なんでこうなるの?   作:とんこつラーメン

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遂に新年号が発表されましたね。

『令和』とは、またなんとも意味深な言葉です。

今はまだ馴染みませんが、数年経てば嫌でも違和感も無くなるでしょう。







馬鹿なアイツの意外な成長

 何故かものすご~く長く感じた夏休みも終わり、今日から二学期が始まる。

 始業式を終えた私達は、自分達の教室にて先生の話を聞いていた。

 

「本日から二学期が始まる。今学期からは本格的な実習が始まる事となるから、気を引き締めて取り組むように」

 

 夏休みに色々な事があっても、こうしてちゃんと教師として頑張っている千冬さんは、普通に人間として尊敬できるかも。

 私なんて、あの朝チュン騒動からずっと変な妄想をしてしまう事があったってのに。

 

「まだ一年だからと言って気を抜いていると、すぐに足元を掬われる事になるぞ。二学期にも一学期と同様に各イベントが控えている。それの成績如何で二年生以降で話し合われる進路も自ずと決まってくる。だから、実習やイベントの時でも決して気を緩めないように心掛けろ。いいな?」

「「「「「「はい!!」」」」」」

 

 夏休み明けなのに、相も変わらずいいお返事ですこと。

 

「お前達も理解しているとは思うが、IS学園は学期初めの日だからと言って授業をしない訳じゃない。そんな訳だから、午前中は二組との合同実習をする。HRが終わり次第、すぐに着替えてから第二アリーナに集合するように! 以上!」

 

 やっぱそうなるよね~。

 うん。私はちゃんと分かってたよ?

 でもさ、流石にいきなり気力150には出来ないかな~。

 別に気を抜くって訳じゃないけどさ。

 

(でも……実習か~……)

 

 夏休みに一夏は塩田さん達による特訓を受けてたって聞いてるけど、どれぐらい強くなったんだろう?

 少なくとも、ここから見る限りではどこも変わってないように見えるけど。

 強いてあげれば、なんか表情が凛々しくなった感じ?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「こんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 午前の合同実習が行われている第二アリーナ。

 そこでは一夏と鈴の二人が激しく火花を散らしながら剣戟を繰り返していた。

 まずは手本と言う事で、千冬の提案により二人が各組の代表として模擬戦をする事になったのだ。

 一夏的には丁度いい機会で、クラス対抗戦のリベンジに燃えていた。

 千冬も千冬で、夏休みの合宿でどれだけ腕を上げたかが気になっていた。

 

(こいつ……一学期の時よりも明らかに動きがいい! 機体の制御とかもそうだけど、格段に反応速度とかが向上してる!)

 

 一夏の想像以上に、塩田達との特訓の成果は如実に表れていた。

 以前はまともに鍔迫り合いすらも出来なかったが、今では互角に渡り合っている。

 成長しているのはそれだけではなく、その思考もまた大きく変化していた。

 

(俺の武器はこの雪片だけ! ならば、それを短所に考えずに寧ろ長所と捉える! こっちは超が付く程の接近戦仕様! 少しでもいいから自分の距離に持ち込む努力をして、そこから一気に押し込む!!)

 

 前は攻撃をする事に多少なりの迷いや躊躇いが存在していたのだが、今の一夏にはそれは無い。

 夏休みの修行は、一夏の技術等だけではなく、その心も大きく成長させていた。

 

(初撃の踏み込みが驚くレベルで速い! ちゃんと目を凝らしてないと、一気にやられる!)

 

 一夏には一撃必殺の零落白夜が存在しているが、未だに一度も使用してこない。

 今の彼は、あろうことか単純な剣の腕だけで学園で有数の実力者である鈴と互角に近い形で渡り合っていた。

 

 ダブルブレード状態では分が悪いと判断した鈴は、双天牙月を分裂させて手数を増やす事に。

 それに合わせて、一夏が間合いを取る為に一旦下がる際に衝撃砲をマシンガンのように連続発射。

 威力や弾の大きさは小さくなるが、その代わりに連射が効く上に命中率も飛躍的に向上する。

 前の時には使う必要も無かった技だ。

 それを使うと言う事は、それだけ一夏が強くなった証拠でもある。

 

「ちっ!」

 

 衝撃砲が来ると判断した一夏は、急いで高度を下げてから回避行動に専念する。

 敢えて高度を下げたのは、衝撃砲を地面に当てて土煙を発生させる為。

 

「ふ~ん……意外と頭が回るじゃない……」

 

 衝撃砲の弱点。それは『色』だった。

 周囲の空間を圧縮するという特徴上、必然的に発射する際にはそこに存在する物も一緒に圧縮してしまう。

 普通は空気や空間には色は存在しないが、そこに煙幕などで強制的に『色』が加えられれば話は別。

 不可視の弾丸である衝撃砲が見えるようになってしまう。

 あろうことか、一夏にそれを看破されるとは思わなかった鈴は、思わず苦笑い。

 

「これで衝撃砲は使用不能にされたも同然って訳ね。でも、その程度で私を止められるとは思ってないでしょ?」

「当たり前だ。俺だって、これで逆転出来るなんて甘ったれた考えは持ってねぇよ」

「上等!!」

 

 今度は鈴から攻めていった。

 まずは右手に持った双天牙月の片割れを一夏に投擲する。

 反射的に一夏はそれを雪片で防ごうとするが、その時にはもう鈴の姿は眼前から消えていた。

 その瞬間に一夏も思考を巡らせる。

 

(鈴が消えた!? いや、ここで動揺するな俺。思考を止めるなって塩田さんも言ってたじゃないか! 考えろ……俺が鈴ならどう攻める……)

 

 その時、一夏の頭に閃きが降りた。

 

(そうか! この投擲は目暗ましじゃなくて………)

 

 一夏が投げられた双天牙月を体を捻って回避した直後、斜め下から鈴が斬り上げてきた!

 

(俺の両腕を使用不能にする為にしたこと!)

 

 一夏の性格なら、投げられた双天牙月を雪片で愚直に防ごうとする筈。

 それで身動きが出来なくなった所に強襲を掛けて一気に仕留める。

 それが鈴が即席で考えた作戦だったが、あろうことか一夏はここで『防御』ではなく『回避』を選択した。

 別にその可能性を考えていない訳ではなかったが、それでも確率は低いと思っていた。

 その低い確率を見事に引き当ててしまった鈴は、咄嗟に動きを変える。

 

「なっ……!」

「少し驚いたけど、まだまだ甘いのよ」

 

 雪片と双天牙月がぶつかる瞬間、鈴は武装を拡張領域に収納。

 攻撃対象がその場から無くなってしまったので、当然のように一夏の攻撃は空振り。

 必死に防御しようと試みるが、腕が完全に伸びきっている為に一夏が防御するよりも先に鈴の掌底が腹部に直撃する方が僅かに速かった。

 

「がっ……!」

「こっから飛ばしていくわよ~……!」

 

 そこからは鈴の空中コンボが炸裂する。

 肘打ち、膝蹴り、裏拳。

 だが、一夏とて黙ってやられているわけではない。

 

「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 いっきに不利になったにも拘わらず、一夏はまだ勝利を諦めてはいなかった。

 懸命に蹴りを放つが、呆気なく避けられてしまう。

 

「ここでまだ反撃を止めないなんて、根性あるじゃない。でも、これで終わりよ!!」

 

 鈴の攻撃が更に激しさを増し、そして………。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「リベンジならず……か。はぁ~……」

 

 午前の実習が終了し、私達はいつものメンバーで昼食をする事に。

 この食堂も不思議と懐かしく感じるな~。

 

「確かに模擬戦はあたしが勝ったけど、一夏ってば相当に腕上げてない? 一学期とは完全に別人レベルなんだけど」

「夏休みに特訓したからな。鈴がそう言うって事は、一応の成果は出てるんだな……」

 

 実際問題、前とは比較にならないぐらいに実力が上がってる気がする。

 あの塩田さん達のスパルタ特訓受けたんだから、当然なんだろうけど。

 

「その『特訓』とは、もしや夏祭りの時に一緒にいた彼女達が関係しているのか?」

「ああ。夏休みに入った直後に千葉県まで行ってさ、そこで総理の知り合いって子達に会って、猛特訓を受けてきたんだ」

「そう言えば、あの時も総理と親しげに話していたな……」

 

 そっか。箒はもうあの6人とは知り合いだったね。

 

「「「「「「夏祭り?」」」」」」

「あ………」

 

 い……いきなりセシリア達の目が怖くなったんですけど?

 急にどうしちゃったのさ?

 

「箒さ~ん?」

「まさかとは思うけど……」

「弥生と二人っきりで行った……なんてことは……」

「ないよね~?」

「しののん~?」

「幾ら君でも、抜け駆けはあまり感心出来ないな?」

「うぐ……!」

 

 あの勉強会の時の夏祭りの誘い、やっぱり私だけに言ってたんだ……。

 道理で他のメンツが全くいなかった訳だよ。

 鈴とかは、こっちが何も言わなくても勝手に来そうなイメージあるし。

 

「後で少し話でもしよう……?」

「はい………」

 

 あらら。急に箒が大人しくなってしまった。

 レアな光景だからいいんだけど。

 

「皆は何をあんなにも怒っているのだ? 全く理解出来ん」

 

 ラウラには皆の怒りの理由が分からないんだね……。

 それでいいんだよ君は。このまま純粋無垢なままで成長して欲しい。

 

「ん? 姫様、どうなさいました?」

「う…ううん……なんで……もない…よ……」

 

 なんか、いつもの光景が戻ってきたって感じがするね~。

 コレに慣れつつある自分もアレだけど。

 

「でも、夏祭りの話に一夏が混ざるって事は、会場でアンタと会ったって事?」

「おう。心身共に休めるって意味を込めて、一緒に夏祭りに行ったんだよ。そしたら、会場で弥生と箒の二人とバッタリ会ってさ。本気で驚いたな~」

「「「「「「やっぱりか……」」」」」」

「す……すまん……つい出来心で……」

 

 証言&自白。

 これはもう逃げられませんニャ~。

 

「けど、たった一ヶ月少しで一夏さんをあそこまで鍛えあげるだなんて、一体どんな方々にコーチして貰ったんですの?」

「そうよね。あたしも気になる」

「う~ん……俺もよくは知らないんだよな~。分かっていることと言えば、総理の知り合いって事と、『幕張南高校』ってとこの生徒だってこと。後は物凄いお嬢様達だったぐらいか」

「幕張南……知らないな」

「あの総理の知り合いって時点でタダ者じゃない気がする……」

「『達』と言う事は、お前を鍛えたのは複数の人物なのか?」

「合計で6人いた。全員が女の子で、二人が一年生で、残りの4人が二年生だったな。後は、その6人の知り合いっていう男の人達が三人、時々様子を見に来てたっけ」

「成る程。つまり君は、夏休み中ずっと見目麗しい美少女達に囲まれてウハウハの状態でいたと」

「めっちゃ誤解を招くような言い方はやめてくんない?」

 

 でも、ロランさんの言ってる事も事実だよね~。

 実際、塩田さん達は間違いない美少女軍団だし。

 

「総理と言えば、あの焼きそばは絶品だったな……」

「あれな~……。もう一回でいいから食べたいよな……」

「総理の焼きそば? あの人が焼きそばを作ってたの?」

「そうだ。あの手つきは間違いなく、これまでもずっと作り続けてきた感じだった」

「そういや塩田さん達も言ってたな。幕南の祭りでよく出店を出してたって」

「総理大臣が出店っ!?」

「それ……本気で言ってるんですの?」

「信じられないだろうけど、マジだから。な、弥生?」

「ん……おじいちゃん……の焼きそば……は最高……♡」

 

 年に一回だけとは言え、あの味だけは忘れられないんだよね~♡

 家でも作ってくれないし。本当に夏祭りの時だけ限定なんだよな~。

 

「姫様がそこまで仰るとは……」

「私も食べてみたいな~♡」

「僕も興味あるかも。料理は普通に好きだし」

 

 そうだったね。シャルロットは料理が趣味だった。

 お蔭でいつも美味しい料理を食べさせて貰ってます。

 ちゃんとお返しも作るけどね。

 

 そこからは完全に料理の話題になって、すっかり夏祭りの話ではなくなった。

 箒が密かにホッとしていたけど、後で思い出したかように追及されると思うよ?

 結局、そのままの空気で昼休みは過ぎていった。

 

 因みに、今日の私のお昼ご飯は『超巨大オムハヤシ』でした。

 デミグラスソースがたまりません♡

 

 

 




二学期が始まったってことは、ようやく生徒会長さんと本格的に関わってきます。

楯無なら、向こうから勝手に来るでしょうけど。

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