千佳はアテナと出会って二週間が経とうとしていた。していたのだが……。
「いつまで私についてくるの!?」
「あのねぇ……。」
アテナは気難しそうな顔で頭を掻いた。それもそうである。アテナは千佳に力を与えた存在。そうそう放っておくわけにもいかないのだ。
「私はあなたを見守る義務があるの。わかる?」
「じゃあ、力なんていらないもん!」
アテナはその言葉に憤りを覚えた。
「あの時与えてなかったらどうなってたと思ってるの!?」
その言葉に千佳は返す。
「知らないよ!力を与えたのはあなたじゃない!」
「あなたそんなこと……」
その先の言葉は千佳のその目の奥に映るものが見えた瞬間、アテナは言うことを留めた。これ以上言えばまた会った時に、自分自身も与えられないかもしれない。もう一緒にいられない。そう思った。思ってしまったのだ。
「確かに勝手に与えたのは私ね。……わかった。私はあなたから離れるわ。」
「そうして!」
その後から、千佳がアテナの姿を見ることはなかった。
あれから一ヶ月が経とうとしていた。あの時のモンスターなどを見ることはなくなった。だが
「あの夢……また見るようになったなぁ。」
そう。アテナといる時には見ることのなかった夢。人々が死んでいくような悲しい夢。不思議なことにアテナといる時には見なかった夢だ。
アテナがいなくなってから気付いたのだ。彼女がいたから、自分自身に変化があったのだと。
自分の寂しさを埋めてくれたそんな存在であったことも。それを彼女は、たった少しのことで突き放したのだ。
「私は……。」
「どうした?そんな重いツラして。」
その後ろの肩を叩いたのは孔明だった。しかし、千佳がその先の口を開くことはなかった。言えなかった。自分を救ったアテナを突き放したこと。我儘でアテナを傷つけてしまったことを。
「お前はそういうとこ昔から変わらないよなぁ。」
「!?」
孔明の悟ったような口調に千佳は驚きを隠せなかった。
「良いか?自分が悪いことをしたと思ったら、その人に対してすぐにでも謝りに行け。これは「母さん」の言葉だ。」
「母さんの……言葉。」
それを聞いた瞬間千佳は走り出した。孔明は安堵の表情を浮かべた。
「これで良かったんだろ?母さん。」
「良かったと思うぞ?」
「!?」
孔明が後ろを向くと、そこにいたのは同級生の渡だった。
「なんだ……渡か。」
渡はいつになく厳しい表情で孔明に問い詰めた。
「お前、いつ話すんだ?お前の親御さんのこと。」
「お前が口出すことじゃねぇだろ。…黙ってろ。」
孔明はその肩を冷たく突き飛ばすようにその横を通り去った。無論、その時に放った渡の舌打ちも彼には聞こえていた。
千佳は走り際に空間の歪みへと入っていった。あの時と同じ灰色の空に包まれていた。
「アテナ!いるの!?」
その声に反応するように現れたのは、三つの顔を持った獣だった。
獣は雄叫びをあげるも、千佳はそこから目を離そうとはしなかった。自然と震えることもなかった。
「私は信じてるよ!アテナと…もう一度戦えるって!」
三つ首の獣が炎を放った。周囲は燃え盛り、周囲の木々に燃え移っていた。
しかし、そこにいたのはアテナの鎧を纏った千佳だった。
「信じてたよ。来てくれるって。」
「ホントに…バカな子。」
アテナのその言葉には涙が映る。
「きっと、ずっと見守ってくれてるって信じてたから。だから逃げなかったんだよ?」
アテナは涙をぬぐい、
「じゃあ、今度こそ本当に一緒に戦ってくれる?」
千佳はアテナの言葉に小さくうなずいた。アテナもその頷きに応えるようにイージスの盾から光を放った。
「さあ、行こうか!アテナ!」
獣の放った炎をイージスに当てると、全てそれに吸い寄せられるようにイージスに炎が集まってゆく。そして、その炎をそのまま三つ首の獣へと炎の弾を放った。
獣は身体中が焼け、いつしか姿を消していった。
「ごめんね。アテナ。」
「良いのよ。これからもよろしくね。千佳。」
千佳とアテナは晴れ空の下、同じ屋根の下へと帰って行った。