TOS-R×TOZ(+TOB)   作:柚奈

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 今回、ロイドとエミル側が混ざっております。


目指す先はまだ見えない

 

 あの日のことを、きっとスレイは忘れない。

 

「―――眠りよ、康寧たれ」

 

 自分の力が足りなくて、色々なことを知らなくて、その結果起きてしまったあの事を―――救えなかった人の事を。

 

 スレイが壊してしまった人の事を、スレイはずっと、覚えている。

 

 

 

 

 

・望む強さ

 

 宿の窓から、夜空を見上げていた。

 ペンドラゴを蝕む穢れは一先ず祓われた。雨は止み、人々はやっと日常を取り戻した。探していたマオテラスは神殿に居らず、その手がかりは各地の試練神殿にあるということもわかった。

 でも。

『スレイの仕事は生かすこと。あたしの仕事は殺すこと、でしょ?』

 お互い自分の仕事をしたんだ、と笑って、『それ』を引き受けてくれたロゼ。ロゼは、スレイは殺しちゃダメだと言ってくれた。………ロゼと同じことをしなくて良いのだと、スレイはスレイのままで良いのだと。

 でも、でも悔しい。

「スレイ、どうした? 眠れないのか」

「………ロイド」

 宿のサウナに入ってきたのか、いつもと違って下ろされた髪をタオルで乱暴に拭きながら。ベッドに腰を下ろしたロイドが、スレイを見つめた。

 今、スレイの中には誰もいない。ライラもミクリオもエドナも、今はスレイの外にいる。寝る支度は済ませていたスレイは、導師のマントは脱いで、椅子の背もたれにかけてある。

 だから。

「ロイドは、ロイドは前に、言ってたよな。『自分が間違っていないのなら、堂々としていればいい』って」

「あぁ、言った」

 スレイとミクリオと、イズチで暮らしていた頃。ロイドに教えてもらったこと。それを実践しているロイドは、下を向かない。向いているところを、スレイは見たことがない。

 そんな風に、いつも揺るがないロイドを見て育ち、そうなりたいと、願ったことがある。

「オレ、」

「スレイ。スレイは、何か間違ったことをしたのか? 悪いことを、しちゃいけないことを、したのか?」

 スレイはただ、首を横に振った。それだけはしていない。ジイジに顔向け出来ないようなことを、スレイはしていない。

「なら、胸を張れ。スレイは、自分が良いと思う事をしたんだろ。だったら、あとはその結果を受け止めるしかない。受け止めて、少しでもこの先が良くなるように努力するしかない。………ま、俺の親父の受け売りだけどな」

 スレイは、ぐっと奥歯を噛み締めた。

 分かってる、理解してる。でもだから、そんなことをロゼに言わせてしまったことが、ロイドや皆にこうして気を使わせてしまうことが。

 スレイは、導師だ。

「ロイド」

「うん?」

「オレ、強くなりたい」

 そう思う。心から。

 するとロイドはふっと笑って、スレイの頭をくしゃりと撫でる。

「なれるさ。スレイがそう思うんなら」

 

 

―――――――――

 

 

 翌朝。

「さて、これからどうする?」

「マオテラスを探すんだ。その手掛かりを探して、秘力の神殿を巡る。………で、取りあえずはここから近い、ここに行こうと思うんだけど」

 地図を拡げたスレイが指差したのは、現在地ペンドラゴから南の地点。四つの印が付けられたうちの、一つだった。

「この印、なんだ?」

「あっ、そうか、ロイドは別行動してたんだっけ。これ、ティンタジェル遺跡………ええとほら、ロゼ達と会った、あの遺跡の奥で見付けた壁画に描いてあったんだ」

 なるほど、それならロイドが知らないはずだ。その頃、ロイドはエミルと共にレディレイクに行っていたのだから。

「ゴドジンに秘力の神殿があったよね? その場所に、ほら」

 スレイが指差した地図には、ゴドジンと同じ場所に印があった。

「だから、印の場所を回れば、それが秘力の神殿を回ることになると思うんだ」

「なるほどなぁ。確かに、手がかりもなしに探し回るんじゃ、グリンウッドは広いもんな」

 グリンウッドには遺跡も多い。秘力の神殿を探すのに、手当たり次第に遺跡に潜るのは大変だろうなぁと考えていたロイドは、少しホッとした。

「よし、じゃ、行くか!」

 

―――――――――

 本当にティンタジェルってなんなんだ………!

 

 ベルセリアやってほとんどの謎が解けたんだけど、これは逆に謎が深まったものの一つです。ドラゴン信仰の集団だって言うなら、なぜドラゴンの対局である導師の試練について描かれているのか。

 というかそもそも四つの秘力はいつ頃にどんな経緯で始まったのか………

 三部作目はまだですか………………

―――――――――

 

 

 

・大昔の伝説

 

 目的地は、アイフリードの狩り場と呼ばれる道の先にあるらしい。

「アイフリード、かぁ………」

「? どうしたのよロイド」

「いや、俺、アイフリードっていう名前の人を知ってるんだけど」

 悪い人では無かった。ちゃんと仲間のことを大切にして、恨みを他人に―――神子にぶつけることはしない、そんな人だった。

 だがしかし。

「………ちょっと、色々あってな………」

 好い人と言うには、最初に騙されたことや最後の面倒事が。………悪い人では、ないのだが。

「………ここの由来となったアイフリードは、千年前の人間だ。お前が知る人物とは違う」

「あ、そのお伽噺なら聞いたことあるよ。アイフリードは昔の大海賊なんだって。その仲間っていうのが、王子様に女の子、死神にドラゴン―――」

『ドラゴン!?』

 スレイとミクリオは目を丸くした。海賊の仲間がドラゴン。ドラゴンといえば、災厄の象徴だ。まさか、そんな筈が。

「だから、お伽噺。多分そんなの誰かの作り話だってば」

「………本当よ」

『え?』

 聞き返したが、エドナは傘を回しながら先に行ってしまい、ロイドとロゼは顔を見合わせて首をかしげた。

 その後ろで、スレイは。

 

 

―――――――――

 アイフリードの仲間云々はゼスティリア公式設定資料集から。

 ベルセリアプレイして腑に落ちたよ………もしかしたら、そんなお伽噺を各地で面白おかしく語り聞かせたのは、どこぞの素直じゃない魔女だったりしないかなぁ、なんて。

―――――――――

 

 

………………

・狩り場を進んだ先で遺跡(ウェルシュ遺跡)を発見、行ってみようと潜る。

 

・巨石を見つけたり、変異憑魔を倒したりした後で、スレイは瞳石を発見する。

………………

 

 

!オリジナル回(2)奇妙な瞳石

 

「………?」

「どうした、スレイ」

「うーん、これ、瞳石………だと思うんだけど」

 スレイの手の中で光る玉。確かに見た目は瞳石のようだが、それにしては映像が見えない。

 これまでは瞳石を手にした瞬間、直接脳内に映像が浮かんできたのに。

「反応しないな?」

「案外、瞳石によく似た別物だったりして」

「そんな筈無いんだけどなぁ」

 しかし瞳石は、霊応力がない人間にはただの綺麗な石でしかない。普通の人間の間では一種の宝石だと思われているものだ。

 ならば。

「どれ、ちょっと貸してくれるか?」

「あ、うん」

 宝石にも詳しいロイドなら、区別がつくかもしれない。ロイドが差し出した手に、瞳石をぽん、と乗せた瞬間だった―――

 

 

 暗い道。人の手で掘り抜かれたような壁。そこで剣を交える二人の剣士。

 辺りに散乱する刀。そこで振り下ろされる金槌と、打たれている黒い短剣。それを見守っている人影が二人―――

 

 

「―――い、スレイ?」

 はっと、現実に戻ってくる。

 目の前には、不思議そうにスレイを見詰めているロイド。

「どうかしたか?」

「いま………」

「?」

 ロイドは首をかしげた。回りのミクリオもライラも、心配そうにスレイを見るばかり。

「………ううん。なんでもない。はい、これ」

 今度こそそれを受け取ったロイドは、スレイの様子に首を捻りながらも『それ』を真剣な表情で眺めた。

「うーーーん………これ、これまでの瞳石とはちょっと違うなぁ。でも、宝石じゃないな。それは確かだ」

「なら、何故見られないんだろう?」

「これを見るための霊応力が足りてない………とか?」

 ロイドとミクリオとロゼが口々に議論を交わす。しかし何もわからない現状では、議論以上にはなりようがなく。

「とにかく、秘力の神殿に行ってみようよ。それでスレイの力が増えれば見られるようになるかもしれないし」

「そうですね。焦ることはありませんわ」

「………どうやらこの遺跡はここが最深部のようだ」

「じゃ、戻るか。スレイ、これは取り合えずお前に返すよ」

「わかった」

 さっきとは反対に、ロイドがスレイの手にそれを乗せる。今度はなにも見えなかった。妙な感じも、しない。

 皆と一緒に来た道を戻りながら、スレイは考える。

(あれは、ロイドに触れた瞬間に………ううん、でも、じゃあなんで、オレだけ?)

 ロイドはこんなことで嘘をつく人じゃない。だからきっと、本当に何も見ていない。心配そうだった皆の表情を見れば、ミクリオも、主神のライラも見えていなかった筈だ。

 何故、スレイだけが。

 ………いや、それよりも。

(さっきの、)

 二人のうちの一人。服装は違っていたけれど、あの背格好と髪は、見えた後ろ姿は。

 

(あれは―――エミル、だよな?)

 

 

………………………

・地の試練神殿モルゴースに到着、パワントに会う。

・エドナのメンチにミノタウロスが怯えて逃げ出すが、試練は『ミノタウロスを鎮める』ことだった為にそれを追い掛けることになる。

………………………

 

・ミノタウロス

 

 試練神殿は広かった。

 その中を、ミノタウロスはスレイ達から逃げ回る。

「鎮めようにも、とにかく、追い付かないと話にならないよなぁ」

 それはそうだが、神殿が広すぎてまず見つけるのが難しい。見つけてもこちらの姿を見た瞬間に逃げ出してしまうのだからどうしようもない。

「ライラ、ミノタウロスって、どういう憑魔なんだ?」

「そうですわね………虐げられた者達の魂だと言われています」

「………虐げられた………」

 ロイドがとっさに思い出すのは、親友と、その、友人と。

 

 

 

 神殿を駆け回ることしばし。

「あーもう! 面倒くさい」

「何か方法を考えないと………これじゃいつまで経っても捕えられない」

「いくらデゼルが場所を特定してくれても、視界に入った瞬間に逃げられるんじゃ」

 はぁ、とため息。

 デゼルが帽子を片手にやって俯いた。

「………また移動した」

「えっ。今度はどこ!?」

「ここから………北東だ」

 神殿は広い。簡単な見取り図は作ったが、エリアが絞れても見付けるまでに時間がかかるのだ。

 はぁ、と中庭で一息付いたとき、ロイドがふと気がついた。

「? 木馬………?」

「あ、ホントだ。でも壊れちゃってるね」

「小さいね。子供用かな?」

「元々子供の玩具でしょ」

「でも、作りはしっかりしてるぞ。使ってる木も質が良いやつだし」

 ロイドが木片をつまみ上げた。ぽろ、と破片が落ちていく。

「元々は、ちゃんと誰かに大切にされてたんじゃないかな。そんなに前じゃない。多分十年とか、それくらいだ」

「でも、何で試練の神殿に子供の玩具が?」

 議論していたら、スレイがはっとした。

 大事にしていたはずの、子供の玩具。それがこんなところに、壊れて、転がっている。

 じゃあ、だとしたら。

 その、元々の持ち主は。

「………ねぇライラ。さっき、ミノタウロスは虐げられた者達の魂だって言ったよね」

「ええ、そう言われていますが、………!」

 ライラも何かに気付いたように口元を抑え、俯く。一瞬遅れてミクリオが顔をしかめた。

 一行の顔色が沈む。

「ロイドの言う通りだ。きっと、………大事にしてたんだよ」

 そう、きっと持ち主は子供だった。でも今、ここに子供はいない。そしてミノタウロスが『虐げられた魂』だというのなら。

「………子供が、ここに置いていかれたのか」

「十年前なら、有り得ない話じゃないと思うよ。あの頃は疫病や異常気象が広がって、………食べるものにも、困る人が、たくさん出たから」

 口減らし―――

 シルヴァラントでは、ディザイアンが居たから減らすまでもなかった。けれど、………テセアラでは。

「人間は、本当に勝手ね」

 エドナが傘を開き、くるりとこちらに背を向けた。

 

 

………………

・ミノタウロス浄化

・パワントの元へ

………………

 

 

・『原因』と『結果』

 

「………無事に祓えたようだの」

 試練神殿の最奥で、パワントがスレイたちを待っていた。

「では、あれが何かも分かったか?」

「親に捨てられた子供たちの、魂」

「その通り。………ここには、いつからかそうして子供らが置いていかれる。だがここは子供が生きられる場所ではない。結果は、見ての通りだ」

「うん………いたたまれないよ」

 仮面の奥で、パワントがスレイを見据える。

 

「では、お主らに問おう。罪の在りかと、その是非を」

 

「つ、み………?」

「ここには、極稀に人間がやってくる。その人間達を、ミノタウロスは襲い、殺してきたのだ」

 それは、或いは恐怖だったかもしれない。虐げられ、疎まれ、また同じことを繰り返すことを恐れたのかもしれない。或いは、憎しみだったかもしれない。自分達を虐げた『ヒト』に復讐しようとしたのかもしれない。

 ただ一つ揺るがぬ事実は、彼らに殺された人間がいたということ。

「それは………」

「殺された人間は、ここに子供を捨てようとした親でしょう? 自業自得、と言えば、そうかもね」

 エドナが肩をすくめた。パワントがふっと笑う。

「その通りだ」

「でも! でも、だからって、誰かを殺して良い筈無い」

 ロゼの声は、悲痛だった。

「被害者だから、穢れに犯されていたからだって、やったことはなくならない。人殺しは罪だよ」

 どんな相手であれ、どんな事情があれ。誰かが誰かを殺すのは罪だ。そこに恨みはある。憎しみは残る。………だから暗殺なんていう仕事が、ある。復讐なんていうことが起こる。

 スレイだって、知っている。世界は綺麗事ばかりじゃないってことは。

 

 ただ、

 

「………親が子供を捨てるって、その気持ちがオレにはわからないけど、でも、………でも、きっと、本当にどうしようもなかった人だって、居たんだと思うんだ」

 でなければ、捨てる子供に、あんな玩具なんて持たせない筈だ。

 スレイは愛されて育った。血が繋がっていなくても、ジイジに、イズチの皆に、ロイドに。守られて、愛されて、大切にされて、育った。それがどれだけの幸福だったのか、世界を見た今は、本当に身に染みて分かる。

 それが、奇跡だったとは、スレイは思わない。

「皆がそうかは分からないよ。でも、そんな人ばかりじゃないと思う。親が子供を大切に思うのは、きっと当たり前の事だから」

「では、親にも、子にも罪はないと?」

「ううん。どちらもきっと、完全に悪くないなんて事はないんだ」

 子を捨てる親は確かに酷い。そしてロゼの言う通り、どんな事情があっても殺すことは良いことでは決してない。

 

「だから、―――悪いのは、みんなだ」

 

「………ほう?」

「子供を捨てなきゃならないのは、異常気象や疫病のせいだ。それは、誰か一人のせいじゃないよ。皆で、この世界に生きてる全員でなんとかしなきゃいけないことなんだ」

 パワントとロイドの口角が上がった。

「ならばお主は何とする」

「オレは導師だ。だから、穢れを浄化するよ。―――そうして、少しでも、こういう悲しいことが減ったら良いと思う。そのために、オレはオレが出来ることをする。それが、オレの、オレにできることだから」

 そう。

 ドワーフの誓い第一番、『平和な世界が生まれるように皆で努力しよう』。その教えの通りに。

「………バカね。スレイ一人が頑張ったって、世界全部を浄化出来る筈もないのに」

 エドナが呆れたように息を吐いた。スレイは頭を掻いて、笑う。

「でも、これがオレだから」

「バカね、本当に。………でも、いいわ。仕方がないから、付き合ってあげる」

 エドナはスレイの隣に進み出た。傘を畳んで、ふっと微笑む。

「いいの?」

「ワタシは貴方と契約してるの。今更でしょ」

「………ありがとう、エドナ」

 スレイの笑顔に、エドナはぷいと顔を背ける。その仕草に、またスレイは微笑んだ。

 

「………心の試練も合格だな。導師、エドナちゃん。祭壇に祈りを捧げるのだ」

 

 パワントに言われるまま、エドナとスレイは跪く。そうして二人が光り―――神依を為したスレイが、そこに立っていた。

「どう、エドナ?」

『………力を感じるわ』

 これで得た秘力は二つ。

 頷き合い、神依を解いたスレイに、パワントが問いかけた。

「行くのかの?」

「うん。ありがとう、パワントさん」

「―――導師よ。何事も事象の前には原因がある。それを理解し、よく考え、そして進め。答えを焦るな」

「はい」

「導師の道程は、世界に渦巻く情念の根本を理解する事から始まると知れ。………先は長いぞ」

 パワントは、今でこそ護法天族だが、かつては一万以上の憑魔を沈めた導師。スレイはその言葉を噛み締め、頷く。

「はい!」

「うむ。道中気を付けてな。………とと、いかん。忘れる所だった。そこの、剣士の青年」

「俺?」

「そうだ。ちょっとこいこい」

 ロイドは不思議そうにしながらも大人しくパワントの前に進み出た。

 パワントはロイドを眺め、ロイドの剣を眺め、頷く。

「確かに。『我、聖主ウマシアの代行として、ここに待ち人を認める』」

 イグレインの時と同じように、何かが弾けて、ロイドの中にふっと入ってきた。

「ねぇ、今の何? イグレインでも同じことがあったよね」

「俺、全然心当たり無いんだけどなぁ?」

 何故、異世界の、あったこともない神様が、ロイドのことを知っているのか。何故オリジンに何かをするのか。そもそも何が起きているのか。

 オリジンに聞いてみたこともあるが、オリジンは断固として答えなかった。

 スレイの隣に立つエドナの視線が、パワントに。

「ねぇ」

「う、いや、―――ではな! 聖主の加護があらんことを!」

 パワントはそんな言葉を残してすっと消え。

「………逃げたわね」

 エドナの声が、神殿に響いた。

 

 

―――――――――

 心の試練がまともにあるの火の試練くらいじゃね??

 って思ったので捏造展開。完全なる自己解釈&スレイに対する理想を詰め込んだ。

 

 あそこに木馬があるのってそういう意味なの??なんだよね???

 いかんせん、ゼスティリアは『考えて感じとれ!』な問題定義をするだけして答え投げっぱなしなだもん………

―――――――――

 

 

・(地の試練と同じ頃)

 

 アルトリウスの玉座には、誰も近づけない部屋がある。穢れの最中、空間さえ歪みかけているその場所に、ヘルダルフも、サイモンも、そしてエミルでさえも近づけない場所。

 

 そこに近付く穢れ持つすべてのものを、エミルは斬ってきた。

 だからその時も、そこを彷徨いていた狐の憑魔に、エミルは迷わず斬りかかった。

 がしかし予想に反してその憑魔は反応し、その場を飛び退いた。のみならず、空中で身をよじり、エミルに向けて青白い炎を放ちさえする。

 エミルは炎を斬り、改めてその憑魔を見た。

 ヒトだ。ヒトが穢れにのまれ、憑魔に堕ちた姿。けれどそれにしては自我を失っていない。狂いながらも、完全にはのまれていない。

 それはどこか、あのマルトランに通じるところがあった。

「………なに、お前」

「お前さんこそ、何者だい………?」

 睨み合い、向かい合い、そして両者は一歩を踏み込んで―――

 

「止めよ」

 

 エミルも、その狐の憑魔も動きを止めた。剣を構えていた状態から体を起こして構えを解く。

「サイモン」

 声の主を呼ぶと、少女が歩きながらその空間に現れた。エミルが睨み付けていることを、意に介した様子もなく。

 憑魔はサイモンを見つけると、目を更に細め、にぃぃ………っと笑った。思わずぞわっとするような、不気味な笑顔。

「なぁアンタ、何時になったら暴れさせてくれるんだぃ?」

「………お前の出番はまだだ。しばし待て」

「早くしてくれよ? ここにじっとしてると、アァ、喉が渇いて仕方がない………」

 背を丸め、クックッと笑うそれに、エミルは顔をしかめた。サイモンが放置しているということは、これがここにいることはヘルダルフも承知の上なのだろう。

 ………或いは、興味もないのか。

「私は用がある。お前がそれを見ていろ。それに、“壊されたく”ないならな」

「………わかったよ」

 エミルが答えるとサイモンは姿を消した。

 

 

 

「………お前さん、『何』だい?」

 狐はエミルを見た。じろじろ見られて、エミルはそれを無視して歩き出し。

「天族じゃあない。でも、人間でもないだろう?」

「僕は人間だ」

 黙っていられず、足を止めて振り返り、狐を睨む。

 そう、エミルは人間だ。そう生きろと皆が言ってくれたから。だからエミルは世界に帰ってきた。この世界でもそうだ。守られて、託されて。だからエミルは、ここにいる。

「一つ、言っておく。お前がここにいることを『あの人』が許したのなら、僕がお前をどうこうする話じゃない。でも、この先の存在に手を出したら―――」

 この先には『彼』がいる。誓約で世界と隔離し、封じることで眠り続けている『彼』が。

「手を出したら、斬る。例え相手が『あの人』であっても。そういう約束に、なってる」

 誓約で穢れ持つ存在は彼に近付けない。封じてしまったから、エミルも彼を見ていることしか出来ない。

 そういう風にしても、それでもやはり彼が心配で、誓約で守れる範囲の外でも『そこ』に近づく憑魔を、エミルは全て斬り捨ててきたのだけれど。

「そんなに大事なもんなのかい。………ククク、そう言われると、俄然気になってくるねぇ」

「………警告はした。あとは好きにしたら良い。手だししたら、斬るだけだから」

 互いに、互いの行動を制限できはしない。そういう決まりになっている。

「………お前さん、気に入った」

「憑魔に気に入られてもね」

「まぁ、そう言いなさんな。俺はルナール。お前さんは?」

 

「………エミル」

 

 

 

………………………

・後日、エミルの監視つきなら外出を認められたルナールは、エミルと二人でローランスに

・ローランスに来て何をするのか、と問うと、ルナールは来な、とエミルを何処かの屋敷に連れていく。

 ↓

 その屋敷には、仮面で顔を隠した、すさまじい身のこなしの、暗殺者達がいた。

………………………

 

 

『眠りよ………康寧たれ』

 

 囁いて、長身の男は胸に突き立てたナイフを引き抜いた。血飛沫が上がり、貴族の男性がドサッと床に倒れる。

 ナイフを持つ男はそれを見て、確かに死んだことを確認すると、片手を上げて仲間に合図した。頷き合い、彼らは凄い早さで屋敷から撤収していく。

「………なに、あいつら」

 ただ者ではない。あの身のこなし、一度は何らかの訓練を受けていると見た。

「ルナールと、同じ格好してるけど」

「『風の骨』………大陸に名を轟かせる暗殺ギルドさ」

「暗殺………」

 なるほど、だからあの胸にナイフを刺した男以外には手を出さずに撤収しているのだ。殺戮集団ならとっくに穢れに呑み込まれ、憑魔になっている筈だから。

 それは、マルトランと同じ。例えば矜持、或いは流儀、もしくは信念。

「………気に入らねぇなぁ」

 隣でルナールが呟いた。え、と顔を上げて横を向けば、そこにルナールはいない。

 屋敷に向かって、跳躍していたから。

「っ! 勝手なことを………!」

 エミルもルナールを追いかける。ルナールが破った窓から屋敷に入れば、―――そこは地獄だった。

 

 壁や床にべったりと張り付く血。まるで獣に裂かれたような傷口。通り道に居た者で、生きている者は居ない。

「………っ」

 エミルは足を早める。迷うことはない。血を、死体を追いかけていけば良いのだから。

 辿り着いた部屋で、ルナールは天を仰いで、棒立ちだった。

「はー、はぁあぁ…………!」

 恍惚。昂った、獣。

 噎せ返るような臭気にエミルは手で口元を覆った。

「あぁ………」

「満足?」

「まさか」

 振り向くルナールの瞳がぎらりと光る。

「まだまだ、こんなもんじゃ足りない。もっとだ。もっと、もっと―――あいつらには苦しんで貰うさ。その為には、こんなんじゃ足りない」

 真っ赤な両腕からポタポタと血を滴らせながら。ルナールは嗤う。

「そうだ。こんなんじゃ、あいつらにとって傷にもなりゃしない………」

 あいつら。繰り返し出てくる相手は、おそらくはあの『風の骨』の事だろう。

 なんの恨みがあるのか。………いや、恨みじゃない。憎いのとは、これはきっと違う。だが、それが何なのか。エミルには分からない。―――分かろうとも思わない。

 関係、ないんだから。

「帰るよ。あまり長居はしない。そう、最初に言ったよね」

「チッ………しょうがねぇなぁ………」

 ルナールは手に持っていた塊を、床に投げ捨てた。ごろん、と重い音がして“それ”が転がる。

 エミルは咄嗟に“それ”から目を背けた。

「カカカッ………あぁうん、やっぱり、あんたは良い」

「………行くよ」

 エミルが踵を返すと、ルナールが後をついてくる。酷い臭気が、鉄の臭いが、エミルの後をついてくる。

 どこまでも、それはエミルを追いかけてきた。

 

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