ということで入学式当日のお話を。
1週間前に祖国の地を踏み、そこから最終試験を経て織斑一夏はIS学園に入学した。
つつがなく入学式を終え、教室に移動すると一夏を待っていたのは好奇の視線だった。
周りを見渡しても女女女。世界で唯一のIS操縦者育成校、そのISは女性しか動かせない。
当然自分以外に男性なんているわけもなく、非常に気まずい思いをしていた。
「どうすれば…」
ぽつり呟いても状況は変わらない。これから3年間もこんな状況が続くのか…。
1人思考を巡らせていると大きな声で名を呼ばれる。
「織斑くん!織斑一夏くん!」
「は、はい!」
「大声出しちゃってごめんなさい。でも自己紹介織斑くんの番だから…」
手を胸の前で合わせて謝りつつも自己紹介を促す女性。
山田真耶、一夏が所属する1年1組の副担任だ。彼女は笑顔で一夏にこう尋ねる。
「自己紹介してくれるかな~?ダメかな~?」
自分の番と知り、慌てて立ち上がる。1回深呼吸すると自己紹介を始めた。
「えっと…、織斑一夏です」
名前を言っただけなのにクラスの女子の目が爛々と輝く。
その様子にだいぶ驚きながらも一夏は自己紹介を続ける。
「ニュースでも流れていたと思うんですけど、誘拐されて外国にいたので3年ぶりの日本です。自分がいない間の出来事なんかは全然わかりませんし、ISについてもほとんど何も知らないような状況です。わからないことだらけで色々と迷惑をかけてしまうと思いますが、よろしくお願いします」
もちろん嘘である。
誘拐されたその日には父や叔父と慕うエクスペンダブルズに保護された。縄から抜け出そうとした際にできた傷の手当ても受け、そこからヒル・アンドン・ロスとして生きてきた。だから何も知らないわけではない。しかし、その方が都合がいいのでそう言ったのだ。
最後にぺこりと頭を下げて椅子に座る。するとクラス中から拍手が起きた。
「もちろんだよー!」
「何でも聞いてね!」
など自分を温かく迎え入れてくれる言葉が掛けられる。嬉しいな…と先ほどまでの気まずさはわずかではあるが薄れていた。拍手が落ち着いたころ教室のドアが開き1人の女性が入ってくる。
「何やら盛り上がってるみたいだな…。諸君、私が担任の織斑千冬だ」
その声に反応した女生徒が歓声をあげ、大騒ぎになる。その様子に千冬は額に手を当て嘆く。
「よくもまぁ毎年飽きもせずに…。わざとこういうのを私のクラスに集めているのか…」
その様子をじっと見つめる一夏。間違いない、この人が3年前に助けてくれなかった姉だ。
そろそろ気付かれるかもしれないと思い、視線を山田先生にずらそうとしたその時。
千冬と目が合った気がした。
「うるさいぞ!いいか、私の仕事は君たち新人を1年で使い物にすることだ。これからISの基礎知識を半年で覚えてもらう。その後実習に入る。基本動作は半月で身体に染み込ませろ。いいなら返事、よくなくても返事をしろ!」
教壇に立った千冬がそういうと生徒たちも大きな声ではい!を返事を返す。
こうして一夏の学園生活が始まった。
授業が終わり、学生寮に入った一夏はそういえばまだ自分の部屋の番号を聞いていなかったと気付く。自分の部屋はどこか聞こうと寮長室の前に来たところで反対側から千冬がやってきた。
「…どうした織斑。何か用か?」
「えっと…織斑先生ですよね?自分の部屋がどこか聞いていなかったので教えてもらおうと思って来たんですけど、寮長さんはいらっしゃいますか?」
じっと一夏を見つめた後、千冬は淡々と答える。
「寮長は私だ。名簿を確認するからちょっと待っていろ」
そう言って部屋の中に入っていく千冬。その様子を見て一夏がぼそっと呟く。
「俺のことなんてやっぱりどうでもよかったんだな」
それならそれでいい。1度は別れた家族の元に帰ろう。あの人たちは温かく迎えてくれる。
ということで一夏はひとまず部屋番号を聞けるまでドアの横にもたれかかり待つことにした。
一方千冬はというと…
「一夏…」
部屋の中で1人呟いてベッドに座っていた。何かあったときにすぐ駆けつけられるよう、一夏の部屋番号だけは真っ先に覚えた。だからあの時点ですぐに伝えることはできた。しかし、なぜかできなかった。さらに言うのであれば教室で生徒たちの自己紹介中、目が合った気がしたのでその時に公私混同ではあるが姉として声を掛けたかった。今でも授業中じゃないんだから姉と呼べ、お前は私の弟なのだから。と言いたかった。
「織斑先生、か…」
ベッドにそのまま倒れこみ、自分と弟の距離を再び思い知る。
もし、あの時誘拐されていた一夏を助けられていたら…。ドイツには行っただろう。
その後引退して、指導者でもしながら一夏とゆっくり過ごして…。
そんなあったかもしれない日々に想いを馳せていると不意にドアがノックされる。
「織斑先生、入ってもよろしいでしょうか?」
一夏の声じゃない、女性の声にはっと我に返る千冬。しまった、弟を待たせすぎた。
すぐに部屋のドアを開けるとそこには副担任である真耶が立っていた。
「すいません、これからクラス対抗戦について緊急の打ち合わせが行われるということで呼びに来ました」
「ああ…、すまない。すぐに向かう。ところで織斑はどうした?部屋番号を知るために待っていたはずだが…」
千冬の問いに真耶は笑顔で答える。
「ああ、はい。私が来るまでドアの横で待ってましたよ?」
「それで今どこに?」
「私が部屋番号を教えておいたので部屋に向かっていると思います」
「そうか…、ありがとう」
「いえいえ。先生ですから♪さ、行きましょう?」
真耶の言葉に頷いて部屋から職員室へ向かう千冬。その後ろに真耶が続く。
少し早足で寮内を歩いていると真耶が話しかけてきた。
「あっ、そういえばあそこが弟さん…織斑くんの部屋ですね」
その言葉にドキッとするが平静を装って答える。
「ああ、そうだな」
「少し寄ってみたらどうです?教室でも話されていないようですし、3年ぶりの再会があんな素っ気ないものじゃ織斑くんもかわいそうですよ」
そう言って、千冬の背中を押す真耶。余計なお世話ではあるが、その過干渉が今は少し嬉しくもあった。何か言われたら真耶のせいにすればいい。部屋の前に立ち、ドアをノックする。
コンコン。…反応がない。もう1度ノックをする。これも反応がない。
まさか何かあったのでは?そう思い反応を待たずにドアを開けようとすると鍵もかかっておらず、簡単に部屋に入ることができた。緊張しつつ部屋の奥に入るとそこには制服のままベッドで眠る一夏の姿があった。
「わぁ…織斑くんの寝顔かわいい~」
真耶が一夏を起こさないように小声で言うと千冬もそれに同調する。
「そうだな。背は大きくなったが、どうやら寝顔はあの頃と変わらないみたいだ…」
そう言って眠っている一夏の頭を撫でる。自分を指さして私もやっていいですか?とアピールする真耶。それに対して笑ってダメだ、というと真耶の腕をひっぱり部屋を出る。
話すことはできなかったが久しぶりに姉弟として一夏に触れることができ、打ち合わせにも気合が入る千冬なのであった。
今後の話で言うと次からはクラス代表決定戦編ということでセシリアと戦う感じになりますね。
導入部は今日の夜か、来週末の夜に更新予定かな?って感じです。