プロローグ
「―――――」
呼ぶ声に、返事は返らない。
何故なら返事を返す相手は深い眠りについているから。そうさせたのも自分だった。それも殆ど相手の話を聞き入れずに一方的に。
二度目だったからやり方は覚えていたし、その時に相手は酷く弱っていたから、簡単だった。今の彼は何も知らず何も感じず、ただあの白い世界で眠りについている筈だ。
それでいい。彼に―――こんな業は背負わせたくない。
「これはその罰なのかな。だとしても、僕には君が必要なんだ」
返らないと分かっている相手に語り続ける。聞こえているかも分からないけど、それでも構わない。
聞こえていたなら、起きたときに怒られるだろうな。この馬鹿、お前には俺達の使命が分かっていない………ってね。
腕を組んで、正座する僕を見下ろして、怒る君。怒るのは僕を心配してくれているからだってことも分かっているから、思わず顔がにやける。それで君は顔を真っ赤にして照れ隠しに僕を怒る。そして最後には僕の手をとってくれるのだ。お前が無事で良かった。そう言って。
―――ああ、ああ。
君の姿も仕種も表情も、全て一瞬前の事のように鮮明に思い出せるのに、ただ、君の声だけが霞んだように思い出せない。
「君の声が聞きたいよ………」
僕と全く同じ顔と声をした、けれど性格は正反対の、僕の半身。僕と世界でたった一人、存在を同じくするもの。辛さも苦しみも、ほんの僅かな幸せも、唯一全てを分かち合える相手。
「―――会いたいよ」
ラタトスク。
君が今の僕を見たら、一体何て言うのかな。
きっかけは、コレットが家に駆け込んできたことだ。
「お願い! ロイドを………!」
いつも笑顔の彼女があんな顔をするところは、初めて見た。あの旅の時―――アスカードでの、あのときも、コレットは泣かなかった。
なのに。
「光ったと思ったら、ロイドが、ロイドが………!」
「おちついて、コレット。ね?」
マルタが落ち着かせようとコレットにハーブティーを入れて、ずっと隣にいるけれど、コレットの顔はいきなりこのマルタと二人で借りているパルマコスタの外れの家に駆け込んできた時から暗いままだ。
仕方ないと思う。
ロイドが消えたというのだ。
あの旅から既に数年。
人間として生きるために帰ってきたエミルは、マルタと共に人間としてパルマコスタで暮らしている。エミルという名とアステルの姿を借りたまま、数年かけていまここにいる“エミル”個人を見てくれるひとも少しずつ増えてきて、街の人と打ち解け始めた所だ。
世界再生の英雄たちも各自が世界のために働き、シルヴァラントとテセアラはゆっくりと前に進み出している。
そんな中で、ロイドとコレットはエクスフィア回収の旅を再開した。
………ロイドが消えたのは、その旅の途中であるらしい。
「回収が済んで、わたしとロイドはイセリアに帰ってたの。でも、突然ロイドが光りだして―――」
「光が消えたら、ロイドがいなくなってたんだね?」
「すぐにあちこち探したんだけど、何処にもいなくて………わたし、どうしたらいいか………」
途方にくれて、コレットはエミルを頼って文字通り飛んできたのだ。
エミルは目を閉じ、胸の内に向かって語りかけた。
(………ラタトスク、どう?)
(いまやってる)
人間として生きるために帰ってきたが、エミルは『精霊ラタトスク』だ。もう一つの人格であるラタトスクとは常に繋がっている。
そのラタトスクは話を聞くや、センチュリオンと契約した魔物たちを総動員してロイドを探し始めていた。
(………おいエミル、少し“代われ”)
(見つけたの?)
(少し、面倒なことになってるがな)
言われるまま、素直に体を明け渡す。
「―――コレット、マルタ」
赤い目を見て二人はすぐにそこにいるのが“エミル”ではなくラタトスクであることに気付いた。
「! ラタトスク! ロイド、みつかった?」
「ああ………見付けた」
「ロイドは………? ロイドは、無事?」
「ああ。間違いなく」
「それじゃあ、ロイドは何処にいるの?」
ラタトスクは言い淀んだ。なんと説明したものか。
「この世界にはいない。―――異世界にいる」
理由→エターナルソードの暴走
どうしてか偶然に発動してしまったエターナルソードが暴走して、オリジンの加護で無事だったけどオリジンごと異世界に行ってしまったロイド。
追いかけられるほどの力を持っているのはラタトスクくらいのものなので、リヒターの額のラタトスク・コアを楔にしてラタトスク(エミル)が世界を渡る。