私が2012年の秋に頒布した、東方二次創作小説の同人誌「不可侵少女の心の扉」がBOOK☆WALKERとニコニコ書籍の公認プラットフォーム「東方電書流通」で電子書籍として販売されることになりました!
販売ページはこちら↓
https://bookwalker.jp/deca7798fe-3620-472e-9812-aaa46c18bd29/
自称・正統派マリアリ(マリ→アリ)本です。当時は若く、黒歴史も多々残していますが、それも含めての本なので本文についてはそっくりそのまま電子書籍にしてあります(WordからInDesignに組み直したりと若干手を加えてはいますが)。
現在連載中の「里守の刃」は、この「不可侵少女の心の扉」と同一世界観を引き継いでいます。とはいえ本筋に深く絡むことはないので、読んでいると「あ、この展開はあの本から来ているんだな!」と気づいてちょっぴり嬉しくなる程度です。ご安心ください。
また、「東方電書流通」では他の東方サークル様が過去に頒布した同人誌が続々と電子書籍化されてきています。再版コストや在庫リスクがあって再版が難しかったあの本やあの本が今後どんどん増えてくるはずです。せっかくの機会ですし、今のうちにアカウントだけでも作成して無料サンプルを読みあさってみるのも一興ですよ。ふふふ……。
前置きが長くなりましたが、ようやく本編連載再開です!
里守とは、犯罪者を人間の里から隔離するために設けられた役目である。だとすれば、親父から里守の役目を継いだ俺が里から「犯罪者の息子」という目で見られることも当然のことなんだろう。
里の人間を襲った大型獣の脅威と、犯罪者であった親父がそれを倒す力を持っていたこと。偶然にしては出来すぎた流れだが、もちろんこれは偶然などではない。親父は大型獣を倒すために刀を取り、鍛錬を重ねて力を得た。里を大型獣の脅威から守り、里に対する罪滅ぼしのために。そしてなにより、最愛の人を奪った怨敵を己の手で屠るために。
死の間際に託された親父の愛刀――楼聞剣には、里に対する罪滅ぼしを達成できなかった親父の無念が込められている。俺は、里守という役目と親父の想いを継いで里への罪滅ぼしを完遂することができるだろうか。
「おーい、里守の!」
「ん?」
親父が死んでから、いつの間にか一週間が経過していた。この一週間ずっとそうしてきたように、畑の野菜を仲介業者に卸してから日課の素振りをしていたところを、激しい駆け足の音とともに呼びかけられる。
「どうしました?」
「里に不審な人間がうろついていて……見た目は若い女なんだが、洋風の出で立ちに刀を帯びていて、おそらく妖怪の類じゃねえかって……」
「妖怪……?」
ここまで全力疾走だったのか、その男は息を切らせながらも早口で説明していく。こうも必死に走ってくるとは、その若い女とやらはよほど不審だったんだろう。
「わかりました、すぐに向かいます。その場所までご案内いただいても?」
「お、おう。こっちだ、里守の」
「お願いします」
疲れているにも関わらず、男はすぐに身をひるがえして先を急ぐ。それは現状がのっぴきならない状況だからか、それとも、「里守の」と長く関わりたくないからか――などと邪推する自分を戒めて、俺はその男の後を追った。
「おかしい……」
人間の里を歩く魂魄妖夢は首をひねっていた。
里の様子を探るために足を運んだものの、里は静まり返っており活気のかけらもない。それに、里に入ってからずっと誰かしらの視線を――それもひとつではなく複数感じていた。
(警戒されている? でも、どうして?)
里に見知った妖怪がたびたび足を踏み入れていることを、妖夢は宴の席で何度となく耳にしていた。だからこそ、自身が里に――変装もせず、二刀を帯びたまま――入ることに、なにか問題があると考えてはいなかったのだ。
とはいえ、こうも警戒されていては当初の目的――人里で強い輝きを持った霊が生まれ得た原因調査の任務を果たしようがない。妖夢はしばしその場で考えたのち、諦めて里を出ようと方向転換して――
「失礼。今少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
そこに歩み寄ってきたひとりの青年に、声をかけられた。
その人は、確かに見たことのない人物だった。
短い銀色の髪に緑基調の洋装、そしてなにより腰と背中に差している二振りの刀が、一般的な里の人間からかけ離れた存在であることを雄弁に物語っている。
里で帯刀する必要のある人間なんて俺……里守くらいのものだ。それ以外の人間が帯刀しているところなんて見たことがないし、そもそも他に刀が存在するのかどうかすら疑わしい。
しかも二刀使いとは……実践したことはないが、簡単に扱えるものでないことは容易に想像がつく。それを使いこなせるのだとすれば、この少女は相当な実力者ということになる。会話するにしても、慎重に言葉を選ばなければ最悪斬って落とされる恐れすらあるだろう。
「失礼。今少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
などと考えている間に少女がこちらを向いた。俺は軽く会釈をしながら歩み寄り、そう話しかける。
「え、ええ。構いませんが」
印象と違わない、涼やかな声が返ってきた。
「私は大神颯治と申します。里守という役目の下、人間の里を妖怪などの脅威から守る仕事を担っています。失礼ながら、あなたは里の人間ではない……でしょうか?」
敵意がないことを示すように両手を開いて、断定することなく問いかける。
「そ、そうですね。私は魂魄妖夢。おっしゃる通り、里の人間ではありません」
予想外の返答だった。警戒されるとか、いきなり刀を抜かれることすら覚悟していたので、当然と言わんばかりの返答に俺は呆けた声が漏れるのを我慢することしかできない。
「そう、ですか。よろしければ訪問の理由など伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」
「い、いえ、それは……」
魂魄妖夢と名乗った少女はうつむいて言いよどむ。答えられないということは、秘密裏に進めたいなにかがある、ということだろうか。
「訪問の理由が明確でない妖怪を里に入れることはできません。ましてや、立場を隠す気すらないとは……」
「えっ?」
魂魄妖夢が呆けた声を上げる。演技などではなく心底驚いているようで、俺は動揺を隠せない。
「で、でも、他にも里を訪れる妖怪はいると聞いて……」
「それは事実ですが、彼らは里に迷惑をかけないように里の人間に溶け込む努力をしています。服装を変え、笠を被り、武器を隠し……そうして里を訪れ、里を害しないと判断された者を、黙認しているに過ぎないのです。今のあなたはそれを一切行っていない。受け入れる理由はありません」
「ぐ、ぬぬ……!」
魂魄妖夢の表情が苦悶にゆがむ。その手が刀に触れたのを見て、俺もまた自分の刀に意識を向ける。
「落ち着いてください。今ここで私に斬りかかったところで、あなたにはなんの利益もありませんよ」
「それは……わかっている!」
ついに敬語が解け、魂魄妖夢の両目が吊り上がる。
「だけど、私にも果たすべき使命がある。ここで止まるわけにはいかない……!」
「ですから、その使命さえお伝えいただければ対応を検討しますから……」
「断る!」
(ぐ……さて、ここからだ)
取り付く島もない、とはこのことだろう。魂魄妖夢の使命がなにかは知らないが、我を忘れて妖怪の力で襲い掛かられるのはまずい。
だとしたら、どうすればいいか。
案はある。だけど、うまくいく可能性はそう高くない。それでも……今ここで死ぬわけにはいかないから。
「……でしたら、こういうのはいかがでしょうか」
「なに?」
「私とあなたとで、剣の勝負をします。もちろん、本当に斬り殺すのではなく、降参させるか刀を落としたら負け、というルールで。それであなたが勝てば、今後あなたの使命について口を出すことはしません。しかし、私が勝てば使命について話していただきます。いかがでしょう?」
「なんだ、そんなこと。人間風情に負けるつもりはない。その勝負、受けましょう」
(よし、一発で乗ってくれた……!)
問答無用で斬りかかられることや条件交渉されることも考慮していたので、最悪の展開は免れたと言っていいだろう。ルールにのっとった戦いになる以上、なにかの手違い――加減を誤って斬られるようなことがない限りは勝っても負けても俺が死ぬことはないし、仮に負けたとしてもすぐに里に被害が及ぶこともない。
残る問題はひとつ。俺が魂魄妖夢に勝てるかどうか、だ。負けるつもりで挑むわけではないけれど、彼女が妖怪であることを除いても立ち居振る舞いが洗練されていて格上としか思えない。厳しい戦いになるか、最悪の場合一瞬で負けることだってありえる。
(負けたときの対処も考えてはいるけど、最初から負けを覚悟で挑むのは情けないよなあ)
下手に出ているのも、事前にルールを設定したのも、すべては「戦闘に勝てなかった場合の予防線」であり、「負けても最低限の命は保証されている」ことと混同するのは間違っている。後者は里守の使命を果たすために。そして前者は……剣士としての矜持を示すために。
「ありがとうございます。では、こちらへ」
魂魄妖夢を先導し、里の外へと連れ出す。久しぶりの対人戦に、恐怖心と同じくらいに胸の高鳴りを感じながら。
そのやりとりの一部始終を、大きな籠を背負ったひとりの少女が見ていたとも知らずに。
次回更新は一週間後です。多分。