代表候補生の皆が日本に帰ってくるタイミングで板垣家の大掃除をする事になった弥生。
ヒロイン総登場になるのは当然ですが、今回はもっとド派手にしています。
間違いなく、今までで一番の人数が出演しています。
一夏が千葉県幕張市にあるベーカリー鬼瓶にて、吉六会の面々と塩田達によって猛特訓を受けている頃。
それぞれの故国にて代表候補生としての仕事をする為に帰国していた少女達が次々とIS学園へと帰って来ていた。
その際に箒や本音と言った日本残留組とも連絡をして、途中で合流で出来るようにしておいた。
弥生の自宅の場所は、予め担任である千冬から聞かされていた為、行くこと自体は不可能ではない。
その気になれば、スマホの地図系のアプリで調べればいい話だし。
だが、今回はそれだけでは終わらなかった。
まず、当然のように楯無も同行してきた上に、そんな彼女と自身の妹が心配になって虚がついて来て、更にはロランがまた弥生に何か変なちょっかいを出さないようにと、半ばお目付け役のような形でダリルとフォルテも追加。
最終的に、箒にセシリアに鈴にシャルロットにラウラに楯無に簪に本音に虚にロランにダリルにフォルテと、総勢12人と言う大所帯になってしまった。
お前等はどこの黄道12星座を司る金色の鎧を纏う戦士達だ。
全員が見目麗しい美少女揃いなので、道行く人の殆どが目を奪われていたが、ダリルが一睨みすれば、すぐに蟻の子を散らすように去っていく。
流石は我らがダリル姉さん。凄く頼りになる。
そんなこんなをしつつ、12人の美少女達は非常に広大な敷地面積を誇る板垣家の屋敷へと到着するのであった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「………おい、デュノア」
「なんですか……ダリル先輩」
「本当にここであってるんだよな……?」
12人の目の前には、恐ろしく巨大な木製の門が立っている。
そして、その門の上からも見える程に巨大な屋敷が覗き見ることが出来た。
「こ…ここが弥生の自宅……なのか……?」
「きょ…教官の仰られていた住所は確かにここだが……」
「大きすぎッスよ……」
首が痛くなる程に見上げなければ屋敷全体を見る事が叶わないぐらいに大きく、完全に彼女達の度肝を抜いていた。
「私の屋敷よりも大きいですわ……」
「日本家屋とは、もっと温かみのある雰囲気だと思っていたが、これは温かみと言うよりは迫力があるな……」
いつもは余裕の顔を崩さないロランでさえ、苦笑いを浮かべながら額に汗を掻く。
「ちょ…ちょっと箒。こんな時って、何かお土産的な物を持って来た方がよかったんじゃないの?」
「土産って、何を持ってくるんだ?」
「例えばほら……北海道産の一個1万円ぐらいする高級マスクメロンとか……」
「気持ちは分かるが、今からソレを買いに行けと?」
「…………ごめん」
完全に庶民の感覚を持っている箒と鈴は、頭が混乱して意味不明な事を言いだした。
「お姉ちゃん……」
「なにかしら……簪ちゃん」
「これ……間違いなく、ウチよりも大きいよね……?」
「うん……そうね」
「ウチも割と大きくて広いとは思ってたけど……」
「どこにでも、上には上がいるもんなのね……」
ある程度の御屋敷なら見慣れている更識姉妹ですら、板垣家の威容には気圧されている。
そんな中、この姉妹だけはいつもと同じ感じでいた。
「やよっちのおうちは大きいねぇ~」
「これは……やり甲斐がありそうです……!」
本音はいつもと同じ口調を崩さず、虚に至ってはやる気120%になって、メイドとしての血を騒がせている。
「つーか、これってどうやって開くんだ?」
「そ…そんなの、ウチに聞かれても分からないッスよ!?」
門の何処にも取っ手のような物は見当たらない。
ならば、どうやってこの門は開くのか。
それを知っている存在が、彼女達の横から静かにやって来た。
「皆……?」
聞き間違える筈のない声を聞いて、少女達は一斉に振り向く。
そこには、白いロングTシャツとGパンを穿いた弥生が、彼女の愛犬である外務大臣と一緒に立っている姿があった。
外務大臣の首輪にはリード線があり、弥生の手に握られている事から、先程まで外務大臣の散歩に行っていた事が窺えた。
「おぉ~! 弥生!」
「お久し振りです! 弥生さん!」
「あぁ……夏の陽気に晒される君も、また美しい……」
「久し振り~、やよっち~♡」
「お元気そうでなによりです! 姫様!」
それぞれに弥生に挨拶をしていく少女達。
暫く会えなかったが故に、その嬉しさも一塩のようだ。
「ところで、この子が弥生が言っていた……?」
「ん。柴犬……の外務大臣……だよ……」
その場に座って、元気に『わんっ!』と返事をする。
それを見た途端、少女達の目が輝き始めた。
「か……か……」
「「「「可愛い~♡」」」」
全員がそう叫んだわけではないが、それでも、外務大臣の可愛さに心を奪われてはいるようだ。
「これが噂に聞くジャパニーズ・シバイヌですのね! とっても可愛らしいですわ~♡」
「このつぶらな瞳が溜まんないわ~♡ お手!」
鈴が手を差し出すと、すぐにそこに手を載せる外務大臣。
この程度の芸ならば、彼女にとっては朝飯前だ。
「おぉ~! いい子ね~♡」
「賢いんだね~♡ 僕も実際に見るのは初めてだけど、凄く可愛いよ~♡」
「う…うむ……そう…だな……」
なんとか耐えているラウラだったが、実際には外務大臣に触りたくてしょうがないようだ。
その証拠に、ラウラの手は凄くプルプルしている。
「流石は弥生の愛犬。とても賢いね」
「いい面構えをしてやがる。こいつは雄か? それとも雌か?」
「雌……です……」
「名前は個性的だけど、女の子なんスね~」
「多分、板垣総理が名付け親なんじゃないかしら……」
「正解…です」
「本当にそうだったのっ!?」
楯無が驚いている最中も、簪が笑顔を浮かべながら外務大臣の頭を撫でている。
「とってもフサフサしてる……♡」
夏の暑さも吹っ飛んでしまったかのような空気になり、一気に場が賑わった。
お犬様万歳である。
「って、ここで油を売ってる暇じゃなかった」
「ん?」
「そうでしたね。弥生さん、この門はどうやって開くんですか?」
虚の質問に対し、弥生はそこで待つようにとジェスチャーをしてから、外務大臣のリードを一時的に箒に預けた後に門の柱へと向かった。
「弥生さん?」
セシリアが小首を傾げていると、小さな木の蓋が開き、そこから黒いパネルが出現。
それに弥生が手を当てると、次は門の屋根の部分から近赤外線が放射され、弥生の体にある静脈をスキャンしていく。
それらの確認が全て終了した後に、ようやく板垣家の門が重々しく開いていった。
「す…凄いセキュリティね……」
「総理大臣の家は伊達じゃない……」
またまた驚いている彼女達の前で、弥生は皆を手招きしながら先を歩いて行く。
それを見て慌てた面々は、急いで彼女に追いつくように歩いて行く。
「うわぁ……。そこからじゃ分かりにくかったけど……」
「屋敷の周囲も凄いわね……」
明らかに高級だと分かる石灯籠が数多く立ち並び、人工的に作られたと思わしき清流が涼しさを演出している。
前回の弥生の帰省の時には描かれなかった光景が、そこにはあった。
石砂利を踏みしめながら歩いて行くと、次第に屋敷の玄関が見えてきた。
「さっきまで弥生はどこに行っていたんだ?」
「外務大臣……の散歩……」
「そうか…そうだよな。こんないい天気の時には外で元気に散歩したくもなるよな?」
ダリルが歩きながら腰を低くして外務大臣の頭を撫でると、彼女も元気よく『ワンッ!』と答えた。
「まるで、こっちの言葉が分かるように吠えますわね」
「柴犬は非常に頭がいいとは聞いた事はあるが、どうやら本当みたいだな」
「それでこそ、姫様の愛犬に相応しい」
何故にラウラが自慢げなのか。
玄関前についてから、弥生が電子キーを使って鍵を開ける。
ガラガラ……と、古めかしい音を立てながら玄関扉を開けて、中へと入る。
「どうぞ……」
「「「「「「「「「「「「おじゃましま~す!」」」」」」」」」」」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「「ほぁ~……」」
中から見ても板垣家は非常に広大で豪華だった。
案の定、こう言った屋敷を見慣れていない箒と鈴は、大きく口を開けた状態で固まっている。
「これ……もしかして檜?」
「は…い」
「もしかして……お風呂は檜風呂とか?」
「ん」
檜風呂。
箒と鈴には最も縁遠い言葉の一つだった。
「もう、何を聞かされても驚かない自信があるぞ……」
「奇遇ね。あたしもよ」
だが、この程度で終わるような板垣家ではない。
まだまだ、ここは序の口なのだ。
「さっき、外務大臣をどこかに連れて行ったけど、どこに行ったの?」
「リード…を直し…てから……中庭……に……」
「中庭……。当然のように広いんでしょうね」
当たり前だ。
板垣家の中庭は、ちょっとした学校の校庭程の広さがある。
外務大臣も思い切り走る事が可能だ。
「ちょっと行ってみてもいい?」
「いいよ……」
別に断る理由も無い為、弥生は快く皆を中庭に面した縁側へと案内する事に。
その間、虚はキョロキョロと室内を見渡し、どこから掃除をするべきが考えていた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
中庭に面した縁側に着くと、そこには先程の外務大臣が日陰で静かに座っていた。
流石の彼女も、散歩の後では少し疲れてしまったようだ。
「涼しそうにしているね」
「それはここも同じだけどな。別に冷房とかつけてねぇのに、どうなってんだ?」
「確かにそうッスね。いい風が入ってきて、気持ちいいッス」
板垣家の屋敷も、伝統ある日本家屋の例に漏れず、とても風通しのいい作りになっている。
夏は涼しく、冬は暖かい。
大きさや高級感だけではなく、とても住みやすい家でもあるのだ。
「あれ? あそこに何か……って?」
シャルロットが何か、大きな毛玉のような物を発見する。
すると、彼女達の事に気が付いたのか、毛玉が顔を上げてこっちを見た。
「あ…あれって……」
「「「「にゃんこだ~♡」」」」
またまた可愛い動物を見つけ、一気に駆け寄ってきたヒロインズ。
「外務大臣ちゃんも可愛かったけど、この子も可愛い~♡」
「こいつってアメリカンショートヘアだよな? 名前はなんて言うんだ?」
「財務大臣……です」
「また大臣…?」
「大臣シリーズ好きね……」
別に弥生が名付けた訳ではない。
文句があるならば、板垣平松に言ってほしい。
言う勇気があれば……だが。
「あれ? なんで簪はこっちに来ないのよ?」
「私……猫アレルギーなの」
「え? そうなの?」
簪の意外な弱点に、弥生も驚いた。
「簪ちゃんは、猫自体はとっても大好きなのに、猫には触れないのよ」
「難儀な体質をしているんだな……」
「割とよくテレビでは見かけるパターンだけど、近くにそんな人がいるとは思わなかったわ……」
簪も、財務大臣を撫でたくてしょうがないが、自分の体がそれを許さない。
せめてもと、携帯で何枚も写真を撮っていた。
その時だった。
「わ……わわわ……!」
いきなり、財務大臣が座っていたラウラの膝の上に乗ってきて、そこで丸くなった。
「ひ…姫様……わ…私はどうすれば……」
突然の事態に柄にもなく慌てるラウラ。
だが、銀髪美少女の膝の上で眠る猫の姿は、非常に絵になった。
「珍しい……」
「え? そうなの?」
「ん。財務大臣……は、私…とおじいちゃん……以外の膝……の上……には絶対…に乗ろう…とはしない……から……」
「へぇ~。ってことは、らうらうは猫ちゃんに懐かれたのかな~?」
「かも…しれない……」
どうすればいいか分からないラウラは、取り敢えず財務大臣の体をそっと撫でた。
すると、財務大臣は気持ちよさそうに『にゃ~お』と鳴いた。
「体に触れられても、特にこれと言ったアクションを起こさない。弥生が言った事は本当かもしれないな」
「この猫がラウラちゃんに懐いたってことッスか?」
「だろうな。見てみろよ、体を撫でられて目を細めて、凄く気持ちよさそうにしてやがる」
いつの間にか、ラウラも優しく微笑みながら財務大臣を撫でていた。
その光景を見て、全員の心が癒されていた。
(財務大臣を膝の上に乗せているラウラ超可愛い~♡ あ~……絶対に永久保存にしてこの絵を飾りたい!! 私の一生の宝にするよ~!)
特に弥生が、心の中で猛烈に悶絶していた。
ラウラの事を娘のように慈しんでいる弥生から見て、ラウラと財務大臣の組み合わせはドストライクだったようだ。
「はぁ……皆さん。弥生さんのペットを可愛がるのもいいですけど、私達がここに何をしに来たのか、忘れた訳じゃないですよね?」
ここにきて痺れを切らせたのか、虚が重い口を開いて皆に注意を促した。
でも、そこですかさず楯無がブロックに入る。
「まぁまぁ。弥生ちゃんもついさっきお散歩から帰ってきたばかりだし、私達だって暑い中をずっと歩いてきたのよ? ちょっと一休みしてからでもいいんじゃない? ね?」
「しかし……」
「おねぇ~ちゃ~ん……」
トドメに本音の甘えた声攻撃。
ここまでされれば、流石の虚も折れざるを得ない。
「はぁ……分かりました。私も別に疲れていないわけではありませんしね」
「話が分かるぅ♡ 流石は私の虚ちゃん♡」
「はいはい」
呆れたように溜息を吐きながら肩を落とす虚。
急に脱力をしたかのように、その場に座り込み、疲れを癒す。
「あれ? 弥生はどこに行った?」
「先程までここにいましたのに……」
虚と楯無が話している間に、いつの間にか弥生が姿を消していた。
が、心配をする間も無く弥生は少し大きめのお盆の上に人数分の冷たい麦茶を載せて戻ってきた。
「喉…が渇いた……と思った…から……持ってきま…した……」
「や…弥生さん! 一言言ってくだされば、私がやったのに……」
「いえ……虚さん……もお客さん……だし……」
「弥生さん……なんて立派な人なんでしょう。あの板垣総理の御息女なだけはありますね……」
心から感心した虚の中で、弥生の評価が急上昇した。
彼女が弥生にゾッコンになるのも時間の問題かもしれない。
「弥生ちゃんはきっと、最高のお嫁さんになれるわね♡」
「「「「「「「「「「お嫁さん……」」」」」」」」」」
楯無が言った何気ない一言に、ヒロインズが同時に妄想をした。
当然、その内容は弥生と自分達との結婚生活。
ダリルやフォルテすらも、弥生を嫁にした妄想をしてしまう。
夏の太陽が眩しく輝く中、乙女達の妄想は止まらない。
大掃除をするのは、もう少しかかりそうだ。
本当はここで大掃除まで持っていきたかったんですけど、毎度のように無理でした。
次々回こそは大掃除をしたいと思います。
その時に、今回出せなかった文部大臣と農林水産大臣も出す予定です。
次回は一夏の特訓の二回目。
今度はどんな扱きが待っているんでしょうか?