垣弥生15歳。

 真の意味で人生の分岐点に立つ。

 

 そして、『原作(インフィニット・ストラトス)』が始まる。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 余談だが、意外な事に卒業式に姿を出さなかった銃磨はと言うと……。

 

「まさか、板垣さんがIS学園に行くとは……。彼女の可愛らしい姿も、これで見納めなのか……」

「落合さん。何してるの?」

 

 高等部の生徒と言う事で中等部の卒業式には参加できず、こうして自分の教室から双眼鏡を使って遠くにいる弥生の姿を観察して嬉しそうな悲しそうな顔を浮かべていた。

 

 最後まで、彼女は彼女のままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




飛び飛びになりましたが、これで中学生篇は終了です。

予告通り、次回からようやく夏休み編に突入です。

夏休みも色々と予定しますよ~。

一夏の特訓以外にも、弥生とヒロインズとの日常とか。


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