とある風紀委員の日常   作:にしんそば

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第32話

 

 

 

 

 

 会話や対談において、話の主導権を握る事は重要だ。

 自分のしたい話ができるし、進めたいように進められるからである。

 そして、主導権を握るには、まずは自分のペースに呑み込んでみることだ。

 

「なに飲む?紅茶もコーヒーも、オレンジジュースとかもあるよ」

「……えっと。じゃあ、紅茶で」

「おっけ。種類は……フルーツとか好き?柑橘系のやつ」

「……えっと。うん」

「おっけー。じゃあニルギリで」

 

 金糸を編んだような髪を軽く揺らし、松浦奏はそう返事をした。

 手馴れた動きでお湯を沸かし、同時進行でマリアージュである桃のタルトを切り分け、皿に優しく盛り付ける。

 うん、我ながらいい出来だ。

 

「あの……松浦さん?」

「んー?なーに?」

「……その、何してるの?」

「紅茶を淹れてるの」

 

 ティーカップの温度を確認し、茶葉のしまってある棚をいじる。

 うん。ニルギリは久しぶりに出したけど、変わらず良い香りだ。

 

「私達を呼んだのは副委員長……ですよね?」

「うん。あと奏でいいよー」

「副委員長。早く要件を言ってくれない?私達は忙しいのよ」

「まあまあ。せっかく正式に呼んだんだし、ゆっくりしていきなよー」

 

 黒髪眼鏡の風紀委員(ジャッジメント)にして、177支部の代表、固法美偉……みーちゃんでいっか。

 みーちゃんが非難するように私を睨むが、私は無視して準備を進める。

 高い位置からポットにお湯を淹れて、しばらくすると、ポットの中で茶葉が踊り出して、柑橘系の匂いが漂ってきた。

 

「おまたせー」

「ありがとうございます。それで、要件はなんでしょうか?」

「そんなに急かさないでよ。焦っても良い事ないよ?」

「無為にする時間もありませんので」

 

 出した紅茶を一瞥もせず、みーちゃんは私を睨んだ。

 私が年下とはいえ、立場では私が上だ。それでも物怖じしないあたり、よほど本気なのだろう。

 しかし、みーちゃんは何か勘違いをしているらしい。

 

「そんなに怒んないでよ。そもそも本部に協力を仰いだのはみーちゃんでしょ?」

「みーちゃん……?」

「あ、うん。美偉のみーちゃん。嫌かな?」

「嫌ではないですが……」

 

 にゃはは、と笑ってティーカップを傾ける。

 渋みが少なく、変なクセも無い味は無限の可能性を思わせるが、それゆえどこか物足りない印象もある。ストレートでも美味しいが、ミルクやレモンを入れても良いだろう。

 

「あ、美味しい……」

「良かった。タルトもあるから食べてね」

「ありがとう……じゃなくて!お茶なんか飲んでる場合じゃないんです!私達は――」

「前原将貴って人を探してるんでしょ?知ってるよー」

 

 ティーカップを置いた体勢のまま、みーちゃんの表情が固まった。

 隣に座る中村涼乃……すずのんでいっか。すずのんは何も言わない。

 

「……ッ。そ、そうです。それで、協力してくれるんですか?」

「それはそうと、『スキルアウト狩り』の正体は掴めそう?」

「話を逸らさないでください。副委員長、前原君の捜索に協力していただけるのですか?」

 

 みーちゃんは私の返答が気になって仕方がないのか、少し前傾姿勢になっていた。私を見る目は鋭いが、しかし冷静ではないらしい。

 私はそれを横目に、机の上にあったミルクピッチャーに手を伸ばした。

 

「話は最後まで聞いてってば。話が逸れちゃうからさ」

「逸しているのは副委員長でしょう!前原君はどこに――」

「だからー、『スキルアウト狩り』の犯人が、前原将貴だって言ってるんだよ?」

 

 えっ、と。

 短く呟いたみーちゃんの時間が、今度こそ止まった。隣のすずのんも、ティーカップを置いた体勢のまま固まる。

 私の手元では、今まで気取っていたような紅茶が、ミルクが入って優しく白んでいた。

 

「……副委員長。私は真面目に聞いているのです。冗談は止めてください」

「別に冗談じゃないよ。とりあえず見せるねー」

 

 私は腕時計型端末を操作し、壁のディスプレイに幾つもの映像を並べた。その中には、彼女達が探し求める少年、『前原将貴』がいた。

 それを見るなり、みーちゃんの顔が一気に喜色を帯びた。怜悧な雰囲気とは裏腹に、忙しなく表情が変わっていて面白い。

 

「これは先月の15日だね。ちょうど行方不明になる直前のやつだよ」

「前原君……!よかった、無事だったのね……ッ!」

「……将貴君?」

「それで、これが1番最近のやつ」

 

 しかし、みーちゃんとは対象的に、すずのんは何か気になるらしく、どこか訝しげだ。

 質問は後で受け付けるとして、今はいっぺんに事実を話してしまおう。

 

「ここで注目。前原将貴……しょーくんは、とあるビルの隙間に入っていきました」

 

 まず映ったのは、制服姿のしょーくんが、薄暗い路地裏に入っていく姿。その腕には包帯が巻かれているが、緑に輝く腕章があった。

 

「しかしそこは、このようにスキルアウトが潜んでいた場所でした」

 

 別のディスプレイに、10名ほどのスキルアウトが入っていく映像が映る。ガラの悪そうな、いかにも典型的なスキルアウトといった様子だ。

 

「しかし怪我を負いながらも、少し経ってしょーくんは出てきました」

 

 次いで映ったのは、先ほどとは別の痣を負いながらも出てきたしょーくんの姿。

 その腕に、緑の腕章は無い。

 

「そこに残ったのは、的確に、しかし徹底的に痛めつけられたスキルアウト達でした」

 

 さらに別のディスプレイに映ったのは、腕がおかしな方向に向いたり、顔に大きな痣が出来ていたり、白目のままピクリとも動かないスキルアウトの姿。

 

「こうしてしょーくんは『スキルアウト狩り』として確固たる地位を占め――」

「嘘よ」

 

 ぴしゃりと、みーちゃんは遮った。

 その肩はぶるぶると震え、どれだけの力が篭っているのか分からない。

 しかし、そんなことで事実は覆らない。

 

「それじゃ、次いこっか。先月25日の第一〇学区の映像が――」

「必要ないわ。『スキルアウト狩り』は前原君はじゃない。彼はそんな事、絶対にしないもの」

「そう言われてもねー」

 

 あまりにも真っ直ぐな言葉に、思わず笑いそうになった。それを見透かしたのか、みーちゃんは噛み付くように私を睨んでくる。

 

「考えてみてよ。納得できる点も多いでしょ?多人数を相手に圧倒できる技術とか、『風紀委員にやられた』っていう証言とかさー」

「………」

「それに、現場に落ちてた腕章もしょーくんのだったよ?シリアルナンバーも一致したし」

 

 執務用の机に向かい、その引き出しから腕章を取り出す。

 透明の袋に入ったそれは、薄汚れた緑の腕章だった。先日、とある常盤台の生徒から届けられたものだ。裏に刻まれたシリアルナンバーは、映像の少年のそれである。

 

「似たような映像や証言がいくつもあるけど、見る?」

 

 他にも、被害者のスキルアウトからはしょーくんの指紋が検出されたし、常盤台中学の後輩も、それらしき人物に救われたと聞く。写真を見せれば裏も取れるだろう。

 

 しかし、ここまで揃えてなお、みーちゃんは首を横に振った。

 

「違う……前原君はそんな事しない……」

「じゃあこの人は誰?しょーくんとは違うの?」

「……違う。前原君じゃない。絶対、違うの」

 

 うーん。何を言っても信じてくれなさそう。

 ここまで事実を見せてまだ言い切るとは、しょーくんへの信頼は、もはや信仰に近い気がしてきた。

 勝手に偶像にされたしょーくんの心情は如何程か、想像もしたくない。

 

「そっか。とりあえず言いたい事は言ったし、みーちゃんはもう帰っていいよー。あとすずのんは残って」

「……何故、中村さんを残すのですか?」

「気になる?」

「……いえ、分かりました」

 

 少しの逡巡の後、みーちゃんは一礼して退出した。

 何ひとつ納得していないのがありありと分かるが、素直に応じてくれるあたり、一応支部代表としての矜持は覚えていたらしい。

 

 そんな事を思っていると、残されたすずのんがおもむろに口を開いた。その口調は遅く、噛み締めながら言っているようだった。

 

「……奏さん。何か私に協力できる事、ない?」

「別に無いけど、どうして?」

「……将貴君がいま、どこで何をしてよるか。正直私は、どうだっていい。彼が無事ならそれでいいんです」

「そっか。じゃあ『ここ』で、大人しく待ってるといいよ。連れてきてあげるから」

 

 正直な話、学園都市で人を見つけるだけなら、私1人の方が早い。直接迎える者も、私がひと声かければすぐに見つかる。

 ゆえにこの程度なら、効率的にも経済的にも、誰かに頼る必要が無いのである。

 

 ただし、それを覆すだけの思いがあるのなら、その限りではない。

 

「……私が、彼を迎えに行きたいんです」

「迎えに行って、どうするつもり?」

「面と向かって話がしたいです。聞きたい事が……言いたい事が、たくさんあるんです」

「その言葉が通じる保証はないよ?」

 

 酷薄な笑みを浮かべ、私は言葉を続ける。

 ここで善心ある言葉が返ってくるようなら、それは善意の押し付けでしかない。

 正論が万能ではないように、善意もまた万能ではない。

 お互いのためにも、それが分かってない人を、今のしょーくんに会わせる訳にはいかないのだ。

 

「……これは私のエゴです。それでも私は、どうしても将貴君に会いたいんです」

「正直、会うだけなら私の方が早いよ。それは分かってる?」

「………」

「それでも会いたいのは、どうして?」

「それが『正解』だと信じているからです」

 

 すずのんは迷うことなく、そう断言した。

 薄茶色の瞳は、私をじっと見つめて逸らそうとしない。その中には。みーちゃんには無い『強さ』があった。

 

「風紀委員ではなく、中村涼乃として、私は前原将貴に向き合う。ここでそう動かないことは、明らかに私の『正解』に反していると確信します」

「………」

「しかし、私にはそれをするだけの力がありません。だから……だから、力を貸してください」

 

 そう言って、すずのんは頭を下げた。

 その姿は憂わしく、風紀委員としてはあまりにも頼りない。しかし、それ以上に優しく、柔らかかった。

 数秒間そうして、やがて私から破顔した。

 

「分かったよ。中村涼乃、あなたに協力する。だから、私に協力してねー」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 時間は少し遡り、8月5日。

 本部の高層階にある副委員長執務室にて、松浦奏は2つの画面と向き合っていた。

 部屋に1人佇むその姿は、どこか晏然と、そして悄然としている。

 

「………」

 

 ――――――――――――――――――――

 

 前原将貴。

 

 柵川中学3年。10月30日生まれ。

 能力は測定不能、生粋の無能力者(レベル0)

 中学入学と同時に風紀委員に入り、現在に至るまで177支部に所属。

 遅刻や違反等なし。評価は優良。

 強固な意志、向上心を持ち、訓練や授業における意欲、態度は他の模範と言える存在。

 第七学区長(エリアチーフ)による本部への異動推薦4度。

 判断力と対人格闘術に長け、特に射撃において卓越した才能を発揮。

 

 ――――――――――――――――――――

 

 本部への推薦や評価を考えると、しょーくんの人物像はこんなカンジだろう。

 

 なるほど、風紀委員の鑑みたいな人だね。

 本部が欲しがるのも分かる――が。

 

「(能力が『測定不能』……)」

 

 強度や性質は様々が、学園都市に住む学生は、その全員が能力者だ。

 例え無能力者(レベル0)でも、目に見えないレベルではあるが、何らかの能力は確実に発現しているのである。

 つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………」

 

 腕時計型端末を操作し、学園都市の総合データベースである書庫(バンク)にアクセスする。

 

 本来は管理センターの経由が必須だが、『本部』の権限下ならば、ある程度の閲覧が許可されていたりする。

 

「(『能力名:なし(測定不能)』っと)」

 

 検索エンジンに打ち込み、230万人のデータを一気に篩にかける。

 しかしさすが学園都市と言おうか、ひと息入れようと紅茶を口に飲んだ時には、既にデスク上のディスプレイに結果が出ていた。

 

『検索結果:290,525件』

 

「(意外と多い……かな?)」

 

 検索結果を眺めると、顔写真のすべてが一様に幼い。時間を見ると、全員が小学校入学前の幼児だった。

 なるほど『測定不能』という結果は、能力開発を受ける前の状態を指しているらしい。

 

「(つまり『外』の人間と同じ状態)」

 

 学園都市に住む学生は全員が能力者、というのは、厳密には間違いだ。

 『開発』の授業は、小学校入学後に初めて行われる。

 つまり、保育園児や幼稚園児は『外』の人間と同じく『開発』を受けていないため、能力が発現しないのだ。

 

「(なら、しょーくんはどうして?)」

 

 次いで湧いてくる、さらなる違和感。

 私は新たな条件を1つ加え、再度検索をかけた。『能力名:なし(測定不能)、小学生以上』と。

 

「……『該当者なし』」

 

 確かに1人いるのに、これが結果。これには実に多くの情報が含まれているだろう。

 

 つまりしょーくんには、何かしらの『検索できない理由』があるのだ。

 1つ言えるのは、しょーくんが『ただの無能力者(レベル0)』である可能性は極めて低い、ということだろう。

 

「(……調べてみる価値はありそうだけど、どこまで()()()()()かなー)」

 

 私の中の何かが、微弱な危険信号を受信する。

 目を閉じて、ゆっくりと開く。ふぅ、と息を吐いた私は、腕時計型の端末を操作して、とある場所へ連絡を送った。

 

 彼が所属していた支部、風紀委員第177支部へと。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 学生の街である学園都市は、夜になると急速に活気が失われる。特に深夜の第一〇学区など、ゴーストタウンと言って差し支えないほどに。

 

「………」

 

 静まり返った街の中を、頬に湿布、手足に包帯を巻いた少年が徘徊していた。

 名を前原将貴と言うが、薄闇に溶けるその姿は、もはや幽鬼に近い。彷徨っているのは肉体か魂か、本人にも分からなかった。

 

「………」

 

 なんとなく空を見上げる。

 そこにあるのは、一面の闇を従えるように浮かぶ、黄金の月。その光は圧倒的で、松明に灯った炎はおろか、夏の星座すら消されそうなほど輝いていた。

 

「………」

 

 ゆっくりと瞳を閉じる。それだけで、先ほどの路地裏での記憶が、克明に浮かび上がってくる。

 

 あれが、超能力者(レベル5)

 正真正銘、学園都市の――世界の頂点。

 

「…………すごかったなぁ」

 

 抱いた感情は、純粋な憧れ。

 そして、虚無感。

 

「………」

 

 月光に照らされて、影が後ろへ伸びていく。

 きっと俺は、目を開けたまま夢を見ていたのだ。いや、思い込ませていたのだ。

 自分は(レベル5)には届かなかったけど、何かを照らす(チカラ)を持っているのだ、と。

 

 ――――馬鹿にも程がある。

 

 月と炎。

 確かに、光源という意味で両者は似ているが――少し考えたら誰でも分かる。

 

 炎が月に勝てるはずがない。

 どれだけ炎を焚こうと、月はいつだって世界の半分を照らしている。自分が焚べた炎の火の粉が降り掛かり、熱いと喚く人間になど、耳を傾けないのだ。

 

「………」

 

 俺がしてきた事など、所詮は薄氷の上の足跡みたいなものだったのだ。少し照らされても、炎を近付けても、簡単に消えてしまう――その程度のものだったのだ。

 

 そんな事に全てを捧げてきた自分が、ひどく馬鹿馬鹿しく思えてきた。

 

「………」

 

 立ち止まり、その場で天を仰ぐ。

 見えたのは、黒いビロードのように分厚い夜空。そして、それを引き裂き、支配するように浮かぶ黄金の月。

 

 それに手を伸ばそうとして、やめた。

 失敗したのではない。諦めたのだ。

 月を掴むなどという、珍奇で大それた絵空事を。

 

「………」

 

 努力は、してきたと思う。自分が出来る事は、最大限やってきたつもりだ。

 風に揺れる灯火のようなものでも、あの時の俺は輝いていたはずだ。

 でも、それすら燃え尽きてしまった。

 後に残ったのは、光を映さぬ灰のみ。掃いて捨てるだけの、何の価値も無い有象無象。

 

「……ははっ」

 

 それを自覚した瞬間、何故か笑えた。

 それを噛み殺すこともできず、切れ込みを入れたように口が歪んでいく。

 

 ああ、俺は間違えたのだ。

 そして、それに気付こうとしなかったのだ。

 ああ、なんと哀れで愚かなことか!!

 

「ははははははははははっっっ!!!」

 

 崩れていく。

 壊れていく。

 薄れていく。

 笑うたびに、『前原将貴』という人間が、1つ2つと泡沫のように消えていく。

 

「あはははははぎゃはははははぁっっっ!!!」

 

 不思議な気分だ。

 何年もかけて積み上げたものが、全部ぜんぶ無駄だと確信した。なのに、それが全然嫌ではない。

 ああ、この晴れやかな気持ちは何なのだ!!

 

「くくッ……、あはハハはハハハハハハハァッッッ!!!」

 

 笑う。嗤う。……まだ哂う。

 理由なんて知らない。何がおかしいのか、そんなことはどうだっていい。

 

 もう、無理だったのだ。

 『前原将貴』は、もうこの世界にいない。

 

 俺が殺した。

 今まで大切に描いてきた『日常』という絵は、俺がこの手で塗り潰した。

 

 修復なんて、出来る訳がない。同じ絵をどれだけ精巧に描こうと、全く同じなんて事は、絶対にありえない。

 俺自身、それが1番よく分かる。

 

「ハハハ……はハ……ハハハ……」

 

 そして残ったのは、『少年』の抜け殻。

 名前すら奪われた者の、音の無い慟哭。

 それでも、涙は流れない。

 

 『少年』は思う。この世界は歪んでいると。

 神が世界を作った時、きっと神は自身の力を過信していたのだろう。

 

「(……もう、なにもかも無駄だ)」

 

 俺は思考を放棄して、ふらふらと歩を進めた。

 行き先は決めていない。何なら、このままヴァルハラに赴き、神と向き合うのも吝かじゃない。

 そんな世迷い言を本気で考えている事実に、『少年』は違和感を抱けなかった。

 

「……?」

 

 代わりに、その違和感を遮断したものがあった。

 それは右手首に走った痛みだった。動くのも面倒に思った『少年』は、反撃もせず振り返る。

 

 するとそこには、見たことのある少女が立っていた。

 

「制理……?」

「やっと……見つけた……ッ!!」

 

 『少年』のクラスメイトである吹寄制理が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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