前回、普段から世話になっている(と思っている)ヒロインズに感謝の意を込めて友チョコをプレゼントした弥生。
そこに他の女子達からチョコを貰った一夏がやって来た。
果たして、一夏は本命の弥生からバレンタインチョコが貰えるのか?
弥生とヒロインズのチョコプレゼントショーが開かれている教室に、両手に大量のチョコの入っている紙袋を持って現れた一夏。
明らかに異様な空気に、彼とヒロインズは一瞬だけ止まってしまう。
「予想はしてたけど、今年も貰ってるわね~。つーか、中学の時よりも多いんじゃない?」
「そうか? いちいち数えたりとかしてないから、よく分からねぇよ」
「そういったところも変わらないのだな」
昔の一夏の事をよく知る
それを知らない他の面々は、逆に驚いているが。
「唯一の男子って肩書きは、伊達じゃないようですわね」
「ある意味で一点集中だもんね」
入学から相当な時間が経過しても、世界初の男性操縦者と言う称号は強いようだ。
彼の容姿や性格も相乗効果を発揮しているのだが、鈍感を司る神である彼がそれに気が付く事は永遠に無いだろう。
「ところで、皆は教室で何をやってたんだ?」
「ふふふ……これだ!」
「そ……それは……!」
ラウラが自慢げに、弥生から貰ったウサギチョコを見せびらかす。
よく見ると、他の面々も色んなチョコを堪能している。
彼女達が嬉しそうに食べるチョコ。
無駄に勘がいい一夏は、一瞬で誰がチョコを作ったのか分かった。
「そのチョコ……作ったのは弥生だな!?」
「正解よ。これ、すっごく美味しいんだから」
「しかも、私達それぞれに違うチョコを作ってくれてるんッスよ」
「とても凝ってるんだよ~」
「流石は弥生……ここから見ても、相当な出来栄えじゃないか……!」
弥生と同様に、料理全般を得意とする一夏にも、弥生の作った数々のチョコは輝いて見えた。
と同時に、猛烈に欲しいとも思った。
「いいなぁ~……」
「はぁ……」
昔から他人の視線には敏感(と信じ込んでいる)な弥生は、すぐに一夏の思っている事に勘付いて、溜息交じりに小さな箱に入ったチョコを取り出した。
「はい」
「え………?」
「これ……」
「も……もしかして……俺に……?」
「ん……」
(一応、一夏にも助けられてはいるからね)
事故的な事だったとは言え、過去に弥生が一夏に救われた事があるのもまた事実。
例え鬱陶しく思っていても、その借りはちゃんと返すのが弥生流だ。
「…………!!」
急いで箱を開けて中身を確認する。
箱の中にあったのは、少し大きめのハートの形をしたホワイトチョコで、チョコソースで大きく【義理!】と書かれてあった。
「「「「「「なぁ~んだ」」」」」」
ハートの形を見た時は本気で戦慄したヒロインズだが、【義理】の字を見た途端に安心の溜息を零す。
だが、そんな事は一夏には関係無いようで、チョコを見たままのポーズで完全にフリーズしている。
「い……一夏?」
「ちょ……大丈夫?」
「生きてるか~?」
流石に心配になった彼女達が声を掛けるが、全く反応が無い。が、次の瞬間にとんでもない事が起きる。
「世界人類が平和でありますように……」
「成仏したっ!?」
感動のあまり、一夏の体から魂が抜けだして成仏し始めた。
「しっかりしなさいよ一夏!」
「弥生のチョコが貰えて嬉しいのは分かるが、成仏しちゃ駄目だ~!」
「悪い……箒……鈴……どうやら俺はここまでみたいだ……。弥生の超絶美味しい手作りラブラブチョコを貰えるなんて超級の奇跡を起こしてくれたから、神様に俺の魂を捧げなくちゃ……」
「貴方はどこの邪神と契約してるの」
簪の冷静なツッコみ。
もうこの場では何が起きてもおかしくは無いのかもしれない。
「私達も大概だったけど、一夏君の喜びようは異常ね……」
「それだけ嬉しかったのかもしれません。なにせ、彼にとって弥生さんは初恋の人なんですから」
「だとしてもぶっ飛び過ぎッスよ……」
「ここまで来ると、もうギャグだよな」
上級生組も容赦がない。
ぶっちゃけ、
「おい。教室で何を騒いでいる」
「上級生の子達もいる……」
ここで、今度は教師組のご登場。
どうやら、通りかかった所を騒ぎを聞きつけて様子を見に来たようだ。
「あ……織…斑先…生……山…田先生……」
「弥生?」
「板垣さん?」
色んな意味で特別な目で見るようになってしまった教師コンビにも、ちゃんとチョコは用意済み。
トテトテと小走りで近づいて、二人にチョコを差出した。
「もしやこれは……!」
「私達にチョコを……?」
「はい……」
まず、千冬にはカラフルな箱に入ったチョコを。
仄かにアルコールの香りが漂っている。
「まさか……ウィスキーボンボンか!?」
「織斑先生……はお酒……が好きだ……から……。大変だっ…たけど……」
「弥生……」
感動のあまり、千冬も涙を流しながら魂が抜けだしてしまう。
「世界人類が平和でありますように……」
「教官っ!?」
「似た者姉弟っ!?」
「織斑先生っ!?」
姉弟揃って同じ反応をするとは。
使い回しはダメだと思うのであります。
「こんな奇跡を与えてくれるとは……神に感謝せねばなるまい……」
「アンタもか」
簪、冷静なツッコみ二回目。
もう完全に目が冷めている。
「この二人は暫く放置しておけば大丈夫でしょ。それよりも、山田先生にもチョコをあげたら?」
「です……ね……」
取り敢えず、織斑姉弟の事は無視して、弥生は真耶に少し大きめの箱を差し出す。
「開けて……みてくだ……さい……」
言われるがままに箱を開けると、中には色鮮やかなフルーツと、蓋がついている器に入っているチョコソースがある。
「これって……もしかしてチョコフォンデュですか?」
「山田先生……ってフルーツ……が好きそう……だった…から……」
「わぁ~! 本当に嬉しいです! ありがとうございます!」
今までの中で最も凝ったチョコに、真耶は心から嬉しそうな笑みを浮かべる。
「やよっちの頭の中はアイデアの宝庫だね~」
「これは、ホワイトデーはこちらも気合を入れなくてはいけませんね」
「こんなに凄いチョコを貰ったんだもの。私だって頑張らないと」
「ですね。弥生、期待して待っててくれ!」
「ん……」
本当にいい友達を持った……。
弥生は改めて、友達との絆を再確認したのであった。
「そ……うだ……」
「どうしたの?」
「ちょ…っといい……箒……」
「ん? 私か?」
「束さん……と連絡……って取れる……かな……?」
「姉さんに連絡? まさか、弥生は姉さんにもチョコを用意してるのか?」
「ん……」
破天荒な言動が多い束であったが、それでも弥生は彼女にも世話になっている。
だから、ちゃんと彼女にもチョコデザートを用意していた。
「そうか……。だが済まない。私でも姉さんとは滅多に連絡が取れないんだ。一応、私の携帯に番号は入っているのだが……」
「そう……」
残念そうに呟く弥生の手には、少し冷たい箱が握られていた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「むむ!!」
「どうしました? 束さま」
「どこかでやっちゃんが『束さん大好きラブラブオーラ』を出しているのが分かる!」
「はぁ?」
「そんな訳で、今から行ってくるね! クーちゃん!」
「い……行ってらっしゃいませ……?」
「いってきま~す!!」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「ふぅ……」
教室でのチョコ騒動から少し経ち、弥生は今日渡せなかったチョコを寮の食堂の冷蔵庫に直す為に廊下を歩いていた。
別に自室の冷蔵庫でもいいのだが、間違って食べたら大変なので、念には念を入れて食堂の冷蔵庫を一時的に借りる事にした。
少し立ち止まって、何気なく外に面した窓を見てみると、そこに何故か嬉しそうな束の顔があった。
「わぁっ!?」
「やっちゃ~ん! なんだかいい予感がしたから、会いに来たよ!」
「はぁ……」
確かに会いたいとは思っていたけど、まさか向こうからやって来るとは思わなかった。
しかも、あまりにも見計らったかのようなタイミングで。
どこかで見ていたんじゃなかろうか。
「よっこいしょっと」
窓から無理矢理、寮に入ってきた束。
よく見たら、足の部分だけISらしきパーツが装着されている。
どうやら、部分展開をさせて宙に浮いていたようだ。
「まぁ……い…いか……」
彼女に関しては、何が起きても仕方がないと思って諦めること。
それが、千冬に教えて貰った束の対処法だった。
「束……さん……」
「ん~? なにかな~?」
「これ……ど…うぞ……」
「お? なにやら甘い匂いがするね~」
嬉々とした顔で箱を開けると、そこには保冷剤と一緒にチョコ味のプリンが。
ちゃんとスプーンも入っている。
「チョコプリン! もしかして、やっちゃんの手作り!?」
「です……」
「にゃんと! チョコ味って事は、バレンタインのチョコだったり……?」
「はい……」
この時! 束の無駄に明晰な頭脳が、ある結論を導き出した!
(バレンタインのチョコ=本命チョコ(勝手に確定)=やっちゃんが私の事を好き=カップル成立!=結婚!!)
束の超ポジティブなマインドが超ぶっ飛んだ考えに至った。
ここまで頭がお花畑だと、逆に尊敬できる。
「やっちゃん!!」
「は……はい?」
「私も同じ気持ちだよ!!」
「そうで……すか……」
「絶対に幸せにするからね!」
「???」
束の言いたい事が微塵も理解出来ない。
だから、弥生も何も考えずに答えることにした。
「このチョコプリン、美味しく食べるからね! やっちゃん、本当にありがとう!」
「ど……どうい…たし…ま……して……」
来た時と同様に、窓から去っていった。
空の向こうに消えながら、束は変な奇声を出して。
「……ちゃん……と……扉……から出て…行こう……よ……」
やっと出せた弥生の小さなツッコミは寮の廊下に空しく響いた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
当然だが、弥生は学園以外の人々にもちゃんとチョコを作っていた。
と言っても、距離的な事情や仕事があるから、直接手渡す事は出来ないから、バレンタインの少し前に宅急便で送ったり、人に頼んで渡して貰ったりしている。
例えば、吉六会のメンバーとか。
「これ、マジで美味しいですね~」
「流石は板垣さん。お菓子作りも一流だな」
小栗と兵庫は普通に喜んだが、案の定と言うか、同じ学校の女子達に盛大に勘違いされた。
「うめ~♡」
「いや~……マジで凄いわ~……」
「私もこれぐらい出来れば……」
「なんで市販のチョコよりも明らかに美味しいんだよ……」
「材料は同じ筈なんだけどな……」
「美味しい~♡」
塩田達六人は、それぞれにチョコを味わっていた。
叶親と嶋鳥と鷹橋は純粋に驚いていたが。
「今年も、弥生のチョコは美味しいわね~♡ ん~♡ マジ最高~♡」
中学時代から、毎年のように弥生からチョコを貰っていた桜井は、今年も彼女の手作りチョコに舌鼓を打っている。
そして、弥生にとって最も大切な人である板垣総理にも、ちゃんとチョコは渡してある。
「あ。総理、それって弥生ちゃんの手作りチョコですか?」
「あぁ。本当に美味しくて、仕事が捗るわい」
「いいですね~」
「何を言っておる。矢禿くんも弥生から貰っているじゃろうが」
「そうでした」
政務をテキパキとこなしながら、その僅かな合間に弥生のチョコをお茶請けに食べる。
総理にとって、数少ない至福の一時だ。
その隣では、矢禿も同じ様に仕事をしながら弥生から貰ったチョコを頬張る。
因みにこの男、ちゃんと自分の彼女からも本命のチョコを貰っている。
アフロのヅラを付けているくせに、この作品内で一番リア充な男だ。
「今日も平和じゃの~」
息抜きに窓の外に見える青空を眺める総理。
今日も世界は穏やかに回っている。
願わくば、このような日々が続きますように。
「ん? なにやら今、空の向こうを何かが飛んで行ったような気が……」
どこぞの天災兎が飛んで行っただけなので、特に気にしない方が賢明です。
その後
束「むほぉぉぉ♡ やっちゃんの手作りチョコプリン、超美味しい~♡」
ク「本当に美味しい……」
束「やっぱり、やっちゃんの女子力は束さんすらも凌駕してるね!」
ク「これ程までに美味しいお菓子を作れる板垣弥生さま……私も一度、お会いしたいです」
束「いつの日か、きっと会えるよ~」
ク「そうですね。その日が今から楽しみです」
この日、またもや新たなフラグが立ったのであった。