クソ提督奮闘記   作:ちーまる

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(匿名投稿なので他にも投稿しているけど)初投稿です。




クソ提督に至るまで 1

 この世界はクソである。

 

 

 手に持った朝刊、一面には「艦娘、またしても深海棲艦撃破‼」の文字とクジラにも似た化け物の写真。その下には昨日の朝刊とほぼ同じ、日本海軍は今日もまた近海の侵略者どもを追い払いこの平和を守って云々などという言葉が躍っている。

 

 テレビをつけても放送されるのは艦娘が深海棲艦を撃破する華々しいシーンだけ。どの局も同じ映像の使いまわしだ。もう少し報道の意地とやらを見せて欲しい、などとぼやいてみても現実は変わらない。

 

 

 ちらりと手元に目線を落とせば、鮮血の如き真っ赤な紙に言い訳も出来ない程の大きさで書かれた「提督適性検査」の文字。ひくりと頬が引きつった。

 

 

 

 

 巷に溢れているといういわゆる転生ものの小説のように、前世の記憶を完備したまま生まれ変わったのがおおよそ数十年前。この世界が前世の自分が遊んでいた「艦隊これくしょん」の世界だと気づいたのは、どこか見慣れたシルエットの駆逐イ級が正体不明の化け物としてテレビで報道されたのを見たからだ。

 

 艦隊これくしょんというゲームの設定を仮に現実の世界に当てはめたなら、そこは割と洒落にならないレベルで人類が追い詰められた世界である。

 世界中の海には深海棲艦という化け物が蔓延り、シーレーンはズタズタ。そのせいで物流も経済も連鎖式に何もかも滞って、おまけに深海棲艦には既存の通常兵器は効かない。倒せるのは艦娘とよばれる軍艦などを擬人化した見目麗しい乙女たちだけ。

 

 冗談抜きで人類滅亡までのカウントダウンが始まっている世界である。

 

 そんな世界で艦娘を率いて戦い、最前線に立たざるを得ない提督になる何てことは間違いなく死亡フラグに他ならないのだ。うん百人の美女に囲まれて、ロリから上まで揃った選り取り見取りのハーレム天国職場?そんな戯言は来世で言って欲しい。

 

 まず職場環境が絶対逃れない程にブラックである。こんなご時世では民間と違って週休二日制を取れるはずもなく、土日祝は無い。何せそんな人類のカレンダー事情など深海棲艦が考慮してくれるはずも無いからだ。「今日は日曜日だから襲撃はしません」みたいな空気の読める敵がいるならお目にかかってみたい。

 

 さらに周りは圧倒的に女性が多い。言うまでもなく、艦娘には女性しかいないためである。もし仮に艦娘たちがゲームの中のような態度のままだとしたら、あんな可愛い年下の子から「クソ」とか「クズ」とか罵られながら日々過ごすことになるのだ。そんな日々を想像するだけでぞっとする。美人からの罵倒を「ご褒美です!」と言えるような鋼の精神なぞ、一般人である自分は持ち合わせていないのだ。

 

 

 希望者だけだったはずの適性検査が強制的に行われるようになってしまっている現状を鑑みれば、戦況は相当追い詰められているはずだ。現に日本近海まで深海棲艦は姿を現している。ゲーム的表現をすれば1-1のクリアで止まっているようなものだ。そのくせ国外にも鎮守府があるから、少ない戦力が分散してしまい本土の守りが薄くなっている。さらに駆逐級如きを倒しただけで新聞の一面を飾るとか、これからの未来に不安しか覚えない。この上に存在するであろう「姫」とか「鬼」を倒さなければ世界に平和は訪れないのだ。

 

 

 

 今いる提督諸兄にはそれはもう、命がけで頑張って欲しい。俺が提督などというクソみたいな仕事に就かなくても良いようにと思っていたのだが――

 

 

 

「○○○○番、お入りください」

「はい、失礼します」

 

 

 ああ……やはり、この世界はくそである。ぐしゃりと持っていた真っ赤な通知書が手の中で潰れた。真っ青な顔をした前の受験者をしり目に、愛想笑いすら浮かべる気力もなく惰性で扉を開く。視線の先には髭を蓄えた如何にも軍人という男性と気の弱そうな眼鏡をかけた青年、そして……いつも画面越しに見ていた彼女。

 

 ゲーム内では課金アイテムであった指輪を送る程度には育てていた相手。セーラー服とポニーテールに結ばれた長く伸ばされた薄いピンク色の髪。優しく笑みを浮かべこちらを見る彼女――長良型軽巡洋艦4番艦の由良並べられた椅子を通り抜け、俺の目の前まで来るとその右手を差し出していた。

 

「艦娘の由良です。今日はよろしくお願いします。ねっ」

「……よろしくお願いします」

 

 およそ武器を握っているとは思えないほど柔らかな手。その感触に考えないようにしていた感情が湧き上がる。

 

(彼女もこの戦況が続くなら何れ沈むのかもしれない……)

 

 そこではっと思い留まる。提督になるなど間違いなく人生の破滅へまっしぐらだ。例え非情といわれようとも俺はもう第二の人生までブラックな職場はお断りである。今世は楽に生きると決めた。

 

 

 故に俺はこの適性検査に受かるわけにはいかないのだ、絶対に!

 

 

 

 

 

「君、突然だけどここにいるものを見えるかね?」

「…………!!」

 

 由良の手の中でびしっと敬礼をする小人と視線が合う。コンマ一秒で視線を外すと俺は過去最高に清々しい笑顔を浮かべ、口を開いた。

 

 

「何も見えませんね、何も。ええ、全く」

 

 

 俺は絶対に見てないのだ。見てないったら、見てない。死んでも見てない。視線など合わなかった。

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