捏造、自己解釈だらけ。キャラ一部別人かも。
そういうの嫌な人、ダメな人はブラウザバックでお願いします
ラストンベル。
元は砦として作られた、今や優秀な職人が集まる商業都市。通りを歩くだけで活気があるのが分かる。
職人でもあるロイドは通りの両側に連なる店に目を輝かせていた。
(相変わらず、子供みたいだなぁ)
その様子を見ていて、エミルはふっ、と息を吐き出す。
導師を育てたと聞いたから、元の世界と合わせればもう三十半ばを越えている筈なのに、外見通りの若々しさ………いや、こうして純粋な所を持ち続けているのがロイドの良いところなのかもしれない。
(あぁやっぱり『あの世界』に帰りたい)
こんな、救いがない世界ではなく。こんな、人の心が荒みきった世界ではなく。こんな、冷たくて軋む音が聞こえてきそうな世界ではなく。
暖かくて、大変だけど皆で支え合っている、大切な人がいる、あの世界に―――
「!」
エミルは足を止めた。
妙な、気配が。
「………エミル?」
立ち止まったエミルに気付いて、ロイドが引き返してきた。
しかしエミルは答えない。答えず、目ではなく気配で“それ”を探す。どこに、誰が。覚えがあるのだ。この、空っぽのようでいて粘つくような、まとわりつくようでいて手からするりと逃げ出しそうな―――
いきなり耳元で、くすくすと笑う声がした。
「―――!?」
振り向き、腕で背後を払った。が誰もいない。なのに腕に、何かの感触が残っている。気のせいとも思えるほど微かに、けれど確かに。
「エミル、どうした? なにか―――」
「………何でもない。気のせいだったみたいだから」
エミルは笑う。感情を隠し、嘘をつくのはこの数年で慣れた。疑われたとしても、有無を言わせず言葉を継ぐタイミングも。
「ねぇあそこにいるの、セキレイの羽の人じゃない?」
「ん? あ、本当だ」
こちらが気付けば、向こうもこちらに気づく。ロイドの容姿をロゼに聞いていたからか、まっすぐにロイドの方に近付いてくる。
「貴方がロイドさんですか?」
「あぁ、そうだ」
「良かった。頭領から話は聞いています」
話し始めた二人を見て、エミルはそっと、ロイドから離れた。
路地裏を歩く。
辺りの人は誰もエミルを気にしない。エミルも回りを見ない。
「遅かったな?」
声をかけられて、一瞬だけ呼吸を止める。が、足は止めない。構わず歩き続けて、街の外れを目指す。
「別に、僕がどこで何をしていても良いでしょう。僕があの人に協力するのはあの人に命じられた時だけ―――それを許したのは、」
「分かっているとも。だがお前がこれほど“外”に留まるのは初めての事だろう?」
声の主はエミルの目には写らない。だが近くにいる。気配だけがエミルについてくる。
声に、内心でだけ舌打ちした。………その通り、エミルはあまりアルトリウスの玉座の外には長居しない。エミルは人間だ。しかし『精霊ラタトスク』でもあるのだ。
「忘れるなよ。お前は、我が主に生かされているのだということを」
忘れる、ものか。
あの約束だけは、その為だけにエミルは居たくもない穢れの最中にいる。やりたくもないことをしている。
足を早めた。もう街の外が見えてきている。
「丁度良い。お前に伝えておく。しばらくペンドラゴには近付かんことだ」
「例の仕掛け?」
「その下準備、と言ったところだ。手を出すなよ。折角ここまで整いかけた舞台なのだから」
くく、と笑うサイモンに。
エミルは無言で、背を向けた。
ロイドが話し終わって振り向いたとき、ロイドはエミルを見付けられなかった。
しばらくロイドはエミルを探し回った。しかしペンドラゴに向かう隊商に同行することになっていたために、やむ無く途中で切り上げてラストンベルを後にする。
ロイドがペンドラゴについたのは、丁度スレイ達がペンドラゴ教会神殿に向かい、枢機卿と対面した日だ。
ペンドラゴに到着したのは、夜。
ロイドはペンドラゴに入った瞬間、胸の辺りがずんと重くなった。その感覚は。
「穢れが………!」
「あ、ちょっとロイドさん?!」
セキレイの羽の人が叫んだ声にもロイドは気付かず、感じる気配と頭のなかで響いて止まらない嫌な予感のままに、知らない街のなかを駆け抜ける。
城のすぐ近く、あと向こうに見える角を曲がった先の建物から気配が―――そんなところで、道の途中でいきなり腕を掴まれて、ロイドは立ち止まった。
「っなにを、――――」
文句を言いかけ、その人物を見て、………それが、フードを被ったエミルであることに、気づく。
「エミル、どうしてここに―――いやそうじゃない、離してくれ! 俺は行かなきゃ」
「ダメだよ」
エミルの腕の力が強くなった。ロイドが本気で振り払っても解けるかどうか、というくらい強く。
「行っちゃダメだ」
「エミル………何言ってるんだ。向こうには、スレイ達が―――」
その気配を、ロイドは感じ取れる。ならエミルも感じられるはずだ。だからスレイの居場所はロイドも、エミルも、離れていたとしても感じられる筈なのに。
エミルは俯いたままで、だからどんな顔をしているのか、ロイドには見えない。
「だから、だよ」
どんな気持ちでエミルがその言葉を吐き出したのか、ロイドにはわからない。ただその声は普通に聞こえたのに、どうしてかロイドは。
エミルが顔を上げた。見ているのはロイドの後ろ。
「来たね」
何が? ロイドは振り返る。誰もいない。何もない。その空間が突然揺らいで、ぱん、と弾けた。弾けた中から現れたのはスレイたち。
「どうして………?」
「これだけの穢れの中で、君たちほど清浄な気配が動き回ってたら気付くよ」
ミクリオが苦い顔をした。ライラが目を丸くしている。エドナが少しだけ目を見張る。ロゼだけが、訳が分からないという顔をしていながら、エミルに警戒の目を向けていた。
エミルがロイドの腕を放した。
「導師。ムダなことはしないで、大人しくしてなよ。君には彼女を救えない」
「え………?」
スレイが呆然と呟くのと、ロイドの後ろからガチャガチャという鎧の音が響いたのはほぼ同時だ。ロイドが振り向いたとき、ラストンベルの時と同じくエミルの姿はそこになかった。
「エミルは?」
「………消えたわ。一瞬、目を離した隙にね」
騎士が駆け寄ってくる。ロイドは口をつぐんだ。天族たちもスレイの中に戻る。
ロゼが、ヤボ用だと何処かに走っていく。
ロイドは、何も言わなかった。
枢機卿は憑魔だった。
それも、今のスレイでは敵わないほど強い領域を持つ憑魔。
「あの領域を破らないと」
「うん。教皇様に碑文を読んでもらって秘力を手に入れよう」
「で、その教皇は何処に居るんだ?」
ロイドの言葉に、スレイたちはうーんと唸る。
「枢機卿の言い方からすると、生きていることは分かっていても、居場所までは掴めていないようだったな」
「うーん、騎士団が一年探しても見付からなかった、って言うしなぁ………」
手詰まり。スレイとミクリオは答えを出せず、ライラとエドナは何も言わない。それを見ていたロイドはふと、このペンドラゴまでの道中を思いだし、言った。
「あ、じゃあロゼに聞いてみたらどうだ?」
沈んでいた二人の顔がみるみる明るくなった。
「そうか、商人、しかも大陸中を回るセキレイの羽なら!」
「それだ!」
ミクリオの声が聞こえないセルゲイが、はしゃぎ出したスレイを見て怪訝そうな表情をした。
「もしや心当たりがあるのか?」
「絶対じゃないけど………この件は、オレに任せて貰えないかな」
「いやだが、これは本来我々が解決するべきことで」
「それができないから導師を頼ってきたくせに。人間って本当に勝手ね」
「まぁまぁ、エドナさん」
天族たちの会話にスレイとロイドは苦笑する。
「オレも、教皇様に会う用事が出来たから。………その代わりと言ったらだけど、ローランスの通行証を貰えないかな。オレ、ハイランド軍の味方だと思われてるみたいで」
「貴公がどんな人間かは十分に承知している。早急に手配しよう」
「よかった。これでひと安心だ」
ローランスに来た目的の半分は、戦争に参加したスレイの意思を表明することだった。でなければローランスの上層部に目をつけられるだろうから、と。
………………
・セルゲイから獅子戦吼伝授される
………………
セルゲイと別れ、ロゼを探して街に行くと、路地裏でロゼを見付ける。何をしていたのかと聞くと、何でもないとはぐらかされた。
「で? スレイ達の方は、何か収穫あった?」
「うん。行方不明になった教皇様を探すことになったんだ」
「ロゼなら何か知ってるんじゃないかと思って」
「それであたしのところに来たわけね」
にやりと笑うロゼ。何か知っているんだ、とロイドは思った。その顔が、どことなくゼロスを思わせたから。
「お願い! オレ、どうしても教皇様に会いたいんだ」
「どうしても?」
「うん。どうしても」
「ダメ」
「………え、なんで?」
「確かに、あたしはスレイに協力するって言った。けどそれは『セキレイの羽』として。『風の骨』はあんたに手を出さない代わり、あんたに協力もしない。それがケジメ」
………理屈は、通っているような、いないような。
でもロゼが譲る気がないのは、声でわかった。スレイは答えられない。暗殺という、人を殺すということを、スレイは受け入れられていない。だから。
黙ってしまったスレイを見て、ロゼは息を吐いた。スレイは分かりやすいから。
「………いいよ。条件を飲んでくれたら、あたしの力をスレイに貸す」
「条件?」
「あたしにスレイと同じものを見せて」
スレイだけでなく、ロイドも口籠った。
「ここまで旅をして分かった。世界にはあたしが見えてないものが沢山あるってこと。見えないけど、何かがいるってこと。………そしてスレイにはそれが見えてるんだってことも」
ロゼの言葉を聞いて、ロイドはしばらく唸ってから、聞いた。
「ロゼは、スレイが見ているものを見たいのか?」
「見たいんじゃない、見る必要があるって思ったの。あたしは今導師スレイを見極めてる真っ最中。それには今あたしが見えている半分だけじゃ足りないんだ」
ロゼがぐっと顔を上げる。
「勿論タダでとは言わない。代わりにあたしは、あたしのすべてをスレイに託す。あたしの持つ全てで、スレイを助ける。それでどう?」
ライラが、ミクリオが、エドナが、スレイから出た。
「ロゼさんに潜在する霊応力は、スレイさんに比肩し得るほどのもの。今は眠っているようですが、何かの切っ掛けさえあれば目覚めると思いますわ」
「切っ掛け?」
「例えば―――従士契約とか」
エドナの言葉に、スレイは一瞬目を大きく開いた。けれど、何も言わない。
ただ大きく息を吸って、吐いて、それから、聞いた。
「ロゼは、どうして暗殺者をやってるの?」
ロゼは即答した。
「弱いやつが生きるためよ」
即答して、流石にそれだけじゃ説明が足りないと思ったのか、ロゼはえーとうーんと、と唸って、ゆっくりと語りだした。
「世界には理不尽が溢れてる。力がなければそれに立ち向かうことさえ出来ずにただ潰されるだけ。なのにその理不尽は、いつも弱くて力がない人間に降りかかる。………そんなの、間違ってると思わない?」
にっと、笑って。
「だから、あたしたちがやる。あたしたちのやることで一人でも理不尽に泣く人が少なくなるなら、あたしはその為に生きる」
「それが、ロゼの覚悟なんだね」
「そ。だから、悪なら殺る。相手が教皇でも、皇帝でも、導師でもね」
「………それでもオレは、ロゼみたいな子にそんなこと、して欲しくないよ」
スレイは最後にそう、呟いて。
「わかった。契約、しよう」
スレイがロゼに与えた真名は、『ウィクエク=ウィク』。『ロゼはロゼ』。
それは、スレイの祈り。スレイの願い。
叶うのなら、それがいつまでも続きますように。
………………
・前ページのあらすじ。
ロゼはスレイに協力して教皇の居場所の手懸かりを教える代わりに、スレイの従士になりました。同時にデゼルも陪神に。
………………
ゴドジン。
グリンウッド大陸南方、険しい崖道の先に、その村はある。
そこに至るまで、道が崩れ通行止めになっていて遠回りをする羽目になったり、地底洞窟を抜けたり、その先の崖道で手強い憑魔と戦ったりしたが、ロイドが居たから、スレイたちはそこを抜けてなんとかゴドジンまで辿り着いた。
「す、スレイ、あんた達大丈夫?」
「だい、じょうぶ………じゃないかも」
「戦いっぱなしだからなぁ。ほら、水だ。少し休め。ロゼは大丈夫か?」
「あたしは平気。ってか、ロイドこそ一番動き回ってるじゃん」
まあ確かにそうなんだが。正直なところ、あの世界再生の旅に比べれば随分楽だ。それに、神依を多用するスレイの方が、体力の消費は激しいのだから。
「俺は本当に大丈夫だよ。鍛えてるから。………ところでさ、ゴドジンって村はまだ先なのか? 崖ばっかりで、俺飽きてきたぜ」
「あーえっと、もうちょっとの筈なんだけど………あ、あそこじゃない? ほら、あの崖の上」
ロゼに言われて見上げた先には。
「本当だ。なんか立派な建物の屋根が見える」
立派と聞いて、ロゼと、エドナが何故か表情を険しくさせる。スレイもロイドも、それには気付かなかったけれど。
「よし、あと少しだ。頑張ろう」
………………
・ゴドジン到着。
・村のなかを探索し、奥の遺跡に何かあることを突き止める。
・偽エリクシール発見、騒ぎを聞いた村長スランジが現れる。
………………
「なぜ、私が教皇などという望んでもいない仕事をしなければならない? 私が聖職についたのは、家族にささやかな加護を与えたかったから………ただそれだけだったのに」
けれど慕われて、望まれて、だから出来ることを必死にやって―――気がつけば何も残らなかった。一番守りたかった、大切にしたかった家族さえも。
なにもかもどうでもよくなり逃げ出して、それでも受け入れてくれたゴドジンの村人を守ろうと。
「帝国も教会も知らん。卑怯者と言いたければ言うがいい。今の私は―――村人(かぞく)のために生きている」
かぞくのため。
その言葉に、スレイもロゼも何も言えなくなった。その感覚が分かるからだ。大切な、大切な人の為なら。
………が、ここには、一人、そんな言葉では納得しないひとがいる。
「―――ふざけるな」
それまで黙って話を聞いているだけだったロイドが、怒りを露に一歩、二歩と踏み出した。
「本当にそれでいいのか? あんたのしたことで、確かにここの人たちの暮らしはよくなったかもしれない。けどあんたがしていたことを、あんたが罪を犯していたと知ったときの村の皆の気持ちを、あんたは考えたことがあるのか? あんたが居なくなったあとの村のことを、考えたことはあるのか!?」
「ロイド!」
スレイは慌ててロイドを止めた。羽交い締めにするように。けれどスレイ一人では止められず、ミクリオと、デゼルも加わってようやくロイドの足を止められる。
ロイドは構わずに叫んだ。
「バカ野郎! かぞくのためだって言うんなら! 大切な人の為だって言うんなら!! どうして、その人たちのために生きようとしないんだよ!」
勝手に決めて、勝手に死のうとして。そんな風にされて、残ったものがどんな気持ちになるか。ロイドはもうそれを味わっている。例えばそれは、パルマコスタで。例えばそれは、あの森の一騎討ちで。
「勝手に死ぬな! 勝手に諦めるな! 自分の道はこれしかないんだって決めつけるなよ! 何のために仲間がいるんだ!」
「わた、わたしは、」
「間違えたからなんだ! 間違えたら、それに気付いたらやり直せばいいんだ。もう一度、ここから。間違えたことをそのままにして諦めたら、本当にそこで終わっちゃうんだぞ!?」
「ロイド、止めて!!」
スレイの悲鳴のような声で、ロイドははっと、我に帰る。教皇が、がっくりと項垂れていた。
「そうだ………分かっている。そんなことは、分かっている………! だがもう私には、時間が………!」
「村長!」
胸を抑えて崩れ落ちた教皇―――村長に、村人が駆け寄った。そのまま村へと運んでいく。
それを見送って、ロイドは唇を噛んだ。
「………ロイド。アナタの言葉は正論よ。けれど、正しすぎる。人間が皆、アナタほど強い訳じゃないわ」
「………分かってる。悪い。かっとなった」
そうだ。昔、同じようにコレットに止められた。けれど黙っていられなかったのだ。置いていかれる苦しさを、何も知らされなかった悔しさを、後で知って思い知る無力さも。それをロイドは知っているから。
スレイは、全てをこのままにして帰ろうと言った。
ロゼは、スレイが決めたことなら良いと言いながらも、迷っていたようだった。
「………あるのかな? 白でも黒でもないって」
それは、とても難しい答えだ。正義と悪の議論にも似ている。絶対の基準など存在しない、問われた者が、その心で答えるしかない、答えのない問いだから。
ロイドもかつて、同じことを悩んだ。けれどみつけた答えは、シンプルだった。
「完全な白も、黒もないさ。あるのは、白と黒が混ざってるものばかりだ」
この世に絶対的な悪など存在しない。相手にも何かしらの事情や、あるいは信念があり、それが違えば争いになる。たったそれだけのことなのだ。
「だったら、………だとしたら」
ロゼは考え込んでしまった。こればかりは、他人の答えでは意味がない。スレイも、ロゼも、自分の答えを見付けるしかないのだ。
「けど、じゃあスレイ、どうするんだ? 碑文の解読は教皇様にしか出来ないんだろ?」
「うーん………それなんだけどさ、自分で解読できないかな?」
それにはロゼもライラも驚いた。
「え、本気!?」
「無茶じゃないだろ? 人が考えたものだし、何より面白そうじゃないか」
「まったくスレイは………ロイドのメモを見つけたときと同じくらいはしゃいじゃって」
「へへ。あのときだってちゃんと解けただろ?」
「それとこれとは………せめてヒントがないと」
こうなればロイドが口を出す話ではない。遺跡モードのリフィルを思わせる二人は、いつもいつも楽しそうで。
(この二人なら、本当にやれそうだよな)
ロイドが微笑ましい気持ちで彼等を見守っていると、教皇がスレイに、声をかけた。
………………
導師に四つの秘力あり。すなわち地水火風。
其は災禍の顕主に対する剣なり。
世界に試しの祠あり。同じく地水火風。
其は力と心の試練なり。
力は心に発し、心は力を収める。心力合っせば穢れを祓い、心、力に溺るれば己が身を焦がさん。
試せや導師、その威を振るいて。
応えよ導師、その意を賭して。
「お行きなさい、若き導師よ。ここはあなたのための場所です」
スレイとロゼが、遺跡に入っていく。
ロイドは真っ直ぐ神殿には入らず、教皇に近付いた。
「あの………さっきは、ごめんなさい。俺、勝手なことを」
「何を謝るのです。貴方は正しい。貴方の言う通りです。私は逃げた。逃げて、逃げて逃げて、ここにいる。それでも心の何処かで気付いていたのですよ。逃げたところで、逃げ切れる筈など無いと」
教皇の顔は穏やかだった。さっきまでは穏やかではあるが、どこか陰りがあった。今はそれが少しだけ薄れて、感じる穢れも少し弱い。
「………私にはいつか終わりが来る。だからどうせ終わるならば、と、そう思ってしまったのです。このちっぽけな命で、皆を救えるのならばと」
「余所者の俺が言えたことじゃないけど、皆のために命を削られるより、苦しくても辛くても、生きててくれる方がずっと嬉しいと俺は思うよ。………死んじゃったらもう、何も出来ないからさ」
「貴方はお若いのに、よくわかっておられる。その心があれば、貴方が道を誤ることもないでしょう」
微笑んで、教皇は貴方もお行きなさい、とロイドを促した。
「………貴方を見ていて、少しだけ、昔の自分を思い出しました。どうか貴方はそのままで。それが導師にとっても救いとなりましょう」
………………
火の試練神殿イグレイン。
そこはマグマの熱に包まれた遺跡。ロイドは旧トリエット跡を思い出す。あそこには火の精霊イフリートがいた。ならここにも、きっと、なにかがいるのだろうと。
だからスレイたちが不思議な領域に包まれたとき、その領域がロイドだけを綺麗に避けていったり、スレイたちが戦っている場所に近付けなかったとしても、あまり驚かなかった。
ここは導師のための場所だと言う。ならスレイと契約している天族や、従士であるロゼはともかく、導師とは何の関わりもないロイドが参加できなくとも、不思議は無い。
そしてロイドはスレイを信じていたから、巨大な憑魔と戦いになっても、スレイが炎で自分か契約天族の顔を焼けと言われたときも、黙ってみていた。本音は今すぐ駆け寄って助太刀したい気持ちで一杯だったけれど。
ロイドがスレイに近付くことが出来たのは、スレイが秘力を得て、試練が終わった後の事だ。
火の試練神殿を守る天族―――護法天族エクセオが、立ち上がったスレイに言った。
「若き導師よ。火とは、全ての活力の源。世界の終わりと始まりに生まれる力。上を向き、前に進むための力。故に行く先を見誤らぬよう、目指す先を偽ることなく、己の心に嘘をつくことのないように」
「はい、ありがとう、エクセオさん!」
スレイが頭を下げて、ロイドの所に駆け寄る。それを目で追ったエクセオが、ロイドを見て何故か驚いた。
「貴方は………そうか。………そうか」
「えーっと………?」
「双剣の青年よ。貴方の名を、聞いてもよいだろうか?」
「ロイド。ロイド・アーヴィング、だけど」
エクセオがロイドに近付いてくる。ロイドの頭から爪先まで二度ほどまじまじと見られて、ロイドはちょっとだけたじろいだ。
「………剣を、見せてもらえるか」
「ああ」
ロイドは双剣を抜いた。エクセオは剣に手を重ね、目を閉じる。
「………確かに。“我、聖主ムスヒの代行として、ここに待ち人を認む”」
エクセオが囁いた途端、何かが弾けて、駆け抜けて。そしてふわりと、何かがロイドの中に入ってきた。
「えっ、えっ?!」
「私の仕事はこれで終わりだ。貴殿方の旅路に、聖主の加護があらんことを」
混乱しておろおろとするロイドを置き去りに、エクセオは光の珠となって何処かに消えてしまった。天族がスレイの中に入るときと似ていたから、きっと器に戻ったのだろう。
最初に普段の調子を取り戻したのは、ロゼだった。
「―――何、いまの?」
「わかんねぇよ………なにがどうなってるんだ………」
「うーん、聖主の加護、って言ってたから……」
人間三人がうーんと唸った。
「ロイドさん、その剣を見せていただけますか?」
「ああ、良いぜ」
剣を抜き、胸の前で二本を水平に掲げれば、ライラだけでなくエドナもそれを覗き込む。
「この剣は―――」
「えっ何、どしたのライラ?」
「これ、一種の神器よ。なにか大きな力が宿ってる。さっきのあれは、その力の枷を外したみたいね」
「力の枷………あっ」
ロイドは咄嗟に目を閉じて胸に手を当てる。
(オリジン、オリジン!)
(その通りだ、我が契約者よ。………だが、今我に話し掛けたのはまずかったのではないか?)
(え? なん―――)
ぐらん、と揺さぶられて、ロイドは目を開ける。
スレイの顔がぶつかるかと思うほど近くにあった。
「ロイド、大丈夫なんだよな!? 何ともないんだよな?!」
「だ、大丈夫だって。別に悪いやつでも変なヤツでもないし―――」
あ。
と後から気付いても後の祭りである。
「ロ~イ~ド~! やっぱり何か隠してた!」
「いや隠してた訳じゃなくて、すっかり言うの忘れてたって言うか、言わなくても良いかなー、なんて」
「水臭いじゃないか……!」
ロイドは結局、その体にとある天族(みたいなものと誤魔化した)を宿している事を聞き出され、グレイブガント盆地での無茶を今更ながらに怒られた。
そんなこんながあって、一行が試練神殿を出たのは、それからしばらく後の事だった。
………………
ロイドがスレイたちに異世界云々を言わなかったのは、単純に忘れてたのもあるけどジイジに黙っておけと言われたから。
スレイ達は「ロイドがものすごい力を持ってる天族の器らしい」ということは分かったけど、それ以上は知らない。というのも「どんなひと? オレもそのひとと話せる?!」って言う方向に話が進んだから。
………………
………………
・ゴドジンを出て、ペンドラゴへ。
・秘力を得てパワーアップしたので、再び教会神殿に潜入。枢機卿と対決する。
………………
あ。
領域が、消えた。
それが意味することは即ち、領域の主―――枢機卿が、死んだということだ。
(………ほらね。やっぱり君には救えなかった)
教会を見下ろせる、ペンドラゴにいくつかある塔の上。座って目を閉じていたエミルは、目を開いて、息を吐く。
導師(とロイド)が教会神殿に入ってからずっと気配を追っていたエミルは、ある程度、あの中でなにが起きたか把握している。
穢れの揺れを、浄化の炎の揺らぎを、導師の領域を。
枢機卿を導師は浄化できなかった。そして彼女の心が壊れた。そうなれば救う方法はない。出来るのは、『終わらせる』こと。それを、導師は選んだのだ。
彼女を壊したのは、導師なのに。
エミルの背後で、気配が動いた。エミルは振り向かず、腰の剣に手をかけた。
「………サイモン」
「なんだ。私は約定を違えてなどいない。導師は我が主の獲物。お前のものではないぞ?」
エミルはサイモンを睨んだだけで、剣は抜かなかった。
導師が、いくら自分自身はローランスに敵対する意思がないと伝えたところで、そんなことに意味はない。
ハイランドの姫を人質に取られたがために参戦したというならば、姫がハイランドで危険に晒される限り、導師はハイランドに手綱を握られたも同然だ。またいつ姫を盾にされてローランスに牙を剥くか分からない。
導師は、姫を人質にされれば逆らえないのだと、あの戦争が証明してしまったから。
だからハイランドは姫を殺さない。姫をハイランドから外には逃がさない。―――あぁ、大したものだ。情報操作だけで、事実上導師をハイランドのものだと宣言してみせたのだ。
「ローランス皇家は導師スレイを認めない。導師を認めた騎士団を認めない………これでますます騎士団への不信が高まり、教会との関係は悪化する。民を纏め幼帝に代わり政治をしていた枢機卿が消え、ローランスはますます混乱する………これで満足?」
「私が満足するかはさして重要ではない。全ては我が主が決めたこと。我が主の御為―――邪魔をするなよ。舞台は整いつつあるのだから」
サイモンがふっと姿を消した。
一人、残されたエミルは、教会から出てきた導師一行を見下ろす。
「………導師」
導くもの。救世主。そんなふうに持て囃されて、持ち上げられ崇められ、―――そうしてずっと耐えていた子を、知っている。世界を背負った人を知っている。
その顔は、無理矢理に笑うその顔は。
「ねぇ、救えないと決まったものは、殺して切り捨てるの? 君にも救えないものは、世界に存在することも許されないの?」
存在しているだけで悪なのか。生きているだけで罪なのか。弱いことは罪なのか。正しく生きられないことは罪なのか。
―――それを決められるほど、導師というのは、偉いのか。
だとしたら。
「君の救いは、単なる偽善と傲慢でしかないよ、導師」
エミルの呟きは、導師たちには届かない。
しばらく一行を見ていたエミルは、やがて導師達から目をそらし、最後に導師の隣にいるロイドを見て、アルトリウスの玉座に帰るために踵を返した。