なんでこうなるの?   作:とんこつラーメン

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いやはや……。

今朝は冗談抜きでヤバかったですね。

疲れの蓄積がピークに達して、半身を起すだけでもやっとでしたから。

ちゃんと疲れは取っているつもりなんですけどねぇ……。






一夏の特訓 その6

 いつもはベーカリー鬼瓶の裏手にある道場や、今や完全に行きつけになっているトレーニングジムで基礎体力の向上を図っているのだが、今回は少し趣旨が違った。

 

「はぁ~……これは気持ちがいいなぁ~……」

 

 俺が今いる場所は、ジム内にあるプールの中。

 なんでも、今回はここで体を動かすらしい。

 

「偶には、こうして体をクールダウンさせないと、長続きしないからな」

 

 お? 塩田さん達もやってきたようだ……?

 

「ん~? どうした? オレの魅惑の水着姿に萌えたか?」

 

 塩田さんが、まさかのジムに備え付けの競泳水着でご登場ですよ!?

 これはちょっと予想外だった……。

 彼女の事だから、てっきりかなり気合の入った水着で来るものかと。

 

「なんだ~? そんなに俺の体を見て、今夜のオカズにでもするつもりか?」

「しねぇよ!!」

 

 お…女の子がいきなりなんちゅーことを言ってんだ!!

 少しは慎みってヤツを持てよ!

 

「なんだ。これじゃあオレの立てた作戦『織斑がオレの水着姿に興奮してエロい顔を晒している姿をスマホで撮影した後に、自宅にあるパソコンに転送、家族総出で織斑の恥ずかしいポスターを作成して町中に張り出すぞ大作戦』が御釈迦になっちまったじゃねぇか」

「うぉぉぉぉぉぉぉっ!! マジで危なかった―――――――!! つーか、アンタはなんつー事を思い付くんだ!! と言うか、やろうとしてる事がバレバレになってるし!!」

 

 はぁ……はぁ……はぁ……。

 思わず連続でツッコんでしまった。

 

「お前は何を企んでるんだよ……」

 

 呆れ顔をしながら、他の皆もやって来た。

 

「お…おぉ~……」

 

 叶親さんは薄いレモンイエローのホルター・ビキニで、鍛えられたスリムな肉体美が綺麗に表現されていた。

 吉崎さんは赤い三角ビキニで、トップの布地にはハイビスカスが描かれていて、普段は大人っぽい彼女の可愛らしさが見え隠れしている。

 嶋鳥さんは薄いグリーンのタンキニ。美人と言うよりは可愛らしいと言った感じで、ちょっとだけ幼く見えてしまったのは内緒。

 鷹橋さんが凄くて、着ているのは真っ白な紐ビキニなんだけど、そのスタイルが凄まじかった。マジで、大学生やOLとかって言われても違和感が無い。

 植村さんは、その背の高さに反して、大人しめの水色のオフショルダー。でも、彼女も鷹橋さんに負けないぐらいにスタイルが抜群なので、逆に魅力が増している。

 

「おい……織斑」

「な…なんでしょうか……?」

 

 なんか塩田さんがこっちをジト目で見ていらっしゃる……。

 

「オレの時はそんなに凝視しなかったくせに、なんで叶親達の時はジッと見てやがんだ!! このエロ斑助兵衛!!」

「俺の名残が『斑』しかない!!」

 

 人を勝手にスケベ認定しないでくれ!!

 それと、せめて名前の方も加工してくれよ!!

 

「どうした織斑。もしかして勃ったのか?」

「素の表情でとんでもない事を言ったんですけどっ!?」

 

 前々から思ってたけど、吉崎さんって言葉の一つ一つがアダルトすぎないかっ!?

 本当に高校二年生なのかっ!?

 

「ま、冗談はこの辺にして」

 

 その冗談で、俺の精神は疲れまくったんですけど……。

 

「今日はプールで特訓……と言っても、実際には塩田も言ったとは思うけど、ちょっとした体のクールダウンが目的だ」

「らしいですね」

 

 実際問題、こうしてプールに入れるのは本当に有難い。

 臨海学校で海に行ったとは言え、プールにはプールの良さがあるしな。

 

「でも、水中で体を動かすのは割といいトレーニングだったりするんだぞ?」

「具体的にはどう良かったりするんだ? 鷹橋」

「ほら、水中って水の抵抗力が働くから、体が嫌でも鈍くなるだろ? そんな中で腕や足を動かすって事は、体に重りをつけている事と同義なんだよ。実際にとあるプロ野球選手は、小学生の時から風呂に入る時に湯の中で足を動かす訓練をずっと繰り返していたらしいぞ」

 

 そうだったのか……。

 ぶっちゃけ、俺は泳ぐ事しか考えてなかった。

 

「別に泳ぐのも悪くは無いけど、潜水をしてから泳いだりしてもいいかもな」

 

 潜水……ね。

 やろうと思えば出来るけど、そんなに息が続くかな?

 

「折角のプールなんだし、私達も遊んでいいんだろ?」

「遊ぶって……ハッキリと言うなぁ……嶋鳥は」

「え? 今日は遊びに来たんじゃないの?」

「植村もか……」

 

 嶋鳥さんと植村さんは羽目を外す気満々だったのかよ。

 気持ちは分かるけど、それを目の前で言われると反応に困る。

 

「鷹橋さん。プールで体を動かすって、さっき言ってたみたいに水泳だけなんですか?」

「う~ん……叶親にそう言われると、何かしなくちゃって気になるなぁ~」

 

 い…いや、何も無理に何かを思い付かなくてもいいですよ?

 

「そうだ! 水球とかってどうかな?」

「水球? 水球って、あのハンドボールのプール版的なヤツか?」

「その通り! あれならいい運動になるんじゃないかな?」

 

 水球ね……。

 悪くはなさそうに聞こえるけど、それをやるには問題が一つあるんだよな。

 

「え~? 私、水球のルールとか全然知らないんですけど~!」

 

 嶋鳥さんが俺のセリフを取ってしまったが、つまりはそう言う事だ。

 水球なんてマイナーなスポーツのルールを全く把握していない。

 これでは水球をしたくても出来ない。

 

「いや、そこら辺は気にしなくてもいいんじゃないか? これは公式な試合とかじゃなくて、あくまでトレーニングの一環だし。それに……」

 

 あ、鷹橋さんの眼鏡が怪しく光った。

 これはよくない事の前兆だと、これまでの事で学んだ。

 

「単純にボールを投げようにも、足腰の力や大地の反発力が使用出来ない分、純粋な『背筋力』だけでボールを投擲しなければいけない運動が、ウェストを引き締めて体がスリムになるかもしれないし、それが最終的にバストアップに直結する可能性も……」

「「やろうぜ皆!!!」」

「急にやる気100%っ!?」

 

 いきなり塩田さんと嶋鳥さんがプールにダイブ!!

 しかも、その際に叶親さんと吉崎さんの体を掴んでたから、必然的に二人も巻き添えに。

 

「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「いきなりなにをするだぁぁぁぁぁぁっ!! ゆるさ……ぶぼぉっ!?」

 

 吉崎さんが溺れたぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?

 けど、速攻で浮かび上がってきた。

 

「ほい、ボール」

「「サンキュー!!」」

 

 鷹橋さんも二人を焚き付けんなよ!

 

「私も混ざる~♡」

「「「これ以上カオスになるから止めてください!!」」」

 

 俺と叶親さんと吉崎さんが同時に叫ぶも、全く聞く耳を満たずに植村さんも飛び込んできた。

 

「おらぁっ!! いくぞ織斑ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「超剛速球っ!?」

 

 明らかに本気で投げてるだろぉぉぉぉぉぉぉっ!?

 あんなボール取れるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 

「はいキャッチ」

「なんですとぉぉぉぉぉっ!?」

 

 なんか涼しい顔をして植村さんが、あの超剛速球を掴んだんですけどっ!?

 この人も塩田さんに負けず劣らずの規格外かよっ!?

 

「次はこっちからいくよ~! とりゃぁ~!」

 

 なんか可愛らしく言ってるけど、投げつけられたボールは殺人的な速度で飛んで行ってるし!!

 あんなの取れる奴がいるわけが……。

 

「こうなったら意地だっ!! ふんっ!!」

 

 はい。いましたね。

 叶親さんも全く動じずにボールをキャッチしましたよ。

 忘れてました。この子達全員がチート級の身体能力の持ち主だったことを。

 

「負けるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 特に吉崎にだけには!!」

「それはこっちのセリフだ!! 人を勝手に巻き込みやがって!! この貧乳チビが!!」

「よぉぉぉぉし……それは『私を殺してください』と意訳してもいいんだな?」

 

 巻き込まれちゃ堪らないので、俺はそっと端の方に避難。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁッ!!」

「ドラララララララララララララララララァッ!!」

「アリアリアリアリアリアリアリアリアリィッ!!」

「ボラボラボラボラボラボラボラボラボラァッ!!」

 

 気が付けば、少林水球ならぬジョジョ水球になっていた。

 やってる事は、ラッシュのセリフを叫びながらの投擲だけど。

 

「もう完全に俺は蚊帳の外じゃねぇか……」

 

 でも、下手に介入すれば間違いなくあの世行きは確定だしな……。

 

「ははははははっ! やっぱり、美少女達が動き回る姿を見るのは最高だな!」

 

 さっきから静かだと思ってたら、いつの間にか鷹橋さんがデッキチェアに横になりながらジュースを飲んでるし。

 この人だけ優雅にしちゃってるな!

 

「どうするんですか……アレ」

「なぁに。暫く放置しておけば、疲れた頃に自然と止めるさ」

「なんて適当な……」

 

 それでいいのか……この人達は。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 いきなりの水球(?)が始まってから、かれこれ小一時間が経過した。

 

「ゼ~ハ~…ゼ~ハ~……そろそろ降参しろよな……」

「それはこっちのセリフだ……」

 

 幾ら水球に詳しくない俺でも分かる。

 これもう……水球じゃなくね? 完全にドッヂボールになってね?

 

「もうそろそろ終わるかな~?」

「完全に他人事ッスね……鷹橋さん」

「あまり褒めるな。流石に照れる」

「褒めてません!!」

 

 俺もプールから上がって、鷹橋さんの隣に座って少しずつ沈静化しつつある皆を見ていた。

 その時だった。更衣室から見知らぬ男の人がやって来た。

 

「お~! 相変わらず元気だなぁ~!」

「しまった……。今日は兵庫や小栗君の代わりに矢禿さんが来てくれる予定だったのをすっかり忘れてた」

「おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

 それって何気に酷くないですかっ!?

 

 このアフロヘアーが圧倒的な存在感を醸し出すこの人は『矢禿康介』さんと言うらしく、彼もまた吉六会のメンバーで、なんとナンバー2の地位にいるとの事。

 って事は、間違いなく総理レベルの実力者ってことだよな……。

 

「いや~、本当にゴメン。本来ならもっと早くに来るつもりだったんだけど、向こうの仕事が想像以上に忙しくてね、ここまで遅れちまった」

「大丈夫ですよ。小栗君達が色々と手伝ってくれましたし、割と順調に訓練は進んでますよ」

「そっか。それならよかった」

 

 見た感じだと、とても人当たりが良さそうな人だな。

 体もかなり鍛えてるっポイし。

 

「で、君が噂の織斑一夏君か」

「あ……はい!」

 

 割と慣れたつもりではあったけど、やっぱり初対面の大人ってのは、それだけで緊張するもんだな……。

 

「成る程。良い目をしてるじゃないか」

「ど…どうも……」

「惚れた女の子の為に頑張るって姿勢は嫌いじゃないぜ? 俺で良かったら幾らでも協力するよ」

「あ…ありがとうございます!」

 

 これは強力な助っ人が味方に付いた……ってことでいいのか?

 

「なぁ、鷹橋ちゃんよ」

「どうしました?」

「来週辺りって時間空いてるか?」

「来週ですか?」

 

 来週? 矢禿さん、鷹橋さんに何か用があるのか?

 

「空いてるって言えば空いてますね。基本的には彼の特訓を手伝う毎日ですから」

「そうか! それはよかった!」

「で? 一体どうしたんですか?」

「実はさ……来週になって急にメンバーが足りなくなったんだ」

「あぁ~……そーゆー事ですか。納得です」

 

 は? え? 何が納得なんだ?

 

「勿論、あそこでバーサーカー化している五人も一緒に……ですよね?」

「そうしてくれると、こっちも助かる」

「ついでだし、織斑も一緒に来させましょうか?」

「おぉ! それはいい! あそこで一日頑張るだけでも、かなり鍛えられると思うしな!」

 

 あそこ? 頑張る? 何を?

 

「あの~……さっきから全く話が見えないんですけど……」

「「あ」」

 

 おいこら。俺の存在をまるっと無視してやがったな。

 

「あ~…織斑君」

「はい?」

「ちょっとだけ……バイトしてみないか?」

「………………は?」

 

 『バイト』と言う単語に猛烈に嫌な予感がした俺だが、ここで断るような勇気はまだ無かった。

 俺は来週……どうなるんだろうか……?

 

 

 

 




             幕張メンバーのプロフィール


                 鷹橋涼香



年齢:17歳
血液型:B型
身長:162cm
体重:聞こうとした途端に滅殺された。
誕生日:10月20日




吉崎、嶋鳥と同じクラスに所属している幕南高校2年生。
特に嶋鳥とは幼馴染同士で、かなり仲がいい間柄。
そんな彼女は、基本的にアンニュイで人をおちょくるのが好きな女の子。
6人の中どころか、幕南高校でも1・2を争うレベルのスタイルの持ち主で、兎に角、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる完全なモデル体型。
そのスタイルと醸し出している大人っぽい雰囲気、掛けている眼鏡の相乗効果によって、いつも大学生やOLなどに間違われる。
因みに、つけている眼鏡は伊達メガネで、今しているバイトをする時には外している。
その理由は『眼鏡を掛けることで印象を変えて、バイトをしている姿を見られないようにする為』。

実は力だけで言うなら塩田すらも凌駕する怪力の持ち主で、彼女の愛刀である超巨大なグレートソードである『斬艦刀』を易々と片手で使いこなす。
示現流と呼ばれる流派の免許皆伝であり、圧倒的なパワーから繰り出される一撃必殺の斬撃は、全てを一刀両断する。

鷹橋達6人は全員が野球部に所属してはいるが、例外的に彼女だけが一人、野球部と新聞部を兼任している。
校則的には全く問題は無いのだが、それを実際にこなせているのは鷹橋だけ。
新聞部としての情報収集能力を駆使して、これまでに何人かの問題のある教師を強制的に退職にまで追い込んだ実績があり、別の意味で塩田達に恐れられている。
因みに、塩田も一人、ムカつく教頭先生を辞めさせたことがある。

彼女は自他共に求めるレズビアンで、その事を隠そうとしない。
特に塩田の事が本気で好きで、決して表には出そうとしないが、完全に恋愛対象として見ている……が、最近は嶋鳥の事も好きになりつつあって、身近な場所に本気で惚れた女の子が二人もいることに地味に悩んでいる。
だが、その事は絶対に口に出すことは愚か、顔にすら出そうとしない。
そして、今日も鷹橋は皆の一歩後ろから彼女達の事を見守り続ける。

イメージCVは浅野真澄


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