少女は夢を見ていた。彼女は眠りの中で自分の意識があるように錯覚するほど、はっきりと見えていた。
小学二年生になる少女の言葉では表せないほどの恐怖に満ちていた夢。
瓦礫は崩れ落ち、周囲は炎に囲まれ、人々は野たれ死ぬ光景。当然ながら彼女から言葉が出てくることはなかった。
彼女が上を見上げたその瞬間だった。彼女へと瓦礫が落ち、そこで初めて目が醒める。
「またあの夢…見たんだ。」
小学二年生になる少女。川上 千佳はこの夢を何度も見ていた。無論、こんな地獄絵図など現実で見たことはない。
「そろそろ起きろよ?学校遅れるぞ?」
唯一の家族である兄 。川上 孔明に千佳はそう言われると時計をとっさに見た瞬間、孔明へと強烈な蹴りを一撃与えた。
「いってぇぇええ!!お前何すんだ!」
「こっちのセリフよ!!」
千佳を起こしたのは六時五十分。彼女が登校しなければならない九時までには勿体無いほどの時間が有り余っていた。
「全然時間あるじゃん!何で起こすの!?」
そう言うと千佳は瞬時に布団へとこもり、また寝始めた。
「じゃあ、俺行くからな。飯食っていけよ?」
孔明がそう言うと同時にドアの閉まる音が彼女には聞こえた。しかし、その音など微塵にしか聞こえていなかった。彼女の見る夢。体感した訳でもないのに、どこか他人のようには感じられないのだ。
「一体何なんだろう。あの夢。」
彼女は疑問を感じながらも、布団の暖かさから抜け、ランドセルを背負った。
千佳の通う「桜小学校」は自他認めるエリート小学校であり、その地元ということで受験も何もなく彼女自身は入ってしまったわけなのだが……
「はい。ここはじゃあ…川上さんに答えてもらおうかな。」
「はい!先生!分かりません!」
周囲は小さい笑いに包まれた。彼女自身、先生も苦笑するほどの勉強が苦手である。しかし、この「わからない」は便利であり、先生は大抵これで見逃してくれるのだ。
「!!?」
千佳は咄嗟に後ろを向いた。しかし、そこには誰もおらず、違う生徒のランドセルがあるだけであった。
「どうしました?川上さん。」
「えっ!?あっ……。なんでもないですよ。」
先生の不審そうな顔以上に千佳は強張った顔をしていた。
「大丈夫か?」
そう声をかけてくれたのは隣の席の高花 浩介である。彼は小学二年生の中ではトップクラスの成績であり、千佳の良き友人でもある。
「あぁ、うん。大丈夫。」
そうか。と一言言うと浩介は前を向いて、ノートを書き始めた。
しかし、千佳にはわからない。さっき感じたあの気持ちの悪い感覚。まるで誘われているようにも感じれた。
「何かあるかもしれない……。」
学校が終わり、たった一人で帰宅しているその途中だった。空は灰色に包まれ、周囲には赤い殺気のようなものに包まれた。
「これって……さっきの。」
彼女がさっき感じた変な感覚。それを大きくしたもののように感じ取れた。もっとも、彼女が恐怖で腰を抜かすほどの殺気だ。さっきのものとは比べ物にならない。
「グルオオオォォォ!!」
大きな雄叫びが聞こえると、千佳の後ろには大きな獣がそびえ立っていた。おそらく千佳の50~60倍ほどの大きさはあるだろうか。色は黒く、目は血が滲んだような赤い色をしていた。
「来ないで……来ないで!!」
近づいてくる獣の殺気に彼女は震えることしかできず、倒れた腰が動かなくなっていた。手足は震え、思考回路は完全に停止していた。
「来ないで……。」
それを言うばかりで、獣はそれを聞かぬかのように近づいてくる。そして彼女から震えが止まった。
「もう…死んじゃうんだね。」
たった一人で育ててくれた兄、そして様々な友に何もできず、ただこんな奴に殺されるのかと思うと、彼女は諦め、絶望の言葉を覚えた。食えばいい。殺せ。そんな風にも見えた。その時だった。
「!!?」
切り裂こうとした爪は一つの光が防ぎ、はじき返してみせた。その光は千佳の心臓へと入っていった。
「あなたは?」
千佳が聞くと光は答える。
「私はアテナ。光の神よ。」
「神…様?」
アテナは頷くと話を続けた。
「あなたに私の力を与えます。沢山の人を守れる力を。」
「守れる…力。」
アテナは笑顔で手を差し伸べた。それに応えるように千佳も手を伸ばした。
その瞬間、彼女は光に包まれ、その光が解けた時には白銀の鎧と紋章の描かれた盾と剣持っていた。
「これが…アテナの力?」
「そう。その盾「イージス」は必ずあなたを勝利に導きます。」
獣が光の弾を何発も放つも、千佳はイージスの盾を前に突き出し、イージスがすべてを吸収していく。
そして千佳が剣を振るうと、先ほど放った光の弾が全部相手に返るように無数の光弾が獣を襲った。
「グルオオオォォォ!!」
「じゃあ、倒しちゃうね。」
少し震えながらも彼女は剣を振るい、大地や空ごと獣を叩き切ってみせた。
その瞬間、赤い殺気や灰色の雲は消えていた。無論、彼女の鎧もなくなっていた。
「あなたの勝利ですね。」
「私…勝ったの?」
そんな疑問符にアテナは笑顔で頷いてみせた。
これが千佳とアテナの出会いの始まりであり、これからの地獄の始まりであった。