ありふれた職業と転生者の願い事が世界最強   作:愛川蓮

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召喚~故に始まり~


第1話

「っ、うう……!」

 光が収まったあと……チカチカする眼が次第に治り、周りを見渡すと……そこはまるで『中世のお城の様な場所だった』。

 

「(ああ、始まっちゃったんだね……)」

 僕は少し興奮し、それに悲しくなりそうになりながらもハジメ兄たちを探すと……

 

「あいたぁ!? 継、踏んでる! 僕の手を踏んでるから!」

「ああ!? ご、ごめんハジメ兄!」

「……ほら、手を出せ」

 僕が踏んでしまったハジメ兄の手を雪姉が手に持っていた『ドクターフルボトル』を振ってから押し付けるとハジメ兄の手にはっきりとついていた僕の靴の痕が消えていった。

 

「いてて……ありがとう、雪兎……」

「別に、良い……その、私はハジメの恋人だからな」

 ……何か、甘い雰囲気になってるけどそうしている間に他のみんなが目を擦ったり、起き上がりながら周りを見渡す。

 

 ……さっきは気が付かなかったけど、僕達の周りにはローブを着た集団とその護衛の騎士達がいた。

 まあ、護衛がいるのはイレギュラーじゃないね。(そもそも万が一勇者が非協力的だったり、敵対的だった場合の備えをしない方が不自然だし)

 

「勇者様、そしてご同胞方……ようこそ、『トータス』へ。私は聖教教会にて教皇の地位に就いております『イシュタル・ランゴバルド』と申す。歓迎……」

「誘拐犯はお前達か……全員構えろ!」

「キバット!」

「キバッて行くぜ!」

 次の瞬間、自己紹介をしていたイシュタル達に対して雪姉の冷徹な声と共にハジメ兄、天之河先輩、龍太郎が『スクラッシュドライバー』を、雪姉が『ビルドドライバー』を腰に装備して、制服のポケットからハジメ兄が『クロコダイルクラックフルボトル』、天之河先輩と龍太郎が『ドラゴンスクラッシュゼリー』と『ロボットスクラッシュゼリー』……それから『ビルド本編ではでは見たこともないスイッチ』を、雪姉が『ハザードトリガー』と『フルフルラビットタンクボトル』を取りだす。

 清水先輩は『トランスチームガン』、『コブラフルボトル』と一緒に『ジャコーダー』を取り出して腰に巻き付いていた『サガーク』に装填する。

 そして雫先輩の掌に『キバットバットⅢ世』が噛み付いて、雫先輩の腰にベルトが現れるとそれにキバットを装着する。

 

 ……って、ちょっと待って!? なんで清水先輩がサガークと一緒にいるの!?

 

「「「「「「変し……」」」」」」

 「変し……」

「だ……」

「ストップ! ストーップっすよ!」

 仮面ライダー系列に共通するキーワードを言おうとしたハジメ兄達に慌てて愛ちゃん先生が声をかけようとして……僕の同類(転生者)の一人がそれを遮って押し止めた。

 ……愛ちゃん先生涙目になってるよ。

 

「……何の真似だ?」

「いきなり暴力で解決しようとしちゃダメっすよ! そんな真似をしてみんなが帰れなくなったらどう責任をとるつもりっすか!?」

「う……」

 雪姉が苛立ちを露にしながら『彼女(同類)』をにらむけど……言われたことに渋い顔になる。

 まあ、いきなり此処に連れてこられて苛立つ気持ちや誘拐されたから怒る気持ちはわかるけどね……

 

「……彼女の、『山宮(やまみや)』さんの言う通りだ。いきなりだったからつい臨戦態勢に入ってしまったけど、俺達は『今は』話を聞くべきだ」

「……それもそうだな」

 彼女の言葉を聞いた天之河先輩がスクラッシュゼリーをポケットに仕舞い、雪姉も渋々とハザードトリガーとフルフルラビットタンクボトルを仕舞うと、他の皆もフルボトルや変身道具を仕舞う。

 

 ……あ、さっきは気が付かなかったけど遠藤先輩が『イクサナックル』と『イクサベルト』を装備してた。

 

…………………………

 

 此処からは僕『南雲ハジメ』視点でお送りするよ。

 

 僕達はあれからイシュタルさん達に連れられて、十メートル以上はありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に来ていた。

 

 此処に連れてこられるまでに注意深く神殿(だと思われる)場所を見ていたんだけど……豪華な神殿(仮)だなぁ……

 

 因みに席順は畑中先生と天之河君達四人組が僕達の中で一番上座に近い場所に座り、後は取り巻き順で僕、雪兎、幸利、遠藤君の四人は最後方に座っている。(因みに継や偶々クラスを訪れていてこの異世界召喚に巻き込まれた子達はテーブルの真ん中辺りに座っている)

 

 此処に来るまで(僕達7人以外)に誰も騒がなかったのは……多分、僕達以外で誰もこの事態を現実として認識しきれていないのとイシュタルさんが事情を説明すると言ったこと、カリスマレベルが高い天之河君が落ち着かせた事も原因の1つだろう。

 

 ……教師よりも教師らしい天之河君に畑中先生はまた涙目になったんだったけど。

 

 それからお話の中でしか見たことがない美女、美少女のメイドさん達を見て天之河君や坂上君、僕、幸利や遠藤君を除いた男子が全員欲望と探求心(笑)でメイドさん達を凝視しているせいで女子からの視線は氷河期もかくやの冷たいものになってるんだけどね……

 

「……畑中、どうしたんだ? 急に押し黙って?」

 僕がそんなことを思い出していると、難しい顔の雪兎に遠藤君が話しかける。

 

「……ん? ああ、遠藤か……ハジメ、クラックフルボトルを振ってみたか?」

「……その様子だと雪兎も気付いていたみたいだね」

「……もしかしてハジメ達もか? 俺もサガークと念話をして気付いたんだけど、どういう訳かトランスチームガンやボトルでの『並列変身』が出来なくなってるみたいなんだ」

「……ああ、私も各種フルボトルや『スパークリング』、『フルフルフルボトル』、果ては『ハザードトリガー』も試してみたんだが……『ベストマッチ形態(フォーム)』用のしか『音が出なかった』」

 僕らの持っているボトル……フルボトルは振ると音が出るんだけど、その音が出なかったって事は……

 

「何らかの要因で使えなくなった可能性が高いな……まぁ、変身前に気付けて良かったが」

 ……いらない恥をかかなくても良くなったもんね。

 

「……まぁな。天之河達にもこの事を伝えておく。恐らく八重樫は『黄金の鎧』……下手をすれば『武装魔獣(アームズーモンスター)』も使用不能になっている可能性もある」

 因みに八重樫さんが取り出したキバットは『喋るし自分で考えて行動も出来る最新型の超高性能ロボット』ということで話が落ち着いた。

 ……キバット本人はこの言い訳に反対していたんだけどね。

 

「と、考え込んでいる間に話が始まるみたいだな」

「……そうだね」

 僕達はイシュタルさんが話そうとしている事を聞こうと全神経を集中させた。

 

…………………………

 

 結論から言うとイシュタルさんの話はこんな感じだ。

 

 この世界……『トータス』には3つの種族がいてそれぞれ『人間族』、『魔人族』、『亜人族』に別れていて、人間族と魔人族は長い間戦争をしているらしい(亜人族は樹海で両方からひっそりと隠れて暮らしているみたいだ。……ケモ耳娘を見たかった)。

 魔人族は人間族に比べて力は強いんだけど数が少ないから戦力は拮抗していて今は休戦状態みたいなんだけど……近年その拮抗状態を壊しかねない事態が起こっているんだって。

 それが魔人族による『魔物』の使役。魔物って言うのはファンタジー物の作品で良くいるモンスターの事で、此処では魔力によって変異した動物の通称みたいなものなんだって。固有魔法を使えるから非常に危険なんだけど……本能のままに生きる魔物を制御できるのはせいぜい一匹か二匹位だったんだって。それで人間族の『数』っていうアドバンテージがひっくり返されたから『エヒト神』っていう人間族の守護神が僕達を召喚したんだって。

 

 話を聞いて僕達は(多分天之河君達(白崎さんを除く)も)こう思った。

 

「「「「「「「(う、胡散臭い……)」」」」」」」

 

「貴方達もこの世界に来て体の調子が上がったと思いませんかな? これはエヒト様の御加護によるものです。どうか魔人族を打倒し、我ら人間族を救って頂きたい」

 僕らが胡散臭いと思っているのを知ってか知らずかイシュタルさんが頭を下げる。

 

「……ただの誘拐じゃないか。それも役にもたたん神を使ったな」

「っし!」

 僕が苛立ち混じりの発言をした雪兎の口を慌てて塞ぐ。そりゃまあ、僕も同じことを思ったけどね!? なんで堂々と言うのかな雪兎は!?

 

「ふ、ふざけないでください! 結局はこの子達に戦争をさせようって話じゃないですか! そんなのは許しませんよ! ええ、許しませんとも! 早く私達を帰してください!」

「……それは無理です」

「……え?」

 畑中先生が僕達への理不尽な召喚理由に立ち上がりながら抗議するが(生徒達はその様子にほんわかしながら微笑んでいた)……それから続くイシュタルさんの言葉に僕達は更にエヒト神やイシュタルさん達への疑いを強くした。

 

「お気持ちは察しますが現時点での帰還は不可能です」

「……どうしてですか? 召喚の術式があるなら、それを還す術式もなければおかしいはずですが……?」

 イシュタルさんの言葉に八重樫さんが疑問を返す。……そうなんだよね。召喚の方法があるならそれとセットで還すための方法がないとおかしいんだよね。

 

「先程も言ったようにあなた方を喚んだのはエヒト様です。我々に異世界に干渉する術は扱えませんからな。あなた方を還すのもエヒト様の御意志次第……ということです」

 ……要するに帰るためにはエヒト神の意思のままに戦えって言ってるようなもんだよね、これ。

 

 イシュタルさんの言葉で漸く事態を把握した生徒達が騒ぎ始めるけど……

 

「……皆、聴いてくれ!」

 天之河君、ナイス!

 

「『今は』、イシュタルさん達を責めても仕方がない! だけど相手は魔『人』族! 人と戦うかもしれないんだ、みんなが不安がるのも無理はない……」

 天之河君がみんなに語りかけるように話始める。……『今は』ってことはしかるべき時に責め立てるって事だね。

 

「だけど、此処で俺達が戦うのを断ったらまた俺達の世界で同じこと(異世界召喚)が起きるかもしれない……俺は、そんなのは嫌だ! だから……」

 天之河君はちょっと迷うような素振りを見せながら言葉を紡いでいく。

 多分、春から夏にかけて(八重樫さんには去年の春から)起こった八重樫さんに半分入っている『ファンガイア』の血に関係する騒動で自分が言った言葉のせいで死んだ(二人が恋人になる切っ掛けの歴史改変(死の元凶の死亡)の影響で死ななかったんだけどね……瀕死の重症にはなったけど)『鈴木(すずき)深央(みお)』さんの事が頭に残っているんだろうな……

 

「だから、戦うしかないんだ! 皆、俺に力を貸してくれ!」

「だ、ダメですよ~!?」

 天之河君の言葉に畑中先生が慌てて止めようとするけど……生徒達からあがった歓声で聞こえていないんだろうなぁ……

 

「正義感と口先だけが取り柄の能無しが! 他人を巻き込むんじゃ……」

「勿論、戦いたくない人は戦わなくても良い! 最悪、俺一人でも戦う!」

「何!?(馬鹿な!? 何で天之河(噛ませ犬)が他人を気遣えるんだ!?)」

 隣のクラスで、矢鱈と天之河君を目の敵にしている『黒影(くろかげ)星光(せいこう)』が『昔の』天之河君の事を言ってたけど……どうして今の天之河君を見ていないんだろう?

 

「おいおい……光輝、俺がお前を一人で戦わせるわけないだろう?」

「私もよ。恋人を孤立無援で戦わせるわけないでしょう? それに、まだ答えも言ってないんだもの。帰らなきゃいけないのよ」

「雫、龍太郎……」

「わ、私も戦うよ! それから雫ちゃん……何か物凄いこと言わなかった!?」

「……あ」

「「……馬鹿な!?」」

「……嘘、でしょ?」

「ま、マジっすかぁ!?」

「あらあら~おめでと~!」

 ……八重樫さん……君の『自称義妹軍団(ソウルシスターズ)』から騒がれたくないって理由で天之河君と恋人になったことを隠してたのに……何で、今言っちゃうのかな?

 

 まあ、天之河君と八重樫さんの関係がわかったことで騒然となったけど中心人物である彼らが参戦を表明したことでクラスは魔人族との戦争に加わることが確定となった。(幸利、遠藤君、雪兎も参戦を表明したよ)

 勿論、性格的に戦えない人とかは天之河君にそう言って後方支援要員になったけどね(纏め役は畑中先生)。

 

 

「……ハジメ兄、ハジメ兄はどうするの?」

「僕? 僕は……帰る方法を探すために戦おうかなって思ってる」

「……そっか」

 気掛かりなのは此処に来てから継の元気がないって事と……

 

「……」

 この世界に来てから妙に苛立っている雪兎の事なんだよね……後で話し合ってみようかな。




次回

ステータスプレート~からの紹介『転生者』~

ハジメ「……これが僕のステータス?」
雪兎「……私も同じくらい酷いがな」

檜山「本当にお前らはお似合いだよ無能コンビ!」

継「……『ありふれた職業で世界最強』、『転生者』」
???「……何かしらそれ?」
???×5「!?」

……お楽しみに。

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