豊かなスローライフを目指して   作:どん兵衛
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八話

 

 南郡太守に就任してから早一年。

 内政に傾倒してきたこともあり領内は潤いを見せていたが、全てが完璧だったわけではない。

 僕の統治は基本的に内政重視。長く平穏が続いていることもあり、軍事関連が疎かになっていた。これには僕なりに理由があり、新米領主が平和な治世下において、着任早々軍備に傾倒するなど、正直どうかという思いがあったからだ。

 例えば今、隣接する郡に新たな領主がやって来て、その領主が早々に徴兵でも始めたものなら「攻めて来るの?」と身構えてしまう。まず他にするべきことがあるだろう、と思ってしまう。まあ、これはあくまでも僕の主観だ。現に陳留郡へと赴任した華琳は練兵から始めたと耳にした。

 

 考え方というのは人それぞれだと思う。

 領主としての考え方だってそうだ。十人いれば十人の方針があるはずだ。僕は自分が正しいと言い切れるほどの経験があるわけでもなければ、それを押し付けようという気も特にない。

 兵隊は居ないと困るが平和な世では金食い虫でもある。僕はそのように考えては、軍事関連を疎かにしてきた。必要とわかっていながらも「そのうち、そのうち」とズルズル引っ張っては早一年にもなる。が、明らかに不味い自領の現状を目にすれば、流石に改善に乗り出す他になかった。

 

「────いや、いやいや、これは…………」

 

 僕は目の前の光景に苦笑いを浮かべる。

 軍馬として用意されていたはずの馬が、気づけば農耕馬として田畑を耕しているではないか。

 アクビをしながらゆっくりと鋤を引く馬。馬に向かって「頑張れー」と無邪気に声をかける子供。なんとも平和だ。今にも歌でも聞こえてきそうな、牧歌的な風景が眼前に広がっている。

 平和は喜ばしいことだけど、軍馬が農耕馬にジョブチェンジしているのは流石にどうよ。僕は内政に傾倒し過ぎて軍備を疎かどころか、いつの間にやらマイナスに進めてしまっていたらしい。

 

「流石に不味いよな。なんとかしないと…………」

 

 南郡太守に就任してから一年が経つ。

 黄巾の乱まで後二年。そろそろ内政だけでなく、軍備にも目を向ける頃合いかもしれない。

 このままの内政重視では不味いだろう。さて、どうするか。まず農繁期の終わりを待っては一定の期間を設け、徴兵でも募ってみるのがいいかな。そんなことを考えながら僕は城へと戻った。

 

 

 

 

 

「なんか牛じゃなくて軍馬が鋤を引いてたんだけど、誰か理由を知らないかな?」

 

 城へと戻った僕は、さっそく幕僚の七人を呼び寄せては素朴な疑問を投げかけた。

 僕の問い掛けに七人はそれぞれ顔を見合わせては頭に疑問符を浮かべる。どうやら誰も知らないようだ。ここは咎めたいところであったが、僕もさっきまで知らなかったので強くは言えない。

 前領主の時代から城にいる兵士の訓練についてもそうだ。「誰かがやってると思ってました」とばかりに誰も訓練内容を知らなかった。そして僕も知らない。ああ、これは良くない傾向だ。

 

「まあ、農繁期だし、治安も落ち着いている今の時期ならいいっちゃいいんだけどさ…………」

 

 官僚制の悪い部分が如実に表れている。

 トップである僕が命じ、幕僚の七人がそれに応え、さらに下の者達が順次それに応じて働く。そのシステムで仕事が円滑に進んでいることが、今回の場合では弊害となっていた。

 内政中心の一年。みんな忙しい日々を送りながらも、自らに与えられた仕事をきちんとこなし、それが領内の発展という目に見えた成果となって現れる。成果が目に見えて現れれば、忙しい仕事にも遣り甲斐を感じるだろう。

 遣り甲斐を感じれば、新たに与えられた仕事に対して集中する。それによって自分以外の仕事に対する問題点や変化に関して気づかず、柔軟な対応が出来ないという問題が生じてしまう。これは由々しき事態だ。トップの僕がミスってもフォローが入らないシステムが構築されつつある。

 

「合理性を求め過ぎたことが根本の────いや、違うか。本職の武官がいないのが問題だな」

 

 いや、あるいは文官組織の性なのかな。

 みんな頭では必要だと理解してはいても、軍備に金が流れることを本能が躊躇っているとか。

 僕は正直そのタイプだ。戦争なんて面倒くさい。侵略戦争でも起こさない限り金は減る一方だ。それなら内政に活用し、長期的に見返りを得る方が遥かに有益であると考えてしまう。

 みんなも似たような考えなのかもしれない。幕僚は文官だらけだし、組織はトップの考えに染まるともいうし。まあ、どちらにしても、これからは軍備にも力を入れないといけないはずだ。

 

「やはり有事には備えておくべきだろう。ウチはそうでもないけど最近、きな臭い話もチラホラ耳にするし。遠く対岸の火事と高を括っていても、火の粉は風と共に流れてくるかもしれない」

 

 軍備は近い未来の賊に対する備えでもあれば、遠い未来の大戦へ向けての備えでもあるか。

 僕ら八人はそれぞれ意見を出し合い、今後の方針を固める。結論は「軍備止む無し」。みんな気が進まなさそうだったし僕もそうだった。気が進まない、というか率いる将がいないんです。

 

「農繁期の終わりを待っては郡内の各県に徴兵の触れを出し、一定期間の兵役に就かせよう。農閑期では厳しい訓練を課す代わりに人頭税の一部を免除。さらに優秀者は常備軍に組み込もうか」

 

 率いるだけなら誰にでも出来るけど、正しく率いるなら本職の方がいいだろうから難しい。

 幕僚の中でも蔡瑁は武将のような気がしていたけど、本人曰く「水上戦じゃないと本領が発揮できなくて…………」とのこと。魚人かな。

 そんなわけで僕は近々兵を募ることに決めた。そしてそれに並行して、文武官の上級仕官者も募ることにした。範囲は南郡の領内と口コミ。流石に他領に立て札なんて真似はダメだろう。

 民や商人の伝手を使っては口コミで広げる。田植え等の農繁期が終わってから口コミが広まるまでだから、だいたい三ヶ月後かな。「ああ、呂布が三人ぐらい来れば無敵なのにな…………」と豊かな妄想をしつつ、僕はその日が来るのを待った。そして季節は春から夏へと移ろいでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏の暑い時期に徴兵なんて酷ではあるが、農繁期や冬に呼ばれるよりはマシだろうと思う。

 襄陽に城を構える僕は襄陽県の様子しかわからないが、報告を聞くに他県でも襄陽と同様、徴兵は上手く進められているらしい。集まった民はどの県も士気が高く、やってくれそうとのこと。

 

「────じゃあ僕と蔡瑁で面接官やるから、武の資質がありそうな人は奥の部屋に通してくれ。ああ、それと資質があれば素行は気にしないでいいよ。武骨者が優秀なのも、お約束だしね」

 

 僕はなぜか面接官に立候補してきた蔡瑁と共に、武官の面接に立ち会うことに決めた。

 本当なら武官の仕官者と並行して文官の仕官者も同時に募る予定であったが、文官の方は仕官者がとても多く、諸事情から中々日程が合わなくて、さらに三カ月ずらして行うこととなった。

 主に領内ではなく、口コミからの仕官者がそれに当たった。都にいる知り合いなんて「もう、こっちは宦官や無能なバカ共の専横が見てらんねーから仕事辞めてそっち行くわ。引き継ぎもあるし、三か月じゃキツいから半年後ぐらいでよろしく」と文にて堂々と脱サラ宣言をしてきた。

 中央のエリート役人を辞めて地方の役人を志望。なるほど、要するに早めのセカンドライフを目指すということだろう。元々知り合いであることは勿論、同志は暖かく迎え入れたいと思う。

 

「蔡瑁」

「はい!」

「それじゃあ、手筈の通りに行こうか」

「はい!万事あたしに、お任せ下さいっ!」

 

 そんなわけで文官は先送りとなった。

 まずは武官。武官の仕官者は試験場で簡単に腕を披露してもらった後、一定の水準に達した人が僕と蔡瑁の待つ部屋へ通される仕組みだ。

 全員面接したいところではあったが武官候補者も数が多く、少々腕に自信がある程度の人の相手をしていては日が暮れてしまう。日が暮れるのは構わないのだが、僕の集中力が落ちて人材を見逃すなんてヘマは絶対に避けるべきであった。

 だってそうだろう。未来知識のある僕は、名を聞けば将器のある人なら即見抜けるのだから。

 

 

 

 

 

 この時代、というよりはこの世界。

 優秀な人材の見抜き方というのはある傾向があり、見抜くことはそう難しくもない。

 経験談で話すなら華琳や麗羽を筆頭に、これまで出会った史に名を残す大物達は、髪の色がカラフルであったり装飾が派手であったりと、目につく容姿をしているケースが非常に多い。

 それに対し、言葉は悪いがモブな人達は黒髪に黒目、後は割と地味な服装をしている。言い換えれば世界観に合った人ほどモブで、逸脱している人ほど主力な傾向が強いと僕は捉えていた。

 これまで出会った優れた人材は女性が中心であったが、男でもおそらく同様のことが言えると分析する。背が高くて体格の良い人よりも、小柄であっても金髪モヒカンの人の方が優秀である可能性が高い。自分でも意味不明なことを言ってる気はするが、きっとそういう世界なんだろう。

 

「────はい。面接は以上です」

 

 その傾向を捉え、さらに将の名を知っている僕が面接で大物を見逃す可能性は無に等しい。

 本来ならこれを活かして人材発掘の旅に出たいところではあったが、太守が私用で何日、何十日も城を空けるようではダメだろう。

 確実に出会えるのなら旅に出るべきかもしれないが、この国は広く、優れた人材と確実に出会える保証なんてない。と、このように僕は合理的でないことを何かと避ける傾向にあった。

 

「この結果は厳正な審査の下、数日中に城下にて発表します。どうもお疲れ様でした」

 

 そんなわけで僕はこの面接に強い期待を寄せていたのだが、今のところ経過は芳しくない。

 

「劉表様、今の者は中々見所があったのでは?我々に対する深い敬意も見受けられました!」

「うーん、なんか今一つだったな…………」

 

 少し期待し過ぎていたのかな。

 どうにもモブっぽい人ばかりで肩を落とす僕とは異なり、妙に張り切っている蔡瑁。

 蔡瑁。南郡一の、いや荊州一の大豪族である蔡一族の人。彼女はどの分野においても高い能力を誇っていたが、その性格には若干の難がある。

 蔡瑁は華琳や麗羽とは違うベクトルで高飛車な性格をしていた。自分より上と認めた人に対しては非常に忠実ではあったが、自分より下と判断した人に対しては高圧的に接する節があった。

 僕は太守であることと、血筋が優れていることもあってか最初から彼女には忠義を示されていたが、他の幕僚達はそれなりに苦労させられていた。まあ、みんな能力が高い。一年も経てば流石に認めたようだけど、幕僚よりも下の人達には、未だに横柄な態度を取ることがしばしばある。

 

「劉表様、次の者は他領からの流れのようです」

「ふーん、期待薄かな…………」

「他領にまで劉表様の徳が知れ渡っているとは、実に素晴らしいことですねっ!」

 

 人の性格とは環境に左右されやすいものだ。

 大豪族の一員として生まれた蔡瑁が、高飛車な性格に育ったことは仕方ないとも思う。仕事はとても真面目だし、良く言えば蔡瑁は上下関係を重んじる性格であるとも言い表わせるだろう。

 僕は度々、幕僚の七人で二人組を作らせては、彼女に協調性の重要さに気づかせようとしているのだが、今のところ効果は見受けられない。というか、改めて考え直したら蔡瑁以外の幕僚の六人は繋がりがあるな。馬良と馬謖、蒯越と蒯良は同族。蒋琬と費禕は私塾時代からの付き合いだ。

 

「蔡瑁の孤立は必然だった…………?」

「劉表様、なにか仰いましたか?」

「いや、なんでもないよ。人の世の無情さを噛み締めていただけだ。よし、次の人を通してくれ」

 

 その中じゃ蔡瑁がハブられるのも無理ないか。

 今日こうして蔡瑁が元気良く面接官として立候補してきたのも、二人組の相方を探すためだというなら甲斐甲斐しい。いや、僕は意識していなかったが、悪いことをしていたと思う。

 だが君のことを嫌っているわけじゃないことは忘れないで欲しい。君以外の幕僚の六人も、君のことを嫌っている素振りはない。ただ麻雀だけは、活きの良いカモだと思っているけども。

 

「────ふむ。その前に蔡瑁」

「はっ!」

「その節は悪かったね。僕もまだまだ未熟な領主であったということだ。反省、反省…………」

「────へっ?いえ、お気になさらず??」

 

 自責の念に駆られたので謝っておいた。

 そんな少々不憫な蔡瑁もこの時代の主力枠で間違いないはずだ。人目を惹く容姿をしている。

 珠のような白い肌。大きな瞳は淡い紫紺色。髪は銀。眉のラインで揃えられたサラサラした前髪と、両サイドで結ばれた長いツインテール。背丈も顔も小さくて、おまけに胸も小振りだ。

 高飛車な性格を物語るような甲高い声。上質な着物の色も晴れやかなスカイブルーとあってはモブ枠ではないだろう。華琳や麗羽、その側近達と比べるのは酷だけど、蔡瑁は能力も良い感じに高く、僕の幕僚としては相応しいかもしれない。

 

「────ま、幸い人材には多く恵まれてることだ。無理してまで雇用することもないかもね」

「────────っ!?」

 

 僕はその気になれば今現在、在野にいる未来の将軍や軍師達をスカウト出来る立場にある。

 この一年、それをしなかったのは合理的じゃないということもあるが、結局のところ僕は保守的で、自領が十全に治まるだけの人材がいれば、それで満足しているということだろう。

 僕は今日このまま誰とも出会えていなければ、あるいは現状に満足したまま自領に篭る決意を強く固め、後日行われた文官の試験においても集中力を欠いていたかもしれない。だが────。

 

 

 

 

 

「えっと────この部屋でいいのか?」

 

 僕は最後の最後に大物と出会った。

 面接のトリを飾るかのように現れた彼女。待望の武将と出会ったことは、まさに天の計らいか。

 

「ワタシの名は魏延。字は文長!広く武人を求めていると聞きつけ、はるばるやって来たぞ!」

 

 天の計らい。いや、もしくは天の配剤か。

 後になって思い返せばこの日、魏延こと焔耶と出会ったことが僕の大きな分岐点であった。

 

 




次話はこの続きからになります。
冗長気味で中々予定通りに話が進みませんが、これからもご愛読頂ければ幸いです。
インスピレーションが湧いたので蔡瑁は準レギュラー化。ちょくちょくオリキャラも出ますが、大筋では原作キャラを中心に進められればと。
本編の内容が薄いので、おまけで初期陣営と各部門トップ者のステータスでも書いときます。

劉表(りゅうひょう)
統率50 武力50 知力95 政治97
蒋琬(しょうえん)
統率70 武力30 知力85 政治95
費禕(ひい)
統率67 武力34 知力83 政治94
馬良(ばりょう)
統率52 武力23 知力87 政治91
馬謖(ばしょく)
統率62 武力65 知力88 政治70
蒯越(かいえつ)
統率47 武力27 知力82 政治88
蒯良(かいりょう)
統率68 武力33 知力88 政治82
蔡瑁(さいぼう)
統率75 武力70 知力71 政治72 水軍S

曹操(そうそう)
統率100 武力86 知力96 政治95
呂布(りょふ)
統率90 武力105 知力50 政治10
諸葛亮(しょかつりょう)
統率97 武力10 知力100 政治98
荀彧(じゅんいく)
統率50 武力20 知力94 政治100







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