お待たせしました。
「おらぁおらぁ! ペースが落ちてんぞ!」
「お……オッス!」
夏休みも中盤に差し掛かり、折り返し地点が経過した頃。
一夏の特訓はISを使ったものに移行していた。
「お前は専用機を先に与えられちまったから、基礎が疎かになってる。だから、この特訓ではとことんまで基礎中の基礎を叩き込むからな!」
「それ……さっきも聞いた……!」
「読者の為だよ」
さて、読者の方々も気になっているであろう、この場所はと言うと、吉六会が全力で持てる権利を行使して借りた、普段は日本の代表候補生を初めとした者達が訓練をしているアリーナである。
勿論、タダで借りた訳ではなく、一夏や塩田達がここを利用している間、訓練生の子達には使用期間の間、海外旅行へと行って貰っている。
因みに場所はハワイ。王道である。
「いいか。織斑はISに乗ってるんじゃなくて、ISに乗られてるんだ。ISの事を鎧のように見るんじゃなくて、自分の体の延長線上に感じろ。まるで自分の体を動かすようにISを動かせるようになれば、嫌でも運動性能や反応速度は上昇する」
「それは……わかるけど……」
「けど? なんだよ」
「それとこれと……どんな関係があるんだ……」
さっきから一夏がやっているのは、アリーナの周りをひたすらに白式を纏った状態でのランニング。
無論、PICはカットしてある。流石にパワーアシストはONにしてあるが。
「剣を使うんなら、地面に足を付けた特訓が一番だからな」
「それでランニングかよ……!」
一夏の体は汗だくで、足取りもおぼつかない。
完全に疲労困憊になっている。
そんな彼をジャージ姿で見ている塩田達六人。
よく人それぞれに色が違って、実にカラフルな少女達に仕上がっている。
塩田は赤。叶親は青。吉崎は黒。嶋鳥は黄色。鷹橋は緑で植村は紫だ。
色だけを見るなら『キセキの世代』である。
「ISを纏った状態で日常的な事が出来なきゃ話にならねーしな。走り込みの後は腕立て伏せをするからな」
「嘘だろバーニィっ!?」
「誰がバーニィだ」
別に塩田はザクに乗ってガンダムと相打ちをする気はない。
酷い言いがかりだ。
「ちょ……休憩……」
「情けねぇなぁ~……」
「こんなの……キツすぎ……」
その場に立ち止まって、膝に手をつきながら息を整える。
だが、一向に呼吸が整う気配はない。
「しゃーない。ちっと手本を見せてやっか。植村~」
「ほいほ~い。なんじゃろほい?」
少し離れた場所で叶親と一緒に柔軟体操をしていた植村を呼び出す。
さっきから動きまくっている筈だが、全く息が乱れていない。
「そこに用意してあるリヴァイヴを使って、織斑に手本を見せてやってくんない?」
「いいよ~。ちょっと待っててね~」
完全に地面に座り込んだ一夏を横目に、植村は慣れた動きでリヴァイヴに乗り込む。
「ほいじゃ、いっくよ~」
「おう。頼むわ~」
「せ~の」
あろうことか、クラウチングスタートで走り出す植村。
重々しい音が響く中、植村は一夏以上のスピードと安定したペースで走行する。
「冗談だろ……?」
「ヒャッホ~!」
疲れた様子を全く見せないどころか、楽しそうに走る植村を見て、愕然としてしまう一夏。
この六人が規格外なのは知ってはいたが、ここまで明確な差を見せつけられると流石に堪える。
「加速装置オン!」
「ちょ……えぇぇぇぇぇっ!?」
半周程走った所で、まさかのスピードアップ。
あっという間に植村は一周を走り終わり、元の場所へと帰ってきた。
「ゴ~ル!! 植村選手、世界新記録の上に金メダル~!」
「じゃないよ。東京オリンピックはまだ先だ」
「ツッコむのそこなのかよ……」
疲れてツッコむ気力も無いのか、代わりに鷹橋がツッコんでくれた。
ジャージの上からも大きなバストを強調する罪な少女だ。
「一応言っておくけど、俺達は全員コレ出来るぞ」
「だと思ったよ……」
もう何を聞かされても驚かない自信がついてしまった。
少なくとも、度胸だけは鍛えられたようでなにより。
「植村さん……汗一つ掻いてないし……」
「なんだ、もしかして汗フェチか? 珍しい属性持ちだな」
「勝手に人を変態にしないでくれよ……」
「なんていいつつも、弥生の汗なら?」
「すぐにもペロペロしたいお」
急にキリっとした顔になって自分で汗フェチであることを主張する織斑一夏15歳。 カッコ悪さ全開である。
「ふむ……ならば、織斑のやる気を促進させる奥の手を使うか」
「奥の手とな?」
「何をする気?」
「ちょっとな」
嶋鳥と叶親を軽く受け流しながら、塩田はジャージのポケットから一枚の写真を撮りだす。
写真は一夏からは裏側になっていて、何が写っているのか分からない。
「実はここに、オレが密かに持っている弥生の隠し生着替えの写真が……」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!! たった今、都合よく目覚めろ! 俺のセブンセンシズ!!!!」
急に立ち上がり、先程まででは考えられない速度で走り出した。
その顔には一片の疲労も無く、とても眩しく輝いている。
結果として、一夏はあっという間にアリーナの周囲を走り終えてしまった。
「おっと間違えた。よく見たらこれ、弥生じゃなくて矢禿さんの生着替えだったわ」
「何をどうして間違えるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!! 思春期の青少年の純情を弄ぶんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
「悪ぃ悪ぃ。許してヒヤシンス」
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
「血涙を流しながら怒るような事?」
「アイツ、全てが白日の下に晒された八神ライトみたいな顔になってるぞ」
「塩田の奴、一体何処からあんな写真を入手したんだ?」
「知らね。アイツの情報入手先ってマジで不明だから」
怒り心頭の一夏を余所に、塩田を除いた五人は達観した顔で二人を事を眺めていた。
彼女等にとって、この程度の事は日常茶飯事だから。
「だからガモ……うっ!?」
「どうした?」
「全力疾走した後で怒りまくったから……体力が本当に尽きた……」
本当に一夏の体力は限界に達したようで、その証拠に白式がまだSEがあるにも関わらず強制的に待機形態に戻った。
「今日はもう終わりかな」
「だね」
当の一夏が限界になってしまったので、本日の訓練はここで終了する事に。
それを聞いて一安心する一夏だが、忘れてはいけない。
今日がこれで終わるという事は、今回出来なかったメニューは次回に回されるという事を。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
ピットにあるベンチに横たわり、一夏は体全体を脱力させて体を休ませている。
もう一歩も動く気力が無いのだ。
「あれ? もう終わったの?」
「桜井さん」
ここで遅れて桜井が登場。
手に持っているスポーツバッグの中に人数分のタオルとスポーツドリンクを持ってきてくれた。
「どうやら、相当に絞られたみたいね」
「つーか、体力なさすぎ」
「いや、アンタら六人と比べたら大抵の人間が体力不足になるわよ……」
なんて言う桜井も、実は隠れた実力者だったりする。
少なくとも、そこら辺の代表候補生程度ならば楽に屠れるぐらいの力はある。
「ほら、飲める?」
「今……は……無理……」
「なら、ここに置いておくわね。楽になったら飲みなさい」
「あ……りが……とう……」
一夏的には一刻も早く目の前にある冷たいスポドリにありつきたいが、体がそれを許してくれない。
「んあ……?」
ふと、一夏の視線が壁に掛けてあるカレンダーに向く。
それを見た彼の脳裏にある事が思い浮かぶ。
「そっか……もうそんな時期か……」
「カレンダーがどうかしたの?」
「いや……もうすぐ夏祭りがあるなって思って……」
「夏祭り……」
「えぇ。この時期になると、うちの近所の神社で夏祭りがあるんです。沢山出店が出て、かなり賑やかなんですよ」
ようやく息が整ってきたのか、喋りがスムーズになっていく。
ゆっくりと起き上がってから、念願のスポドリにありついた。
「行きたいのか?」
「いや、俺には特訓があるし……」
「別に行ってもいいぞ?」
「へ?」
塩田の意外な一言に目が点になる。
「こうも連日、訓練訓練じゃ体力よりも先に精神の方が参るだろ。時にはゆっくりと心身ともに休める事も重要だぞ?」
「塩田の言う通り。休む事もれっきとした訓練の一環だよ」
「そ……そこまで言うなら……」
植村の後押しもあって、一夏は休みを受け入れることに。
そうなると、途端にワクワクしてくる。
「いっその事、オレ達も一緒に行くか」
「いいねそれ」
「私は賛成」
「私も。偶には別の街の夏祭りにも行ってみたいかも」
「時にはいいかもね」
「どんな出店が出るのかな~?」
この六人、完全に行く気満々である。
「桜井さんも行きます?」
「いいの?」
「もうこの際、一人ぐらい増えても問題無いでしょ」
「そうね」
はい決定。
久方振りの里帰りは、かなりの大所帯になりそうだ。
「決まりなのかよ」
「当たり前だろ? それともなにか? オレ達が来ちゃ拙い事でもあるのか?」
「それは無いけど……」
「じゃあいいじゃん」
「はぁ……別にいっか……」
人生は諦めが肝心とはよく言ったものだ。
おめでとう一夏。これでまた君は一歩だけ大人の階段を上った。
「こんな形で昇りたくねぇよ……」
あまり我儘は言うもんじゃないぞ。
「でも、夏祭りか~。今年もこっちの夏祭りは賑わうのかね~」
「こっちでもあるんですか?」
「当然。吉六会の皆もよく屋台とか出してるんだよ」
「へぇ~。例えば?」
「幕南名物『総理の焼きそば』」
「総理って、あの総理っ!?」
「当たり前だ。他に誰がいるんだよ」
「いやいやいや! なんでよりにもよって総理大臣が夏祭りで屋台出してるんすかっ!?」
実に正論。普通は絶対に有り得ない。が、彼等に常識は通用しない。
「誰も焼きそば焼いてるのが本物の内閣総理大臣だなんて信じてないって。精々、どこかで見た事があるそっくりさんぐらいにしか考えないよ」
「んなアホな……」
「実際に有名なんだぞ。総理の作る焼きそばって何気に絶品だしな」
「弥生なんて、余りの美味しさに、よくわんこ焼きそばしてるし」
「わんこ焼きそばとなっ!?」
「一人前の焼きそばを延々と只管にパクパクと……」
「容易に想像がつく自分を凄く思う」
人並みなんてレベルを遥かの凌駕する食欲を持つ弥生に掛かれば、屋台の粉もの料理は数十人前ぐらい朝飯前だ。
それこそ、全ての食べ物系の屋台を制覇する事も出来るだろう。
「そうなると、本家から浴衣を取り寄せて貰わないとな」
「本家って言った?」
「言った」
「塩田さんって、やっぱりブルジョア?」
「おう。超が付くほどのブルジョアだ。オレだけじゃなくてコイツらもな」
「類は友を呼ぶか……」
実際は『類は友を呼ぶ』ではなくて、昔からの付き合いなのだが。
それこそ、先祖まで遡るほどの。
「そういや、お前が言う夏祭りってどこであるんだ?」
「篠ノ之神社って場所だよ」
「ん? 篠ノ之ってどこかで聞いたような……」
基本的に興味のない事にはとことんまで無関心なので、神社の名前が世界一有名な人間と同じでもなんにも思わない。
仮に直接出会っても、お互いに路傍の石ころ程度にしか感じないだろう。
「さっきから普通に話してるけど、体力は戻ったのか?」
「少しだけなら」
「そいつはよかった。もしもまだキツかったら、段ボール箱に入れて運ばないといけなくなるからな」
「俺はスネークか」
「いいじゃんかスネーク。めっちゃカッコいいじゃん。男の中の男でしょ」
「それは認めるけどな」
こうして、もう一つのフラグも立った。
弥生と一夏。二人揃って夏祭りに行くことになったが、果たして二人は会場にて会う事が出来るのだろうか?
一夏よ。精々、作者に出会わせてくれるように祈るがいい。
久し振りに更新なのに主人公である弥生の出番なし。
次回に期待せよ!