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Q.
「……優秀の意味によるけど、やっぱ前原じゃないか?」
「俺はハラショーに1票だにゃー」
「ハラショーやろなぁ。多分みんなそう言うと思うで」
「前原将貴。最初に浮かんだのは彼ね」
Q.
「他は知らないが、個人的には前原だと思うぞ」
「態度や姿勢を見るなら前原だな。
「前原君、と言いたいわね。
「
「1番骨があるのは前原だな。あいつはいつか大成するじゃんよ」
*
「んー……」
7月15日。第七学区南部。
スタンダードな外見のとある中学校で、セーラー服を着た中村涼乃は呟いた。
学校の授業が終わり、風紀委員も今日は休みであるため、自然と気の抜けてしまったようだ。
「あ、涼乃。ちょといい?」
「んー?あ、フッキー」
軽く伸びをしていると、扉の方から聞き慣れた声が聞こえてくる。
見ると、黒くて長い髪を耳に引っ掛けるように分けて、おでこを出した気の強そうな少女、
普段からよく話す、私の親友だ。
「どうしたの?一緒に帰る?」
「ううん、涼乃って前原の家分かる?」
「将貴君の家?」
「なんやフッキー。ハラショーの家行きたいんか?」
同僚の少年の顔を脳裏に浮かべていると、フッキーの後ろにいた少年がそれを遮った。ピアスを開けた青髪の少年は、どこか変な関西弁だった。
「ほー、あの吹寄が前原の家に行きたいとは……こりゃあ事件だぞ」
「せやなー。いきなり家に電撃戦を仕掛けるとは、さすがフッキーやで。真似できひんわ」
「こりゃすげぇサプライズだにゃー。きっとハラショーもびっくりするぜぃ」
「殴るわよ」
青髪ピアス君の近くいた2人――上条君と土御門君も会話に加わり、フッキーとコントのようなやりとりが始まる。
見ていて面白いが、いつ終わるかも分からないし、このまま放っておく訳にもいかない。とりあえず帰りながら話すとしよう。
「それでフッキー、どうして将貴君の家に?」
「えっとね、ちょっと届けたい物があったのよ」
「届けたい物?」
「これよ」
フッキーが立ち止まり、肩に掛けた鞄から2つ折りの紙を取り出した。その表紙には、
『一学期 期末テスト 前原将貴』
と書かれている。
「期末テストの個票?それ将貴君の?」
「うん。クラスが同じで仲良いからって頼まれたの。一応クラス委員だしね」
「なるほど……え?ちょっと待って。将貴君、今日休みなの?」
「ええ」
フッキーの肯定に、私も、後ろを歩いていた上条君達も揃って目を丸くした。
それくらい予想外な事なのだ。将貴君が学校を休む、とは。
「前原が休み?珍しいこともあるもんだな」
「風邪でもひいたんじゃないかにゃー」
「こりゃ明日は雪降るで。防寒具出しとかな」
「あなた達が言うと、なんかバカにしてるように聞こえるわね」
「あはは……」
乾いた笑みを浮かべながら、私も同僚の少年の事を思い浮かべる。
将貴君が休み、というのは本当に珍しい。
同じクラスじゃないので、学校の事は知らない。しかし、少なくとも訓練や仕事を休んだことは一度も無い、気がする。風邪でもひいたのだろうか。
「まぁいいわ。とにかく、前原は今日休みなのよ。何か聞いてない?」
「うーん、聞いてないなぁ。返信もないし」
「そう……」
残念そうに呟くフッキーを横目に、私は視線を空に移した。
人が考え事をする時、無意識に目を瞑ったり上を向いたりするのは、外界からの情報を限定することで、集中力を高めるため、とか何とか。
ちなみに、将貴君が考える時は、右手を口元に持っていく癖がある。3年も一緒に働いていれば、それくらいは分かるというものだ。
「ホントだ。ケータイも出ねぇじゃん」
「風邪で寝とるんかなぁ。それか電源切っとんのかも」
「だとしても連絡もしないなんて考えにくいけどにゃー」
その通りだ。
先生の理想を体現したような優等生である将貴君が、先生に連絡もせず休む、というのは変だ。
それに、普段の電話やメールだってすぐ返してくれる。
……もしや、何らかの事件に巻き込まれたのだろうか。
「気分はもう夏休みで、ただのサボりかもしれへんで?」
「貴様らじゃあるまいし、前原に限ってそれはないでしょ」
「それもそうか。あのハラショーやもんなぁ」
「だよなー。ならマジで何でだ……?」
5人揃って首を捻るが、答えなんて分かるはずもない。いま出来る事と言えば、心配が杞憂であることを願うことぐらいだ。
「とりあえず、後で先輩達に連絡してみるね。何か知ってるかもしれないし」
「ありがとね。それと、涼乃は前原の家って知ってる?良かったら今から行きたいのだけど」
「フッキーフッキー、なら俺らが代わりに届けたんで?今カミやん家行くとこやし」
「貴様らに渡すと勝手に見るでしょう。却下よ」
結局、上条君の『みんなで行きゃいいんじゃねーの?』という提案に決まり、5人で将貴君の家を訪問することになった。
上条君と土御門君は、将貴君のご近所さんのようで、昔からよく遊んだりしていたそうだ。
「それにしても、フッキーはそんなにハラショーのことが心配なんやねえ」
「おいおい、口出しは野暮だぜい。フッキーもそーゆーお年頃なんだにゃー」
「ほほー、遂に吹寄にも春が──あ、いや待ってごめんなさいすんません」
笑いながら指を鳴らし始めたフッキーに、男3人が揃って顔を青くした。
わぁすごい。フッキーって番長さんか何かなの?普通に良い子なんだけどなぁ。
――なんてことを思いつつ、別の話題を振ってみる。
「でも、学校も変な事するよね。個票なんて、次に来た時渡せばいいのに」
「そうね。まあもうすぐ夏休みだし、通知表の前に渡さないといけないんじゃない?」
「成績かー。今回はどうかなぁ」
そう言いながら、先程のことを思い出し、つい口元が緩んでしまう。成績の話題にしては珍しいその反応に、フッキーが首を傾げた。
ちなみに、上条君達は後ろの方で頭を抱えているのが見える。今回も補習なのかな?
「嬉しそうね。何かあった?」
「あったよ!ほら見てこれ!」
一瞬立ち止まり、私はスクールバッグから2つ折りの紙を取り出した。私の期末テストの個票だ。
私はそれを見せつけるように開いた。そこにはこう書かれている。
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3年3組26番 中村 涼乃
総合点:467点/500点
学年順位:4位/204人
能力名:
最大移動距離:75 .3m
最大移動質量:112.7kg
連続使用回数:37回/min
精度:A
総合評価――――5/5
判定:
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「…………え?
「うわマジだ!中村すげぇ!!」
「えへへー、遂に
顔を綻ばせ、私は誇るようにそう言った。
自慢と言われても仕方ないが、それくらい嬉しいのも事実なのだ。これを渡された時も、思わず教室で大喜びしちゃったし。
「すごいわね。まさかうちの学校から
「それもレア中のレア、空間移動やで。こりゃあこれから引っ張りだこになるやろなぁ」
「中村って普通に可愛いからなー。風紀委員の広告塔とかになるんじゃねーか?」
「カミやんコラ。ナチュラルに口説いてんじゃねーぞウニ野郎」
何故か喧嘩を始めた土御門君達を横目に、私はいそいそと個票を仕舞った。
……私、可愛い……かな?面と向かって言われたのは、随分と久しぶりなんだけど……ちょっと恥ずかしい。
「おめでとう涼乃。良かったわね」
「ありがとね、フッキー」
「うん。あと、1つ言っておきたいのだけど」
「なに?」
「能力の事、前原にはあまり言わないようにね?」
フッキーが寂しそうに眉を歪め、そう告げた。
……?大っぴらに宣伝する気は無いけど、何で将貴君だけ……なにかあったっけ?
「……なにかと理由付けても、結局はハラショーの事が心配で心配で仕方がないフッキー、マジツンデr――」
「ふんっ!!」
言葉の真意を理解する前に、ゴドンッ!!と、鈍い音が響いた。
フッキーが勢い良く振り返り、遠心力を上乗せした右ストレートを、土御門君のお腹に叩き込んだのだ。受けた土御門君は芸術的なほどに膝から崩れ落ち、ものの数秒で屍と化した。
最初は慌てたこの光景も、今ではすっかり日常の一部だ。慣れって怖い。
「ほら、遊んでないで早く行こ?」
「りょーかーい」
〜〜〜
十数分後、私達は将貴君の下宿先に到着した。表札のプレートには『前原』と書かれている。隣には『土御門』、さらに隣には『上条』と続いていた。
近所とは聞いていたけど、本当にすぐ隣だったんだ。
「ここなんだ」
「フッキー、これからはいつでも来てええよ?ハラショーも喜ぶで?」
「……機会があったらね」
心做しか嬉しそうに見えるフッキーが、鞄から個票を取り出した。
インターホンを押すが、返事は無い。
「前原ー?いないのー?」
「将貴くーん?」
「おーいハラショー!っあー、
青髪ピアス君が謎に良い発音で呼んでも、返事はない。留守なのだろうか。
だとしたら、こうして騒いでいるのは近所迷惑だろう。隣は土御門君の家だけども。
「……いないのかな?」
「んー……みたいね。とりあえず、個票だけ入れとくわ」
「残念だったなーフッキー。お家デートは次にお預けだにゃー」
扉に備え付けてあった郵便受けに、フッキーが個票を入れた――その体勢のまま止まる。
もしや、将貴君とデートしてる所でも想像したのだろうか。油断したね。
「……で、デート!?そんなんじゃないわよ!」
「おっ、吹寄のデレが遂に……!?」
「よく言うやろ。冬が長ければ長いほど、春はありがたいものになると……!!」
「だから違うって……あーもう涼乃!どっか遊びに行くわよ!!」
私の手を引いて退散するフッキーを、上条君達は心底楽しそうに見送った。
うん。横から見ても分かるけど、フッキー、顔真っ赤だよ?
「フッキーって面白いよねぇ」
「涼乃?違うからね?勘違いしないでね!?」
「うんうん。分かってまーす」
「絶対分かってない!!」
将貴君は本当に良い人だし、フッキーならお似合いだろう。並んで歩いていたら、ある意味嫉妬してしまうかも…………ん、どういう意味?
「……?」
楽しげに話す声が、真夏の街並みに溶けていく。
やがて男3人も帰宅し、静かになった廊下に、一陣の風が吹き抜けた。その一部が郵便受けに入り込み、投函された個票をカサリと揺らす。
そこにはこう書かれていた。
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3年2組31番 前原 将貴
総合点:451点/500点
学年順位:6位/204人
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能力名:なし(測定不能)
総合評価───0/5
判定:
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