とある風紀委員の日常   作:にしんそば

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第28話

 

 

 

 

 

 前原将貴は超能力に憧れた。

 

 きっかけは覚えていない。

 未知の力に漠然と興味があったのかもしれないし、本に登場する『ヒーロー』に魅力を感じたのかもしれない。

 

「がくえんとし?にいきたい!!」

 

 そのため、俺が両親にそう言い出すのも、自然なことだったのだろう。

 夢物語と思っていた超能力が、実際にこの国で開発、運用されているのだ。これは奇蹟だと確信した俺は、すぐに両親にこう告げた。

 

「ぼくもちょーのーりょくほしいの!!」

「大丈夫なの?あそこ『頭の開発』とかするじゃなかった?」

「……?でも、のーりょくほしい!!」

「そこまで辿り着けるのはほんの少しだって聞くよ?それでもいいの?」

「いい!!」

 

 俺は癇癪を起こしたように懇願し、両親を困らせ続けた。それが実を成したのか、『したいようにするのが1番良い』という父の一声により、学園都市に行くことが決まった。

 この時、俺は幼稚園児だった。

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

「おぉ…」

 

 数ヶ月後、俺は学園都市のとある小学校に入学した。

 その日の空は、海が浮かんだように青く澄んでいたのを覚えている。

 

「がくえんとしかぁ……」

「いよいよだね……!」

「ぼくののーりょくってどんなのかなぁ」

 

 小学校に入ってまず思ったのが、自分と同じ人間がたくさんいる、ということだ。

 全員が全員、見たこともない超能力者(レベル5)に魅せられていた。

 知り合いがいない俺がすぐに馴染めたのも、それがあったからだろう。共通の目的を持った集団は結束しやすいのだ。

 

 そうして迎えた、初めての身体検査(システムスキャン)

 全員が全員目を輝かせ、冒険の末に手に入れた宝箱を開くように結果を待った。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 1年1組25番 前原 将貴

 

 能力名:なし(測定不能)

 総合評価───0/5

 

 判定:無能力者(レベル0)

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

「うーん、いきなりはムリかぁ……」

「ぼくも無能力者(レベル0)だったよ」

「みんなそーなんだね……」

 

 俺の宝箱に、中身はなかった。

 それは周りも同じなのか、落胆の声が聞こえる。

 しかし、宝が入っていた者もいた。

 

「やった!低能力者(レベル1)だ!!」

「おおー!なんののーりょく?」

「えっと、ぱいろきねしす?ってやつ」

「なにそれ?」

「わかんない」

 

 世界で唯一、学園都市だけが使役する技術の結晶。

 俺はただそれが欲しかった。

 故に、羨ましかった。

 

 宝石が見つかったのなら、後はそれを磨くだけでいい。大きさや質に個人差はあるが、それでも『持たざる者』にとっては、等しく輝いて見えるのだから。

 

「………」

「………」

「だいじょーぶ!!ぼくたちもなれるよ!!」

 

 そんな中、俺はひたすらに友人を鼓舞していた。

 超能力者(レベル5)に対する憧れが、人より強かったのだろう。それとも、夢を見る子供の特権でも働いたのだろうか。

 

「たくさんたくさんがんばれば、みんなぜったいなれるよ!!」

「……そうだね!!」

「そーだ!もっとがんばろー!」

「おー!」

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 努力はしてきたつもりだった。

 率先して勉強したし、特に『開発』の時間は誰よりも熱心に取り組んだ。まだ習っていない部分まで教科書を読み進め、理解しようと務めた。

 

 そうして臨んだ、二度目の身体検査(システムスキャン)

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 2年3組25番 前原 将貴

 

 能力名:なし(測定不能)

 総合評価───0/5

 

 判定:無能力者(レベル0)

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

「まだまだこれからだよ!!」

「そーだ!これからだ!」

「いっしょにがんばろう!!」

 

 昨年と同じような結果に、俺も同じように鼓舞した。

 志を同じとする友人とも出会い、共に日々を積み重ねた。本当に少しずつ。だけど、いつか届くと信じて。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 3年2組27番 前原 将貴

 

 能力名:なし(測定不能)

 総合評価───0/5

 

 判定:無能力者(レベル0)

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 学園都市に入って3年目。

 超能力者(レベル5)になるとは、月を掴むようなものだという現実を、俺はようやく理解した。

 

「ダメかぁ……」

「うーん……むずかしいね……」

「でも上がってる人もいるじゃん!ぼくたちもぜったいなれるよ!!」

 

 月を掴むなど、無謀どころか夢物語そのものだ。だが、手を出した分だけ、月には近付いている。その手はいつか届くと、信じて疑わなかった。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 4年3組26番 前原 将貴

 

 能力名:なし(測定不能)

 総合評価───0/5

 

 判定:無能力者(レベル0)

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

「やったぁあっ!!レベル上がったぁあっ!!」

「本当!?おめでとう!!」

 

 隣を見ると、友人が飛び上がって喜んでいた。どうやら低能力者(レベル1)に目覚めたらしい。

 俺達はそれを自分の事のように喜び、祝福した。

 そりゃそうだ。能力に憧れて学園都市にまで来て、ようやくそれが叶ったのだ。仲間として、祝福するのは当然であろう。

 

 しかし俺を含めて、上がらない者もいた。

 自分には才能が無いのではないか、と思う者もいた。

 だが、そんなものが歩みを止める理由には到底なり得なかったし、俺自身も全く思わなかった。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 5年3組25番 前原 将貴

 

 能力名:なし(測定不能)

 総合評価───0/5

 

 判定:無能力者(レベル0)

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

「………」

 

 その結果を見て、悲しいとはあまり思わなかった。

 この結果に慣れてしまった自分がいた。

 受け入れた訳ではないが、それでも水が滲むようにじわじわと侵されるような気がした。

 

「俺は絶対に能力者になるぞ!!負けてたまるかー!!」

「……そーだ!!見返そうぜ!!」

 

 それを振り払おうと、俺は半ばヤケクソに研鑽を重ねた。

 脳内演算を少しでも円滑にするため、睡眠時間を削って机に向かったりもした。受験生のように参考書を持ち歩き、暇さえあればそれを読み続けていた。

 

「……あ、この本もこれで最後か」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 6年1組27番 前原 将貴

 

 能力名:なし(測定不能)

 総合評価───0/5

 

 判定:無能力者(レベル0)

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 努力が実るとは限らない。

 夢は叶わないからこそ夢である。

 

 それも世の中の真実なのかもしれない。この年にしてそんな事を悟った。

 

「俺だって同じだ。ほら、また一緒に頑張ろーぜ。まだまだこれからだろ?」

「……おう!」

 

 だけど、それでも俺は信じ続けた。

 どこにあるかも分からない希望を語り、友人を鼓舞し、必死に手を伸ばし続けた。

 そしてその手は、思わぬものを掴んでいた。

 

風紀委員(ジャッジメント)、ですか?」

「そうだ。前原は真面目だし、正義感が強いからな。きっと優秀な風紀委員になれると思うんだよ。よかったら話だけでも聞いてみないか?」

「はい!分かりました!」

 

 担任教師の言葉に、俺は深く考えずに同意した。自分に言い聞かせ、何かから目を逸らすように。

 臥薪嘗胆と言えば聞こえは良いが、実際はただ、諦めが悪かっただけだろう。

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 中学生になった。

 面倒だからと中学受験をしなかった俺は、柵川中学*1に進学した。

 そこで、俺の日常が少し変わることになる。

 

「初めまして。本日より第177支部に着任しました。前原将貴です」

 

 学園都市の治安維持組織、風紀委員になったのだ。

 きっかけは教師の薦めだが、志した理由は別にある。

 

 俺は欲しかったのだ。

 無能力者(レベル0)の烙印を上書きできる何かが。己を証明する明確な『肩書き』が。

 

「同じく中村涼乃です。よろしくお願いします」

 

 そこで俺は、とある少女と出会った。

 薄茶色の髪を肩まで伸ばし、同じ色の瞳を輝かせ、穏やかに笑う少女だった。

 

「よろしくね。前原君」

「うん、よろしく。中村さん」

 

 彼女は俺と同じ柵川中学で、クラスは違えど、学年も同じ女の子だった。

 違うと言えば、有する能力。

 

 彼女は強能力者(レベル3)空間移動系能力者(テレポーター)だった。

 

「………」

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 風紀委員にも、俺は真剣に取り組んだ。

 俺は能力を何も持たない。故に、他人以上に努力しなければ、足でまといになる事が分かっていたからだ。

 

「へぇー。前原、射撃のセンスあるよ」

「え、ホントですか?」

「ああ。つっても、銃なんてまず使わんから、そこまで必要ないけどな」

「………」

 

 その一方で、『開発』を疎かにしたつもりも無かった。

 読み終えた参考書をもう一度読み直し、先生に頼んで補習に励んだりもした。

 その甲斐もあり、学力は自然と高い位置にいるようになった。

 

「……もっとだ。もっとやらないと」

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 1年5組29番 前原 将貴

 

 総合点:408点/500点

 学年順位:31位/204人

 

 ───────────────────

 

 能力名:なし(測定不能)

 総合評価───0/5

 

 判定:無能力者(レベル0)

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

「クソ、マジで上がんねぇな」

「……そうだな」

「なにしょぼくれてんだよ。まさか諦めんのか?」

「いや、そういう訳じゃないが……」

 

 俺はいつものように友人を叱咤して、いつものように訓練と勉強に励んだ。

 その甲斐もあり、対人格闘術や射撃の腕は、並の風紀委員よりは強くなれた。

 

「……もしもし?ああ、母さん。元気にしてるよ。学校?…………うん、順調だよ。楽しくやってるし、心配いらないって」

 

「能力のコツ?ああ、ぜひ教えてくれ。感覚とかコツは本当に分からんから、詳しく――」

 

 最近、母親からの電話が増えた。

 友人達が色んな事を教えてくれるようになった。

 

 彼らは低能力者(レベル1)から強能力者(レベル3)までいた。

 特に同僚の中村は、学園都市でも数少ない空間移動(テレポート)として、大能力者(レベル4)がほぼ確定しているらしい。

 

「………」

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 2年4組28番 前原 将貴

 

 総合点:435点/500点

 学年順位:13位/204人

 

 ───────────────────

 

 能力名:なし(測定不能)

 総合評価───0/5

 

 判定:無能力者(レベル0)

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

「うおっしゃぁあっ!!またレベルが上がったぁ!!」

「お、おいバカ!」

「あ……わ、悪ぃな前原」

「?」

 

 何故俺は、謝られたのだろうか。

 今は友人を祝福するのが先だ。努力が報われて、俺も嬉しいぞ。

 

「やったな!おめでとう!」

「あ、ああ……ありがとう。前原のおかげだよ」

「なに言ってんだ。お前の努力の成果に決まってんじゃん。もっと喜べよ」

「努力、か。なら何で……」

「?」

「ああいや、何でもない」

 

 長年の夢であった超能力者(レベル5)に、また近付いたのだ。

 なのに何故、この友人は俺に謝ったのだろう。

 何故、そんなにきまりが悪そうなのだろう。

 

 何故、そんな目で俺を見るのだろう。

 

「……さて、俺もアイツに続かねぇとな」

 

 その後も、取り憑かれたように訓練と勉強を繰り返し、1人で研鑽を重ねた。

 その甲斐もあり、学力の学年順位は遂に1桁に乗り、対人格闘術は警備員(アンチスキル)以上と言われた。

 実戦で使ったことは一度も無いが、射撃の腕は一流とまで言われた。

 

 そうして迎えた、何度目かも分からない身体検査(システムスキャン)

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 3年2組31番 前原 将貴

 

 総合点:451点/500点

 学年順位:6位/204人

 

 ───────────────────

 

 能力名:なし(測定不能)

 総合評価───0/5

 

 判定:無能力者(レベル0)

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

「ま、前原?大丈夫だって、な?」

「そうそう、大したことないって」

「………」

 

 鼓舞する友人は、いつの間にかいなくなっていた。

 

 

 

 ――――――――

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 ――――

 

 

 

「……ん?」

 

 7月15日。

 いつもと少し違う目覚めに、前原将貴は違和感を覚えた。置き時計を何となく見ると、針は7時30分を指している。いつも起きてる時間であった。

 

「あ゙ー、体痛ぇ……」

 

 洗面所で顔を洗って、食パンを齧り、いつものように制服を着て、風紀委員の腕章を袖に通す。

 

 朝昼は学校、夕方は仕事と訓練、夜は勉強。

 いつものメニューを思い浮かべ、小さく溜息をつく。疲れが溜まっているのか、体の節々が悲鳴を上げていた。

 もっとも、これもいつもの事だ。

 

「ん?」

 

 適当に歯を磨いていると、机にあったケータイが鳴った。どうやらメッセージが届いたらしい。

 それはよく知る少女からだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 中村涼乃

 ───────────────────

 

 やったよ!ついにレベル4になれた!

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

「………」

 

 『おめでとう』とだけ送り、何事も無かったように歯を磨く。それを終えると、今度はルーティンの読書に臨んだ。

 そうして20ページほど読み進めて、本を閉じた。

 

「(そろそろ行くか……………ん?)」

 

 ふと、目覚まし機能付きの置き時計を見てみる。

 7時30分だ。いつも起きている時間である。

 

 今度はケータイのホーム画面を見てみる。

 12時10分だ。昼食の時間である。

 

「………………おぉう」

 

 一瞬だけ目を大きく開いて、ゆっくりと閉じる。

 完全な遅刻を確信した時、人は逆に清々しい気分になるらしい。どうでもいい発見である。

 

 ……さて。

 それはさておき、遅刻だ。人生初の大遅刻だ。

 

 やっべぇマジか。うそやろマジでか。

 訓練疲れと電池切れを加味しても、ここまで起きないとは、ここまで気付かないとは思わなかった。

 

「(やばいやばいヤバイヤバイ!!早く出ねぇと!)」

 

 奪うように鞄を掴み取り、俺は玄関から飛び出した。

 エレベーターが下にあったため、慣れた階段を2段飛ばしで駆け下りる。

 静かなエントランスを駆け抜けて、人気のない町中を駆け抜けようとして、息が切れてきた。

 訓練で鍛えているとはいえ、流石に全力疾走で登校し切るのは無理があったようだ。

 

「はあ゙……はぁー……クソ。マジかちくしょう」

 

 信号に捕まり、その足が止まる。

 ここを渡れば、学校はすぐそこだ。もし空間移動があれば、ここから一瞬で教室まで跳べるかもしれない。

 

「(……『もし』なんて無いっつーの)」

 

 首を振って思考を止めて、改めて学校に足を向ける。

 息はもう整ったので、あとは信号を待つだけだ。その気になればあと一息で行ける。

 

 それがまずかったのか。思考が冷めたせいで、考える時間ができた。

 

 そこで俺は、ふと思ってしまった。

 

「(………………行って、どうなる?)」

 

 信号が青になる。足は動かない。

 

 俺は今まで、一度も休むことなく学校に通った。

 8年以上、ずっと。補習や訓練を含めれば、その数はもっと多くなるに違いない。

 その結果、俺は何を得た?

 

 学力?後から付いてきただけだ。

 友人?単に長く一緒にいただけだ。

 信頼?他人が勝手に抱いてるだけだ。

 

「……ついにレベル4になれた、か」

 

 ふと思い出したのは、とある少女の、ささいな一言。

 どこにでもある、ほんの些細な矜恃。

 

 

 

 ………。

 

 

 

 ……………。

 

 

 

 …………………。

 

 

 

 信号が、赤に変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
第七学区にある。ごくありふれた区立中学校。初春飾利、佐天涙子らが通う。

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