ダンジョンにサーヴァントを連れて潜るのは間違いな気がする 作:キョウさん
『彼らは危険です、フレイヤ様。もし争うことになれば……滅びるのは間違いなく我々でしょう』
オッタルの報告を思い出して、何度目かも分からない深いため息を吐く。
性別を変えるだなんてありえない、どっちが本当のカルデアなのかしら?
異世界を召喚するなんてスキル聞いたことがない、人間にそんなことができるなんて思わなかった。
全身が毒になっている少女なんて可哀想だわ、他者と触れ合えないなんて考えられない。
数百ものモンスターを一瞬で消滅させるなんてあり得ない、できれば見てみたい。
オッタルが勝てないと断言する紫鎧の騎士……欲しい。
……次から次へと欲求が溢れて来てしまう。
この気持ちは誤魔化しようがなかった。
「ダメよ。ダメ、私は彼らが欲しい。特にカルデアのことは絶対に。諦めるなんて出来ない」
髑髏の騎士。
オッタルが特に怖れ避けようとする騎士。
ただそこにいるだけで死を覚悟する規格外、報告を聞いただけで背中にゾクゾクと快感が走った。
魅了をかけてでも奪い取りたい。
でもカルデアのような強い意思を持っていることは十分考えられる。
ああ、カルデアも良かった。
殆ど壊れているのになお強く輝く魂を持つ少年。
普通なら廃人になっていてもおかしくない程にボロボロで、にも関わらず精神力一つで形を保っている。
何度も身体の熱を冷まそうとして、気が付くとまた彼のことを思い出してしまう。
私の魅了は見ただけで相手を虜にするもの。
カルデアにはそれが効かず、触れることでようやく魅了に成功した。
そして魅了は確かにかかっていたのに、彼はそれを抑え込んだ。
あの時のカルデアは、まるで何度も魅了にかけられたことのあるような反応だった。
まさかイシュタル?
彼がどこから来たのか気になって仕方がない。
……明日また会いに行ってみようかしら。
~~~~~~~~
「ただいまー」
「お帰りなさい、先輩」
家に入ると笑顔の素敵なマシュに出迎えられた。
いやかわいいね本当マシュ可愛い。
「次にお前は、『ご飯とお風呂の前に私をどうぞ』と言う』
「言いませんよ♪」
よーし本気で怒りマシュモードになっていることを確認した。
目が笑ってない上に完全武装してる段階で察してはいたけれど、普段滅多に怒らない後輩が怒ると少し怖い。
だから僕は予てより考えていた対マシュ決戦兵器を投入することにする。
「マシュ」
「なんです……きゃっ!」
マシュの腕を引いて密着し、そのまま壁まで追い込む。
驚きのあまり硬直するマシュの耳元に顔を近付けて囁いた。
「可愛いね」
「………………!?」
「マシュみたいな後輩を持てて僕は嬉しいよ。優しくて、でも僕の事を想って本気で怒ってくれる。マシュは最高の後輩だ」
「ぇ……」
「でもマシュは笑顔の方が何倍も輝いてるよ。ほら、笑ってマシュ」
「せ、先輩……」
「照れてるマシュも可愛いね」
茹でダコのようになった照れマシュを見て、僕は勝利を確信すると共に二人の英雄に感謝した。
ありがとう、フェルグス、ダビデ。
『女はこう……ガッ! と抱き寄せて耳元で褒めちぎってやればすぐに落ちる。マスターなら百戦錬磨も夢じゃないだろうな』
『特にマシュには良く効くだろうね。愛してる、なんて陳腐な言葉でもそれがマスターの言葉なら彼女は簡単に行っちゃうね。ころっと行っちゃうよ』
いや僕としても大変クズい行動なのは理解しているさ。
でもこの場を切り抜けるにはこれが安全かつ誰も傷付かない方法な訳で。
なんで背後から溢れ漏れているお父さんの殺気には気付かないことにした。
口をパクパクと動かすマシュから離れ、僕は難から逃れたとホッとした気持ちで居間に入っ
ぐちゃ
「お帰りなさい、マスター」
「申し訳ありませんでした」
巴さんがニコニコと笑みを浮かべながら、リンゴを握り潰していたのを見て僕は風よりも光よりも早く、扉を開けた体勢から流れるような動作で土下座した。
『良いかマスター? 世の中には逆らえない女ってのもいる。本能で分かるはずだ、もし出会っちまったら……そうさなマスターなら全てを投げ出して許しを乞うしかないな』
今の巴さんには本能的に逆らえる気がしなかった。
くぅ、年上のお母さん属性持ちには無条件で降伏してしまう自分が悲しい!
頭の上から巴さんの平坦な声が聞こえてくる。
「謝罪は結構。それで?」
巴さんに先を促される。騒動を聞き付けてなんだなんだと降りてきた居残り組も、僕の姿を見て事情を察したようだ。
マシュも復帰してきたようで、僕を逃がすまいと盾を構えているけど顔はまだ赤い可愛い。
皆の視線が突き刺さる、ここまでのようだ。
僕は今までのことを細部まで説明することにした。
さて何から話すべきか。
「まずは僕の生い立ちからだな。あれは冷たい雨の降り頻る夜のことだった。僕は母のお腹の中でじっとその時が来るのを待っていたんだ」
「まだ生まれてすらいねぇのかよ」
クーフーリンにコツンと槍で叩かれた。
「そうだよ僕が犯人だよ!」
「何をしたんですか先輩!?」
「家出かな」
清姫が反応したのに気付いて即座にフォローをいれる。
清姫検定三級取っといて良かったね。
……そろそろ冗談は止めておこう、巴さんが凄く悲しそうな顔をしてるし。
やめてそんな顔されたら罪悪感に押し潰されるの。
「ごめん巴さん、僕が悪かったからそんな顔しないでほしい。えーと……まぁ皆予想していたと思うけど、今日はダンジョンに行って来たんだよね。孔明達と戻ってきたんだから分かるよね」
「はい。先輩が居なくなっていることに気付いた後、孔明先生がこの世界が特異点でそれなら怪しいのはダンジョンだ、という仮説を立てランスロット卿とアーサー王を連れてダンジョンに向かいました。なので先輩がダンジョンに居たことは分かりますが……」
「問題はなんで黙って行ったのかってこったな」
この場にいる皆の気持ちを代弁したクーフーリンに、全員が大小あれど非難の視線を浴びせてきた。
その視線の大元は僕のことを心配してのものなだけに、強く文句を言いにくい。
けど少しくらい反論しても良いよね。
「昨日伝えたら、清姫部屋に監禁された上に皆で寄ってたかって僕を揉みくちゃにしたよね? だからもう、強硬手段しかないかなって」
「それはそうですが……」
「あーいや、僕も悪いんだ。もっと真剣に話すべきだったかもしれないなぁとは思ってるし。皆本当にごめん」
僕がダンジョンに行きたかった理由は個人的な事でしかない。
恥ずかしがらずに打ち明けていれば、渋々とでも承諾は得られただろう。
僕はマシュを見た。やっぱり可愛い。最高の後輩。怒り顔も可愛い。
でもさっき本人にも言ったけど、やっぱりマシュには笑顔が似合う。
うん、恥ずかしがっていても仕方ないよね。
「僕はマシュを守りたい」
「え? ええと、それはどういう……?」
「皆知っての通り僕は弱い、皆に戦い方を教えてもらっても一向に上達しなかった。でも僕はここで冒険者になった。強くなる可能性を貰えた、だから……マシュを守れるくらいに強くなろうと思ったんだ」
あー顔が熱い。
なんだろうね、屋上から大声で告白してる気分。
マシュも顔を真っ赤にさせている。あー可愛い。
清姫の顔も凄く赤い。怖い。
僕の告白を聞いた皆は顔を見合せ、それからエミヤと静謐に視線が向かった。
エミヤは肩を竦める。
「マスターからそう言われては、私と静謐も動かざるを得なくてな。清姫に眠り薬を盛り、インフェルノには我々が監視するからと部屋に戻らせた」
「そりゃ好きな女守る為に強くなりたいって言われたら断れねぇよなぁ」
「そーなの?」
「ガキと女にゃわかんねぇだろうけどな!」
良く分からない、と目を丸くしたジャックにクーフーリンは笑う。
マシュは「すっ!?」とようやく落ち着いてきただろうにまたもフリーズしてしまったようだ。
「守る必要も無いくらいマシュは強い、それは分かってる。でも……だからって弱いままの自分で良いわけないだろ?」
マシュは普通の女の子なんだ。
……そんなこと言われなくてもわかってる。
初めから分かってたさ。
「まぁそんな訳で、僕はこれからもダンジョンに潜ると思う。キングハサンもいるから平気だと思うけど……今度からはちゃんと皆を連れていく。それで良いかな?」
「……分かりました。ですがマスター……私たちは皆、マスターのことを大切に思っていることを忘れないでください」
「ありがとう」
隠していた本心を話して、少しだけ気持ちが軽くなった。
いつまでも甘えていられないんだ。
ここから戻ったら皆いなくなっちゃうから、僕は強くならないといけない。
……ん。視界がぼやけてきた。
疲れが溜まってるみたいだ。
「今日はそろそろ休ませてもらうよ。お腹減ったなぁ、エミヤママーご飯出来たら起こし」
立ち上がろうとした僕の身体は、何の制御も利かずに崩れ落ちた。
身体にはなんの痛みも無い。
「……あれ?」
「先輩っ!?」
なんだろう、意識が遠のいてきた。
皆の僕を呼ぶ声は聞こえるのに口が動かせない。
代わりに僕の口から、生暖かいものが溢れてきた。
そのまま僕は闇のなかに沈んでいった。
~~~~~~~~
そんな、なんで。
先輩の口から血が……。
「薬はどこだ!?」
「薬なんざあんのか!? つかまずなんの薬だ!?」
「お、おかあさん……?」
「お前ら落ち着けっての! 騒いでも時間を無駄にするだけだ!」
「マスター! しっかりしてください!」
「仰向けは危険だ! 気道を確保しろ!」
皆さんが大慌てで動きだしました。
私は先輩の手を握ることしかできなくて……私はいつもそうです……本当に何の役にも立てない……。
「ふん……呆れ返る程の愚鈍さよな。己の身のことにも気付かずにもがき続けるなど、だから雑種だという」
「……ギルガメッシュ王」
「揃いも揃って情けない。マシュ、貴様のやるべきことはそこで死にそうな面をしていることか?」
ギルガメッシュ王の声には、不思議と力があります。
石にでもなってしまったかのような私の体に力が戻って来て、私は先輩の身体を持ち上げてそのままソファに寝かせました。
先輩の体はとても軽くて、辛そうな表情を見ているだけで胸が締め付けられるような気持ちになってしまいます。
ここはカルデアではないので、すぐに適切な治療を施すことができません。
このまま先輩は……。
「おい。それ以上我の前で騒ぐようならば、死を覚悟せよ」
ギルガメッシュ王の言葉を聞いた途端に喧騒が瞬時に止み、私の思考が一瞬にしてクリアになりました。
そのままギルガメッシュ王は指示を出しました。
「フェイカー、いくら異世界と言えど医者の一人二人は居るだろう。人伝にでも探して連れて来い。そこの犬もだ」
「犬って言うんじゃねぇ!」
「落ち着けクーフーリン。……分かった」
「もし居ないようならば魔術師を探せ」
いつもならここで一悶着ある所ですが、クーフーリンさんはあっという間に外へ出ていきました。
「壊れかけの身体に過度のストレスが耐えられなかったのだろう。まったく……今の人間は貧弱過ぎる」
「壊れかけ……? ギルガメッシュ王、それは?」
「…………口が滑った。今のは忘れよ」
「待ってください! 忘れるなんて無理です! どういうことですか!?」
「まったく、王が忘れろと言ったのならそうするのが道理であろう。……が、そうさな……貴様は雑種にとっては特別な存在だ。良かろう、特別に教えてやる」
~~~~~~~~
「ファラオの兄さん。飯買って来たぜ、少し休憩するか」
「うむ。しかし肉体というのも不便な物だな。食事を摂らねばならぬ上に睡眠まで必要だ。おまけに動けば疲れもする……生前当たり前のように繰り返してきたことだと言うのにな」
「良いじゃないか、俺は生きてる感じがして好きだぜ?」
「確かに悪くは無いな、うむ」
ハハハと笑いかけると、何故かファラオの兄さんは視線をそらしてしまった。
兄さんは時々こういう事がある。
最初は俺の顔が好ましくないのかとも思ったが、悪印象を抱かれている様子はないから気にしないことにしている。
「にしても向こうは大丈夫かね?」
「ん? あちらは黄金のに任せておけば良かろう」
握り飯を食べながら千里眼の使用を試みてみたが、相変わらずうっすらと見えるだけだ。
戦闘中は良く見えるんだが、平時の時には何故か霧がかかったようになっちまう。
……だが今回はうっすらとでも状況が分かった。
「おいおい……マスターが血を吐いて倒れたぞ!」
「なに? ……まったく、軟弱な……余のマスターたる自覚が無さ過ぎる。…………それで、無事か?」
「直接見たわけじゃないから何とも言えないな……」
「ふむ、一度戻るべきか……。いや、向こうには数多の英霊が居るのだ。問題無かろう」
「治療の得意なサーヴァントがいないのが難しい所だな。外傷ならどうとでもなるけどよ、精神的な問題ってのは厄介だな……」
とりあえず向こうは向こうに任せるということにして、飯を平らげながら今朝の事を思い返す。
マスターの失踪で少し騒ぎになったものの、一緒にエミヤと静謐のが居ない事もあって計画的な家出だと判断され、マスター狩りが始まりそうになったのを俺が止めた後。
ダンジョンに行くか街を調べるかしようかと思った矢先にファラオの兄さんに声をかけられた。
『名も無き弓兵よ。余は散歩に出かける』
『おっ、そうかい。どんな危険があるかも分からないから気をつけてな』
『……うむ』
『っと、俺も丁度外に出ようと思ってたんだ。どうせなら一緒に行かないか?』
『ぬっ! そうまで言われて断る訳にいかんな。……特に赦す! 余の供をせよ!』
『おう! ありがとな!』
去ろうとするファラオの兄さんの背中が寂しそうだったから声をかけてみたが、楽しそうで良かった。
本来の目的は達することができなかったのが残念ではあるが、息抜きも必要なことだから問題無いだろう。
ん……少し目立ちすぎたか、視線が俺たちに寄ってきているみたいだ。
ファラオの兄さんが食べ終わるのを待って移動しようと思っていたけど、とっとと場所を移した方が良いかもしれないな。
「兄さんたち、この辺りでは見ない顔ね? 暇ならうちに寄ってかない?」
そう思った矢先に声をかけられてしまった。
妙に胸を強調した装いだ、恐らく娼婦か?
「悪い、そういうのは間に合ってる」
「あら? もしかしてお二人さん、そういう関係?」
「ハハハ! ファラオの兄さんに認められるなら嬉しいけど、残念ながら違うぜ。うちのファミリアじゃそういうのはやめとこうって話になってるだけだ」
ファミリアじゃないが、カルデアではサーヴァント同士のそういうのは無しと暗黙の了解になっている。
争いの種になりかねんし、そもそも俺含めて全員マスターが好きだから問題は無い。
何故かファラオの兄さんが信じられないものを見るように俺を見てきたが、とりあえずそれは置いておく。
「ここには視察に来ただけなんだ。何分この街は初めてでな」
そう言うと、何故か娼婦の姉さんは怯えたような表情をした。
「……貴方達、もしかして最近現れたカルデアって神の……」
「フハハハ! 何度聞いても面白い! あやつが神などと……フハハハハハ!」
兄さんが楽しそうで何よりだ。
娼婦の姉さんはファラオの兄さんに威圧されて、走って逃げてしまった。
「む? なんと不敬な……まあ良い、ファラオの威光に恐れ戦くのは致し方ないことよ。……それよりゆう……名も無き弓兵よ」
「なんだい? っと、そういやいつも名も無き弓兵なんて面倒だろ? 俺のことはアーラシュで良いぜ」
「お、おおおおおお…………! い、いや! ……そ、そうだな。フッ、余が名を覚える栄誉をやろう。アーラシュ!」
「おう! ありがとうな! それで何かあったか?」
「う、うむ…………先ほどの」
兄さんが話始めようとしたその時、急に陽の光りが遮られて俺と兄さんはすっぽりと陰に飲まれてしまった。
遮った何かの方を見てみると、巨大な女が俺達を見下ろすように立っていた。
「ゲゲゲゲッ。まさかカルデアの所のがわざわざ来てくれなんてなぁ。しかもどっちも良い男じゃないかぁ。久しぶりに楽しめそうだねぇ!」
どうにも友好的な雰囲気では無さそうだ。
舐め回すような視線を無遠慮に向けてくる。
どうしたもんかと考えるよりも早く兄さんが動き出してしまった。
「……おい貴様。不敬極まるその行為、万死に値する」
と言って、思いきり蹴りつけてしまった。
「ぎゃっ!! ……テメェ! いきなりなにしやがる!?」
「まったく! 貴様のような醜き者が太陽の輝きを遮るなど、これ以上の罪も無い! 余の気分を害した事も含めて赦しがたい大罪だ! 余自ら断罪してやろう!」
「んだとォ!? やれるもんならやってみろやぁ!!」
やべぇ、向こうもかなりやる気になっちまった。
止めるのは無理そうだな。
「兄さん、せめて周りに被害が出ないようにしてくれ。俺もなるべくフォローするけどな」
「無論だ。余に無辜の民を害する趣味は無い」
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