なんでそうなったかは本編を読めば分かると思います。
前回の後書きにも書いた通り、今回は頭を空っぽにしてご覧ください。
夏休みも後半に突入し、世の大半の学生たちは未だに終わっていない夏休みの宿題に四苦八苦している事だろう。
だが、我等が主人公である弥生に限ってはそのような事は無かった。
学生の天敵である夏休みの宿題はとっくの昔に撃破し、今はのんびりと残りの休みを満喫中。
まだまだ夏真っ盛りで、何の対策も無しに出かけようものならば、すぐに日射病になる事は容易に想像が出来る程の陽気を前に、弥生は特にこれと言った用事もないのに出かけるなんて思考には至らない。
風通しがいい縁側に面した和室にて、弥生は薄手の薄いピンクのワンピースを着て座椅子に座りながら一人でゲーム雑誌を読んでいた。
(ムム……!? あの往年の名作である『ファイナルファンタジーⅠ』がPS4で完全リメイクっ!? 超美麗なフルCGを用いて、更には豪華声優陣によるフルボイスとなっ!? 発売は……再来年の冬っ!? その頃はもう三年生になってるじゃん!)
パタンと雑誌を閉じてから、テーブルに置いたよく冷えた麦茶を一口飲んでから、弥生の目がギュピ~ンと輝いた。
(絶対に予約をして買わなければ……!)
まだまだ発売は先にも関わらず、もう買う気満々である。
金銭面で全く不自由をしていないが故の余裕かもしれない。
「あ…………」
ふと携帯を見ると、もうすぐお昼に差し掛かろうとしていた。
義父である板垣総理は仕事の為不在だから、用意すべき昼食は自分の分とペット達の分だけ。
「まず……はあの子…達…の分……を用意し……よう……」
ペット達も掛け替えのない大切な家族。
こんな時でも、弥生は自分よりも他の誰かを優先するのだった。
それ程までに弥生に大切に思われている彼等はというと……?
・・・・・
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・・・
・・
・
マグロの農林水産大臣がいる水槽がある部屋。
そこに今、板垣家のペット達が一堂に集結していた。
因みに、ここからは動物の言葉を日本語に訳してお送りします。
まずは、アメリカンショートヘアの財務大臣。オス。
財『よし、これで全員集合だな』
次に、柴犬の外務大臣。メス。
外『なんでまたいきなり集まるのよ?』
サラブレッドの文部大臣。オス。
彼は部屋にある小窓から顔を覗かせている。
文『ま、突然の集合はいつもの事だから、気にしてないけどね』
そして、マグロの農林水産大臣。性別不明。
農『なんで毎回毎回、ここに集まるのさ……』
財『テメェがソコに入ってて、碌に身動きが出来ないのが悪いんだろうが! ぶつくさ文句を言うな!!』
農『ひぃぃぃぃぃっ! ご……ごめんなさ~い!』
文『いや、別に彼は何にも悪くないから。魚である以上、ここから動けないのは仕方がないだろ?』
外『そうよ。いくら猫だからって、魚を苛めていい理由にはならないのよ?』
財『ちょっと待て! 俺だけが悪者かよっ!?』
分・外『いや……実際に悪いし……』
財『くぁ~! 犬と馬が寄ってたかって幼気な猫を苛めやがって! 恥ずかしくはねぇのか!?』
外『そのセリフ、数秒前のアンタにそのまま返すわよ』
なんで犬や猫や馬や魚で会話が成立しているとか、そんな細かい事を考えてはいけない。
この板垣家にいる動物たちは、何故か会話が成立しているのだ。そーゆーものなのだ。
そこのところはご理解いただきたい。
文『まだまだ外は暑いんだから、早く終わらせてよね』
財『わ~ってる。そう急かすな』
なんでか口調は江戸っ子風だが、その仕草は普通に可愛い。
ある意味で猫は反則な生き物だ。
財『最近になって、妙にこの家に人間達の出入りが多くなってると思わないか?』
文『そうかな? 前からよく人間は来てたと思うけど』
財『それは、御主人の仲間達の事だろ? 俺様が言っているのはそれじゃない』
農『それじゃあ、なんなのさ?』
財『分からねぇか……? 姫さんだよ』
因みに、ここで言う『姫』とは弥生のことを指している。
ラウラ、あろうことかペットと同等だった説。
外『お姫ちゃんがどうかしたの?』
財『どうもこうもないだろうが! あの一人でいることが多かった姫さんが、ここ最近になって人間共を大量に連れてきてるじぇねぇか!』
外『そういえばそうだね。僕も何回か見かけたよ。けど、それと今回の集会と何の関係があるのさ?』
財『大有りだ! もしかしたら、あの中に姫さんを傷つけようとする輩がいるかもしれねぇだろ!』
外・文・農『ないない』
財『なっ……! なんでそう言い切れるんだよ! つーか魚野郎! テメェまで何頷いてんだゴラァ!!』
農『ゴ……ゴメンナサイ……』
猫と魚と言う関係上、どうしても財務大臣には頭が上がらない農林水産大臣だった。
外『確かに、この前なんてかなりの数が来てたけど、特に問題なんて無かったじゃない。それどころか、この家を綺麗にお掃除してくれたわ』
文『僕の小屋もちゃんとしてくれたよ。いつもは大変そうにしているお姫ちゃんも、あの時は楽しそうにしてたっけ』
外『アナタだって、あの時は銀色の毛の子の上に嬉しそうに乗ってたじゃない』
財『そ……それは……だな……』
外『それは?』
財『アイツから姫さんの匂いがしたからつい……乗っちまったんだよ』
外『その割には、気持ちよさそうに体を撫でられてたわね』
財『う……うっせーやい! 昔の事を掘り返そうとすんな!』
農『そんなに昔の事じゃないと思うけど……』
財『なんか言ったか?』
農『イエナニモ』
水中なのに何故か冷や汗を掻く農林水産大臣。
演出と言えばそれまでだが、なんとも器用なマグロである。
外『姫ちゃんとあの子達の仲はとても良好みたいだし、別に気にしなくてもいいんじゃない?』
財『け……けどだな……』
文『往生際が悪いよ。君だってあの子達が悪い人間達じゃないって認めてるんだろ?』
財『あ……あぁそうだよ! 俺様だって本当は分かってるんだよ! でも、そう思ってるのは自分だけかもしれないと思って、お前達に確認したくなってな……』
農『それならそうと最初から言えばいいのに』
外『ホント、面倒くさい性格してるわよね』
財『だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! うっさいやい! もうこの話は終わり!! 終了!』
文『力技で終わらせたし……』
この中で一番体が小さいのに、態度は一番大きい外務大臣に、呆れるしかない面々だった。
だが、ふと外務大臣がある事を思いだした。
外『そう言えば……』
財『ん? どうした?』
外『いえね……。前にお姫ちゃんと一緒にお散歩に行った時、あの子の事を妙に変な顔で見ている人間のオスがいたのよね……』
財『なんだとっ!?』
外務大臣のいきなりの一言に、全員の顔が強張った。
外『別に害を成そうとはしてる感じじゃなかったんだけど、なんて言えばいいのかしら……一方的にお姫ちゃんに言い寄ろうとしてる感じ?』
財『もうそれ立派に害を成そうとしてるじゃねぇか!!』
文『彼の言い方は少し大袈裟かもだけど、警戒は必要かもしれないね……』
農『うぅぅ~……心配だよぉ~』
財『なぁ~に、大丈夫だ。いざとなれば、俺様の爪で引っ掻いてやるぜ!』
外『その時は私も遠慮しないわ。思い切りお尻に噛みついてやる!』
哀れ、どこぞの人間のオスよ。君は主人想いの犬と猫にロックオンされてしまった。
今から病院の予約をしておくことを推奨しよう。
彼等が今後の事について話し合っていると、いきなり家のインターホンが鳴った。
外『この音は……誰かがこの家に来た合図ね』
財『まさか、犬っころが言ってた人間のオスかっ!?』
文『見てみないと分からないね。どうする?』
体の関係上、移動が出来るのは犬の外務大臣と猫の財務大臣だけ。
彼等がどうするか考えている間、弥生は………。
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・・
・
「ん?」
棚からキャットフードとドッグフードを出そうとしていた時、玄関のチャイムが鳴った。
誰かと思って門に取り付けられているカメラを覗いてみると、そこには手を振っている鈴と簪、それから本音とラウラがいた。
どうやら、四人揃って遊びに来たようだ。
「行かな…きゃ……」
この屋敷の門を開けられるのは板垣家の人間と吉六会の幹部のみ。
急いで行かないと、この陽気では干上がってしまう。
慌ててニーソックスと腕袋を装着し、弥生は門まで早歩きで向かった。
屋敷から門まで地味に距離があるから、それだけで少し汗を掻いてしまう。
門に着いた弥生は、慣れた手つきでセキュリティを解除して、やって来たメンバーを迎え入れた。
「やっほ~。遊びに来たわよ」
「お邪魔します、姫様!」
「こうして遊べるのも、もうすぐ終わりだから。来ちゃった」
「やよっち~! 会いたかったよ~!」
「ん……いらっ…しゃい……」
何気ない話をしながら屋敷まで戻り、全員を中に入れた。
「ん~! やっぱここって涼し~♡」
「いつ来ても本当に快適。日本家屋は最高だね」
「冷房器具も無しにこれ程の気温調整が出来るとは、驚異的の一言に尽きますね」
「お腹空いた~」
(まさか、わざとお昼時を狙って来たんじゃあるまいな?)
ラウラは簪ならばともかく、鈴や本音ならば有り得そうだった。
「私……も今か…ら…お昼……を食べよう……と思って…た……けど……一緒…に食べ…る……?」
「「「「いただきます!」」」」
(だと思った)
一人分作るのも五人分作るのも、大飯ぐらいの弥生にとっては大差無かった。
なんせ、一人で普通の人間の数十倍は食べるから。
「でも……その前…に……あの子達……にご飯……をあげない…といけない……から……」
「あの子達って外務大臣たちの事よね? もしよかったら、私も手伝っていい? 一度でいいから、猫や犬に餌やりをしてみたかったのよね~」
「別…にいい……よ……」
「私もやってみたい。勿論、財務大臣以外」
「わ……私も立候補してもよろしいでしょうか!」
「私も農林水産大臣ちゃんにご飯あげてみた~い」
「「「「え?」」」」
本音のとんでも発言に固まる少女達だった。
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・・・
・・
・
外『あら、誰かこっちに来るわね。足音から察するに、複数みたいだけど』
財『流石は犬っころ』
文『そーゆー君だって分かってただろうに』
誰が来てもいいようにジッとしていると、やって来たのは弥生と、先程来た同級生の面々。
「あ………」
「あら。まさかの全員集合?」
「これは壮観だな……」
「珍しい光景かも」
「皆可愛いね~♡」
猫や犬や馬はともかく、マグロに対して『可愛い』と言えるのは世界広しと言えども本音だけだろう。
実にレアな友達を持った主人公様である。
当然だが、弥生達から外務大臣たちの言葉は全く理解出来ないので、彼等が何を言おうとも普通の鳴き声にしか聞こえない。
「相も変わらず素晴らしい毛並みだ……モフモフする……♡」
財『おいこらコイツ! 勝手に俺様を撫でるんじゃ……にゃぁぁ~♡』
「完全に喜んでるわね」
「私もアレルギーじゃなかったら、迷わずナデナデするのに……」
「じゃあ、代わりに外務大臣ちゃんをナデナデする?」
「そうする」
外『あら、またこの子? 嬉しくはあるけど、どうして私ばかりなのかしら?』
「あはは! しっぽ振ってる~♡ 可愛い~♡」
「この台を使えば、窓から顔を出してる文部大臣ちゃんにも触れるかな~?」
「試しにやってみれば?」
「そ~する~」
文『おっと。今度は僕かい? お、中々にいい手つきじゃないか』
「本音が触ってる間、ちゃんと大人しくしてる。頭がいいのね、この子」
「ん……。私…とおじいちゃん……の言う事……をちゃん…と聞いてくれ……る……」
「流石は弥生の愛馬ね」
農『あの~……僕は~?』
それは流石に無理だ。
それからも、ペット達と触れ合いながら心が癒されていく少女達だった。
無論、ちゃんと彼等に餌やりは行った。
初めての餌やりにオドオドしながらも、嬉しそうにしていたラウラにまたほんわかしたのはご愛嬌。
そんな今日のお昼ご飯は、夏らしく素麺を食べました。
勿論、弥生だけは大量に。
はい。ずっと前からしたかった、ペット達を主役にしたお話でした。
プロット自体はかなり前から完成していたのですが、投入するタイミングが掴めませんでした。
ですので、今回思い切って入れてみることに。
これで夏休みの話は一通り終わりです。
次回からは二学期編に突入すると思います。