丁度、片目が隠れてますから。
CVはまだ考えてませんけど。
「「いただきます」」
「いっただきま~す♡」
弥生と小泉さん……だったか? がラーメンを注文した後、その美味しそうな匂いに負けてしまったようで、結局は植村さんも同じラーメンを注文した。
んで、三人は仲良く一緒に並んでラーメンどんぶりと向き合っている。
「結構、腹は膨れてるんだけど、この匂いは普通に食欲をそそるよな……」
「ゴクリ……ラーメンか……そう言えば、久しく食べてないな……」
そういや、箒って学園でもあまり麺料理は食べてなかったな。
もっぱら、定食系ばかりを食べてたっけ。
逆に、麺料理を食べまくってるのは鈴だな。
本人に聞いたら『麺料理と中国は切って切れない関係なのよ』らしい。
意味分からん。麺料理以外にも美味しい中華料理は沢山あるだろうに。
「まずは麺の前にスープを一口……」
「ん……」
ラーメンに刺さっているレンゲを使って、二人は音も立てずにスープを飲んだ。
その隣で植村さんも同じ様にスープを飲んでるけど、なんつーか……優雅さが違った。
本人に言ったら即座にぶっ飛ばされるだろうけど。
「油が浮いているからコッテリとしていると思いきや、その実、とてもあっさりとした口触り……」
「でも……決して味……は薄くな……い……。寧ろ……私…が知って……る…とんこつラーメン……より濃厚……」
「そうですね。そして、この見事な縮れ麺」
スープの次は、遂にメインとなる麺を食べる。
少しだけ髪をかき上げながらラーメンを食べる二人の美少女の姿は、恐ろしく絵になった。
事実、ラーメン屋のお姉さん達は完全に視線が釘付けになってる。
「やっぱ……美少女ってのは、何をやっても絵になるもんなんだな……」
「そうね。今日、初めてコレをやっててよかったって思えたわ」
うんうん。お二人の言っている事はよ~く分かりますとも。
箒だけじゃなくて、他の皆も同じように頷いてるし。
「素晴らしいです。ちゃんとスープが麺に絡み、絶妙な味わいを引き出している……」
「「ん~♡」」
今度は植村さんと弥生が同じ顔で幸せそうに麺を噛み締めている。
弥生って、何かを食べている時が一番嬉しそうな顔をしてるよな~。
今度、俺からも何か手料理とか作ったら、喜んで貰えるかな……。
「二人共……」
「分かってます」
「もっちろん!」
ん? いきなり三人が何かを手に取ったぞ?
あれは~……すりごま?
「これを適量振りかけて……」
「入れ過ぎない程度に紅ショウガも追加……っと」
「これ……で……よし……」
この組み合わせは、さっきよりも絵的に美味しさが際立ったような気がする。
なんか、マジで腹減ってきたかも。
「「「ん~♡」」」
気のせいか、三人の周りだけ漫画とかでよく使われるキラキラしたトーンが張られてるように見える。
彼女達の雰囲気がなせる技なのか?
「弥生もそうだけど、植村の奴も食には相当なこだわりがあるよな~」
「その二人と同じ域にいる小泉って子も凄いわね……」
吉崎さんと桜井さんが呆れるのも無理はない。
これが普通の店舗とかだったら、間違いなく目立ちまくってる。
唯でさえ可愛い三人なのに。
「お前等、よかったらこれも食うか?」
「「「そ……それは!?」」」
なんだなんだ? 勝気な方のお姉さんが少し大きめのタッパーを取り出したぞ?
中身はどうやらもやしみたいだけど、少し赤いのが付着してる。
あれって、もしかして唐辛子か?
「ここでピリ辛もやしを提供してくださるとは、本当にありがとうございます」
「遠慮無くいただきま~す♡」
「はむ……」
う~む……あのもやしは少し気になるぞ。
「あの、ちょっといいですか?」
「ん? どうした?」
「そのもやしだけ食べさせて貰えませんかね?」
「これだけ? まぁ、別にいいけどな。単なるトッピングだし」
「ありがとうございます」
小皿にもやしを入れてくれて、箸もつけてくれた。
では、俺も早速試食してみるか。
「こいつは……」
本当にいい具合なピリ辛感だ……。
辛すぎず、かと言って味が薄いって訳じゃない。
本当にピリっとするいい辛さだ。
もやしは水分が多いから、水を飲まなくても口の中を油分を取ってサッパリさせてくれるが、それだけだと味気ない。
だが、このピリ辛な味付けならば、口の中をリセットしつつも辛さによって次の一口をより一層美味しく演出してくれる。
成る程な……これがプロの仕事ってやつか……マジで勉強になるぜ。
「そろそろ半分ですね。ならば、ここでコレを入れますか」
まだ入れるのか? 今度は~……カラシ高菜?
そうか、折り返しになったから、味を引き締めるのか。
「箸が進むね~」
「止まらない……」
「このまま一直線ですね」
見る見るうちにドンブリの中身が無くなっていく。
あっという間にスープだけになった。
さぁ、後はこれを飲み干せば……。
「「「……………」」」
あれ? なんで三人してスープを見つめる?
「「「替え玉有ります?」」」
替え玉っ!? 幻のサービスと言われている、あの替え玉かっ!?
いやいや……流石に替え玉は無いだろ……。
「あるよ」
「「「「「あるのかよっ!?」」」」」
おっと、俺よりも先に植村さん以外の五人がツッコんだぞ~。
「こちとら、これ一つでやるって決めてるからな。その代わりにサービスは沢山しねぇと」
「そんな訳で、はい替え玉」
「「「ありがとうございます」」」
その後、実質的に二杯のラーメンを食べた三人は、非常に満足そうな顔をしていましたとさ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「「「ごちそうさまでした」」」
「あいよ。お粗末様でした」
それぞれにお金を払ってから、私達は腹ごなしがてらに少しだけ歩いた。
「では板垣さん。私はここらで失礼します」
「もう行……っちゃう…の……?」
「はい。まだまだ行きたいお店は沢山ありますから」
流石は小泉さん……! そのリサーチ力は見事だぜい。
私も見習わなくては!
「植村さん……と仰いましたか。貴女も見事な食べっぷりでした。また今度、いつか機会でもあれば三人で一緒に食べに行きたいですね」
「それいいね~!」
「ん……。私……も行きたい……」
んな訳で、植村さんも小泉さんと番号交換する事に。
「それじゃあ、私はもう行きます。皆さんはどうか夏祭りを楽しんでいってください」
丁寧なお辞儀をした後に小泉さんは去っていった。
その後ろ姿も絵になります。
「嵐のように現れて、嵐のように去って行きましたね……」
「色んな意味で鮮烈な少女だったな……」
この中で最もまともな感性をしていると思われる箒と蘭ちゃんが呟いてる。
確かに特殊な女の子だとは思うけど、凄くいい子だよ?
「んで、ここからどうする?」
「それなら、あの場所に皆で行かないか?」
「あそこか。良いかもしれないな」
なになに? 一夏と箒だけで納得してないで教えてよ~。
「あの場所ってなんだよ?」
「実はですね、俺達だけが知ってる秘密のスポットがあるんですよ。そこだとよく花火が見れるんですよ」
「へぇ~。それいいじゃん」
「蘭も一緒に行くだろ?」
「当然で……ちょっと待ってください」
完全に行く空気になった所で、蘭ちゃんの携帯にメールが来たみたい。
それを見て、彼女の顔が少しだけ歪んだ。
「はぁ~……どうしてこのタイミングで言ってくるかな~……」
「どうしたんだ?」
「いえ。お兄からメールが来て、お母さんとおじいちゃんがそろそろ帰って来いって言ってるそうなんです」
「マジか。そりゃ残念だ」
「全くです……。もう神社の入り口までお兄が迎えに来てるらしいし……」
「あまり待たせるのもアレだしな。残念だけど、さっさと行ってやった方がいい」
「そうします。お兄が馬鹿しないように私が見張ってないと」
なんて言いつつも、ちょっと嬉しそうじゃない?
色々と文句を垂れながらも、結局はお兄ちゃんが大好きなんでしょ。
「そんな訳で、私もここでお暇します。弥生さん、またいつでもうちの店に食べに来て下さいね! 私もお母さんもおじいちゃんも、いつでも大歓迎ですから!」
「ん……」
そこでお兄さんの名前は出さないのね……。
小泉さんに蘭ちゃんもパーティー離脱ですか。
それでも10人近くいるんだよね……。
「ここでいつまでも残念がっても仕方がねぇよ。それよりも、とっととその『秘密のスポット』とやらに案内してくれ」
「分かりました」
一夏が先頭になって、彼の言う場所に案内して貰う事に。
もしかして今から行く場所って、原作で一夏と箒が二人っきりで花火を見た場所だったり?
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
背の高い針葉樹が出来た林の裏を抜けた場所に、ポッカリと開けた場所があった。
ちゃんと二つのベンチが置いてあり、一応は休憩所的な場所なのが窺えた。
一夏曰く、ここは彼と箒と千冬さんと束さんの四人しか知らない場所らしい。
所謂『穴場』ってやつですな。
「久々に来たけど、全然変わってないな~」
「そうだな。私も来るのは数年振りになるが、昔と殆ど変化してない」
幼馴染だけが知ってる秘密の場所って、なんかいいな~。
まるで秘密基地みたいで、ちょっと憧れる。
「へぇ~! 思ったよりもいい場所じゃんか!」
「うん。この大人数で来ても、そこまで狭く感じない」
「やるじゃん織斑。ほんの少しだけ見直したぜ」
「ほんの少しだけかよ……」
そう簡単に評価が上がれば、誰も苦労はしませんぜ。
「はぁ~…………」
「篠ノ之さん」
「な……なんだ、桜井さん?」
「本当は弥生と二人っきりで来たかったって思ったでしょ?」
「そ……それは…………うん……」
「そうよね~。気持ち、分かるわ~」
「え? まさか桜井さんも……」
そこの女子二人組は何を話しているのやら。
皆がガヤガヤしてるから、上手く聞き取れないや。
「ところで、花火って何時からよ?」
「もうそろそろだと思うんだけど……」
一夏が携帯で時間を確認しようとした直後だった。
雲一つない綺麗な夜空に、大きな花火がいきなり上がった。
「うわぁ……」
私……こんな近くで花火を見たの初めてかも……。
なんか、地味に感動してるよ……。
「すげ~……」
「なんつー迫力……」
「た~まや~!」
あの塩田さん達ですら、近くで見る花火に驚きを隠せてない。
私は無言でずっと打ち上がり続ける花火に魅了されていた。
その時、誰かが私の手を握ったのを感じた。
ふと握られた手の方を見てみると、手を握っていたのは一夏だった。
「花火……凄く綺麗だよな……」
「うん……」
「また来年も見たいな……」
「そう……だね……」
今度は来れなかった皆も一緒に来たいね。
そうすれば、また一段と楽しいお祭りになりそうだから。
「弥生……」
「ん?」
「俺さ……強くなるよ。実力的な意味だけじゃなくて、心も強くなる。これから先、ずっと弥生の事を支えられるような男になるからさ……その……待っててくれ」
待っててくれ……ね。
そんな決まり文句も、また珍しいね。
でもまぁ、悪くは無いんじゃない?
「頑張れ……男の子……」
「おう」
今日は特別に手を握り返すぐらいはしてやるか。
どうせ、すぐに放す事になるんだし。
(や……弥生と一夏が手を繋いでいる……だと……!? これは緊急事態なのでは……!)
あ~……喉乾いてきたな~。
ここに来る前にちゃんと飲み物でも買ってくればよかった。
ってか、箒が凄い形相でこっちを見てるんですけど。
「うふふ……♡ 青春ね~……」
桜井さん、目がイヤらしくなってるよ。
何を考えているのやら。
私達はそのまま、花火が終わるまでずっとそこで空を見上げていた。
夏はまだまだ終わらない。
最後にちょっとだけ一夏にいい思いをさせてあげました。
これぐらいはいいですよ……ね?
もうそろそろ夏休み編は終わりにしようと思っています。
弥生と一夏の話を一つずつしてから終了って感じですかね?
オリジナルの話が多かったので原作のストーリーを思いっきりガン無視してますけど。