と言っても、大体が省略して会話メインになる可能性が大なんですけどね。
板垣家の大掃除を手伝う為に、まさかの全員集合を果たした代表候補生&国家代表+αの面々。
ついて早々に弥生の愛犬の外務大臣と、愛猫の財務大臣の可愛さの虜になって、いつの間にか大掃除の事を忘れて普通に今時の女子高生らしい談笑に耽っていた。
だが、そこに待ったをかけたのが、本音の姉である布仏虚。
しかし、楯無の説得と本音の訴えによって、小休止の後に掃除をする事になった。
「それにしても、この家って本当に大きくて広いわよね~」
「そうだな。弥生、見た限りではこの家は三階建てのように見えるが……」
「本当……は四階建て……」
「だと思ったよ……」
仮にも内閣総理大臣の邸宅が、ただ広いだけの三階建てで終わる筈がないと、訪れた全員が思っていた。
「でも、四階建てって事は、もしかして……」
「ん。地下室……が…ある…よ……」
「地下室…ね。有事の際の地下シェルター的な物でも設置してあるのかしら?」
暗部故に、どうしても物騒な考えに至ってしまう楯無。
だが、弥生は首を横に振って、その意見を否定した。
「シェルター……じゃなくて……ムービールーム……がありま…す……」
「ムービー……と言う事は、簡易上映室か……?」
「正解……」
自宅の地下に映画を視聴する施設があるなんて、誰が想像するだろうか。
特に、箒と鈴の驚きが大きかった。
「お…おい鈴……」
「な…なによ……」
「今時の金持ちは、家に映画館を持つ事が出来るのか……?」
「んな事あたしが知るわけないでしょ! いくら代表候補生だからって、そんなに贅沢な生活をしているわけじゃないんだし!」
この二人が持つ庶民的な感覚は、ある意味でとても大事な事かもしれない。
「掃除……をする前…に……軽く……家を案内…します……」
「それは助かります。ちゃんと家の構造を把握しておかないと、効率よく掃除が出来ませんからね」
弥生の気遣いに、増々やる気を増幅される虚。
本職のメイドである彼女にとって、この広い家は実に掃除のし甲斐のある場所に見えるに違いない。
「ふにゃ~……」
「ん? 眠たいのか?」
財務大臣が大きな欠伸と共に、ラウラの膝の上で丸くなり、静かになった。
よく見ると、外務大臣も木陰にて気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「どうやら、こいつ等はお昼寝タイムになっちまったみたいだな」
「この子達のお昼寝を邪魔しちゃ可哀想ッスね」
「じゃあ、休憩はこの辺にしておこうか」
ロランの言葉に全員が頷いて、ラウラはそっと優しく財務大臣を起こさないように畳の上に移動させた。
「それじゃあ、案内をお願いできますか?」
「ん……任せ…て……」
弥生先導の元、板垣家の案内が始まった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
恐ろしく広いリビングや、まるで花月荘を彷彿とさせる客間などを見ていって、ヒロインズ達は驚きの連続だった。
「こ…今度はどこを案内してくれるのかな……弥生……?」
「外務大臣…と財務大臣……の仲間……の所……だよ……」
「あの二匹の仲間……他のペットって事?」
「ん。こっち……に来て……」
弥生の背中に着いて行くと、かなり広い部屋へと辿り着いた。
空調施設や水を流動的に動かすシステムが配置されているが、それよりも目立つのは、部屋の真ん中にて、その絶大な存在感を放っている非常に大きな水槽だった。
水槽の中には、例の超巨大マグロの姿がある。
「ほぇ~……」
「な…なんだこれはっ!?」
「マ…マグロ……なの……?」
「それにしては大きすぎじゃない……?」
「軽く3メートルぐらいはありそう……」
案の定、年頃の女の子達には刺激が強すぎたのか、全員が目を見開いて驚いていた。
「こ…この魚もペット……なのか?」
「はい…。マグロ…の農林水産大臣……です」
「マジかよ……」
あのダリルでさえ冷や汗を掻いている。
フォルテや鈴のような小柄な少女達に至っては、農林水産大臣の威容に完全に圧倒されている。
「こ…これも総理が……?」
「そう…だよ」
「どこで見つけてきたんですの……?」
「それ…は流石…に知らない……」
「でしょうね……」
因みに、農林水産大臣は、総理が
「この水槽の掃除は……」
「私……が事前…にしておいた……」
「「「「「ほっ……」」」」」
掃除をするつもりで来た彼女達も、流石に超巨大なマグロがいる水槽の掃除は勘弁だったようだ。
いや……それが普通であるのだが。
「最後……は家の裏…にある馬小屋……を案内…する…ね……」
「う…馬小屋だとっ!?」
「馬まで飼ってるんですのね……」
「もう驚きつかれたわよ……」
げんなりする彼女達を余所に、弥生は一人、水槽の中にいる農林水産大臣に手を振る。
「それじゃ…あ……また後…で来る…ね……」
「あの子……弥生ちゃんの方を向いて口をパクパクさせてるわよ……」
「まさか、人の言葉が理解出来るんスか……?」
密かに謎が増えた農林水産大臣だった。
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家の裏手に訪れて、小さいながらもしっかりとした造りの馬小屋へとやって来た板垣家大掃除メンバー御一行。
「ここの結構な広さがあるわね」
「ちゃんと柵とかもしてあるし、もうちょっとした牧場になってるわね」
「そして、ここにいるのが……」
馬小屋の中で大人しくして弥生達を見つめている、一頭の雄のサラブレッド。
とても雄大な姿で、見る者を魅了する。
「なんて立派なサラブレッドでしょう……。毛並みも申し分ないですし、とても大切に育てられている証拠ですわね」
「そうだな。この筋肉も程よくついていて、無駄な贅肉が殆ど無い。これは間違いなく名馬と呼ばれるに相応しい」
セシリアとロランの二人が、目の前にいる馬の事をべた褒めする。
それを聞いて、弥生も少し照れくさそうにしていた。
「で? この素晴らしい名馬の名前はなんて言うのかな?」
「文部大臣……だよ……」
「ここまで『大臣』を貫き通すと、もう清々しさすら感じるッスね」
「このお馬さんも可愛いね~♡」
何気なく本音が文部大臣の頭を触ろうとすると、それに合わせて文部大臣の方から少しでも触りやすいようにと頭を下げてきた。
「おぉ~! いい子いい子~♡」
本音の手を大人しく受け入れる文部大臣。
その光景は、不思議な神秘さを醸し出していた。
「昔から本音ちゃんって動物には好かれやすいけど……」
「馬とも仲良くなれるんだね……」
「本音ったら……」
驚きを隠せない更識姉妹に、呆れながらも少し嬉しそうな虚。
「こうして馬がいるという事は、弥生は乗馬も出来るのか?」
「少しだけ……ね。おじいちゃん…に教え…て貰った……」
「乗馬をする弥生さん……♡」
「なんだか見てみたいね……♡」
セシリアとシャルロットの金髪コンビが妄想に耽っている中、ラウラはまたもや明らかになった弥生のスキルに純粋に感心していた。
「姫様は乗馬すらも御出来になられるとは……。私の想像以上に凄いお方なのだな……」
この純粋さを少しは見習ってほしいと、切に願わざるを得ない。
それが無理ならば、せめてラウラの爪の垢を煎じて飲むぐらいはしてほしい。
「それじゃあ……一度…家…に戻りま…しょうか……」
「文部大臣ちゃん。またね~♡」
本音が去りながら手を振ると、それに反応して文部大臣も一言吠えた。
まるで、彼女に挨拶をしているように。
「基本的に、この家の動物は人の言葉が分かるって思った方が良さそうね……」
「もしかしたら、私達よりも頭がいいかもな……ははは……」
自分で言って自分が傷つく箒。
板垣家の全てのペットと顔合わせをして、一同は家の中へと戻っていった。
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「さて……と。では、手分けして行いましょうか」
倉庫から掃除道具一式を持ってきて、弥生が予め買い揃えておいた人数分のエプロン(何故か12人全員分があった)を着用し、虚によって場が仕切られる事に。
「先程、案内をしている最中に仰っていましたけど、私達が来る前に既に掃除をしていた場所が何か所かあるんでしたよね?」
「はい。さっき…の馬小屋…や水槽…に…自分の部屋……とかも…しておきま…した……」
少しでも皆が楽になるようにと、自分で出来る範囲は予め済ませておいた。
この辺りの気遣いが、自分の人気を不動のものにしていると全く気が付かない弥生。
ここまで鈍感だと、あまり一夏の事を言えなくなってくる。
「そうですか。ならば、チーム分けも容易になりそうですね」
そんな訳で、虚の主導の元で掃除の班決めが行われた。
「まず、篠ノ之さんと凰さんは廊下の壁を拭いたり、床の雑巾がけをお願いします」
「分かりました」
「任せといてください!」
雑巾片手にバケツを持つ二人が、元気よく返事をする。
「オルコットさんとデュノアさんは、リビングの方をお願いします」
「了解しましたわ」
「はい!」
正直、セシリアには不安が残るが、そこはシャルロットが上手くフォローをしてくれる……と信じたい。
「ケイシーさんとロランさんは、一緒に二階の客間をお願いします」
「ふっ……任された」
「おう」
この組み合わせは、単純にダリルをロランの御目付け役にしたかったからだ。
この中でロランを止めることが出来る人物は必然的に限られてくるから、自然とこのコンビになった。
「お嬢様と簪様は、三階にある倉庫の整理と掃除をお願いします」
「合点承知の助よ」
「倉庫か……。大変そうだけど、頑張らないと」
返事一つとっても、なんだか姉よりも妹の方がしっかりしているように見える。
この姉妹を一緒にしたのは、少しでも仲直りの切っ掛けになればいいと思ったが故か。
「で、ラウラさんとサファイアさんは三階の廊下を頼みますね」
「了解!」
「頑張るッス」
このチビッ子コンビは、意外といい組み合わせかもしれない。
三階は一、二階と比べてあまり広くないから、この二人でも充分に掃除が出来るだろう。
「最後に、私と本音と弥生さんは、一階の和室を掃除しましょう」
「お姉ちゃんと一緒だ~♡」
「分かった……です……」
この組み合わせも、単純に妹がちゃんと掃除をするか心配だったから。
弥生は、この家の住人だから、一番広い一階を担当して貰い、色々と分からない事を聞くために配置した。
「最初に言った場所が終わったら、私の所まで来てください。また違う指示を出しますから」
虚の言葉に全員が頷き、それぞれが掃除用具を手にした。
「では、大掃除を始めましょう」
こうして、夏休みの板垣家の大掃除が幕を開けたのであった。
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・・
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楯無は、妹の簪と一緒に虚に言われた三階にある倉庫の整理を行っていた。
整理と言っても、そこまで派手に散らかっているわけではなく、主に僅かに積もった埃を絞った雑巾で拭いていく作業が主になっていた。
「にしても、噂に名高い板垣総理の自宅が、ここまで広大だったとは思いもしなかったわ」
「さっきもそんな事を言ってたけど、お姉ちゃん、ここに来た事無かったの?」
「まぁね」
僅かにはにかみながら、楯無は雑巾で窓際を拭いてく。
「簪ちゃんは……『吉六会』って知ってる?」
「ううん……」
姉の口から聞かされた、まるでヤクザの組のような単語を耳にして、簪は顔を横に振った。
「私も詳しく知っているわけじゃないんだけどね。なんでも、この国の闇の頂点に君臨して、かなり昔から裏から日本を守ってきた組織……らしいわ」
「らしい?」
水分が無くなってきた雑巾をバケツの水に浸して、思い切り絞りながら小首を傾げる簪。
「言ったでしょ? 私も詳しくは知らないって。知っていること言えば、弥生ちゃんの養父である板垣平松総理が、その吉六会の幹部だって事ぐらいね」
「えっ!? 総理大臣が『幹部』なの!?」
「そうよ。私も初めてお父さんから聞かされた時は、簪ちゃんと全く同じ反応をしちゃったわ」
苦笑をしつつ、楯無も雑巾を濡らして絞る。
「でも、それとこの家とどう関係があるの?」
「これもお父さんから聞かされたことなんだけど、吉六会の幹部の邸宅は、基本的に不可侵の場所らしいの」
「不可侵って、進入禁止って事?」
「そうなるわね。だから、何か用がある時は向こうからこっちに来るらしいわ」
「でも、私達はこうして弥生の家に入ってきているよね……?」
「多分、それは私達が弥生ちゃんによって誘われたからでしょうね」
「つまり、私達は例外的に認められたって事?」
「恐らく、これまでも弥生ちゃんのお友達は数少ない例外として認められて、今日の私達みたいに入る事を許可されてきたんじゃないかしら?」
「私達って、知らず知らずのうちに相当にレアな経験をしてたんだね……」
簪も暗部の家系として生まれた故に、色々と普通では知ることが出来ないような事を教えられてきたが、吉六会の事は初めて聞かされた。
しかも、現当主である姉ですら、その全貌を知らないと言う。
それだけで、吉六会という存在がどれだけ強大なのか窺い知れた。
「それと、これもあくまで噂らしいけど……」
「なに?」
「吉六会は下部組織で、その上には更に強大な存在がいるらしいわ」
「まだ上がいるの?」
「あくまで『噂』よ。その名称すら誰も知らないんだから」
「お父さんも?」
「みたい」
暗部として長い間、仕事をしてきた父ですら知らない組織。
簪が想像している以上に、この国の暗部は大きいらしい。
「……で? なんでお姉ちゃんはさっきからずっと隅の方や陰になっている場所を掃除してるの?」
「いやね。もしかしたら、こんな狭い場所に弥生ちゃんの下着や服が偶然にも落ちているかも~……なんて思ってたり?」
「お姉ちゃん……」
さっきまでの真面目な雰囲気が完全に台無しだ。
楯無は優秀な暗部の人間ではあるが、本質的にシリアスな雰囲気が長続きしないようだ。
声と言い、シリアスブレイカーな部分と言い、まるでどこぞの良妻賢母を目指すお狐様な魔術師の英霊のようだ。
いずれ、楯無もあんな風になるのだろうか?
「下手な事をすると、虚さんにバレるよ?」
「虚ちゃんなら、普通に有り得そうだから怖いわね……」
よく知っている仲だからこそ、虚の恐ろしさを理解している姉妹だった。
まだまだ、板垣家の大掃除は終わる気配はないようだ。
し…しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
今回で大掃除が終わらなかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
まさかの三話構成になろうとは……。
今度こそ、今度こそ大掃除編を終わらせます!……多分。