とある風紀委員の日常   作:にしんそば

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第76話

 

 

 

 

 

ひゅう、と風の音が聞こえる。

学園都市の夜空は明るく、ベランダに出ても星はよく見えない。遠くに見える、天を貫くような青い塔だけが、街の明かりを受けて鋭く光っていた。

 

エンデュミオン。

物資を宇宙まで運ぶ超巨大エレベーターにして、鴇色の長髪を毛先で結んだ少女──鳴護アリサが目指すステージである。

 

「………」

 

アレを建てた企業こそ、あたしの契約元であるオービット・ポータルである。

『88の奇蹟』と謳われたオリオン号の事故から、僅か1年。そんな短時間で建設・完成に至った事は、まさに『奇蹟』と呼べるだろう。

 

「……正式発表は来週、か」

 

そのエンデュミオンの完成セレモニーにて、史上初の宇宙ライブを行う、と影の噂で聞いた。そのライブの主演があたし、という事も。

 

「………」

 

ただの噂、しかし否定要素が無いのも事実だ。

現在、オービット・ポータルが抱えるアイドルはあたしだけだ。他を招くにしても、セレモニーは今月の中頃だ。準備する時間など既に無い。

 

「(……本当にあたし、なのかな)」

 

本当に歌えるのなら、とても嬉しい事ではある。しかし、納得できる事ではない。

 

エンデュミオンという国家規模のプロジェクト。その重要なセレモニーを、どうしてデビューして間もないあたしに任せるのか。正気の沙汰とは思えない。

 

「……はあ」

 

所詮は噂だ、と青い塔に背を向ける。

ガラス越しに室内を見ると、女の子達はおしゃべりに、男の子達はゲームに興じているのが分かる。

そんな『普通』の光景が、どこか遠くに感じる。

 

「(……なんか、いいなぁ。こういうの)」

 

あたしには1年より前の記憶が無い。

最初の記憶は施設だし、家族や友達と呼べる者は誰一人いなかった。アリサという名前もそこで貰ったが、意味なんて聞いたこともない。

結局、あたしは記憶を取り戻すこともできず、能力も発現しなかった──そんな中で唯一できた事が、歌うことだった。

 

「………」

 

歌うと決めてからは作詞作曲で、デビューしてからはレッスンで忙しくなった。

食事を楽しむ時間は無いし、それを共有する相手もいない。それこそ、みんなで焼肉なんて想像したこともない。

 

だけど、今日は楽しかった。

それだけは胸を張って言えた。

 

「──?」

 

コンコンッという音に顔を上げる。すると黒を基調とした制服の少年──将貴君がガラス戸を開き、ベランダに入ってくるのが見えた。

 

「よう。隣いいか」

「うん」

 

彼はあたしに微笑むと、少し距離を置いて横に並んだ。遠すぎず近すぎない、絶妙な距離である。

 

「ごめんなアリサ。こんな騒がしい所に呼んで」

「……ううん、楽しかったよ」

「そりゃ何より。けど、元春の誘いにホイホイ乗ったのは良くないぞ。アイドル以前に女の子として」

「将貴君が来るなら大丈夫かなって。今日も助けてもらったからね」

 

あたしも考えなしについて来た訳ではない。

あたしを2度も助けてくれた将貴君だからこそ、その友人を信用したのだ。お礼をする機会が欲しかった、というのもあるが。

 

「改めて言うね、将貴君。助けてくれてありがとう」

「いーよ別に。仕事だしな」

 

ははっ、と将貴君が小さく笑った。右腕に通った緑の腕章が存在を主張している。

彼にとって、この程度の人助けは何でもないらしい。

 

「なあアリサ。聞きたいことがあるが、いいか?」

「いいけど」

 

ふと声の『質』が変わるのが分かった。朗らかな雰囲気が霧散し、将貴君がまっすぐにあたしを見つめる。

 

「アリサも見た、あの『蜘蛛』についてだ。アリサは何か知ってるか?」

「ううん、あたしも初めて見た」

「やっぱりか」

 

将貴君は顎に右手を添えて、考えるような仕草をする。思い当たる節があるのだろうか。

 

警備員(アンチスキル)じゃない?守ってくれたんだしさ」

「かもな。けど、その場で事後処理をしなかったのは変だと思う」

「たしかに」

 

うーん、と並んで考えるも、納得のいく答えは出ない。

ふと、意味も無く将貴君を見ると、彼も顔を上げてあたしを見てきた。当然、目がバッチリ合ってしまう訳で。

 

「………」

「………」

「……なに?」

「……何でもない」

 

ふいっと将貴君が顔を逸らした。意外と可愛い所あるんだ、と思わず笑ってしまう。

 

「明日は何か予定あんのか?」

「午後から撮影と、あとはレッスンかな。何かあった?」

「いや、『蜘蛛』の事で少しな」

 

将貴君が心配するようにあたしを見る。

まあ2度も災難に遭い、あんな兵器を見れば心配もするだろう。ましてや彼は風紀委員(ジャッジメント)なんだし。

うーん、心配させたままなのも悪いし、どうしよう。

 

「……まあいいか。つーか、もう遅いけど、今日はどうするんだ?帰るなら送るけど」

「ううん、泊まるつもり。もっと話したいってインデックスちゃんも言ってしさ」

「……正気か?」

 

信じられない、とでも言うように、将貴君が目を丸くした。

この機会だ。せっかく出来た『友達』とおしゃべりしたい……のだが。

 

「こういうの初めてだから遊びたいんだけど……ダメかな?」

「……別にいいけど、必ず男女で分かれるように。何かあったら大変だからな」

「そんなに部屋あった?」

「俺の部屋があるから、そこでよければ」

 

はあ、と将貴君が大きな溜息をついた。

むむ、将貴君たちとも遊びたいのに……流石にまずいか。そりゃそうだよね。

 

「将貴君達はよく遊ぶの?」

「まぁね。時間があればよく集まるよ」

「ホントに仲良いんだね。少し羨ましいかも」

「だからって、男との距離感には気を付けろよ。警戒感が無さすぎるぞ」

「そう?」

 

ふふっ、と並んで笑ってみる。確かに、ほぼ初対面の男の子の家で寝るなんて、普通に考えておかしいと思う。

 

けど、なんでだろう。

将貴君とは波長が合うし、信頼できるって思えてしまうのだ。本当に、なんの根拠も無く。

 

なんでだろうね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なに話してるのかな」

 

ぽつりと中村涼乃は呟いた。

視線の先のベランダでは、将貴とアリサちゃんが笑っていた。2人はほぼ初対面のはずだが、気まずい、という雰囲気ではなさそうだ。

 

「涼乃、なにを見て……ああ」

「な、なにさフッキー」

「いえなんでも。ご馳走様」

「違うってば」

 

親友のフッキーがくすくすと笑う。柔らかな笑顔だが、先ほどの焼肉では鬼神と化していたのが何とも言えない。

 

「俺らはこのままオールするけど、2人はどうするのかにゃー?」

「普通に帰るわよ。涼乃だって明日は仕事でしょ?」

「え、もうこんな時間?」

 

時計を見ると、既に23時過ぎだ。

確かにもう帰らないと、明日の仕事に支障をきたしてしまう。夜更かしは肌にも悪いし。

 

「アリサちゃんは帰らないの?」

「ふふん、アリサは私とがーるずとーくをする予定なんだよ。今夜は寝かせないかも!」

 

上条君の謎の同居人──インデックスちゃんの頭を撫でる。すると、ベランダから戻った将貴が何かを察して玄関に向かった。私が帰るから送っていく、そういう意思表示だろう。

 

私は暗闇に対してトラウマを抱えている。それを抑えるべく、帰りは将貴と一緒にいる事がほとんど──なのだが、最近、改善の兆しがあるのだ。

 

「ううん、大丈夫。フッキーと帰れるから、将貴は楽しんでて」

「え。だってもう真っ暗だぞ?」

「大丈夫だって」

 

将貴の服を引いて、そっと耳打ちする。近くから将貴の吐息が聞こえて、少し鼓動が早くなる。

 

「最近ね、夜が前より怖くないんだ」

「え?」

「だから大丈夫。これも治療の一環になるし、何かあったらすぐ呼ぶからさ」

 

将貴が心配そうに私を見るが、気持ちは分かる。

私のトラウマ──それ以上に危険なのが、誘発する空間移動(テレポート)だ。錯乱して、紙の1枚でも飛ばせば大変な事になる。

将貴といれば落ち着くのだが、それだけではいずれ依存になる。だからこその荒療治だ。

 

「……何かあったらすぐ呼べよ。飛んで行くから」

「うん、頼りにしてるね」

「あのー、おふたりさん?もういいかにゃー?」

 

土御門君がおそるおそる声をかけてきた。見ると、インデックスちゃん含め全員が生温かい目で私達を見ている。

確かに今の私は、傍から見れば将貴の頬にキスしてるように見えなくもない。

 

「すずのとしょうきはこいび──もがっ!」

「インデックス、しー、しーっ!」

 

はあ、とフッキーが溜息をつく。周りも同じような反応で、ここにいるのが急に恥ずかしくなった。

思わずフッキーの手を引いて、そそくさと部屋を出ていこうとする。

 

「も、もう帰るからじゃあね!ご馳走様!」

「ちょっ、いたたた!引っ張らないでよ!」

 

ドタドタドタ!と部屋を出て、フッキーと並んで帰路につく。

やがて冷静になり、暗くなった空が目に入る。瞬間、手足に虫が群がるような、壮絶な嫌悪感が私を呑み込んだ。

 

「──っ!」

「……涼乃?」

「……っ、何でもないよ」

 

フッキーが不思議そうに私を見るが、気付かれてはないようだ。

やはりこの感覚は嫌だが、最初に比べれば全然マシだろう。なんせ、最初は錯乱して部屋中を切り裂いたりした訳だし。

 

「ねぇ、前原と何かあったの?」

「何かって?」

「私を誘って涼乃を誘わないなんて変でしょう。喧嘩でもしたの?」

「……あー。それは、まあ」

 

先日のウイスキーボンボンの事を思い出し、苦笑いする。

まさか将貴が、あそこまでお酒に弱いとは思わなかった。買ってきた私も悪いが……私に何もしなかったのがムカつく。黒子ちゃんはあんな可愛がったくせに、もう。

 

「……深くは聞かないけど、早くしなさいよ?」

「早くって?」

「告白に決まってんでしょ」

 

なんか固法先輩みたいな事を言ってきた。

そんなに分かりやすいかな、私。まぁ将貴は気付いてなさそうだけど。将貴って鈍感だし。

 

「あはは……」

「あのね、後回しにして良い事なんて何も無いのよ?前原、あれで結構人気あるんだから」

「え、そうなの?」

「そりゃね。頭も運動神経も良くて、現役の風紀委員だもの。条件としては中々よね」

 

……た、確かに。一緒にいすぎて気付かなかったけど、将貴って割と……いや、でも将貴は恋愛とか興味無さそうだし、大丈夫でしょ。

 

「し、将貴に彼女が出来たことなんて一度も無かったよね。だから大丈夫だよ」

「……そりゃ涼乃がいるからね」

「え?」

「何でもないわよ」

 

フッキーがもう一度溜息をつく。

諦めたような表情にむっとするが、悪意が無いのは分かっている。いや、だからこそフッキーが本気なのも分かるけど……それでも、無理なものは無理だ。

 

「……できないよ。今は、まだ」

「……そう」

 

ぽつりと呟いて、それ以降何も話せなくなる。どこか遠くで枯れ枝が揺れる音が、やけに鮮明に聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前原将貴には師匠がいる。

名を黄泉川愛穂といい、警備員でも飛び抜けて強くて、厳しくて、そして優しい女性だった。

 

八月十日事件後、能力に溺れそうになった俺を、師匠は正面から怒鳴りつけた。ぶたれた頬は痛かったけど、それ以上に強く抱き締めてくれた。

能力ではなく、この俺としっかり向き合ってくれた。その姿勢に何度救われたことだろう。

 

「おうおう月詠センセ、良い飲みっぷりじゃん」

「黄泉川先生は少し飲みすぎですよー。へい大将、お水をお願いしますー」

 

だからこの飲兵衛も、俺は受け入れるべきなのだ。酒臭くて面倒臭くなろうとも、俺はこの人を敬愛すべきなのだ。

 

「……なにしてんすか、師匠」

 

俺が来たのは第五学区、とある赤提灯の屋台だ。

焼肉が終わり、アリサとインデックスを俺の部屋に案内して、さあゲーム大会の幕開けだ──と思った矢先の呼び出しだ。流石に対応も冷たくなる。

 

「あ、前原ちゃん!ほら先生、お弟子さんがお迎えに来ましたよー」

 

俺を呼んだ月詠(つくよみ)先生に会釈する。身長135センチという、ランドセルとリコーダーが似合いそうな女の子だが、れっきとした高校教師である。

 

「前原だと?こんな時間に……上等だ。次の訓練を楽しみにしてるじゃん」

「月詠先生に呼ばれたんですが」

「はっはっはっ!そうだったかあ!?まあ座れ!」

 

師匠がジョッキ片手に大笑いする。酒の匂いが脳に刺さり、くらりと視界が揺れる。

普段はジャージ姿が妙に艶っぽい師匠だが、今はその片鱗すら無い。残念美人とはこの事か。

 

「師匠、ほら」

「おお、こりゃうまい。なんて酒じゃん?」

「水です」

「ぶぁっはっはっは!!」

 

ふとイギリスのパブを思い出した。酒には強いはずだが、ここまで飲むとは珍しい。

 

「すみません前原ちゃん、突然呼び出して。私1人じゃ止められなかったのですー」

「いえ、大丈夫です。師匠がご迷惑をおかけしました」

「いーえー」

 

師匠に比べ、月詠先生はほんのり赤いだけだ。もしや師匠以上の酒豪なのだろうか。

というか、見た目小学生の女の子がジョッキ片手に煙草を吹かすなど、教育者が泡吹いて倒れそうな衝撃映像である。

 

「師匠、飲み過ぎですって」

「お前も飲むか?千年の孤独」

「いりません。ほら、帰りますよ」

「なんでだよぉ!いいじゃないか!けち!!」

「くえっ」

 

メニュー表をひったくった瞬間、師匠が思い切り肩を掴んだ。玩具を取られた子供のようだが、師匠がやった場合は普通に人災である。

 

「今日は珍しく悪酔いしてますねー。タクシー呼びましょーか?」

「お願いします。僕が同行するので」

「運ぶ、だとぉ?前原の分際で生意気な……」

 

ガシガシと頭を掴まれる。普通に痛い。

というか、酔っ払ってまず呼ぶのが俺なのか。彼氏の1人くらい……いないか。これだもの。

 

「………」

「いだだだだだ!?」

「何か言ったか?」

「言ってません!!」

 

腕を抓られ、酒でくらくらしていた思考が目覚める。おのれ、だから貴女はモテないんだぞ。

 

「くそう、前原はいいよなあ。女もたくさんいるし、退屈しないわなあ……」

「人聞きの悪い……」

「わかるわかる。いいんだよ前原。お前がモテるのはわらひも嬉しいからなあ……」

 

ついに呂律が回らなくなったらしい。目も細くなり、寝落ちするのは時間の問題だろう。

そうなる前に帰さないと……と思ってたらタクシーが来た。ナイスタイミング。

 

「大丈夫……わらひはまだしらふじゃんよー……うん……」

「(酒臭ぇ……やばい、また酔いそう……ふへ)」

 

月詠先生に挨拶して、さっさと屋台を後にする。師匠の家は知ってるし、あとは何とかなるだろう。

 

「師匠、大丈夫ですか」

「なんだ前原ぁ、心配してくれるのかぁ?かはは、優しいやつじゃん……」

「何でこんなに飲んだんですか。らしくもない」

「私だって呑みたい時はあるじゃん。特に最近はな」

「何かあったんですか?」

 

すん、と師匠が急に静かになる。さっきまでの雰囲気が無くなり、懐かしむように目を細めている。

 

「……先日、お前が入院したと、聞いたじゃん。脳が焼き切れるほど能力を使ったと……」

「……よくご存知で」

「お前ほどの奴が、入院するなんてありえないじゃん……ましてや、この数ヶ月で何度も……」

 

……その通りだ。

全反射(ハーモニクス)があるのに怪我をするなど、普通じゃ考えられない。ここ最近が異常なだけで、本来なら対等に渡り合うことすら稀有なはずだ。

 

「別に怒ってる訳じゃないじゃん。どう動くかなんてお前の自由だし、好きにするといい……でもなぁ」

「?」

「でもなぁ……お前が戦うという事は、当然でもなんでもないんだよ……」

 

師匠らしからぬ、弱々しい呟きだった。願うようなその一言に、ずしりと胸が重くなる。

 

無意味な戦いは可能な限り避けるもの。

一方通行(アクセラレータ)や魔術師との戦いがまさにそう。偶発的に巻き込まれた戦いなど、立ち向かったところで何になると言うのだ。

 

──だが、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「逃げるという選択肢を無くさないでくれ……じゃないと、いつか取り返しのつかない事になるじゃん……」

「……約束はできません」

「……だろうな。それで素直に従うなら、ここまで困ってないじゃん」

 

くしゃりと、師匠が俺の頭を撫でた。先ほどとは違い優しい手だ。俺を見る優しい笑みには、恋慕とは別の愛を感じる。

 

「お前は私の弟子だ。勝手に倒れる事は許さないじゃん……もし破ったら、お前に、地獄を……」

 

次第に声が小さくなり、やがて師匠は眠ってしまった。酒臭い息が車内を満たし、鼻の奥がつんとする。

 

「……素直で良い子じゃなくてすみません」

 

ぽつりと本音が漏れる。

この人に心配させたくはない。しかし、涼乃に憧れを抱くのなら、逃げてはならない時もある。

こんなチカラを持つなら、尚更に。

 

「お客さん、着きましたよ。お会計お願いします」

「えっ」

 

30分後、なんとか師匠を運び終えた俺は、ふらふらの足で寮まで戻ってきた。今は何時か分からないが、既に日は跨いでいるだろう。

 

「うー、あたまいてぇ……ふへっ」

 

視界がぱちぱちして、時折ぐにゃりと足元が歪む。愉快だが慣れない奇妙な感覚である。

 

「(よってる、よな……きょうは当麻たちとゲームを……いや、かえってねよう。へんなことするかもしれないし……おとなしく……)」

 

明日は何も無いはずだし、家に帰ればどうにでもなる。あと少し頑張れ、自分。

 

「ただいまぁ……」

 

自宅に着くと、その瞬間に力が抜け落ちた。明かりを点けるのも億劫なので、歯だけ磨いてすぐ寝ることにする。

風呂とか洗濯は明日の朝やろう……けど、ネクタイとズボンは脱いでおくか。制服に皺がよったら嫌だし。

 

「うーん……」

 

ベッドに横になり、近くの枕を手繰り寄せる。うん、なんだか気持ちいいし、よく眠れそうだ。

 

……ところで、枕ってこんなに柔らかかったか?

 

良い匂いするし……洗剤かえたかな。

 

………。

 

……まあ、いいか。

 

「ぐー……」

「くー……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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