なんでこうなるの?   作:とんこつラーメン

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前回も言った通り、夏休み編は基本的に弥生サイド→一夏サイドの順で交互に話が進んでいくようにしたいと思います。

途中でイベントの都合上、二人の視点が交わる場合もありますが。

そんな今回は、一夏の特訓の一回目。

遂に、幕張における主役級の面々のご登場です。

と言っても、皆さんが予想しているような形じゃないとは思いますが。

過去の私の作品を読み漁った人達ならば、展開が分かるかも?











一夏の特訓 その1

 臨海学校にて板垣総理から特訓の申し出を受けてから、一夏は総理と鬼瓶と携帯の番号を交換して、いつでも連絡が出来るようにした。

 そして、本格的にIS学園が夏休みに突入してから、すぐに鬼瓶から連絡が入り、レゾナンスにて彼と待ち合わせ。

 その後、鬼瓶の運転する車である場所へと向かった。

 

 一夏が特訓に赴く事は既に姉である千冬にも知らせ、本人から直接の了承を得ている。

 今まで自分から積極的に何かをしようとしてこなかった弟が、己の口から『特訓をしたい』と言い出した時は、思わず心の中で歓喜をした。

 勿論、下手に顔に出せばまた何かを言われるから、決して表情には出さなかったが。

 

 とにもかくにも、千冬はいつの間にか頼もしくなりつつある弟の背中を見送りながら、鬼瓶に彼の事をよろしく頼むと伝えた。

 鬼瓶も、一夏に対してスパルタ的な事はするつもりは毛頭ない……と言うよりは、仕事が忙しくて特訓に参加しようがないので、一応はちゃんと見ておくと伝えてはおいたが、実際の話、どうなるかは気が気でなかったのが実情のようだ。

 

 この特訓で何を掴み、何を得るのか。

 それは全て彼に掛かっている。

 

 更に、この特訓にて一夏に新たな出会いが待っているのだが、それが彼にどんな影響を与えるか、それは誰にも分からない。

 

 

 

 

 

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・・

 

 

 

 

 ベーカリー鬼瓶。

 千葉県の幕張市にある、嘗ては鬼瓶の両親がパン屋を経営していた店舗なのだが、彼の両親がパン屋を引退して実家に帰ってからは、中身を改装してから彼が一人で住んでいる。

 何故かまだ表には『ベーカリー鬼瓶』と書かれた看板があるのだが、『ベーカリー』の部分には黒いテープでバツ印がしてある。

 

 そんなベーカリー鬼瓶の裏手にはそこそこの広さを誇る空き地があり、その場所に吉六会の資金で様々な施設が建設されていた。

 その施設の一つである道場から、勢いある叫び声が何度も聞こえてくる。

 

「おらぁっ!!!」

「ぐぁっ!!」

 

 道着を着た一夏が板張りの床に叩きつけられた。

 それを成したのは、彼の目の前にいる一人の美少女。

 

「おいおい……もうダウンか?」

「くそ……まだだ!」

 

 非常に長く綺麗な金髪を靡かせて、その目は青く染まっている。

 肌も白く、パッと見では明らかに欧州系の人間のように見えるが、彼女は日本育ちの立派な日本人である。

 

 汗を袖で拭いながら、一夏は立ち上がり、再び彼女と対峙する。

 

「もう一回頼む!! 塩田さん!!」

「割と根性あるじゃん。いいぜ……来いよ!!」

 

 そんな少女の名は『塩田鉄人(てつひと)』。

 格闘技の達人であり、幕張南高校の一年生。

 そして、フランス人と日本人のクォーターでもある。

 

(この子……物凄く強い! 単純な強さなら、間違いなく千冬姉クラスだ!)

 

 鋭い目で塩田を威嚇するが、一瞬だけその恰好に目線を奪われてしまう。

 

「ん? どうした?」

「な…なんでもない……」

(どうして、よりにもよって体操服なんだよ!! しかもブルマ!!)

 

 美少女コンテスト優勝者も顔負けする程の美貌を持ち、更にはスタイルも申し分ない塩田の生足は、まだまだ純情な一夏には刺激が強すぎた。

 この体操服は、幕南高校指定の体操服である。

 ちゃんと男心を分かっている高校だ。

 

 そんな二人を道場の壁に寄りかかりながら見つめる五つの影が。

 

「頑張るな~……彼」

 

 塩田とは対照的に、足首まで伸びた銀髪を持つ少女『叶親彩愛(あやめ)

 

「暑苦しいったらないな。折角のクーラーも意味無いじゃん」

 

 バンダナで前髪をかき上げている、長い茶髪の少女の『吉崎真由美(まゆみ)

 

「そう言うなって。私はいいと思うけど? あんな風に頑張っている姿勢は個人的には好感が持てる」

 

 黒いショートヘアで、少しボーイッシュな感じの少女『嶋鳥朱美(あけみ)

 

「あれで通算30回目だよな、倒されるのって。あ、またぶっ飛ばされた」

 

 眼鏡を掛けて、グラビアクラスのスタイルを誇るくせっ毛のある長い黒髪を持つ女子『鷹橋涼香(すずか)

 

「彼ってば、なんか面白いね~!」

 

 さっきからニコニコ笑顔を絶やさない、ツンツンで長い髪をうなじで纏めている一夏よりも背の高い少女の『植村(あかね)

 

 IS学園にも決して引けを取らない程の美少女達が一堂に会し、塩田によって叩きのめされている一夏を見ていた。

 

「ほぉ~れ、もう一発!!」

「ぶあぁっ!?」

 

 今度は顔面から落下し、板張りの床とダイレクトなキスをする。

 真っ赤に腫れた顔を擦りながら、ゆっくりとまた立ち上がる。

 

「い…痛ぇ~……」

「なら、少し休憩するか?」

「いや……俺は……」

「お言葉に甘えて休憩しちゃいなよ~」

 

 このままでは、文字通り体力が尽きるまで塩田に向かって行きそうなので、叶親が止めに入る。

 

「アイツの言う通りだ。無理をしたって意味ねぇし、これはあくまでお前の今の実力を測る為にやってる事なんだぞ? そこで力を使い果たしちゃ、特訓にならないじゃねぇか」

「御尤もです……」

 

 同い年の少女に正面から論破されて、我に返る一夏。

 負けず嫌いな性格が災いし、塩田に倒される度に、いつの間にか自棄を起こしていた。

 

「ほれ。まずは水道で顔でも洗ってサッパリしてこいよ」

「そうさせて貰うよ……」

 

 疲れ果てた様子でトボトボと道場を後にする一夏。

 その姿を見送りながら、塩田は他の皆の所に行く。

 

「で? どうだった?」

「筋は悪くないと思う。ブランクが長いと言っても、体には剣道をしていた時の体捌きが染み着いていた……少しだけだけどな」

「それはここから見てても分かったけどね」

 

 叶親が頷きながら答えると、横から吉崎が発言する。

 

「ISの技術とか、武道の実力とかよりも、まずは完全に衰えた体力を取り戻す事から始めるべきだろうな」

「同感。幸いな事に基礎はしっかりとしてたから、当面はそれを課題にすべきだろう」

「だが、そうなると……」

「かなりのスパルタになりそうじゃない? 夏休みの時間は限られてるし、私達だっていつまでも暇じゃない」

 

 吉崎、嶋鳥、鷹橋、植村の四人がそれぞれに意見を出す。

 

 特訓をする際に当たって、この六人は予め一夏のこれまでの経緯と、特訓をする理由を聞いていた。

 

「にしても、あの弥生を護る為に……ねぇ~……」

「惚れてるんだっけ? 彼」

「らしいな。鬼瓶さんがここに連れてきたって事は、総理も認めているって事なんだろうけど……」

「初々しいねぇ~」

 

 この六人、総理を通じて弥生とも知り合っていて、六人とも弥生の事は大切な親友だと思っている。

 だからこそ、弥生に想いを寄せる一夏に対しては複雑な思いがある。

 

「ま、別に応援とかはするつもりはないけどな。強くなる事と、惚れた女を落とすことは全くの別問題だ」

「だぁ~ねぇ~。こればっかりは私達が介入しちゃいけないでしょ」

「当人達の問題だしね」

 

 何やら大人びた言葉を言っているが、彼女達もまた特別な立場にいる人間で、決して普通とは言い難い人生をこれまで送ってきている。

 故に、嫌でも体よりも精神の方が先に成熟してしまうのだ。

 

「もうそろそろ、小栗さんと兵庫さんも来るんだっけ?」

「みたい。さっきメールが来たから」

 

 小栗と兵庫。

 この二人もまた、彼女達とは縁が深い相手であり、特に叶親と吉崎には無下には出来ない男達でもある。

 

「さて、これからどうするかねぇ~……」

 

 太陽光がさんさんと降り注ぐ空を窓から見上げつつ、腰に手を当てながら塩田は静かに呟いた。

 

 

 

 

・・・・・

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・・・

・・

 

 

 

 

 道場の外に設置された水道の蛇口を捻って、そこから勢いよく流れてきた冷たい水を頭から思い切り被る。

 冷たい水道水が俺の火照った頭を冷やして、冷静にしてくれた。

 

「滅茶苦茶強かったな……」

 

 まさか、俺が夏休みに他の高校の女子と交流をする事になるとは思わなかった。

 確か、幕張南高校……だったっけ?

 

「俺……ここまで弱かったんだな……」

 

 塩田さんの実力はずば抜けて凄かった。

 でも、あれから自主的に体を鍛えたりはしていたから、少しぐらいは可能性があると思っていたけど……。

 

「まともに近づく事すら出来なかった……!」

 

 塩田さんと俺とじゃ、余りにも実力が違い過ぎた。

 今の俺でも、彼女が相当に手加減をしていた事ぐらいは理解出来る。

 恐らく、真の実力の100分の1も出していないだろう。

 

「塩田さんであれなら、他の五人も凄いんだろうな……」

 

 間違いなく、あの六人は武道の達人だ。

 それも、世界に通用するレベルの。

 

「塩田さんと叶親さんが一年生で、吉崎さんと嶋鳥さんと鷹橋さんと植村さんが二年生……だったよな」

 

 凄く仲が良さそうにしていたから、あの6人はもしかしたら幼馴染とかなんだろうか。

 それに、弥生の事も知っていた様子だったし。

 

 少しだけ思案に耽ってから、俺は蛇口を締めてから頭を上げた。

 

「ふぅ~……スッキリしたぁ~……」

 

 これだけでも随分と違うなぁ~!

 今年の夏はかなりの猛暑だって聞いてるから、熱中症とかにならないように気を付けないとな。

 

「お疲れさん」

「うわぁっ!?」

 

 いきなり頬に冷たい感触がっ!?

 思わずその場から飛び跳ねると、そこには白いTシャツとジーパンを履いた、耳にピアスをしたチャラい感じの青年がペットボトルを持って立っていた。

 

「君が織斑一夏君だろ?」

「あ…アンタは……」

「俺は『小栗又一郎(またかずろう)』。吉六会の幹部の一人で、幕南高校一年。つまりは君と同い年って訳だ。よろしく」

「ど…どうも……」

 

 本気でビックリした~……。

 あれ? 吉六会って総理や鬼瓶さんも所属している組織的なもの……だよな? 詳しくは教えて貰ってないけど。

 俺と同年代でその幹部って……凄くねっ!?

 

「いきなり彼を驚かしてどうするんだ。小栗君」

「あ、兵庫さん」

 

 小栗と言う人の後ろからやって来たのは、眼鏡を掛けた落ち着いた雰囲気の男。

 見た感じは高校生に見えなくはないけど……。

 

「済まなかったな、彼が驚かしてしまって」

「あ……いえ。別に気にしてませんから」

「そうか」

 

 お…大人だぁ~……。

 この落着きよう、めっちゃ大人って感じがする。

 

「俺は『兵庫吉晃(きっこう)』。幕南高校の二年生で、小栗君と同じ吉六会の幹部をやっている」

 

 この人も幹部っ!? しかも二年生って……先輩かよっ!?

 たった一年でここまで大人びてしまうもんなのか……高校生って。

 

(いや……楯無さんって例もあるしな。一概にそうとは言い切れないか)

 

 あの人も兵庫さんと同じ高校二年生だけど、明らかにこっちの方が大人な感じがする。

 

(ちょっとっ!? それって酷くないっ!?)

 

 どこからか楯無さんの悲鳴が聞こえたような気がしたが、気のせい気のせい。

 

「インテリ系に見えて、実は兵庫さんは高校ボクシングの世界チャンプなんスよ」

「世界チャンプっ!?」

 

 この大人しそうな人がボクシングをして、しかも世界一だってっ!?

 

「昔の話さ。今はもうボクシングは引退したしな」

「え? なんで……」

「吉六会としての活動に専念したくてね」

 

 世界の頂点にまで上り詰めたのに辞めてしまうなんて……。

 吉六会って、そんなにも大事な組織なのか……。

 

(でも、千冬姉もISで世界一になってから引退したし、こういった話は割とよくある事なのかもしれない)

 

 千冬姉の場合は、完全に俺のせいなんだけどな……。

 

「にしても、なんでここに?」

「ほら。総理と鬼瓶さんが仕事で来れないだろ? だから、俺達が代わりに来たんだけど……」

「我々もまだ未成年。矢張り、ちゃんとした成人がいた方がいいだろうな」

「となると、必然的に頼れる人は一人だけッスね」

 

 一人だけって……誰だ?

 

「織斑君は暫くの間はこっちに泊まっていくんだろう?」

「そう聞いてますけど……」

 

 総理からは、泊まり込みで特訓をすると聞かされて、それなりの量の着替えとかを持ってきた。

 かなり重かったけど、それもまた訓練の一環だと思うと、なんとか頑張れた。

 

「店を改装しただけに、ここはそこそこの広さがあるからな」

「それに、基本的に住んでるのは鬼瓶さん一人だけだし」

 

 え? あの人って一人暮らしだったのか?

 

「そう言えば、鬼瓶さんってなんの仕事をしてるんですか?」

「あれ? 聞かされてないの?」

「全く」

 

 つーか、普通に聞くのを忘れてた。

 

「あの人は普段は、集英社でとある漫画雑誌の編集者をしているよ」

「とある漫画雑誌って……」

「愛と友情と勝利……って言えば分かると思う」

「そ…それってまさかっ!?」

 

 あの……超有名な週刊漫画雑誌のことかっ!?

 鬼瓶さんってスゲー!!

 

「表向きの顔とは言え、冗談抜きで凄いよな……」

「隠れ蓑になっているのかどうかは疑問ッスけどね……」

 

 表向きの顔って……隠れ蓑って……。

 

「で、こんな場所で君は何を?」

「えっと……」

 

 俺はさっきまでの事を、出来るだけ事細かに二人に話した。

 

「成る程な。それは仕方がないよ」

「ですよね……」

「塩田さんの強さは、あの6人の中でも最強だから」

「え?」

 

 さ…最強とな?

 

「なんせ、三日間何も食べずに飢えて殺気ビンビンの雄ライオンと電流の流れた鋼鉄製の檻の中でタイマンデスマッチをして普通に勝っちゃったしね」

「ええぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 ライオンとタイマンをして勝ってるのかよっ!?

 しかも、およそ考えうる最悪の状況で!!

 

「彼女には絶対に勝とうとは思わない事だ。伊達に『鉄人(てつじん)』の異名を持ってないって事さ」

 

 異名の事は知らないけど、俺……ちゃんと生きて家に帰れるのかな……。

 塩田さんがライオンに勝てるって事は、他の皆も同レベルの実力があるって事だよな……?

 

「でも、実戦型の訓練をするには最適の相手だろうな」

「塩田さんに限らず、他の五人も規格外ですしね~」

 

 ですよね。

 

「「ま、頑張れ」」

「THE・他人事!?」

 

 そんな慈愛に溢れた目でこっちを見ながら肩を叩かないでぇぇぇぇっっ!!

 

「取り敢えずは、戻った方がよくないか?」

 

 兵庫さんの言う通り、少し長居しすぎたかもしれない。

 そろそろ戻らないと、どうなるか……。

 

「俺達も一緒に行くから」

「泥船に乗った気でいてくれよ」

「泥船じゃダメじゃん!!」

 

 特訓でも女の子だらけだったら、こうして同性が来てくれるのは凄く助かるけど、妙な二人組だなぁ~……。

 悪い人達じゃなさそうではあるけど。

 

 この夏休みは、今までで一番大変な夏休みになりそうだ……。

 弥生の為ならどんな事でもする覚悟はある……けど、一日目にして早速、弥生の事が恋しくなってきた……。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




そんな訳で、塩田たちはまさかのTSしての登場です。

6人と聞いて、塩田達に加えて奈良が来ると予想した人達もいるようですが、今回は吉崎が来ました。

実は、あの女体化した塩田達6人は、私が個人的に書いていた作品に登場したキャラで、主人公は塩田です。
 
次回以降の一夏の特訓回では、塩田達のプロフィールを載せようと思います。

今度は弥生サイドのお話になります。

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