モーモーモーさん   作:ちみっコぐらし335号

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 ――――――それは、人類の胸に夢と希望(物理)を取り戻す物語。




第六特異点 胸にしぼうを キャメロット(前編)

 ――――ああ、ついにこの日が来てしまった。

 

 顔立ちを隠すために被った兜の下で、オレは息を潜めた。

 

 この日この時のためにオレは生み出されたといっても過言ではない。

 これは計画の始まりだ、この国を崩壊させる愚かで大いなる一歩の。

 

「――――モードレッド、入れ」

 

「はい」

 

 心臓がばくばくと早鐘を打つ。ガチャリガチャリと鎧の音を立て、開かれた扉から入室した。

 

 まあるく席を囲む十人程度の人影。中央に(あつら)えられているのが音に聞く『円卓』だろう。そこに着いている奴らこそが『円卓の騎士』。

 

 これより足を踏み入れるのは、人外魔境だ。

 

 生み出されてから今までずっと鍛えられてきた。そこらの騎士が束になって掛かってこようが、余さずぶちのめせる自信がある。

 しかし、そこは精鋭の集う場所。きっとオレより強い奴はいるのだろう。一人か、二人か、あるいは全員か。

 だが、オレは負けるわけにはいかない。負けることは許されない。なぜならそれがオレに与えられた存在意義だから。

 

 オレを見つめる瞳の中に、一際目を惹く奴がいた。若い男――――いや、少年にも見える、場違いにも思える風貌の騎士。

 しかし、オレは知っていた。この人物こそが計画の要、オレの『父』であるアーサー王だ、と。

 

「ここに」

 

 片膝を立て、臣下の礼を取る。正直こういうのは性に合わないんだが、四の五の言ってられない。

 不敬だのなんだのと理由付けられて、「兜を取れ」とでも言われた日には首を括るかいっそ全てを破壊し尽くすしか――――――――って、何だ?

 

「――――――おい、よく見ろ」

 

「あれは――――」

 

「…………ああ、私にはわかるぞ――――」

 

 声からして数人の男が、何やら囁き合っているらしい。ずいぶんと声を潜めているので会話の詳細はわからない。が、タイミングといい、オレの話題であることは想像に難くない。

 一般騎士ならともかく、王の御前に来てまで素顔を晒さないのだ。これは怪しまれるのも当然か。

 

 とりあえず今まで通り、実力行使で誤魔化せるか――――?

 

 剣に手が伸びかけた、その時。

 

「貴様、女だな?」

 

「……………………………………は?」

 

 ポロリと声が零れた。

 え、ていうか待て。おいそこの…………名前わからないけど何かの騎士! 今何か重大なこと言わなかったか!?

 

「その反応…………やはり我が目に狂いはなかったか」

 

「まあ、ある意味わかりやすいですし」

 

 周りの奴らもさも当然のように頷いてやがる。

 ちょっと待て。お前らどこ見てんだ。何でさらっとバレてんだ――――!?

 

「ここでは性別を隠す必要などないでしょう」

 

 ニコニコと笑いかけながら、優男っぽい奴が近づいてくる。

 言葉には出してないが一目瞭然だった。手を差し出しているあのポーズ、あれは兜をさっさと取れと言っている。

 

 不味い。確かに性別も隠したかったがオレが本当に隠したいのは…………。

 

 立ち上がり逃れようとするが、遅かった。既に背後を取られ、囲まれてる。

 未だに円卓に着いたままの奴もいるが、それは少数。

 

 思わずアーサー王を見た。ムスッとした表情からは「とりあえずテメェさっさとその兜脱げや」と言っているようにしか思えなかった。

 別に助けを求めたわけじゃないけど! 絶対違うけど!

 

 オレを取り囲む円卓の騎士を見て思った。

 

 ヤバい、これ詰んだ、と。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 兜が床に打ち捨てられ、耳障りな音を奏でた。

 しかし、それに顔をしかめる者は誰一人として存在しない。皆一様に目を奪われていたからだ。

 

 モードレッド。それが今日、円卓に加入することになっていた騎士の名だ。

 氏素性の知れぬこの騎士の円卓加入が決定したのは、ひとえにその実力故。隔絶した技能、圧倒的な膂力、多数からの不意打ちに対応するだけの判断力もある。

 このまま一介の騎士にしておくのは惜しい。多くの者がその意見に賛同した。

 

 円卓の座に招かれたその姿を実際に見て、察しない者はいなかった。()の者の性別は女である、と。

 

 大きく湾曲した鎧の胸部。飾りや厳めしい兜で視線を集めないようにしているが、見る者が見れば女性用――――――より正確に言うならば『巨乳の』女性用の物だと一瞬でわかる。

 

 そこまでくれば、素顔を晒さない理由も自ずと理解できるというもの。すなわち、性別を隠すため。

 

 兜で声はくぐもるし、元々ハスキーな声質なのだろう。顔さえ見られなければバレる心配も少ない。

 

 聞くに『彼女』はずいぶんと負けん気の強い性格らしい。女だと知られ、周囲にナメられたくない。その一心で兜をかぶり続けていたのも頷ける話だ。

 

 しかし、ここは円卓。そして、円卓の騎士だと聞いて敬意を抱かぬ者も、ましてやナメる者などいるはずもない。

 

 故に、彼女にそのことを知らしめるため――――――無論、何がしかの下心を持つ者が若干名混じっていたことは否定しないが――――――示し合わせて兜を取ろうとしたのだ。

 

 だが、彼らは己の行為が軽率であったと悔いることになる。

 

 隠そうとした理由は明白だった。『彼女』の顔立ちを見た瞬間、時が止まったような気さえした。

 

 アーサー王の顔からも血の気が引いた。

 

「お、王と同じ顔…………だと…………!?」

 

 誰かが漏らしたその言葉が全てを物語っていた。

 そう、『彼女』はアーサー王に瓜二つだったのだ。

 

 これまでにも富や名声などを求めてアーサー王の『遠い親戚』を名乗る不埒(ふらち)な輩はいたが、せいぜい髪や瞳の色が似ている程度。

 

 しかし今回はそのようなレベルではなかった。

 顔付きから何まで、王と何かしらの関係があることはまず疑いようがない。ここまでくれば偶然の一致など、それこそありえない話だ。おそらく、全てが必然。

 しかし、だからこそ解せなかった。王の血筋の中に『モードレッド』という名の人物は存在していないのだから。

 

 そうなると、魔術的なもので詐称しているのか。

 魔術による可能性を思いつく者も中にはいたが、すぐに(かぶり)を振った。

 そうなれば、宮廷魔術師のマーリンが放っておくまい。奴はクズでロクデナシのヒトデナシだが、腕だけは確かである。

 

 件の騎士は形容し難い呻き声と共に、両手で顔を覆いながらうずくまっていた。

 表情こそ見えないが、この世の終わりだと言わんばかりの負のオーラを発している。

 

 この様子では詐欺を働こうなどとは考えてもいるまい。演技であればむしろ天晴れだ。神さえも欺けるだろう。

 

 絶望感満載といった(てい)で、ポツリポツリと『彼女』から聞こえてくる言葉は「ヤバいもう終わりだ、とりあえず全部ぶっ壊して括ろう」などという物騒な内容ばかり。

 一体、何を壊し、何を括ろうというのか。あまり詳しく考えたくはない。取り急ぎフォローすべきだろう。

 

 しかし誰も動こうとはしない。いや、正確には動けないのだ。

 進んで見え見えの地雷原に飛び込む阿呆はいない。それもただの地雷ではなく、おそらく王に直結しているようなもの。

 

 下手を打てば、首が飛ぶ。

 

 勇み足で兜を剥がしにいった者たちは及び腰になっていた。

 

 唯一、鶴の一声を出せるであろう王は、彫像の如き寂寥感溢れる面持ちで佇んだままだ。

 

 このままでは埒があかない。一人の騎士――――ガウェインは決心し、うずくまるモードレッドの側に近づいた。

 目線を合わせ、誠意を見せるために片膝を立てたものの、モードレッドは一向に顔を見せる気配がない。

 

 もしや、気づいていないのでは?

 一つ、咳払い。

 

「あー………………もし、レディ?」

 

「………………………………オレはレディじゃねー」

 

「失礼、サー・モードレッド。よろしければ、何故このようなことをしたのかお聞かせ願えますか?」

 

「うるせー…………」

 

 指と指の隙間からジト目が垣間見えた。

 反応こそあったものの、望む答えは得られそうにない。ガウェインは内心嘆息した。

 

 他の騎士たちも拘束が解けたかのようにゆるりと動きだした。ガウェインの動きを見て、やらねばならぬことを思い出したらしい。

 

 ガウェインの問いかけが呼び水となって、他の騎士たちも詰問に加わった。

 お前の正体は何なのか。一体何が目的だ。誰かから指示を受けているのか。もし指示を受けているのなら、その黒幕は誰なのか――――。

 

 そのいずれにも回答はなかった。喧々囂々。騎士たちの表情に、次第に険が宿り始める。

 

 モードレッドを囲む人だかりを、蒼白な顔で睨みつけるアーサー王。

 しかし、ふいに立ち上がるとずんずんとモードレッドの元へ近づいていく。

 

 騎士を押しのけ、或いは接近に気づいた騎士に道を譲られ、未だうずくまったままのモードレッドにたどり着いた。

 無言。されど確固とした意思を以て、アーサー王はモードレッドの腕をむんずと掴んだ。

 

「へ?」

 

 呆けた声。為す術もなく、アーサー王に引っ張られるモードレッド。

 両者の向かう先には荘厳な細工が施された扉があった。どうやら王は円卓の間から退出しようとしているらしい。

 慌てたように投げかけられた問いがその背に追従する。

 

「あ、アーサー王、何を!?」

 

「少し、二人で話したいことがある」

 

 この場でしばし待機せよ。

 淡々とした王の命令に、騎士は皆(こうべ)を垂れたのだった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 オレは一体、どこに連れて行かれるのだろうか。

 ブリテンの騎士王にしてオレの『父』でもあるアーサー王に、右手を掴まれ引きずられながらぼんやりと考える。

 

 こんな初っ端から顔が見られた時点で、計画は間違いなく頓挫した。

 元々オレが立てたものではないとはいえ、寝物語代わりに聞かされていたこともあり、それなりに衝撃的ではあった。あの時あの場ですぐさま斬り捨てられてもおかしくはないと感じていた。

 だからこそ『母親(クソババア)』の計画ごと全てをぶち壊して自分の終わりを飾ってやろうと、そんな自暴自棄な考えすら抱いていたのに。

 

 それがどうしてこうなったのか。

 オレは今、『父』と共に城内を歩いている。

 

 途中、すれ違った女中や見回りの兵士に人払いを命じるアーサー王。

 出会う者たちは皆最初こそ首を傾げるが、オレの姿を捉えるとどこか得心したようにそそくさと退散していく。

 やがて修練の喧騒すら遠くに引いていき、オレたちの周囲には鎧の擦れる音のみが響くようになった。

 

 右手はがっしりと掴まれ固定されているとはいえ、左手は自由な状態。武装解除もされておらず、腰の剣も帯びたままだ。

 抜け出そうと思えば、恐らく抜け出せるだろう。だのに、オレはアーサー王の先導に従い、黙々と足を動かし続けている。

 

 しばらくして目の前に現れたのは、執務室と書かれた扉だった。

 アーサー王はその部屋の中へ、自然オレも中に引きずり込まれる。

 

 移動中、アーサー王は決してオレの方を見なかった。

 

 ………………ああ、馬鹿馬鹿しい。オレは一体、何を期待しているというんだ。

 連行された先で人知れず首を斬り落とされるかもしれないのに。

 

「あ………………」

 

 ついに手が離され、アーサー王が扉を閉めた。

 光源は一つ、壁にはめ込まれた窓から差す光のみ。部屋はどこか薄暗く、それがオレのほの暗い将来を暗示しているようで、知らず唾を飲んでいた。

 

 アーサー王は書簡の積み上げられたデスクに着いた。

 両肘を立て指を組み、その目はオレを見据えている。

 

「さて、モードレッド」

 

 私が何を言いたいか、わかるか。

 その眼光は、鋭い。

 

 唇が震え、うまく声が出せない。こんなこと、あの母親(クソッタレ)と対峙した時には一度としてなかったのに。

 自分の情けなさに涙しそうになるが、堪える。今求められているのは、そんな感情の発露ではない。

 オレは歯を食いしばり、努めて平静に首肯した。

 

 アーサー王の視線に促され、オレは白状した。

 誰に生み出されたのか、その生まれも含めたオレの知る限りの全てを。

 

「……………………そうか」

 

 オレが全てを吐き出し終えた後、アーサー王は俯いた状態でポツリと呟いた。

 室内の暗さも相まって、その顔色を窺い知ることはできない。

 

 ――――オレは、アーサー王のホムンクルスだ。

 生みの親であるモルガンによって作り出された複製品でしかない。

 アーサー王が『父親』であることは間違いないが、所詮は認知されていない子供。

 だからこそ、頑張っていっぱい活躍して、誉めてもらいたい――――――認めてほしい。その一心で度し難い計画にも乗ったのに。

 自分の目的さえ達成できれば、残りの計画なんてどうとでもなる。そんな『母親(大馬鹿野郎)』に対する薄情な企みに罰が当たったのだろうか。

 結局オレは何も成せなかった。きっと何一つ残せず、このまま終わるのだ。

 

 突如として立ち上がったアーサー王に、ガシッと肩を鷲掴みにされた。

 オレはこの後に来るであろう罵詈雑言を覚悟して――――。

 

「ホムンクルス、と言ったな?」

 

「あ、ああ」

 

「私のコピーということだな?」

 

「そうだよ……」

 

「それは間違いないんだな?」

 

「だぁぁあー! そうだっつってんだろ!?」

 

 何だこれ。

 わけが分からず叫んでしまったが、多分オレは悪くない。っていうか本気で何なんだこれ。

 

 何でアーサー王は嬉しそうなんだ、いやちょっと待て何でそこで力強くガッツポーズ!?

 

「これで私の勝利は約束された」

 

 だからそれは何の話だ――――!?

 

 

 

 

 

 

 

 そしてオレは、何故か円卓の間へと戻ってきていた。

 あの場で断罪されるとばかり思っていたので、正直理解が追いついていない。

 アーサー王の、あのいい感じの笑みの正体は何だったのだろうか。

 

 とはいえ、オレはまだ「自分が助かった」なんて思っちゃいない。

 もしかしたら、アーサー王は自身の手を汚すことを厭って、他の円卓の騎士に手を下させる気かもしれない。

 そうなったら、せめてモルガンをブッた斬る機会だけでも恵んでもらおう。

 とんでもない計画の片棒を担ごうとしていたのだから、それぐらいのケジメは付けたい。

 

 案の定、円卓でオレを待っていたのは詰問の数々だった。正体だの目的だの、質されている内容自体は先ほどと変わり映えがない。

 だがオレの袂にあるのは、答え方によっては即斬首となってもおかしくないものばかり。

 どうしようか。普通に考えて手駒が親玉をブッ倒そうとしているとか信じがたいだろうし。

 

 オレがあれこれと思索していると、意外すぎる場所から手が差し伸べられた。

 

「そこの騎士は私の『娘』だ」

 

 え。まって。

 

 オレは思わず二度見した。

 

「なっ――――王よ、それは誠ですか!?」

 

「ああ。だが姫として扱う必要はない。同じ円卓に座す者として扱うように」

 

「な、なんと…………」

 

「そのようなことが…………」

 

 よくわからないうちに話が勝手に進んでいく。

 当事者なのに、話に着いていけないとかどうなってんだ。

 

 まだ疑惑の目を向ける者もいるが、だいたいの騎士は目を丸くしている。弾劾(だんがい)しようなんて雰囲気は微塵もない。この場は収まった、ということなんだろう。

 だけどなテメエら、信じられないものを見ているような視線だが…………奇遇だな、オレもだよッ!!

 そもそも信じられないのはこっちの方というか!

 

 だってアーサー王が――――父上が今さっきオレのことを『娘』って………………まさかオレを認めてくれた、のか?

 いやでも『息子』って言ってほしいし…………。

 

 何だろう、この気持ち。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 あれから幾ばくかの月日が流れた。

 円卓の騎士に叙任されたモードレッドであったが、無名の騎士であった頃の日々と特に変わりなかったりする。

 そんなモードレッドの主な任務、それは毎度毎度傍迷惑なハイキングをしにやってくる蛮族と戦場でタップダンスすることである。

 

 今日も今日とて、モードレッドは一歩ごとに敵をかち割るという見事なステップを披露し、万雷の如き怨嗟(えんさ)の声を一身に集めていた。

 その艶姿は薔薇色の血飛沫にまみれ、見る者全ての目を引きつけてやまない。

 マナーのなっていない蛮族共が我先にとモードレッドに飛びついていき、その余りのスキルに須臾(しゅゆ)と保たず剣の錆と化した。

 それはまさに死の舞踏。パートナー殺しの孤独な演武。

 

「――――――ふぅん、撤退か」

 

 遠く地平線の向こう側へと波が引いていくように、蛮族の大軍が退却し始めた。

 まだ周辺の蛮族が退く気配はないが、適当に相手を続けてやればそのうち逃げ出すだろう。

 

 モードレッドが新たにいくつか敵の首を地面に転がしていると、ようやく周りの蛮族も逃げ惑い出した。

 

 モードレッドは騎士である。

 騎士とはただ戦う者に非ず。

 騎士道を、礼を尽くす者である。

 ゆえにモードレッドは蛮族に対しても、ここまで付き合ってもらった礼を忘れない。

 

「そら、忘れ物だ、ぜッ!!」

 

 足元からひん曲がった侵略者の武器を見繕うと投擲(とうてき)

 モードレッドに背中を向けている蛮族の頭に刺さり、柘榴(ザクロ)のように鮮やかに花開いた。

 二度、三度と風切り音がするたびに、蛮族の頭部が弾け飛ぶ。

 ぐずぐずしていた残りの蛮族も血相を変え、脇目も振らず逃走した。

 

「ま、今回もこんなもんだろ」

 

 途中で切れ味が悪くなったのでその辺に突き刺しておいた剣を回収していると、モードレッドの元に伝令が走ってきた。

 どうやらこちらも撤退してこいとのことだった。

 モードレッドには蛮族を深追いする気も、ましてや命令違反をする気もない。武具の整備も行いたいし、何より身体の汚れを落としたかったので、戻るにはいい頃合いだった。

 

「さぁて、凱旋だ」

 

 築き上げた屍の山に背を向け、モードレッドは戦場を去った。

 

 一度陣に立ち寄り、待機していた防衛戦力に後を引き継いでからキャメロット城に帰還した。

 

 血糊を洗い落とし、髪を雑に結い上げたモードレッドは城内をぶらついていた。

 激しい任務を終えた直後の休養期間中。特にこれといった趣味のないモードレッドは暇を持て余していた。

 

 修練場にでも行って身体を動かそうか。

 そう思ったが、脳裏に愛剣のことがチラつく。

 先ほど鎧等と一緒に点検したが、全体的にだいぶガタが来ていた。刃こぼれしている箇所もある。そろそろ何とかせねば。

 

 とはいえ、曲がりなりにも魔女モルガンの元から持ってきた剣である。

 名だたる聖剣には及ばないが、それでもモードレッドの馬鹿力に足る耐久性を備えていた。代わりの物などそうは見つかるまい。モードレッドはため息を吐いた。

 

 せめて騎士団付きの鍛冶師の元に持っていきたいが、モルガンから「剣に自分以外の者の手を入れさせるな」と口酸っぱく言われてしまっている。

 あの女の意図は不明だが、『一番すごい剣』を要求した時に提示された条件がそれだったのである。

 今思えばその際のモルガンの表情は、まるで、素面でやんちゃしてた過去(黒歴史)に直面したスカシ(元中二病)のように真っ赤であった。

 あの時はあまりの迫力と勢いに流されてしまったが、正直、剣がダメになってしまった時のことを考慮していなかったと言える。

 

 このまま修練場に向かうか、それともダメ元で武器庫にお邪魔するか。

 悩んでいると正面から兵士の一団がやってきた。立ち上る熱気といい、肌に浮かぶ汗といい、どうやら彼らは訓練帰りのようだ。気分良く雑談に興じている。

 

「――――でな、こないだの戦いも蛮族共に圧勝したらしいぞ」

 

「さすが常勝の王、陛下様々だな! 俺たちみたいなのも安心して戦えるってもんよ!」

 

 兵の口々から漏れ出るのは常勝の騎士王、アーサー王を褒め称える言の葉たち。

 

 ――――そうだろうそうだろう、何たって父上(アーサー王)は最強だからな!

 ニンマリと笑いながら、モードレッドはしきりに頷いている。

 

 ――――よし決めた、身体を動かしに行こう。

 モードレッドは目的地を修練場に定め、駆け足で向かった。

 城内には局所的につむじ風が起こり、たちまちモードレッドの姿は見えなくなった。

 

「なっ、何だったんだ今の…………?」

 

「わっかんねー…………円卓の騎士様か何かかねぇ?」

 

「だなぁ。あー、そういや聞いたか? 騎士王に勝利をもたらす麗しき姫騎士の話――――」

 

 

 

 

 

 

 

 修練場では威勢の良い声と打ち込む音が絶えず上がっていた。戦場とはまた違った喧騒だが、これはこれでいいものだ。

 モードレッドは小さく伸びをすると訓練用の模造剣を借り受けた。

 握り、振るう。風圧で木々が乱れる。

 やや物足りなさがあるが、まあ仕方ないだろう。

 刃引きのされていない剣でうっかり味方の首を飛ばそうものなら、それこそアーサー王に申し訳が立たない。

 

「おっし」

 

 まずはいつもの素振りから。

 父上への感謝(憧れ/隔意)を込めた高速千本スイング、ちなみに終了までにかかる時間は平均して三分ほどである。

 

 周りを衝撃波で吹き飛ばさないように気遣いながら剣を振り始めたが、何かがおかしい。

 モードレッドは素早く目を走らせ、気がついた。

 周囲の兵士たちが訓練を止め、しきりにモードレッドの方を盗み見ているのである。

 

 確かにモードレッドの素振りは特異な物だ。

 その姿が霞み、無数に分裂したように見えることから、『分身剣』なるあだ名を付けられたこともある。

 だが、修練場に来るたびに実施していたので、もはや馴染み深い光景だろう。

 これほど注目を集めたのは、王城に来て初めて訓練を行った時以来だった。

 

 一体原因は何なのだろうか。頭の片隅で思考する。

 以前との違いがあるとすれば、訓練中にも被っていた兜がないことか。ついでに、鎧も置いてきている。

 しかし、既に何度か修練場にも面通ししてある。素顔のことではあるまい。

 

 素振りの片手間に観察していると、何やら兵士たちの口元が動いている。

 何を話しているのだろうか。モードレッドは聞き耳を立てた。

 

「おお…………!」

 

「あれはもしかして…………」

 

「金髪碧眼にあのライン…………間違いない、噂通りだ」

 

「勝利の姫騎士殿って奴か?」

 

「何でも王の御姿と生き写しだとか」

 

「じゃあ『彼女』がアーサー王の姫騎士か」

 

 素振りがピタリと止まった。

 予期せぬことにコントロールが乱れ、砂塵が吹き荒れた。

 

 アーサー王に騎士は数多くおれども、今聞いた内容に該当する者はおそらく一人しかおるまい。

 とどのつまり、モードレッドのことである。

 

「…………………………姫騎士?」

 

 姫騎士って何のことだ。モードレッドの眉間に皺が寄る。

 一体どこから、どのような情報が漏れたのかはわからない。だが、遠巻きに見られ、ひそひそヒソヒソと。

 まるで見世物にでもされたようで、気分が悪い。

 

 身体の一部分が著しく不躾な視線に晒されているのをモードレッドは感じ取った。

 思わず舌打ちしたくなるのを堪える。こんな荒んだ心境では、訓練にはなるまい。

 

 モードレッドとしては、『姫騎士』とやらの噂について徹底的に(つまび)らかにしたい。

 しかしそれも無理やり行えば、アーサー王の評判に傷を付けることに繋がるだろう。心に荒波が立っているモードレッドに、相手を(おもんばか)るだけの余裕はない。

 すなわち、今この場にモードレッドの心を晴らす手段は存在しない、ということだ。

 

 目に見えて機嫌の悪くなったモードレッドに、声をかける猛者(愚者)がいた。

 

「…………ほう、卿も特訓ですかな?」

 

「テメエは確か――――」

 

 ランスロット。

 円卓の騎士が一人であり、湖の騎士としてその勇名を馳せている、円卓でも指折りの実力者。

 彼はその恵まれた体格に紫紺の鎧を纏い、悠然と佇んでいる。

 

 モードレッドにとって、ランスロットと正面から一対一で対峙するのは初めてのことだ。正直、顔もうろ覚えだった。

 面構えは整っている方か、とモードレッドが検分していると、彼の目に周りの奴らと同様の色が窺えた。苛立ちが募る。

 

「どうですかな? ここは一つ」

 

 ランスロットが模造剣を構えた。模擬戦にでも誘っているのだろう。

 確かに彼は強い。戦えばいい経験になるだろう。だが。

 モードレッドは舌打ちを隠さなかった。

 

 ランスロットの視線は明らかに、モードレッドの首より下の部位に集中していた。

 あわよくば接触でも狙っているのだろうか。

 

「…………いいぜ、テメエをブッ倒してや」

 

「では私が勝利したら噂の『姫騎士』殿には――――」

 

 台詞を被せられ、散々耳にし聞きたくなかった単語を面として言われ。

 

 心のどこかで抑え、張り詰めていた何かが――――――キレた。

 

「こ、ンの――――――――ッ!!」

 

 猛る魔力の奔流を、本能の赴くままに放出。

 自重を忘れた踏み込みによって、固く踏み均された地面は陥没した。

 鈍い音と共にその姿はかき消え、認識を超越した不可視の一撃がランスロットに叩き込まれた。

 

「我がうごばぐェギどぅボッ!?」

 

 まだ話し途中だったためか、複雑怪奇な悲鳴を上げながらぶっ飛ばされたランスロット。

 そのまま宙を突き進み、頭から城壁にめり込んだ。

 すわ天変地異かと思うほどの衝撃。音を立て亀裂から砕けた石材がこぼれ落ちた。

 

 修練場からはそれ以外の一切の物音が消えていた。

 居合わせた者は皆、モードレッド、あるいは城壁に突っ込んだまま出てくる兆しのないランスロットを注視している。

 

「あっ………………」

 

 ――――――ああ、やっちまった。

 モードレッドは我に返った。

 

 訓練の度を超えていることは、誰の目から見ても明白。

 傷害(ランスロット)の件といい、器物損壊(城壁)の件といい、言い逃れようのない大失態である。

 それも大衆の面前での出来事であり、ごまかしようがない。いや、被害者からの弁護でもあれば話は別であろうが。

 

 モードレッドは問題の方向をチラリと見やる。

 

 ランスロットの上半身は未だに城壁の中、足はピクピクと痙攣しているが復活の見込みはない。

 アウトである。

 

 しかし、モードレッドに後悔はなかった。

 

 己の処遇は何やかんやとなあなあになってきたが、今回こそはとりあえずクビになるだろう。

 

 そうなったなら荷物を纏め故郷に戻り、モルガンをぶっ飛ばそう。それがひいてはアーサー王のためになるはず。

 そう心に決めて、モードレッドは神妙な面持ちで王の元へ出頭していった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「ランスロット、有罪(ギルティ)

 

「何故ですかッ!?」

 

 臨時で開かれた円卓の間での会議にて。事情を聴き終えた(父上)の第一声がそれだった。

 あれ、それオレじゃないの? そう思うが、ランスロット以外誰も声を上げない。

 オレが目を白黒させていると、肩にポンと手を置かれた。

 

「もう大丈夫」

 

 そう笑って親指をビシッと立てるのは円卓の騎士の一人。

 お願いだから主語を省くな。

 

「我々はあなたの味方です」

 

 だから! オレを置いて話を進めるな同僚(ガレス)

 

「何が問題だったというのです!?」

 

 ランスロットの叫びにも必死さが(にじ)む。

 そう、理由だ、オレもそれが知りたい。

 どうしてそんなハチャメチャな結論に至ったのか、その推測の助けになるはず。

 

 ランスロットの抗議を受けて、アーサー王は手元の調書を取り上げた。

 

「先刻、修練場にて。『城壁が破壊された』との通報があった。多数の目撃者の証言に拠れば、直前までモードレッド卿とランスロット卿が模擬戦を行っていたとのこと。また同時に、『ランスロット卿がモードレッド卿に対して猥褻(わいせつ)な発言をし、(みだ)らな行為に及ぼうとしていた』との証言も寄せられた。崩れた城壁も、モードレッド卿が抵抗したが故のものだという。で、あるならばその咎はランスロット卿が負うべきだ」

 

 違うか。

 そう淡々と告げる王の眼光に、ランスロットは怯んだように喉を鳴らした。

 が、すぐに顔を赤く染め上げ、立ち上がった。

 

「お、お待ちを! 猥褻などと、一体誰がそのようなことを!?」

 

「現場を監督していた兵士長だが?」

 

 ――――兵士長め、さてはランスロットを売り渡したな。

 オレは思わず、ちょくちょく修練場で顔を合わせる兵士長が、白い歯を見せて呵々大笑している姿を幻視した。

 周りの兵士たちの口を止められなかった、その贖罪(しょくざい)のつもりだろうか。だとすれば、相当義理堅い奴だ。大した付き合いがあるわけでもないのに。

 

 とはいえ、話が大袈裟過ぎやしないか? もし虚偽だと判定されれば立場が悪くなるのは間違いない。

 

 未だペタペタと絡んでくるガレスに気付かれないように、周りを窺う。

 

 アーサー王と白熱しているランスロット以外、ちらちらとオレの方を向き、同情的な表情を浮かべている。

 こっち見んな。

 

 驚いたことに、鉄面皮で冷血漢としても有名なアグラヴェインでさえ、顔を歪めランスロットを睨み付けている。

 いや、この男の場合、ランスロットを蹴落とすのにいい口実を見つけた、とでも思っているだけかもしれないけど。

 

 本人以外の全員が、今回の『ランスロットがやらかした』という話を疑っていない。

 というか、コイツならやりかねない的な負の信頼感がひしひしと伝わってくる。

 果たして、オレが入るまでの円卓に何があったのだろうか?

 

「美しいものを美しいと言って、手を出すことの何が悪いのです!?」

 

 あっ、これダメなヤツだ。

 

「サー・モードレッド、何か希望は?」

 

「――――ふぇ!?」

 

 父上から予想外の呼びかけに、マヌケな声を漏らしてしまった。考え事で集中していなかった…………不覚。

 注意力散漫だと思われるのが嫌で、わざと咳き込んで誤魔化す。

 そもそも、どうしてここでオレに振るんだ? 父上が判断を下すべきところじゃないのか?

 

「ふふ、王はあなたの意向を酌みたいとお思いなのですよ」

 

 そばにはいつの間にやら隻腕の騎士にして王の世話係でもあるベディヴィエールが。彼は手を添え、耳打ちするかのように囁いた。

 とはいえ、そこまで小さな声でもない。円卓に座るほぼ全員が聞き取れたようで、ベディヴィエールの言葉に微笑む者もいれば顔をしかめる奴もいた。

 

「この男を極刑に処したければ、その旨をきちんと述べるように」

 

 眉間に深く皺を刻み、横からさらっと恐ろしいことを述べるアグラヴェイン。

 あんたは威圧感すごいから引っ込んでてくれ。

 

 横目で様子を見れば、ランスロットは膝を着いている。

 ブツブツと、男として当たり前だろう的な内容が聞こえてくる。全く同意できないが。一体どこで物事を考えているのだろうか。

 

「ふー…………」

 

 落ち着こうオレ。

 

 まあそれなりに嫌な思いもしたんだが…………正直、さすがにここまで意気消沈されると哀れというか。ランスロットの目線はアレだったが、一応手は出されなかったというか。

 ならば、

 

「い、いや、そこまで重い罰じゃなくてもいい、です…………」

 

 話していて、だんだんと尻すぼみになっていく声。

 自分でも、迷った。円卓の騎士の反応を見るに、似たような事例は一度や二度ではなさそうだし。女癖が悪いのはどうかと思う。

 だが、剣の腕が立ち、いれば間違いなく戦力になる。

 それに大陸の方に領地も持っているらしい。そちらとの繋がりがなくなると、アーサー王が――――この国が困窮する恐れがある。

 

 あとランスロットが重罪になると、いざオレが罪に問われた時が怖い。

 

「ふむ……………………」

 

 アーサー王は一度(まぶた)を閉じ、

 

「で、あるならば――――――サー・ランスロットはこれより一週間、サー・ガウェインの元で『三倍マッシュポテトの刑』とする!」

 

「労役ですね、畏まりました」

 

 とガウェインは恭しく一礼。力なく了承の意を示したランスロットを引きずり、退出していった。

 早速厨房に向かうのだろう。この時間からならば、夕食の分か。

 

 ――――三倍マッシュポテトの刑。

 それは、マッシュ係であるガウェインの三倍量ポテトをマッシュし、更にはそのマッシュしたポテトだけを食さなければならないという、慈悲深くもある意味(むご)い刑である。

 ガレスの話に拠ると、これまでにも円卓内で問題が発生した際に、たびたび行われてきたのだという。

 ちなみに等倍、二倍、三倍の順に重い刑罰となる。今回のはかなり重い判決と言えよう。

 

 ガウェインのマッシュポテトを思い出し、オレはげんなりした。

 ガウェイン本人は労役と言っていたが…………多分食事の方が罰ゲームである。

 

 オレはガレスに連れられ、そのまま無罪放免となった。

 …………城壁修繕の手伝いぐらいはしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の早朝。

 オレはせめてもの償いとして、壊れた城壁周辺の警備に赴こうとしていた。

 

 昨夜、城壁修繕の補助をしたいと執務中の父上に打診したところ、近くの机でペンを走らせていたアグラヴェインに「お前がやると余計に壊れるから止めろ」と差し止められてしまった。

 実際に壊した手前、反論もロクにできず、代替案として周辺警備を願い出たのだ。

 

 さすがに蛮族連中がここまで攻めあがってくる可能性は万に一つもないが、王の命を狙う不遜な輩が忍び寄ってくるかもしれない。例えばモルガン(クソババア)とか。

 そうでなくても、作業中の工兵が獣にでも襲われればひとたまりもない。ネズミ一匹通すものかとオレは己の両頬を叩いた。気力は充分。

 

 鎧を纏い、愛剣を携える。

 耐久に不安が残るが、無限に蛮族と斬り合い続けるわけでもなし。今回は問題ないだろう。

 

 外に出るため城内を移動していると、対面から歩いてきた女中のグループと目があった。

 途端、女中たちは何やら色めき立った。顔を見合わせ、すぐさまこちらに向かってくる。

 …………オレに用事でもあるのか?

 

「キャー! モードレッド様よ!」

 

「まあ、お噂の姫騎士様!?」

 

「モードレッド卿! モードレッド卿ですよね!?」

 

「あ、ああ」

 

 何だこれ。

 

 どう考えても初めてのはずなのに、どこか既視感のある状況にオレは陥った。

 というか、これもまた詳細不明の『姫騎士』とやらの関係なのだろう、そう聞こえたし。兵士たちの噂話と違い、直接ぶつけてくるだけまだマシな気もするが。

 何にせよトラブルだけは勘弁してほしい。

 

 対応に困り、オレが内心冷や汗をかいている間も、彼女たちのトークは止まらない。

 

「何でも、『円卓最強談義』で常に名前の上がるランスロット卿を倒されたとか!」

 

「無理やり××(ピーッ)しようとした悪しき騎士を見事撃退されたとも聞きましたわ!」

 

「まあ!!」

 

「やはり女性は斯くあるべきね!」

 

「女も強くならなくっちゃ!」

 

 昨日の今日で、もうあの話が出回っていることにも驚いたが…………(かしま)しいとかいうレベルじゃない。

 大人数に密着され、かといって下手に動いて怪我をさせるわけにもいかず、完全に身動きが取れない状況になってしまった。

 

「あ、あのっ! どうか握手してください!」

 

「いや、オレそんな立派な者でもないし――――」

 

「キャーッ!! さすが勝利の姫騎士モードレッド様!!」

 

「勇ましいだけでなく、謙虚でもあらせられる!」

 

「こんな朝早くからモードレッド卿に出会えるなんて、何という幸運なのかしら!」

 

「これで今日のお勤めも頑張れます! ありがとうございます!!」

 

 お触りやら握手やらで散々揉みくちゃにされた後、ようやっとオレは解放された。

 短時間だというのに、精神の疲労は戦闘の比ではない。

 もしや、この城の女中って蛮族よりも手強いのでは。

 

「あら、いけない! そろそろ仕事を始めなくっちゃ!」

 

「名残惜しいけど…………私たちの仕事がモー様を支えているのよ!」

 

「ふふっ、モー様パワーのおかげで今日は三倍働けそうよ」

 

「何言ってるのよアナタ――――――十倍に決まってるじゃない!!」

 

「ありがとうございます、本当にありがとうございます! この手は一生洗いません!」

 

 オレが真剣に対蛮族戦への女中動員を検討していると、嵐のような一団は去っていった。来た時も唐突だったが、帰る時もまたえらく唐突だった。

 …………もしかしなくとも、『モー様』ってオレのことか?

 というか最後の奴はちゃんと手を洗え!

 

 とりあえずハッキリしたのは、今回の騒動もまた『姫騎士』とやらの話が原因だということ。

 女中たちもオレのことを『姫騎士』だ何だと口にしていたので、それは間違いない。

 

 オレについてどんな噂が流れているのか。

 気にはなるし、いつか聞かなければならないのはわかっているんだが…………聞くのが怖い。特にさっきの女中集団は熱狂的過ぎて。

 

 本当に、どうしてこうなった…………?

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、

 

「おお、偶然ですね。いかがです? 警備の後、一緒にティータイムでも」

 

「いや反省しろよあんたも」

 

 ランスロットからの言い寄りはなくならなかった。何でだ?

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 





※先生が4月2日を取り戻す旅に出てしまったので、今回が最終回となります。先生の次回作にご期待ください。


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