とある風紀委員の日常   作:にしんそば

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第27話

 

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 ―――――

 

 

 

 ―――――――

 

 

 

 ―――――――――

 

 

 

 

 

 Q.柵川(さくかわ)中学で最も優秀な人は誰ですか?

 

「……優秀の意味によるけど、やっぱ前原じゃないか?」

「俺はハラショーに1票だにゃー」

「ハラショーやろなぁ。多分みんなそう言うと思うで」

「前原将貴。最初に浮かんだのは彼ね」

 

 

 

 

 

 Q.風紀委員(ジャッジメント)で最も優秀な人は誰ですか?

 

「他は知らないが、個人的には前原だと思うぞ」

「態度や姿勢を見るなら前原だな。警備員(アンチスキル)からの信頼も厚い」

「前原君、と言いたいわね。()()()という意味では彼が1番よ」

177支部(ウチ)に限定すれば前原君でしょうね」

「1番骨があるのは前原だな。あいつはいつか大成するじゃんよ」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「んー……」

 

 7月15日。第七学区南部。

 スタンダードな外見のとある中学校で、セーラー服を着た中村涼乃は呟いた。

 学校の授業が終わり、風紀委員も今日は休みであるため、自然と気の抜けてしまったようだ。

 

「あ、涼乃。ちょといい?」

「んー?あ、フッキー」

 

 軽く伸びをしていると、扉の方から聞き慣れた声が聞こえてくる。

 見ると、黒くて長い髪を耳に引っ掛けるように分けて、おでこを出した気の強そうな少女、吹寄(ふきよせ)制理(せいり)が立っていた。

 普段からよく話す、私の親友だ。

 

「どうしたの?一緒に帰る?」

「ううん、涼乃って前原の家分かる?」

「将貴君の家?」

「なんやフッキー。ハラショーの家行きたいんか?」

 

 同僚の少年の顔を脳裏に浮かべていると、フッキーの後ろにいた少年がそれを遮った。ピアスを開けた青髪の少年は、どこか変な関西弁だった。

 

「ほー、あの吹寄が前原の家に行きたいとは……こりゃあ事件だぞ」

「せやなー。いきなり家に電撃戦を仕掛けるとは、さすがフッキーやで。真似できひんわ」

「こりゃすげぇサプライズだにゃー。きっとハラショーもびっくりするぜぃ」

「殴るわよ」

 

 青髪ピアス君の近くいた2人――上条君と土御門君も会話に加わり、フッキーとコントのようなやりとりが始まる。

 見ていて面白いが、いつ終わるかも分からないし、このまま放っておく訳にもいかない。とりあえず帰りながら話すとしよう。

 

「それでフッキー、どうして将貴君の家に?」

「えっとね、ちょっと届けたい物があったのよ」

「届けたい物?」

「これよ」

 

 フッキーが立ち止まり、肩に掛けた鞄から2つ折りの紙を取り出した。その表紙には、

 『一学期 期末テスト   前原将貴』

 と書かれている。

 

「期末テストの個票?それ将貴君の?」

「うん。クラスが同じで仲良いからって頼まれたの。一応クラス委員だしね」

「なるほど……え?ちょっと待って。将貴君、今日休みなの?」

「ええ」

 

 フッキーの肯定に、私も、後ろを歩いていた上条君達も揃って目を丸くした。

 それくらい予想外な事なのだ。将貴君が学校を休む、とは。

 

「前原が休み?珍しいこともあるもんだな」

「風邪でもひいたんじゃないかにゃー」

「こりゃ明日は雪降るで。防寒具出しとかな」

「あなた達が言うと、なんかバカにしてるように聞こえるわね」

「あはは……」

 

 乾いた笑みを浮かべながら、私も同僚の少年の事を思い浮かべる。

 

 将貴君が休み、というのは本当に珍しい。

 同じクラスじゃないので、学校の事は知らない。しかし、少なくとも訓練や仕事を休んだことは一度も無い、気がする。風邪でもひいたのだろうか。

 

「まぁいいわ。とにかく、前原は今日休みなのよ。何か聞いてない?」

「うーん、聞いてないなぁ。返信もないし」

「そう……」

 

 残念そうに呟くフッキーを横目に、私は視線を空に移した。

 人が考え事をする時、無意識に目を瞑ったり上を向いたりするのは、外界からの情報を限定することで、集中力を高めるため、とか何とか。

 ちなみに、将貴君が考える時は、右手を口元に持っていく癖がある。3年も一緒に働いていれば、それくらいは分かるというものだ。

 

「ホントだ。ケータイも出ねぇじゃん」

「風邪で寝とるんかなぁ。それか電源切っとんのかも」

「だとしても連絡もしないなんて考えにくいけどにゃー」

 

 その通りだ。

 先生の理想を体現したような優等生である将貴君が、先生に連絡もせず休む、というのは変だ。

 それに、普段の電話やメールだってすぐ返してくれる。

 

 ……もしや、何らかの事件に巻き込まれたのだろうか。

 

「気分はもう夏休みで、ただのサボりかもしれへんで?」

「貴様らじゃあるまいし、前原に限ってそれはないでしょ」

「それもそうか。あのハラショーやもんなぁ」

「だよなー。ならマジで何でだ……?」

 

 5人揃って首を捻るが、答えなんて分かるはずもない。いま出来る事と言えば、心配が杞憂であることを願うことぐらいだ。

 

「とりあえず、後で先輩達に連絡してみるね。何か知ってるかもしれないし」

「ありがとね。それと、涼乃は前原の家って知ってる?良かったら今から行きたいのだけど」

「フッキーフッキー、なら俺らが代わりに届けたんで?今カミやん家行くとこやし」

「貴様らに渡すと勝手に見るでしょう。却下よ」

 

 結局、上条君の『みんなで行きゃいいんじゃねーの?』という提案に決まり、5人で将貴君の家を訪問することになった。

 上条君と土御門君は、将貴君のご近所さんのようで、昔からよく遊んだりしていたそうだ。

 

「それにしても、フッキーはそんなにハラショーのことが心配なんやねえ」

「おいおい、口出しは野暮だぜい。フッキーもそーゆーお年頃なんだにゃー」

「ほほー、遂に吹寄にも春が──あ、いや待ってごめんなさいすんません」

 

 笑いながら指を鳴らし始めたフッキーに、男3人が揃って顔を青くした。

 わぁすごい。フッキーって番長さんか何かなの?普通に良い子なんだけどなぁ。

 ――なんてことを思いつつ、別の話題を振ってみる。

 

「でも、学校も変な事するよね。個票なんて、次に来た時渡せばいいのに」

「そうね。まあもうすぐ夏休みだし、通知表の前に渡さないといけないんじゃない?」

「成績かー。今回はどうかなぁ」

 

 そう言いながら、先程のことを思い出し、つい口元が緩んでしまう。成績の話題にしては珍しいその反応に、フッキーが首を傾げた。

 ちなみに、上条君達は後ろの方で頭を抱えているのが見える。今回も補習なのかな?

 

「嬉しそうね。何かあった?」

「あったよ!ほら見てこれ!」

 

 一瞬立ち止まり、私はスクールバッグから2つ折りの紙を取り出した。私の期末テストの個票だ。

 私はそれを見せつけるように開いた。そこにはこう書かれている。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 3年3組26番 中村 涼乃

 

 総合点:467点/500点

 学年順位:4位/204人

 

 能力名:空間移動(テレポート)

 最大移動距離:75 .3m

 最大移動質量:112.7kg

 連続使用回数:37回/min

 精度:A

 総合評価――――5/5

 

 判定:大能力者(レベル4)

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

「…………え?大能力者(レベル4)!?」

「うわマジだ!中村すげぇ!!」

「えへへー、遂に大能力者(レベル4)になったんだー」

 

 顔を綻ばせ、私は誇るようにそう言った。

 自慢と言われても仕方ないが、それくらい嬉しいのも事実なのだ。これを渡された時も、思わず教室で大喜びしちゃったし。

 

「すごいわね。まさかうちの学校から大能力者(レベル4)が出るなんて思わなかったわ」

「それもレア中のレア、空間移動やで。こりゃあこれから引っ張りだこになるやろなぁ」

「中村って普通に可愛いからなー。風紀委員の広告塔とかになるんじゃねーか?」

「カミやんコラ。ナチュラルに口説いてんじゃねーぞウニ野郎」

 

 何故か喧嘩を始めた土御門君達を横目に、私はいそいそと個票を仕舞った。

 

 ……私、可愛い……かな?面と向かって言われたのは、随分と久しぶりなんだけど……ちょっと恥ずかしい。

 

「おめでとう涼乃。良かったわね」

「ありがとね、フッキー」

「うん。あと、1つ言っておきたいのだけど」

「なに?」

「能力の事、前原にはあまり言わないようにね?」

 

 フッキーが寂しそうに眉を歪め、そう告げた。

 

 ……?大っぴらに宣伝する気は無いけど、何で将貴君だけ……なにかあったっけ?

 

「……なにかと理由付けても、結局はハラショーの事が心配で心配で仕方がないフッキー、マジツンデr――」

「ふんっ!!」

 

 言葉の真意を理解する前に、ゴドンッ!!と、鈍い音が響いた。

 フッキーが勢い良く振り返り、遠心力を上乗せした右ストレートを、土御門君のお腹に叩き込んだのだ。受けた土御門君は芸術的なほどに膝から崩れ落ち、ものの数秒で屍と化した。

 

 最初は慌てたこの光景も、今ではすっかり日常の一部だ。慣れって怖い。

 

「ほら、遊んでないで早く行こ?」

「りょーかーい」

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 十数分後、私達は将貴君の下宿先に到着した。表札のプレートには『前原』と書かれている。隣には『土御門』、さらに隣には『上条』と続いていた。

 近所とは聞いていたけど、本当にすぐ隣だったんだ。

 

「ここなんだ」

「フッキー、これからはいつでも来てええよ?ハラショーも喜ぶで?」

「……機会があったらね」

 

 心做しか嬉しそうに見えるフッキーが、鞄から個票を取り出した。

 インターホンを押すが、返事は無い。

 

「前原ー?いないのー?」

「将貴くーん?」

「おーいハラショー!っあー、Х орошо(ハラショー)*1!!」

 

 青髪ピアス君が謎に良い発音で呼んでも、返事はない。留守なのだろうか。

 だとしたら、こうして騒いでいるのは近所迷惑だろう。隣は土御門君の家だけども。

 

「……いないのかな?」

「んー……みたいね。とりあえず、個票だけ入れとくわ」

「残念だったなーフッキー。お家デートは次にお預けだにゃー」

 

 扉に備え付けてあった郵便受けに、フッキーが個票を入れた――その体勢のまま止まる。

 もしや、将貴君とデートしてる所でも想像したのだろうか。油断したね。

 

「……で、デート!?そんなんじゃないわよ!」

「おっ、吹寄のデレが遂に……!?」

「よく言うやろ。冬が長ければ長いほど、春はありがたいものになると……!!」

「だから違うって……あーもう涼乃!どっか遊びに行くわよ!!」

 

 私の手を引いて退散するフッキーを、上条君達は心底楽しそうに見送った。

 うん。横から見ても分かるけど、フッキー、顔真っ赤だよ?

 

「フッキーって面白いよねぇ」

「涼乃?違うからね?勘違いしないでね!?」

「うんうん。分かってまーす」

「絶対分かってない!!」

 

 将貴君は本当に良い人だし、フッキーならお似合いだろう。並んで歩いていたら、ある意味嫉妬してしまうかも…………ん、どういう意味?

 

「……?」

 

 楽しげに話す声が、真夏の街並みに溶けていく。

 やがて男3人も帰宅し、静かになった廊下に、一陣の風が吹き抜けた。その一部が郵便受けに入り込み、投函された個票をカサリと揺らす。

 

 そこにはこう書かれていた。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 3年2組31番 前原 将貴

 

 総合点:451点/500点

 学年順位:6位/204人

 

 ――――――――――――――――――――

 

 能力名:なし(測定不能)

 総合評価───0/5

 

 判定:無能力者(レベル0)

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
「素晴らしい」「了解した」の意味を持つロシア語。

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