前原将貴は超能力に憧れた。
きっかけは覚えていない。
未知の力に漠然と興味があったのかもしれないし、本に登場する『ヒーロー』に魅力を感じたのかもしれない。
「がくえんとし?にいきたい!!」
そのため、俺が両親にそう言い出すのも、自然なことだったのだろう。
夢物語と思っていた超能力が、実際にこの国で開発、運用されているのだ。これは奇蹟だと確信した俺は、すぐに両親にこう告げた。
「ぼくもちょーのーりょくほしいの!!」
「大丈夫なの?あそこ『頭の開発』とかするじゃなかった?」
「……?でも、のーりょくほしい!!」
「そこまで辿り着けるのはほんの少しだって聞くよ?それでもいいの?」
「いい!!」
俺は癇癪を起こしたように懇願し、両親を困らせ続けた。それが実を成したのか、『したいようにするのが1番良い』という父の一声により、学園都市に行くことが決まった。
この時、俺は幼稚園児だった。
〜〜〜
「おぉ…」
数ヶ月後、俺は学園都市のとある小学校に入学した。
その日の空は、海が浮かんだように青く澄んでいたのを覚えている。
「がくえんとしかぁ……」
「いよいよだね……!」
「ぼくののーりょくってどんなのかなぁ」
小学校に入ってまず思ったのが、自分と同じ人間がたくさんいる、ということだ。
全員が全員、見たこともない
知り合いがいない俺がすぐに馴染めたのも、それがあったからだろう。共通の目的を持った集団は結束しやすいのだ。
そうして迎えた、初めての
全員が全員目を輝かせ、冒険の末に手に入れた宝箱を開くように結果を待った。
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1年1組25番 前原 将貴
能力名:なし(測定不能)
総合評価───0/5
判定:
――――――――――――――――――――――
「うーん、いきなりはムリかぁ……」
「ぼくも
「みんなそーなんだね……」
俺の宝箱に、中身はなかった。
それは周りも同じなのか、落胆の声が聞こえる。
しかし、宝が入っていた者もいた。
「やった!
「おおー!なんののーりょく?」
「えっと、ぱいろきねしす?ってやつ」
「なにそれ?」
「わかんない」
世界で唯一、学園都市だけが使役する技術の結晶。
俺はただそれが欲しかった。
故に、羨ましかった。
宝石が見つかったのなら、後はそれを磨くだけでいい。大きさや質に個人差はあるが、それでも『持たざる者』にとっては、等しく輝いて見えるのだから。
「………」
「………」
「だいじょーぶ!!ぼくたちもなれるよ!!」
そんな中、俺はひたすらに友人を鼓舞していた。
「たくさんたくさんがんばれば、みんなぜったいなれるよ!!」
「……そうだね!!」
「そーだ!もっとがんばろー!」
「おー!」
〜〜〜
努力はしてきたつもりだった。
率先して勉強したし、特に『開発』の時間は誰よりも熱心に取り組んだ。まだ習っていない部分まで教科書を読み進め、理解しようと務めた。
そうして臨んだ、二度目の
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2年3組25番 前原 将貴
能力名:なし(測定不能)
総合評価───0/5
判定:
――――――――――――――――――――
「まだまだこれからだよ!!」
「そーだ!これからだ!」
「いっしょにがんばろう!!」
昨年と同じような結果に、俺も同じように鼓舞した。
志を同じとする友人とも出会い、共に日々を積み重ねた。本当に少しずつ。だけど、いつか届くと信じて。
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3年2組27番 前原 将貴
能力名:なし(測定不能)
総合評価───0/5
判定:
――――――――――――――――――――
学園都市に入って3年目。
「ダメかぁ……」
「うーん……むずかしいね……」
「でも上がってる人もいるじゃん!ぼくたちもぜったいなれるよ!!」
月を掴むなど、無謀どころか夢物語そのものだ。だが、手を出した分だけ、月には近付いている。その手はいつか届くと、信じて疑わなかった。
――――――――――――――――――――
4年3組26番 前原 将貴
能力名:なし(測定不能)
総合評価───0/5
判定:
――――――――――――――――――――
「やったぁあっ!!レベル上がったぁあっ!!」
「本当!?おめでとう!!」
隣を見ると、友人が飛び上がって喜んでいた。どうやら
俺達はそれを自分の事のように喜び、祝福した。
そりゃそうだ。能力に憧れて学園都市にまで来て、ようやくそれが叶ったのだ。仲間として、祝福するのは当然であろう。
しかし俺を含めて、上がらない者もいた。
自分には才能が無いのではないか、と思う者もいた。
だが、そんなものが歩みを止める理由には到底なり得なかったし、俺自身も全く思わなかった。
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5年3組25番 前原 将貴
能力名:なし(測定不能)
総合評価───0/5
判定:
――――――――――――――――――――
「………」
その結果を見て、悲しいとはあまり思わなかった。
この結果に慣れてしまった自分がいた。
受け入れた訳ではないが、それでも水が滲むようにじわじわと侵されるような気がした。
「俺は絶対に能力者になるぞ!!負けてたまるかー!!」
「……そーだ!!見返そうぜ!!」
それを振り払おうと、俺は半ばヤケクソに研鑽を重ねた。
脳内演算を少しでも円滑にするため、睡眠時間を削って机に向かったりもした。受験生のように参考書を持ち歩き、暇さえあればそれを読み続けていた。
「……あ、この本もこれで最後か」
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6年1組27番 前原 将貴
能力名:なし(測定不能)
総合評価───0/5
判定:
――――――――――――――――――――
努力が実るとは限らない。
夢は叶わないからこそ夢である。
それも世の中の真実なのかもしれない。この年にしてそんな事を悟った。
「俺だって同じだ。ほら、また一緒に頑張ろーぜ。まだまだこれからだろ?」
「……おう!」
だけど、それでも俺は信じ続けた。
どこにあるかも分からない希望を語り、友人を鼓舞し、必死に手を伸ばし続けた。
そしてその手は、思わぬものを掴んでいた。
「
「そうだ。前原は真面目だし、正義感が強いからな。きっと優秀な風紀委員になれると思うんだよ。よかったら話だけでも聞いてみないか?」
「はい!分かりました!」
担任教師の言葉に、俺は深く考えずに同意した。自分に言い聞かせ、何かから目を逸らすように。
臥薪嘗胆と言えば聞こえは良いが、実際はただ、諦めが悪かっただけだろう。
〜〜〜
中学生になった。
面倒だからと中学受験をしなかった俺は、柵川中学*1に進学した。
そこで、俺の日常が少し変わることになる。
「初めまして。本日より第177支部に着任しました。前原将貴です」
学園都市の治安維持組織、風紀委員になったのだ。
きっかけは教師の薦めだが、志した理由は別にある。
俺は欲しかったのだ。
「同じく中村涼乃です。よろしくお願いします」
そこで俺は、とある少女と出会った。
薄茶色の髪を肩まで伸ばし、同じ色の瞳を輝かせ、穏やかに笑う少女だった。
「よろしくね。前原君」
「うん、よろしく。中村さん」
彼女は俺と同じ柵川中学で、クラスは違えど、学年も同じ女の子だった。
違うと言えば、有する能力。
彼女は
「………」
〜〜〜
風紀委員にも、俺は真剣に取り組んだ。
俺は能力を何も持たない。故に、他人以上に努力しなければ、足でまといになる事が分かっていたからだ。
「へぇー。前原、射撃のセンスあるよ」
「え、ホントですか?」
「ああ。つっても、銃なんてまず使わんから、そこまで必要ないけどな」
「………」
その一方で、『開発』を疎かにしたつもりも無かった。
読み終えた参考書をもう一度読み直し、先生に頼んで補習に励んだりもした。
その甲斐もあり、学力は自然と高い位置にいるようになった。
「……もっとだ。もっとやらないと」
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1年5組29番 前原 将貴
総合点:408点/500点
学年順位:31位/204人
───────────────────
能力名:なし(測定不能)
総合評価───0/5
判定:
―――――――――――――――――――
「クソ、マジで上がんねぇな」
「……そうだな」
「なにしょぼくれてんだよ。まさか諦めんのか?」
「いや、そういう訳じゃないが……」
俺はいつものように友人を叱咤して、いつものように訓練と勉強に励んだ。
その甲斐もあり、対人格闘術や射撃の腕は、並の風紀委員よりは強くなれた。
「……もしもし?ああ、母さん。元気にしてるよ。学校?…………うん、順調だよ。楽しくやってるし、心配いらないって」
「能力のコツ?ああ、ぜひ教えてくれ。感覚とかコツは本当に分からんから、詳しく――」
最近、母親からの電話が増えた。
友人達が色んな事を教えてくれるようになった。
彼らは
特に同僚の中村は、学園都市でも数少ない
「………」
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2年4組28番 前原 将貴
総合点:435点/500点
学年順位:13位/204人
───────────────────
能力名:なし(測定不能)
総合評価───0/5
判定:
―――――――――――――――――――
「うおっしゃぁあっ!!またレベルが上がったぁ!!」
「お、おいバカ!」
「あ……わ、悪ぃな前原」
「?」
何故俺は、謝られたのだろうか。
今は友人を祝福するのが先だ。努力が報われて、俺も嬉しいぞ。
「やったな!おめでとう!」
「あ、ああ……ありがとう。前原のおかげだよ」
「なに言ってんだ。お前の努力の成果に決まってんじゃん。もっと喜べよ」
「努力、か。なら何で……」
「?」
「ああいや、何でもない」
長年の夢であった
なのに何故、この友人は俺に謝ったのだろう。
何故、そんなにきまりが悪そうなのだろう。
何故、そんな目で俺を見るのだろう。
「……さて、俺もアイツに続かねぇとな」
その後も、取り憑かれたように訓練と勉強を繰り返し、1人で研鑽を重ねた。
その甲斐もあり、学力の学年順位は遂に1桁に乗り、対人格闘術は
実戦で使ったことは一度も無いが、射撃の腕は一流とまで言われた。
そうして迎えた、何度目かも分からない
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3年2組31番 前原 将貴
総合点:451点/500点
学年順位:6位/204人
───────────────────
能力名:なし(測定不能)
総合評価───0/5
判定:
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「ま、前原?大丈夫だって、な?」
「そうそう、大したことないって」
「………」
鼓舞する友人は、いつの間にかいなくなっていた。
――――――――
――――――
――――
「……ん?」
7月15日。
いつもと少し違う目覚めに、前原将貴は違和感を覚えた。置き時計を何となく見ると、針は7時30分を指している。いつも起きてる時間であった。
「あ゙ー、体痛ぇ……」
洗面所で顔を洗って、食パンを齧り、いつものように制服を着て、風紀委員の腕章を袖に通す。
朝昼は学校、夕方は仕事と訓練、夜は勉強。
いつものメニューを思い浮かべ、小さく溜息をつく。疲れが溜まっているのか、体の節々が悲鳴を上げていた。
もっとも、これもいつもの事だ。
「ん?」
適当に歯を磨いていると、机にあったケータイが鳴った。どうやらメッセージが届いたらしい。
それはよく知る少女からだった。
―――――――――――――――――――
中村涼乃
───────────────────
やったよ!ついにレベル4になれた!
―――――――――――――――――――
「………」
『おめでとう』とだけ送り、何事も無かったように歯を磨く。それを終えると、今度はルーティンの読書に臨んだ。
そうして20ページほど読み進めて、本を閉じた。
「(そろそろ行くか……………ん?)」
ふと、目覚まし機能付きの置き時計を見てみる。
7時30分だ。いつも起きている時間である。
今度はケータイのホーム画面を見てみる。
12時10分だ。昼食の時間である。
「………………おぉう」
一瞬だけ目を大きく開いて、ゆっくりと閉じる。
完全な遅刻を確信した時、人は逆に清々しい気分になるらしい。どうでもいい発見である。
……さて。
それはさておき、遅刻だ。人生初の大遅刻だ。
やっべぇマジか。うそやろマジでか。
訓練疲れと電池切れを加味しても、ここまで起きないとは、ここまで気付かないとは思わなかった。
「(やばいやばいヤバイヤバイ!!早く出ねぇと!)」
奪うように鞄を掴み取り、俺は玄関から飛び出した。
エレベーターが下にあったため、慣れた階段を2段飛ばしで駆け下りる。
静かなエントランスを駆け抜けて、人気のない町中を駆け抜けようとして、息が切れてきた。
訓練で鍛えているとはいえ、流石に全力疾走で登校し切るのは無理があったようだ。
「はあ゙……はぁー……クソ。マジかちくしょう」
信号に捕まり、その足が止まる。
ここを渡れば、学校はすぐそこだ。もし空間移動があれば、ここから一瞬で教室まで跳べるかもしれない。
「(……『もし』なんて無いっつーの)」
首を振って思考を止めて、改めて学校に足を向ける。
息はもう整ったので、あとは信号を待つだけだ。その気になればあと一息で行ける。
それがまずかったのか。思考が冷めたせいで、考える時間ができた。
そこで俺は、ふと思ってしまった。
「(………………行って、どうなる?)」
信号が青になる。足は動かない。
俺は今まで、一度も休むことなく学校に通った。
8年以上、ずっと。補習や訓練を含めれば、その数はもっと多くなるに違いない。
その結果、俺は何を得た?
学力?後から付いてきただけだ。
友人?単に長く一緒にいただけだ。
信頼?他人が勝手に抱いてるだけだ。
「……ついにレベル4になれた、か」
ふと思い出したのは、とある少女の、ささいな一言。
どこにでもある、ほんの些細な矜恃。
………。
……………。
…………………。
信号が、赤に変わった。