幕南の美少女達を侍らせながら、一夏は周囲からの嫉妬の炎に耐えられるのか?
弥生が箒と出会っている頃。
一夏も幕南から多種多様な美少女7人を引き連れて、篠ノ之神社へとやってきていた。
「ここに来るのも久し振りだな……」
小学生の時に篠ノ之家が引っ越して以降、ここには全く足を運ばなかった。
彼がこの神社を訪れるのは、実に6年振りぐらいになる。
だが、そんな懐かしい気分を一撃でぶち壊すのが彼女達だ。
「おぉ~。結構デカい神社なんだな~」
「思っている以上に屋台がでてるな」
「これなら暇はしなくて済みそうだ」
「食べ物系以外にも色々と回ろうな」
「だが、くじ引きはダメだ」
「あれは普通に詐欺だしね」
「無駄に金を消費するだけよ」
塩田達6人も以前に予告していた通り、全員が色の違う着物に身を包んでいた。
塩田は純白に桜の花びらが描かれた浴衣を、叶親は紺色に菫の柄。
吉崎の浴衣は薄い桃色に羽が描かれてあり、嶋鳥が来ている浴衣は黄色に向日葵が。
鷹橋の着用している浴衣は水色にシャボン玉が、植村のは情熱の赤にツツジの柄で、桜井は紫に紫陽花の浴衣を着ている。
嶋鳥や桜井以外のメンバーはいずれもかなり髪が長いため、後頭部で纏めてあった。
「なんつー神社なんだっけか?」
「篠ノ之神社ですよ。前に言いませんでしたっけ?」
「そうだっけ。よく覚えてないや」
神社の名前なんてどうでもいい。
要は楽しめればそれでいいのが彼女達。
「こうして入り口で話してても、他のお客さんに迷惑だ。とっとと行こうぜ」
「塩田さんがまともな発言してる……」
「おい織斑。それはどーゆーこった?」
「いや……なんでもないッス」
下手にからかっても痛い目を見るのは自分だと分かりきっている為、大人しく引き下がる事を覚えた一夏。
別の意味でも彼は成長していた。
「でも、この時間帯ならもう神楽舞は終わってるかな……」
「神楽舞ってアレ? 綺麗な服を着て、全身に装飾をしてから刀を持って舞う的な?」
「よく知ってますね、嶋鳥さん」
「正月とかに叶親もやってるしな」
叶親もまた剣士の家系である為、そういったイベントごとにはよくお呼ばれされていたりする。
他の五人もその場に出席し、彼女の舞を毎年のように見ている。
「幕南からここまでは結構距離があるからな。こればっかりは仕方がないって」
「だな。夏休みで人も多いし」
なんとも達観した考えを持つ女子高生たちだ。
そんな風になったのも、全てはそれぞれの実家が原因なのだが、本人達は全く気にしていない。
「ちょっち込み合ってきたな。マジで行こうぜ」
「了解」
こうして、一夏達8人の夏祭り堪能ツアーが始まった。
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夏祭りの会場を歩いていると、一夏にだけ一人でいる男達の醜い嫉妬の視線が集中する。
それもその筈。本人達は全く自覚無しだが、傍から見れば一夏は間違いなく美少女達を侍らせているラノベ主人公体質野郎にしか見えていない。
だが悲しいかな。お得意の鈍感スキルをいかんなく発揮し、見事に世の男共の嫉妬の視線攻撃をスルーしている。
「よし! 折角の息抜きなんだ! 気合入れて遊ぼうじゃねぇか!」
「あまり無駄遣いはダメと思うけど……」
「織斑。金持ちを舐めんなよ?」
「うわ~。嫌味だ~」
桜井以外は紛れもないお嬢様揃い。
金銭的な心配は全く持って皆無である。
「まずはどの屋台に行くか!?」
「カタヌキ――――――!!」
何故か嶋鳥の提案でカタヌキの屋台に行くことに。
流石に最初から難易度の高い物は出来ないので、10段階中の3番目である女の子の形のカタヌキにチャレンジする事に。
「「「「「「「「……………………」」」」」」」」
さっきの大騒ぎから一転。
超集中状態になって全員が静かになった。
ちまちまちまちまちまちまちまちまちまちま…………。
「やっと抜けた……」
「地味なんじゃ―――――――――――――――――――!!!!!」
懸命に頑張って抜けた一夏の『女の子』が、塩田の怒りの手刀によって首無し死体に早変わりしてしまった。
「折角の夏祭りなのに、なんで一番最初にするのがカタヌキなんだ――――――――!!」
「俺の抜けたのが―――――――――――!!!」
哀れ一夏。
折角の努力が水の泡になってしまった。
「あら。二人共もう終わったの? 私ってばぶきっちょさんだから、こんなんなっちゃった♡」
「完全完璧に粉微塵になってるじゃねぇか!! なんで機械系は得意なのにカタヌキは壊滅的なんだよ桜井さん!! もうこれぶきっちょさんとかいうレベルを遥かに超越してるだろ!! フードプロセッサかあんたは!!」
「聞いてくれよ織斑! 私、こんなに上手に抜けたってのに失格だって言いやがった!!」
「嶋鳥さんは嶋鳥さんで、なんで無駄なディティールアップしてんですか!! 明らかに普通にカタヌキした方が簡単でしょうが!!!」
余談だが、この中で唯一まともにカタヌキが成功したのは鷹橋だけだったりする。
成功報酬は近所の駄菓子店などで売ってるお菓子だったが、これはこれで満足だったようだ。
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次に一夏達が訪れたのは射的場。
数々の景品が並べられている中、一番目を引くのは最新型のテレビだった。
「射的! これこそ女のロマン!」
「ロマンって……」
早くもツッコみ疲れてしまたのか一夏。
なんと情けない。
「うっさい」
そんなやり取りをしていると、吉崎が金を払って射的にチャレンジすることにしたようだ。
「ま。これぐらいなら簡単だろ。ほれ」
「お~! 吉崎さん流石ですね!」
吉崎の撃った弾は一発で景品にヒットした。
だがしかし、店主は挑発的な笑みを浮かべて景品を取ろうとしない。
「あ~。お嬢ちゃん、それじゃあダァメだわ~」
「は?」
「射的ってのはね、当てるだけじゃダメなんだよ。ちゃ~んと倒さなきゃ。倒しさえすればどれでも持っていってもいいんだけどぉ~……今のはダメェ~! 倒れていない景品はあげませぇ~ん!」
この言葉にブチ切れた吉崎は、残った玉を使って店主の人中と喉と股間を撃ち抜く。
人体の急所を三連続で直撃した店主は、そのままバタリとその場に倒れた。
「倒したぞ」
「持っていく?」
「いやいやいや! ムカつくのは分かるけど、ちょっとやり過ぎでしょ!?」
「こいつが言ったんじゃねぇか。倒しさえすればなんでも持っていっていいって」
「おじさんは店の景品じゃねぇよ!?」
持っていくことはしなかったが、塩田が去り際に『当てるだけでもOK』を書いた紙を店に貼り付けて言った為、その後は客足が増えたという。
その代わり、あっという間に景品は無くなっていったが。
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「思ってた以上に人が集まってんだな~」
「ここらじゃ有名な神社なのかな?」
じゃんけんで負けた一夏が全員分の飲み物の買い出しに行っている間、塩田達はベンチに等に座って喧騒を眺めていた。
「屋台の種類が豊富で暇しないな」
「全くね。てっきり、粉もの三巨頭である『たこ焼き』と『お好み焼き』と『焼きそば』だけが締めてると思ってた」
「一応、それらの屋台もあったけどね」
「焼きそばと言えば、総理って今年も焼きそばの屋台をするのかな?」
「また食べたいな~。総理の焼きそば」
話題が総理の焼きそばにシフトした頃に、一夏が買い出しから戻ってきた。
「戻ってきました~! ちゃんと全員分のドリンク~!」
「お! 待ってました!」
「あ~……重たかった~……」
なんせ8人分のドリンクだ。
持ち運びするだけでも、普通に疲れるだろう。
「お~! これだよこれ! この合成着色料たっぷりのドリンク! これぞ祭りって感じだよな~!」
「塩田さんの発言が女子高生っぽくない……」
「ツッコんだら負けだよ」
歳相応にワイワイしながら喉を潤していくと、植村の視線の先にある屋台が見えた。
「ねぇ、あれって何?」
「どれだ?」
「アレだよアレ」
彼女が指差したのは、飴細工の屋台だった。
粘土のように柔らかい飴を自在に変えて、色んな形にする屋台だ。
鷹橋がそう説明すると、植村の目が急に輝きだす。
「面白そう!」
「なら、次はあそこに行くか?」
「うん!」
特に反対意見も出なかったので、次の目的地は飴細工の店に決定。
ドリンクを飲み干した一行は、早速行ってみることに。
「ほぉ~……」
店には動物や乗り物の形をした飴が飾られていて、造形だけでなく普通に美味しそうでもあった。
「いらっしゃい」
「これ、おじさんが全部したのか?」
「勿論さ。例えば……ちょちょいっとな」
店主のおじさんは、あっという間に可愛らしい女の子の飴細工を作り出した。
それは紛れもなくプロの技だった。
「すげーな。俺達にも出来るかな?」
「金髪のお嬢ちゃん。試しにやってみるかい?」
「いいのか?」
「おう。お嬢ちゃんみたいな可愛い子にはサービスしてナンボだしな」
「言うじゃねぇか。さっきの射的場とは大違いだぜ」
おじさんから何も細工されていない割り箸に刺さった飴を受け取り、試行錯誤して色々と動かしていく。
「ここをこうして……こうか。んでもって、ここはこうなって……っと」
「おぉ~……。結構やるじゃねぇか、お嬢ちゃん」
「まぁな。オレにかかればこれぐらい……ってな」
「あれ? なんかどっかで見た事があるような形に……」
数分後。完成したのは……。
「よっしゃ出来た! 織斑一夏飴!!」
ケツに割り箸が刺さって悶絶している一夏の姿を現した飴だった。
「割り箸の存在を強調すんなよ!!」
当然の主張。
だが、それが通らないのは既に経験済み。
「中々に筋がいいじゃねぇか。そいつは記念にタダでくれてやろう」
「あんがとな。んじゃ織斑、これ食べろ」
「自分のこんな痴態を食べろと言うのか!?」
「アメちゃん……」
「ダメェェェェェェェェェェ!!! 幾ら植村さんがお菓子大好きっ子でも、これだけはあげられね―――――――――――――――!!!」
だろうな。
自分のケツに割り箸が刺さった姿を模した飴を女の子に食べられたら、普通の男は一生立ち直れないかもしれない。
結局、この飴は一夏が仕方なく食べましたとさ。
食べている最中、一夏はとても悲しい気分になったとか。
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「こんだけ回っても、まだ色々とあるぞ……」
「奥深いな……篠ノ之神社の夏祭り」
飴細工屋の近くにあった焼き鳥の屋台で一本ずつ焼き鳥を購入して歩いている一夏達。
未だに男達からの嫉妬の視線は継続中だ。
「ここって何時までやってるんだ?」
「確か~……夜の八時ぐらいまでだったと思います」
「なんか曖昧だな」
「この神社に来ること自体が相当に久し振りなもんで」
「それならしゃーねーか」
今はもうのんびりとぶらついている感じになっている面々。
それでも、まだ帰る気は無いようだ。
「今度はどこに行こうか………ん?」
「嶋鳥? どうしたんだ?」
「なんか……向こうから見覚えのある奴が来てるような……」
「見覚えのある奴?」
嶋鳥が指差す方向には、二人組の浴衣を着た少女達が歩いてきていた。
その姿を見た途端、一夏の目が大きく見開かれた。
「あ……あれはまさか!?」
「お前、こっから見えるのか?」
「見間違うわけがない……! 俺が間違う筈がない!」
「お……お~い? 聞こえてますか~?」
完全に自分の世界に入った一夏。
もう誰の声も聞こえていない。
「弥生ぃ~~~~!!!」
「「「「「「「え?」」」」」」」
一夏以外の全員が驚いていると、向こうの浴衣の二人組も驚いているようだった。
早歩きになったのか、段々と二人の姿が明らかになっていく。
「マジかよ……」
一夏達が発見した二人組とは、浴衣を着て一緒に歩いていた弥生と箒のことだった。
偶然か必然か。夏祭りの会場で出会ってしまった弥生と一夏。
これからどうなる?
はい。会いました。
次回はまた二人の話になります。