「ねえ、何故君は導師なんかやってるの?」
ハイランドに向けて出発するため、ロイドの準備が整うのを待っていたときだった。
たまたまそこにいたのはスレイだけで、ライラもミクリオもエドナもロイドの方に行っていて。
「ねぇ、なんで?」
エミルは、遠くのロイドをぼんやりと見ていた。スレイの方なんて向いていない。エミルはずっと、ロイドしか見ていない。
それでも声をかけられたからと、スレイはちゃんとエミルの方を向いて答えた。
「オレには夢があるんだ。その夢を叶えるため」
「夢?」
「うん。いつか、人と天族が共存する世界に―――」
「無理だよ、そんなの」
スレイの笑顔がひきつらなかったのは、言葉より何より、エミルの様子が気になったからだった。
穢れては、いない。穢れをエミルからは感じない。だが、その雰囲気は穢れて気力をなくした人間たちに良く似ていたのだ。
「人に天族が見えないってのもあるけど、天族の方もそんなの諦めちゃってる」
光がない。ぼんやりしていて、生気がない。
「人は天族や穢れを知覚できない。天族は穢れを生む人を忌避して拒絶してる。どっちも、共存なんて望んでない」
―――スレイは、後々気付く。
「君だって、その力を恐れられたり、それで疎まれたりしたことあるでしょう? どうしてそこまで他人(ひと)に尽くすの?」
それは、心が壊れたひとの目だった。
「何もない平和な世の中なら好き勝手に言って、乱れた世の中では都合の良い救いを願って。救世主が期待通りなら持て囃して、違えば手のひらを返してあっさり貶める。結局、そんなものだ」
エミルの空っぽの目がスレイに向いた。
「そんな人たちのために、君が君の人生を棒に振って苦しむ必要なんて、ないと思うけど?」
その時は、そこでロイドの準備ができてエミルを呼びに来たから、話はそこで終わった。
でもそれからずっとスレイは考えている。
『自由に、自らの思う道を生きよ。お前の人生を精一杯』
送り出してくれたジイジに恥じることのない人生。夢を追いかける人生。
でも。
―――何故導師なんかやってるの?
エミルの声が、耳に残って離れない。
………………
・ロイドとエミルはハイランドへ(→次の話)。
・スレイたちはゲームと同じでロゼと遺跡に行って憑魔に遭遇するんだけど、天族からロゼを誘う話は出ないし『真の仲間』発言もしないしロゼを従士にはしないしロゼも神依化しない。デゼルも陪神にならない。
遺跡は………あれくらいの距離なら、イズチの崖を飛び移ってたスレイならきりもまなくてもイケる。あとはエドナとミクリオが空間を一時的に凍らせて道作るとか。
憑魔戦、スレイの動きが鈍くて何度もピンチになるし、なんとかどうにかこうにか追い払うことに成功。
↓
ロゼがもやもやしながらスレイと会話。
「さっきのあれは………憑魔、なんだよね」
「そうだよ」
「あたしにはただの風の塊にしか見えなかった。スレイには、どう見えてたの?」
「うーん、二足歩行する蜥蜴? じゃないな。羽あったし、竜みたいな人みたいな………」
「………スレイには、本当に天族や憑魔が見えてるんだね」
↓
翌日、ローランスに向かおうとする一行の前にロゼが。
「あたしもいく」「言ったっしょ? あんたが殺さなきゃならない奴かどうか見極めるって」「それにあたしら『セキレイの羽』の力があれば便利だよー?」
「あたしは、あんたたちに『セキレイの羽』として力を貸す。あんたたちはその代わりにあたしをつれてってくれればいい。どう?」
↓
ハイランドに行ったロイドとも繋ぎをつけてくれると言うし、ロゼの霊応力だと憑魔に襲われるかもしれないことを心配したスレイ(本当は暗殺者やってることも気にしてる)がじゃ、一緒に行こう、て言ったので同行。当然ながらデゼルもついてくる。
↓
セキレイの羽の隊商に同行してラストンベルに入るが、やっぱり儀礼剣であることを見付かってあの茶番をやる。天族が見えてない聞こえてないロゼから「よくあんなの思い付いたねー」「あれは、ライラ達が………」「え、天族って何者………?」ってな会話をする。
↓
聖堂でセルゲイと会って枢機卿と教皇の話を聞き、目的地をローランス首都ペンドラゴに決定。
………………
長い長い洞窟を抜けて、出た先はマーリンド近くの森だった。
そこからエミルの案内で、ようやくレディレイクに辿り着く。
「うーん、ここからどうしようか………」
「姫というからには王宮じゃない? いくら容疑が掛かっていても、王位継承権がある姫を無理矢理牢には入れられない。精々が王宮の一角で軟禁、じゃないかな」
まぁその無理矢理をやりかねないのが、いまのレディレイクという国だけれど。王国でありながら、王の力が弱すぎるのだ。
だがそんなことをエミルは言わない。ロイドが気にすることではないから―――ああ。
「キミはここで待ってて。王宮に知り合いがいるんだ。聞いてみるから」
「え、なら俺も」
「ううん。僕一人で良いよ。じゃあ、行ってくる」
返事を聞く前に、踵を返す。無意識に足が早まる。早足に、駆け足に………そして、全力で屋根の上を駆けて、王宮を目指す。
なんでだ。
どうして、どうしてロイドを見つけ出せたのに、これでほっとする筈なのに。
―――どうして、こんなに胸が痛むんだ。
………………………
「おい、エミル! ………あぁ、行っちまった」
エミルの足は早い。ロイドでは追い付けない。
にしても。
「なーんか、様子がおかしいんだよなぁ………?」
やけにロイドの前に出て戦おうとするし、何かある度にロイドの方をはっと見るし、………ロイドと目があっても、逸らされるし。
(直接聞けばよかろう)
胸の内から響く声にはもう驚かない。
「無理矢理に聞き出すのは嫌なんだよ。そりゃあ話してくれるんなら聞くけど、………話したくないのに言わせるのは」
(………甘いな)
「よく言われる。けど、それが俺だ」
エミルを、信じているから。
疑いたくないのだ。疑って傷付けたくない。疑っているのだとも、思わせたくない。きっと、そんなことをしたら、………エミルは。
「今のエミルは、放っておけない」
胸の声は少しだけ間を置いて、言った。
(………好きにしろ、我が契約者。間に合えば良いがな)
それきり、聞こえなくなる。眠ったのか、それとも黙っただけなのかは、ロイドには分からない。でもこうなればもう話しかけては来ないのを、ここ数年の付き合いでロイドは知っている。
「………間に、合わせるさ」
胸元を握り締めて、呟く。
その時だ。
「ん、んんんんっ?! ちょ、そこの赤い兄ちゃん!」
「?」
いきなりなにやら切実なものがこもった声で呼ばれて、ロイドは振り向く。と。
職人のような格好の若い男性が、肩で息をして立っていた。
「お、親方! 親方、間違いないこの人だ! ―――なぁっあんた、こないだレディレイクで首飾りを売ったよな? な?!」
「ん、お、おう、売った………けど」
「親方―――っ! 早くはや」
「うるさいぞこのバカ弟子!」
ロイドの目の前で、若い男性が前につんのめった。すぐさま後頭部を押さえ涙目で振り返る。
その先には前掛けをした体格の良い男性。
「なにすんですか親方!」
「うるさいんだよお前は。見ろ、この兄ちゃんも引いてるじゃねぇか。………兄ちゃん、悪かったな。うちの若い奴にはようく言い聞かせとく」
「いや、なんともないから気にしないでくれ。ところで、俺に何か用か?」
「ん、まぁ………その前に確認させてくれ。こないだ売った首飾りとか、作ったのは兄ちゃんか?」
「ああ。全部俺が作ったんだ。………もしかしてどこか壊れてたか?」
作ったのが何年も前で、戦っているときも懐にいれていたから………と不安になったが、彼らの反応を見ると違うらしく。
「兄ちゃん。その腕を見込んで頼みがある。―――頼む! 兄ちゃんのその技術、俺たちに教えてくれ!!」
「お願いします!!」
「―――へっ?!」
………………………
王宮の一角。中庭が見える通路で。
マルトランはふと足を止めた。
「―――あのお方が、何か?」
辺りには誰もいない。気配もない。
なのにマルトランの声に、当然のように返事が返る。
「いえ、今回は何も言われてませんよ」
マルトランは振り向く。少し後ろの、中庭に面した手すりの上に、フードを被った少年が一人腰かけていた。
「僕の個人的な用事で―――アリーシャ姫は、今どうしてますか?」
マルトランは僅かに、しかし確かに目を見張った。
「ふ、ははは! お前が? アリーシャの心配を?」
少年―――エミルは、苦々しい顔をした。
「正確には、僕の知人が姫を心配してる」
「………見付かったのか」
「ええまぁ」
以前、頼まれた尋ね人探し。エミルはその為に災禍の顕主に与しているのだ。特徴は聞いていたから、マルトランは導師と一緒にいた青年を見たとたんにぴんときた。
「ならば導師には会ったな?」
ぴく、と。僅かに髪が揺れて、気配がはりつめた。が、すぐにそれも散る。
マルトランは、災禍の顕主に与してはいるが、サイモンほど心酔しているわけではない。ハイランドの重鎮ということもあって、ほとんどの行為に自由裁量を認められている。
それを思い出したのだろう。エミルはマルトランの顔を見て、息を吐き。
「―――会った」
サイモンならこの時点で災禍の顕主に報告する。もしくは襲撃でもかけるだろうか。
「お前は、どう思った?」
「………バカ、かな。すぐに死にそうな感じ」
「ふ、お前にしては手厳しい」
珍しいことだった。エミルは、この世の全てをどうでもいいと思っている。だから大抵のことに“僕には関係ない”と帰ってくる。今回もそうかと思ったのだが。
そして更に珍しいことに、エミルがなんとも言えない顔をする。
「本当になんなの、あの導師。なんだって、あんなに―――」
くしゃり、と前髪を握り締めて。苛立っているエミルを、マルトランは初めて見た。
「僕としては姫がどうなっても良いんだけど“彼”が気にしてるから、仕方ないんだ。導師はそのついで。うん、ついでだから」
………本当に、何があったのやら。
「まぁ、私の担当はアリーシャだ。導師や、ローランスには手出ししない」
「知ってる。あぁでも」
―――“彼”に、手を出したら。
暗い目。サイモンより、マルトランより、暗くて深い、翡翠の目が据わって、揺らめく。迷いなどない。さっきとは違う。
マルトランが知るのは、こちらのエミル。
「わかっている。知っているだろう? 『私はお前の目的の邪魔をしない。お前が私の邪魔をしないなら』」
初めて会った時から、二人の関係はその一言が全てだ。
「アリーシャは死なない。いくらあの老害共でも、この状況でアリーシャを殺せばどうなるか位分かりきっている。民の間は戦場に現れた導師の話題で持ちきりだ。導師を見出だしたのも、あの聖剣祭を主導したのもアリーシャだと言うのは有名な話だからな」
「………今アリーシャ姫を失えば、ハイランドは導師との繋がりを失う、か」
ハイランドは、湖の乙女に導かれた亡国の王子が再建したと伝わる国。故に湖の乙女が導師を選ぶという言い伝えから、導師の存在はハイランドにとっては重要なのだ。
そうでなくても、一人で戦況をかえたあの力があれば。
「元々姫の拘束は半ば言い掛かりに近い。調べても何も出てこなかった以上、評議会も姫を解放せざるを得ないだろうさ。………国民の嘆願もある。近日中には、拘束は解かれる筈だ」
「無事、なんですね?」
「決まっている」
―――アリーシャは、マルトランのものだ。
誰が言い出したのでもない、互いに主張したのでもない。だが災禍の顕主に従う彼らの間では、自然とそういう線引きがあったのだ。
エミルが守らんとした天族と、探し人の人間はエミルの。
アリーシャと、それをはじめとするハイランドはマルトランの。
災禍の顕主に付き従い、ローランスの政治の場を掻き乱すのはサイモンの。
共通しているのはその為ならば欠片も譲るつもりなどないこと。動機も手段もまるで別々ではあったが、それが己のものであり、他に手出しをさせないというそこだけは、それぞれに感じていたから。
ならば―――他に殺されるのなら、その前にマルトラン自身がアリーシャを殺すだろう。………そして、今はその時期ではない。
「分かった。聞きたいのはそれだけ。伝言を頼まれたわけでもないから、もう行きます」
エミルが立ち上がった。マルトランも前を向き、目を閉じる。
「そうか。―――東の詰め所は騒がしい。見つからないよう気を付けろよ」
「! ………では、また」
エミルの気配が消えた。
ちゃんと、気付くだろうか。気付いているだろう。エミルはバカではない。
「………私も甘いな」
でも、良いかもしれない。どうせ“その時”は間近に迫っているのだ。その前に少しくらい。
それに。
矜持や、幸福や―――積み重ねたそれが高ければ高いだけ、堕ちる奈落は深いのだから。
………………………
何故かロイドは、宿屋横の路地裏の、そこからさらに奥に入った建物の中の工房にいた。
エミルがロイドを見付けられたのはロイドが発する独特な領域のお陰で、それがなければ絶対に見つからなかっただろう。
息急き切って扉を開け―――ロイドを見付けた瞬間、エミルは脱力した。
何故なら、当のロイドは物凄く生き生きとした顔で煤にまみれてなにかの作業をしていたからだ。
数人の人―――職人―――に囲まれて、真っ先にエミルに気が付いたのはロイドで。上着を脱ぎ、黒のタンクトップ姿のロイドは汗を拭い、やりかけだった作業を手早く終わらせてエミルの所まで走ってくる。
「あ、エミル! どうだった? アリーシャは?」
「大丈夫。ちゃんと生きてたよ」
王宮の東にある牢に入れられ、槍も取り上げられ。ろくな食事も与えられずにずっと監視されて、かなり衰弱してはいたけれど。
だが死なない。あれくらいじゃ、人は死なない。ましてや信念を―――それが独り善がりな無謀であったとしても―――抱えている人間はしぶといのだ。目は死んでいなかったから、大丈夫だろう。
「民衆からの嘆願もあるし、拘束も言い掛かりに近いし。あと数日で解放されるって」
「会えたのか?」
「ううん。だから部屋をこっそり覗いてきた。あとは姫の側近に会えたから、導師とその仲間が心配してたってことだけ伝えといた」
マルトランのこと、牢から出て会ったら「導師の連れが、お前を心配して来ていたぞ」とか教えてやるに違いない。アフターケアもバッチリだ。あれで嘘をつかないのだから、エミルは本気で、マルトランが怖い。
「そっ、かぁ………! よかった。これでスレイも安心する」
ロイドの顔が弛んだ。まったくしまりのない顔。けれど本当に嬉しそうな、そんな顔。―――またちくりと、胸の奥が痛む。
それを無視して、エミルは問う。
「―――で、何してるの?」
ロイドはエミルから目を逸らした。気まずげに。
「それが………」
「いや、あまりその人を責めないでやってくれ。俺が無理にと頼んだんだ」
いきなり間に割り込んできた人間を、エミルは睨んだ。
「誰?」
「いや、これはすまない。俺はここで鍛冶屋をやってる、レディファイ―――伝説の刀鍛冶サウザンドーンの六男だ。俺がこの兄ちゃんの腕に惚れ込んでなぁ」
「鍛冶屋が?」
「俺は鍛冶屋は鍛冶屋でも、拵えを専門にしてるんだ」
なるほど、それで納得だ。
拵えとは簡単に言えば武器の飾りのことだ。鞘や鍔、柄などの外装全般のことをいう。
ロイドもまた職人の端くれだ。なにか通じるものがあったらしい。
と、そこに弟子らしい若い男が姿を見せた。
「親方ー! セキレイの羽からの連絡回って来たんすけど」
「貸せ!」
セキレイの羽は商業ギルドの中でも大手だ。職人達としても取引相手として重要な存在なのだろう。
弟子から受け取った手紙をざっと流し読み、親方はそれをロイドに突き出した。
「これ、多分あんた当てだ。セキレイの羽の頭領から、レディレイクの系列店と取引がある店に回ってる。二枚目がどうにも読めないんだが………お前さん、読めるか?」
「どれどれ」
ロイドは手紙を覗き込んだ。エミルもロイドの肩越しにそれを覗く。
そこには、ロイドとエミルにとってはとても見慣れた文字でこう書いてあった。
『ローランスに行きます。ペンドラゴで待ってるね。スレイ』
『ラストンベルのセキレイの羽に行ってくれ。ロゼが手配をしてくれた。先に行ってる。ミクリオ』
―――それは確かにこの世界には存在しない、懐かしい故郷の、アセリアの文章。
スレイ、というのは確か、導師の名。
ロイドは手紙を頭から終わりまで二度ほどじっくり読んだ後、その手紙を二つにたたんで懐へ。
「ごめん。行くとこが出来たから、俺いくよ」
あちこちについた煤を取り、上着を羽織り、ロイドの準備がすっかりできると、親方がロイドに手袋を外した手を差し出した。
「お前さん、助かったぜ。ありがとな」
「俺で役に立てたんならよかった。俺もいくつかいいこと教わったし」
「そうか。なら、あちこちの街の武具屋を訪ねてみな。俺の兄貴達がそれぞれ腕を磨いてる筈だからよ」
「分かった。機会があったら行ってみるよ」
………
工房を出て、歩いて。
「ねぇ」
「どうした?」
呼び止められて、振り返る。
振り返り、目があって―――やはりエミルはすぐに目を逸らした。伏せられる目。
「あの字は………君が教えたの?」
「いいや。あれはスレイが覚えたんだよ。ほら、ここの字って俺たちが知ってるのと似てるけど違うだろ。一緒に勉強してたんだけど、スレイ達の方が覚えが良くて、俺が書いてた方まで覚えちまったんだ。暗号だーって、はしゃいでさ」
因みにロイドは未だに勉強は嫌いだ。だから字を書かないし、読むのにも時間がかかる。それを知ってか暗号という響きにひかれてか、スレイとミクリオは内緒の話をするときやロイドとのやり取りをするときには好んでアセリアの文章をつかう。
「っふ、ふ、ははは! 変わってないなぁ。また先生に怒られても知らないよ」
「言うなよ………っていうか先生がここにいたらそっちの方が大変だろ。年中遺跡モードだぞきっと」
「そうかも。………そうだね」
エミルが笑う。乾いた笑み。
いくらなんでも、ロイドだって気づいている。これまで一度も、エミルはロイドの名を呼ばないこと。
「………ねぇ」
やはり。それでもロイドは何でもないように「ん?」と首をかしげて先を促す。
「キミは………やっぱり、導師と行くの?」
「ああ」
ロイドは即答した。
「昔、約束したんだ。俺が必ずあの二人を守るって」
「どうして?」
寒気がした。一瞬だけど、確かに。闇の中から、手を伸ばされているような。引きずり、込まれそうな。
「―――あの二人は、キミがいつまでも見ててやらなきゃいけないほど子供じゃない。導師の近くにいたら、きっとまた、色んなことに巻き込まれるよ」
でも、目の前にいるのは、………確かにエミルで。
だからロイドは笑う。笑って見せる。なんでもないと、言ってやる。
「巻き込まれるのは慣れてるさ」
「またいっぱい辛い目に遭うよ」
「みんなが一緒なら大丈夫だ」
かつて、あの世界でそうだったように。
「エミルもいるんだからな。心配することなんて何もないさ」
言えばエミルは、唇を噛んで俯いた。
「………ラストンベルまで、送って行くよ」
辛うじてそう言ったエミルにうんと返し。
先をいくエミルの背中に声をかけようとしたけれど、何を言ったらいいか分からなくて。
「エミル、お前も大事な仲間だからな」
だから信じてる。だから。
エミルからの返事は、なかった。