とある風紀委員の日常   作:にしんそば

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今回の話に政治、思想的主張はありません。
また原作を基準にしているため、史実とは異なる点がいくつかあります。
本章における『』は、基本的に英会話であることを示しています。





第66話

 

 

 

 

 

夜に沈むテムズ川、そのほとりに位置するのはウィンザー城。

現在でも英国女王(クイーンレグナント)が過ごす私邸として知られ、観光地としても一般公開されている人気スポットである。

しかし王室の居住空間ということもあり、一般には立ち入りを禁止している部屋もある。

 

紅の応接間(クリムゾン・ドローイングルーム)

応接間と呼ぶに相応しい豪奢な部屋だった。深紅とゴールドを基調とした内装は、見る者をひと目で圧倒するだけの威厳がある。

 

だからこそ、英国第二王女・キャーリサは満足していた。目の前にいる少女の、あまりにも落ち着いた様子に。

 

『いかがなさいましたか、キャーリサ様』

『何でもない。こーやって本音で話し合うのは久しぶりだから楽しいのだ』

『なら良かったです』

 

流暢な英語を話す少女──松浦奏が視線を落とし、静かに紅茶を飲む。

金糸を編んだようなミディアムヘアと、それを後ろで結んだ深紅のリボン。それは部屋を体現したように輝いていたが、少女の前にはそれすら霞んで見える。

 

『(部屋には見向きもしないのだな。慣れているのか興味が無いのか、いずれにせよ珍しい反応だし)』

 

ここは1000を超えるウィンザー城の中でも特に豪奢な部類に入る。かつての王が他国の有力者に対し、ひと目でその権威を分からせるよう造らせた産物である。

そのため食器ひとつとっても桁違いの値段なのだが、カナデに緊張の色は無い。

 

『私はこの部屋が好きだ』

『そうなのですか?』

『ああ。赤という色合いもそうだが、内装が気に入っていてな』

 

カナデが音もなくティーカップを置き、ゆっくりと部屋を見渡す。その何でもないような仕草にすら気品があのは才能だろうか。

しかしその蒼氷玉(スイスブルー)は、調度品を冷めた目で見つめている。そのあまりに淡白な反応に、思わず口の中で笑ってしまった。

 

『カナデには驚かされてばかりだし』

『なんでしょうか』

『見ての通り、ここには至高の品しかない。それを見てこーも平然とできる者は少ないし』

『食器や家具は使われるものです。眺めているだけでは気の毒でしょう』

『勘違いするな。私に高級品を愛でる趣味など無いし。ここが気に入ってるのは、自身の立場の再認識に丁度いいからだ』

 

王位継承はまだ先だが、私は紛うことなき『王族』である。それを忘れず、気を引き締めるためにここに来るのだ。

第三王女であるヴィリアンすら、ここに『慣れる』までに歳月を要した。しかし、この少女は入った瞬間に『調和』したように見える。

 

『失礼ながらキャーリサ様は、自身が国家元首になる未来を確信しているように見えます』

『初めからそう考えぬ者など暗君に過ぎるだろう。女王の座はそんなに安くないし』

『遠い未来を明日のように思う者こそ、君主に相応しいということですか』

『……そーゆーことだ』

 

とても中学生の口から出たとは思えん言葉だ。それに早い。『王』としての在り方を自分の中にきちんと持っているのだろう。

……本当に妹に見習ってほしいものだ。背丈も年齢も遥かに小さいのに、既にその素質が滲み出ている。

 

『……カナデ。仮にだが、お前はイギリスの将来をどう考える』

『私は異邦人、それも学生の身です。他国の国政に口を出せる立場ではありません』

『構わないし。若く新しい意見を取り入れたいだけだ。ああ、言っておくが変な建前はいらんからな』

 

その程度の話は外相レベルのサミットで十分である。この底知れない少女には、そんな小さな器で囚えるべきではない。

 

『分かりました。ではよろしいですか』

『頼む』

『結論から申し上げると、イギリスという国の価値は下がる一方だと思われます』

 

カナデはティーカップを置き、平然とした口調でそう告げた。あまりにも無礼な、ともすれば学園都市との同盟に支障をきたしかねない発言である。

思わず目が丸くなるが、カナデは無視して言葉を続ける。

 

『現状、EUの議場はイタリア──いえ、ローマ正教に牛耳られています。20億の信徒を持つローマ正教の庇護下に入れば、ひとまずは甘い汁を吸えますからね』

『……その通りだし。東欧諸国がいい例だな。ローマ正教という『多数派』にいれば、少なくとも立場が悪くなることもないだろう』

『事実バンカークラスターをはじめ、イギリスの主力兵器が次々と禁じられています。挙句、近年は核兵器の保有も禁じられた*1そうですね』

 

……核に関しては極秘のはずだが、なぜ知っているのだ。まあいい、学園都市がその気になれば、どんな機密も無に等しいのだろう。

 

『イギリス製兵器の使用禁止に、核の独占。ローマ正教によるEU支配も時間の問題でしょう』

『それを防ぐにはどうすればいい?』

『民主主義を謳っている以上、完全に防ぐのは難しいでしょう。最も手っ取り早い対抗策はEUの脱退です』

『ふむ。移民、拠出金、条約のことを考えても効果はあるだろーな』

 

実際のところ、現国家元首である母上も考えた策である。昔はともかく、今のEUはイギリスにとって不利益の方が多いからだ。

移民は増えて治安も悪化するばかり、日本やアメリカとの貿易もEU──つまり多数派であるローマ正教の都合の良いように改変され、そして兵器までもが独占される。

民主主義の名のもとに、イギリスという国そのものが貶められているのだ。

 

『しかし、だからと言ってすぐ脱退、という訳にもいきません』

『だろうな。下手に脱退すれば通貨価値の下落は避けられん。シティ*2が暴落でもすれば、その影響は世界に及ぶだろう』

『加えて、脱退か残留かで世論が二分されます。移民の影響を強く受けている南部は脱退、逆に北部は残留を支持するでしょう。そうなれば独立問題が再燃します』

 

こうなるのではないか、と漠然と抱いていた考えを見事に当てられた。半ば確信めいたその結論は、確かな情報と推測があってものだろう。

 

『なるほど。国民投票をするにせよ、決定的な打開策がなければ泥沼化するという訳か』

『そもそも国家の命運を左右する選択を、たった一度の投票で決める方がナンセンスです。少数を尊重すると嘯く現代の民主主義なら、なおのことです』

『ほう。ではひと昔前の王政にでも戻れというのか』

『専制政治は国家形態のひとつであり、絶対悪ではありませんよ。歴史が否定したためそう見えるだけです』

 

……民主国家の王女に対してよく言えたものだ。これが専制主義者なら引っ捕らえるところだが、カナデは気にせず紅茶を飲んでいる。

 

カナデは誘導している訳でも、ましてや敵対している訳でもない。ただ道を示しているに過ぎないのだ。

そして言外にこうも言っている。可能性は示した、だから後は自分で選べ。選ぶのならば、その責任を背負う覚悟をしろ、と。

 

『………』

『いかがなさいましたか、キャーリサ様』

『……カナデ。重ねて質問するが、ローマ正教がイギリスを陥れるなら、まずはどうすると思う』

 

ティーポットに伸ばした少女の手が止まる。身長差の関係で、上目遣いのように見えるその目が僅かに大きくなった、ように見えた。

性格からしても、立場からしてもおかしな質問だと思う。極東の街の小さな少女に、こんな事を聞くなんて。

 

『……いや、すまない。変な事を聞いたし』

『いえ、構いません。国の趨勢を案ずるのは当然のことです。キャーリサ様が憂いているのは、近年ローマ正教の動きがエスカレートしている点でしょう』

『あ、ああ。まあそーなるな』

 

少女はカップを置き、ゆっくり目を閉じた。

今、その小さな頭の中ではどれだけの知識が動き、どんな戦略が広がっているのだろうか。

やがて目を開いた瞬間、その蒼く鋭い視線に思わず身構えてしまう。

 

『考えはまとまったか?』

『はい。初めに断っておきますが、これはローマ正教が選ぶ可能性のひとつです。頭の片隅に置いておく程度の認識でいてください』

『分かっている。与えられた情報を鵜呑みにするような私ではない』

『では──まずはユーロトンネルの爆破が考えられます』

 

いきなり物凄い言葉が飛んできた。ある程度の覚悟はしていたものの、さすがに予想外すぎる。何とか動揺は見せないようにしたが、この少女には見破られているかもしれない。

 

『……続けてくれ』

『はい。ユーロトンネルはイギリスにおける貨物輸送の要所です。それが機能不全になれば、イギリスの物流は滞るでしょう』

『海と空があるだろう』

『港も空港も、ユーロトンネルの利用を前提に数を減らしたでしょう。キャパシティに対し過剰な供給をしても飽和するだけです』

『ふむ……なら冷戦期のベルリンのように大空輸作戦を──』

『そこで航空機事故を起こします』

 

遮るようにカナデが言った。言われて、ようやく気付いた。

冷戦期は連邦という強大な『敵』がいたからこそ、西欧諸国は協力できた。合衆国という強力な後ろ盾があったからこそ、勝つことができた。

しかし今回の『敵』は?

 

『トンネル爆破の直後に、ほんの1機の輸送機に手を加えればいいのです。狂信的なテロリストを送ってもいいですね。そうすれば信用は揺らぎ、各国は輸送機を出し渋るでしょう。それだけで大空輸作戦は頓挫します』

『……しかし、現代の技術があれば海底トンネルなどすぐに塞げるだろう』

『『外』の技術なら半年ほどでしょうが、それだけあれば世論は硬化しますよ』

 

『外』ではなく『内』──つまり学園都市に頼めばすぐに塞げるだろうが、国民性がそれを許さないだろう。旧大英帝国の王族が極東の街に媚びるなど何事だ、と。

それに、そもそもイギリスの食料自給率は7割にも満たない。直接戦わずとも、持久戦になれば先に干上がるのはこちらなのだ。

 

『キャーリサ様。ローマ正教最大の武器は、その信徒の数にあります。そこには狂信者もいましょう。それに少しの使命感を与えるだけで操り人形(マリオネット)は作れます』

『十字教にそんな教えは無いし』

『望むものを示せば、それを喜んで信じるのが人間というものです』

 

その歳で人間の何を知っているのだ──と思ったが、この少女なら何を知っていてもおかしくない。カナデには、そんな底知れない雰囲気があるのだ。

 

『……そんな簡単にいくものか』

『キャーリサ様、人間は噂の奴隷なのですよ。それに自分が望むような色をつけて信じてしまうものです』

『随分な言い草だし』

『何をいまさら。極端な話、教皇聖下がひとこと告げるだけで、学園都市も世界の敵になるのですよ。『超能力は主に近付き、陥れんとする行為である』とかね』

 

それを想像したのか、ふふっとカナデが笑う。

十字教を軽んじているのか、それとも理解したうえで笑える程度なのか判断がつかない。年相応の笑みなのに、その真意が計り知れないのだ。

 

『……あまり時間は残されていない、ということか』

『キャーリサ様』

『ん?』

『使命感のみに従って行動を起こしてはなりません。自らの正義と信念に従う者にのみ、ヴィクトリア*3は目を向けるのです』

 

自然と下がっていた目線を上げると、つり目がちの蒼氷玉(スイスブルー)の輝きが私を射抜いた。

それは今までと異なり、僅かに熱のある言葉だったように思う。いつの間にか握っていた拳が、音もなく解かれていく。

 

『……お前には本当に驚かされてばかりだし』

『恐縮に存じます』

『ちなみに参考だが、カナデ。そなたが他国を陥れるならどうする』

『私ですか。その国が握る全ての秘匿情報を突きつけて、大人しく降伏を迫りますかね』

 

淡々と放たれた言葉に、思わず声を上げて笑ってしまった。

確かにそれは、誰もが考えつくほどシンプルで効果的で、しかし実行できない強行策である。それをこの少女は、当然のようにやると言ったのだ。『やれる』と宣言したのだ。

 

子供と本気で喧嘩する大人がいないように、戦いは同じ次元の者同士でしか起きない。それを国家単位で出来てしまうような少女を前にすれば、もう笑うしかないだろう。

 

『ははは!カナデは本当に愉快だな!どれだけ私を驚かせれば気が済むのだ!!』

『恐縮に存じます』

『あまりに聡明だから、このまま王室にスカウトでもしようかと思っていたが……これはダメだな。そなたは王室に収まるような器ではなさそーだ!』

『私をからかっているのですか?』

 

笑いすぎて涙が浮かんでくる。カナデの歳がもう少し近ければ、さぞかし良い友人になったことだろう。王室の権力を濫用し、こうして私的に呼び出したいほどに。

落ち着こうと私も紅茶を飲むが、冷めていて全く美味しくない。カナデがおかわりを注いでくれたが、淹れ方も当然のように流麗である。

 

『いーや、カナデさえ良ければ本気でスカウトしたいが、どーだ?王室として最高の待遇と職務を保証するし』

『身に余る光栄ですが、ご辞退させていただきます』

『はは、そーか。カナデの目標はあの街の玉座にあるのか?』

『学園都市は学生の街です。あの街の王位は初めから学生(私たち)のものですよ』

 

また笑いそうになる。王位は私たちにある、と面と向かって言われたのは生まれて初めてだ。

なるほどな。普段からこの意識があるからこそ、カナデは『王』たりえるのか。

 

『私たち、か。そなた自身は玉座に興味は無いのか?』

『あいにく、私は支配を強要するのも、されるのも嫌いです。ある程度の権力は必要ですが、自ら近付きたいとは思いません』

『……なるほどな。だから副委員長(No.2)という立場に甘んじているのか。ではなぜ風紀員長(ジャッジメント)になったのだ?』

『人を守りたいと思うことに理由は必要ありませんよ』

 

カナデはそう言い、ただ微笑むだけだった。底知れぬ野望を感じさせるような、しかし何も無いような、不思議な笑みである。

人を守りたい、しかしそれだけではないだろう。それを示すなら──

 

『──信念、とゆーやつか。なるほどな、久しく忘れていたかもしれん』

『己の信念に従い、正しいと感じた行動をとるべし。それが風紀委員の原則です』

『ははっ、よく刻んでおこう。そなたも──と言いたい所だが、さすがに夜も遅い。そろそろお開きとしよーか』

 

時計を見ると、既に日を跨いだところだった。楽しすぎて数時間も話し込んでいたらしい。

本当はもっと話したいが、そうもいかない。なんせまだ1日目だ。社会見学はまだ2日あるし、話す機会などいくらでもある。

カナデが成人していれば、会話を肴に上等なワインでも飲み交わしたいところだが、その楽しみは未来にとっておこう。

 

『今日はそなたを呼んで良かった。おかげで有意義な時間を過ごせたし』

『私もです、キャーリサ様。では』

『また明日な』

 

握手を交わた後、美しい跪礼(カーテシー)をしてカナデは退出した。

その瞬間、応接間が急に広くなった錯覚に陥る。慣れたはずのその部屋に、私は寂しさすら感じていた。

右手に残った、想像以上に小さかった手の感触だけが、それを拭うように温かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ、はっ……」

 

ピンクのパーカーにビキニのおかっぱ少女、烏丸府蘭は夜の街を走っていた。フードについたウサミミみたいなアンテナが不規則に揺れている。

目的地は定めていない。どうすべきかも分からない。先ほどの黒い少年の言葉に従っているだけだった。

 

「(わ、私は何を……逃げるにしてもどうすれば……いえ、それより──)」

「おい。もういいから離せ」

 

背筋が凍るような声が、すぐ後ろから聞こえた。恐るおそる振り返ると、不機嫌そうな少女がそこにいた。

ブランド品の白いブラウスに黒のタイツ。肩にかかる金髪は美しく、水晶のような青い瞳によく映えていた。12歳程度という年齢も合わさり、外見だけなら良い所のお嬢様のように見える。

 

しかし、その手に染まった血の量を考えれば、この女を『少女』と呼ぶのはどうしても抵抗があった。

 

「追われるのはいいが、連れて行かれるのは慣れん。自分で走れるから手を離せ」

「な、なにを……」

「それとも何だ。私をこのまま『必要悪の教会(ネセサリウス)』に引き渡すつもりか?それならそれで構わんが、抵抗はさせてもらうぞ?」

 

握っていた小さな手が振り払われる。瞬間、猛獣のリードを手放してしまったような不安が全身を襲った。

『女』はその場で立ち止まり、ぱんぱんと面倒くさそうにスカートの汚れを落とした。襲われた事など露ほども気にしない、言わば()()()様子が恐ろしい。

 

「ねせさりうす……?」

「惚けるならもっと早くから徹底しておくことだな。お前が魔術師であることくらいとうに分かっている」

「………」

「お前も私を知っているだろう。ならお互い様だ。見た反応でそれくらい分かる」

 

年に反してあまりに落ち着いた、ともすれば不遜とも言えるその態度。本気になればお前などすぐ消せる、言外にそう語っている。しかし、それが事実である事は理解していた。

 

レイヴィニア=バードウェイ。

イギリスで最大規模を誇る魔術結社『明け色の陽射し』のボスにして、埒外の実力を誇る魔術師であった。

 

「(バレたなら戦いますか?馬鹿な、この女が本気になれば、私など歯が立ちません。でも、この女を捕らえる機会なんてそうそう……)」

「戦いたいなら止めはせんが、後のことは知らんぞ。いちいち処理をしてやるほど博愛に満ちてはいない」

「──ッ!!」

「もっとも、あの少年は本当に知らなかったようだがな。ははっ、あんな扱いをされたのは久しぶりだ。笑いを我慢するのが大変だったよ」

 

バードウェイがけらけら笑う。込み上げるのを我慢するようなその笑いは、もはや貴族のそれに近かった。

敵の前で笑うなど傲慢そのものだが、それが許される力があるのもまた事実だ。

 

「しかしどうしたものかね。あの少年が無事で済むとも思えん」

「……意外ですね。あなたのような人が他人の心配をするなんて」

「多少はな。なんせ魔術のまの字も知らんような仔羊だ。少しは申し訳なくもなるさ」

「分かっていて置いていった、ということですか」

「おいおい、私は『逃げろ』という言葉に従っただけだぞ。もっとも、あの男も()()()()()ではなさそうだが」

 

……やはり前原ちゃんは能力者だったのですか。()()()()()()()()()、実際に見ると迫力があるというか、違和感が凄いのです。

水面を走り、10メートルを軽く飛び越え、炎を跳ね返すという異能。それを超能力という『才能』だけでやるのだから驚きだ。

 

「恩を売られるのは性に合わん。次に会うことがあれば、頼みの1つでも聞いてやると伝えておけ」

「………」

「何だ。お前もアイツが能力者と分かって近付いたのだろう。目的はDNAマップか?」

「そんなんじゃ……」

 

確かに能力者のDNAマップは貴重だ。もし能力の解析が成功すれば、魔術サイドにとてつもない利益をもたらすだろう。

 

しかし、なんだか嫌なのだ。

彼は能力者だが、それ以上に優しい少年である。見知らぬ女を守るために、魔術という得体の知れない力に挑める者が、果たしてどれだけいようか。

 

「ほう、随分と買っているじゃないか。まさか惚れでもしたか?」

「私がそんなに悪趣味に見えますか」

 

ふんっ、とバードウェイが笑う。わざとらしく私を見て、もう一度鼻で笑った。

明らかに私を馬鹿にしている。しかし敵対はできない。そんな事をすれば、叩き潰されるのは明白だ。負けが確定している喧嘩を買うなんて──

 

「……そんな格好をしている奴に、ロクな趣味の奴はいないと思うが」

「は?ぶっ殺しますよ?」

 

女には、負けると分かっていても引いてはならない戦いがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
旧約18巻を参照

*2
ロンドン市場のこと。ニューヨーク、東京と並び世界三大金融市場のひとつ。

*3
ラテン語で『勝利』を意味する女神。特に戦争における勝利をさす場合が多い。

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