・カムラン
ロイドが気が付けば、そこは小さな村だった。
村の人がロイドを見る目は、どことなくイセリアに似ているような気がする。村の大きさも、村の近くに神殿があって、村人は皆信心深いということも。
が、そんな目で見られるのはロイドにとっては慣れたことだったし、旅をして、その気持ちは理解できなくもない。確かに突然現れたし、怪しいし。警戒されるのは当然のことだ。それでも旅人だから、と気を使ってくれて食べ物を分けたりもしてくれるのだから、本当は気の良い人たちなのだろう。
だからロイドはここに仲間がいないことをほんの少し寂しく思いつつ、日々村人を手伝いながら過ごしている。力仕事や狩り、道具の修繕。ロイドが手伝えることは山とあった。
変える方法も分からないが、まずは恩を返さなければならない。
………遠巻きにされるのは、旅人だからという理由だけでもなくて。
(あ、また誰か来てる。後でミケルに教えてやらないと)
すいすいと、人の間を縫うように進むひとがいる。けれどそのひとの事を、誰も気にしていない。―――正確にいうならば、誰もそのひとを認識できないのだ。
天族。ひとならざる、超常の存在。限られたひとにしか見えない、ここでは神様のような扱いをされているひとたち。
ロイドには天族がはっきり見えている。だから普通に人間と同じように話していたら、村人に驚かれた。話しかけた天族にも驚かれた。驚かれるくらい、この世界で天族が見えるというのは珍しいことであるらしい。
のだが、やっぱりロイドにはよくわからない。
(天族って、精霊とか天使みたいなものなのか?)
自分には見えているし、分かってはいるがついつい他のひとには見えていないということを忘れてしまう。
それにそもそもロイドには、神様を信じるという感覚が、実のところよくわからない。『ひとに頼らずおのれで歩け』の教えの通り、神様なんてものに頼らず自分で決めて自分で生きるのがロイドの生き方だし、―――何よりあの旅を経験してから、神様だって自分と同じ、この世界に生きている相手、という感覚が強い。
神様は、世界を思って弟を思った、優しい姉さんだった。世界を作ったのは、強く悲しい英雄の少年だった。世界を守り続けていたのは、自分と同じように心を持つ、新しくできた友達だった。みんな強い力を持っていたが、万能なんてものからはほど遠かった。悩んで、苦しんで、それでも世界のため誰かのためと思える、優しいひとたちだった。
この世界の天族も、同じに見える。見えないだけ、わからないだけで、きっと同じ心を持った存在。生きていることに代わりはないのだ。
そんな考えを打ち明ける相手は、二人しかいない。この村を作ったミケルと、その妹ミューズ。ロイドと同じように天族が見えるふたりである。
二人は話を聞いて、笑った。嬉しそうに、悲しそうに、困ったように。
「そう思ってくれるひとが、もっと増えたらいいのだけどね」
その笑顔は、リフィルとジーニアスに重なった。
・災厄の始まり
その日、ロイドはミケルに頼まれて出掛けていた。
この村―――カムランは、山に囲まれた場所にある。その関係上森や他の町に出るには険しい山岳地帯を抜けねばならない。普段なら旅の商人が来てくれるので困ることはなかったのだが、今は少し事情が異なる。
この大陸に存在する二つの大国、ローランスとハイランド。そのうちのローランスがカムランを接収しているのだ。
ロイドには詳しい事情は分からない。この世界のことは詳しく知らないし、なによりミケルたちが話したがらないからだ。だがその接収のせいで、商人が来なくなった。軍が駐留しているから食料も物資も軍が優先で、村人たちには回らなくなる。
かといって村人たちに険しい山岳を抜けて他の町に買い出しへ、なんて事ができる筈もなく、近年の気象が荒れているせいで森の実りも少なく、獣も荒れている。
だが、ロイドなら。
ロイドなら、どんなに険しい山岳だろうと抜けられる。獣にも対抗できるし、野党に襲われようとも難なく返り討ちにできる程度の強さはある。何よりも、父ダイクの教えにあるではないか。ドワーフの誓い第二番『困っているひとを見かけたら必ず力をかそう』、と。
そんなわけで、ロイドはミケルに地図を書いてもらって、一週間ほど前から出掛けていた。
神殿から、南に抜ける。そして海を目指す。海岸沿いを進むその道は、抜けられれば交易商人たちが交流するキャメロット大陸橋の方に出られるのだ。
大昔は街道だったらしいその道は、今ではほとんど使われていない。地面がぬかるみ地盤が緩く、海からの風が吹き付けるその道は、整備もほとんどされていない。それが野党などが潜む絶好の場所となり、容易には抜けられない道になっているのだ。
だがロイドなら抜けられる。
頼まれた買い出しを終わらせ、カムランにとって返し。
再び見たカムランは、炎で包まれていた。
「ミューズさん! ミケル!」
世話になった人たちの名を叫びながら、ロイドはカムランを駆け抜ける。
血の臭い。物が焼ける臭い。………人が、焼ける臭い。
ああ、忘れられない日と同じ臭い。二度の旅の、それぞれの始まりの。
「っ………! 誰か! いないのか?!」
「ロイド………?」
声が聞こえた。はっと振り替えれば、ミューズが傷だらけで立っていた。腕には―――確か、ミクリオ。
「ミューズさん! どうしたんだよその怪我! ミケルは? 村に一体何が―――!」
「村はもう………ロイド、ミクリオを………この子を連れて、貴方だけでも………!」
「バカなこというな!」
倒れかけたミューズを支え、ロイドは。
「ミューズは、まだ生きてる!」
「ダメよロイド! 私は、ここでやることが」
「そんなの、生き残ってから考えれば良い」
問答無用で抱き上げる。
「生きなきゃダメだ。死ぬことには、なんの意味もないんだ! 生きてれば何かできる。でも死んだらもう、何もできない!」
――――――
・ロイドが通ったのは旧ダーナ街道東からガリス湖道の一部を通るルート。パルバレイ牧草地から見る限り山はないから、使われていない理由云々は勿論捏造設定。
位置を考えるとキャメロット大陸橋の辺りが恐らくゼクソン港あたり。と思えば大陸橋が貿易商の集まる場所なのは納得。
――――――
・生き残った子ども
ミューズを支え、ミクリオを抱いて、未だ残る火の手を掻い潜りながら、ロイドは急ぐ。
カムランの出口近くまで来たときだった。
「ゼンライ様!」
ミューズが叫んだ。先にいたのは………天族が三人。
「おお、ミューズか。なにが起きた。そちらは………?」
「詳しい話をしている時間はありません。急がなければ………!」
ミューズが、気付いた。天族たちのすぐ側に、浮かんでいる赤子。
「その子は………セレンの? 身籠っていたなんて………」
「あんた、天族だよな? 頼む、ミューズを助けてくれ!」
ミューズの言葉を遮って、ロイドは。
ロイドはイズチに行ったことがない。ロイドがカムランに来たとき、もうすでにローランス軍が駐留していてそれどころじゃなかったのだ。だが、話は聞いたことがあった。遥か昔から天族達が暮らす杜。
天族は超常の力を操るもの。治癒の力を持つ天族もいるはずなのだ。
なのに、他ならぬミューズがロイドを止める。
「ロイド、良いの。それより………」
「そなたがロイドか。導師から話は聞いておる」
ミューズがゼンライ、と呼んだ天族は考え込むように口元に手をやった。
「………のう、ロイドよ。ここは余りに穢れが強い。赤子にとっては毒となろう。この子らを連れ、先にイズチに行っては貰えまいか」
「イズチに? けど、天族と導師しか行っちゃいけないんじゃ」
「良い。ワシが許そう。………遺跡を進めば巨大な石像がある。その石像の裏手の階段を上ればイズチじゃ」
「なら、ミューズも一緒に」
「いいえ。私が一緒では間に合わないわ。―――お願いロイド。私の子を、ミクリオと、セレンの子を………!」
いかにロイドと言えど、赤子二人と大人一人を同時に抱えて遺跡を抜けるのは無理だ。
ミューズと赤子を見て、ロイドは歯噛みする。選ぶなんて。そんなこと出来る筈もないのに!
「………わかった。けど、約束だ。ミューズ、必ず後で迎えに来る。だからそれまで、死んじゃダメだ!」
ミューズは目を見開いて、それから瞬きを一つ。
「ええ。わかったわ。約束する」
ミューズはミクリオに額をすりよせ、抱き締めた。
「―――なら、ミクリオ。私の赤ちゃん………」
天族からもう一人の赤子を託されて、ロイドは、イズチへと。
・イズチ
「ミューズさんが戻らないって、どういうことだよ!!」
ロイドが暴れてゼンライに掴み掛かろうとしたので、他の天族がロイドを羽交い締めにした。二人がかりでようやくロイドを止める。
「俺は! 俺は、ミューズさんと約束したんだ! 必ず迎えに行くって、絶対助けるって! なのに、」
赤子をイズチに連れてきて、ロイドは倒れた。無理もない。一週間の旅から戻って、ろくに休まずあれだ。煙を大量に吸ったことと、遺跡に溢れる魔物から赤子を守ってイズチに辿り着くのに力を使ったことで、限界が来てしまったのだ。
目覚めてミューズの事を尋ねると、答えは。
「………くそっ! もういい、俺が行ってミューズさんを連れてくる!」
「ならぬ!!」
それまでロイドの言葉を黙って聞くだけだったゼンライが、術も使ってロイドを止めた。
「ロイドよ。お前がミューズらを救いたい気持ちはわかる。じゃが、それだけはならぬ」
「けど!」
「ミューズは自らの意思で、このイズチとカムランを繋ぐ道を封じた。お前がカムランへ行くことは出来ぬ。万一それが出来たとしても、それはミューズの意志を殺すことに等しいのじゃぞ」
意志。―――遺志。
あぁ知っている。この重さ。託されることの、その責任。
ロイドは色んな人に助けられて生きている。ここにいる。例えば母に。例えばコレットに。例えばボータに。例えば―――ラタトスクに。
知っている。それは、ロイドが口を出せることじゃないことも。
「ロイド。ミューズはこうも言っておった。ロイドにならば、安心して子供たちを託せる。未来を頼む、と」
「未来………」
託されて、守られて。何時だって、ロイドは後悔する。助けられなかったこと、気付けなかったこと。どんなに経っても、………いつもロイドは、無力で。
「っふぇ、うぇぇえん!!」
赤子の泣き声。はっと顔をあげると、世話をしていた天族が慌てていた。抱いてあやそうとしているが、―――抱き方が違う!?
「あぁあ! ちょ、それじゃだめだ! 首を痛めるから!」
「え、どうしたらいいの? こう?」
「そうじゃなくて、こう、右手一本で抱くように―――」
赤子を受け取って、昔、旅の途中で教えてもらったように、気を付けて抱き。
ロイドが抱いてあやしてやると、赤子は少しずつ落ち着いて、泣き止んだ。腕の中で眠ると、とたんに重くなる。
―――赤子は、寝るといきなり重くなるものだ。
―――あんた子供がいるのか?
「!」
なんで、いま思い出す。
旅をしていたときだ。まだ父親だと知る前のことだ。世界再生の真実も知らずに、コレットを手伝うのだと笑っていた頃だ。
偶然に赤子を見つけて、あの時はロイドが慌てて、………教えてもらった。抱き方も、あやし方も。あの時はあんな無愛想な男がそんなことを知っていることに驚いたけれど。
(………あんたも、こんな気持ちだったのかな)
俺を抱いたときに、あんたもこんな風に、思ったのだろうか―――?
「っ………!」
約束するよ。これは絶対に守る。『嘘つきは泥棒の始まり』だから、約束は絶対に破らない。
ごめんな、コレット。帰るのはちょっと後回しだ。
「俺が、守るよ。絶対に………!」
――――――
・シルヴァラント編の何処かで、赤子を発見。コレットが見つけて、コレット、ジーニアス、リフィルがお母さんを探して町に散る。
居残り組でクラトスとロイドが「赤ちゃん見ててね頼んだよ!」と言われて、待ってるうちに赤子が泣き出す。あわあわするロイドの前でクラトスは見事に赤子をあやし、クラトスはロイドにそのやり方を教えた、ということが………
あったら良いなぁ。
ちなみにお母さんはコレットのドジの奇跡で見つかりました。買い物してても目を離しちゃダメですよ!
――――――
・ロイド
シンフォニアはロイコレEND。コレットとエクスフィア回収の旅をしている。ダイクの家に戻り、二本の剣が揃ったこととか色々あって、エターナルソードが暴走。異世界グリンウッドに飛ばされる。
飛んだのは壊滅前のカムラン。天族見えてる(霊応力高い)し気がいいし、悪いヒトじゃ無さそうだとミケルが保証したのもあって客人扱いで受け入れられる。
が、カムランが接収され、あの日が来る。ロイドは皆を守ろうとするが、神殿から走ってきたミューズを守って逃げることに。で、ジイジに会い、スレイとミクリオを託される。ここは赤子に良くない、と言われ、必ず戻るから、と約束して一足先にイズチへ。が、その間にミューズが道を封印。ロイドはミューズの思いを無下にすることも出来ず、スレイとミクリオの子守りをしながらイズチに留まる。
まあいつか帰れるだろ、くらいのつもりで悲観してない。ただジイジに異世界から来たと言うことは黙っておけと言われたので、スレイ達にも話してない。というか、単純に話すの忘れてたのもある。
数日に一度は必ず封印の扉前まで行ってる。スレイとミクリオはロイドを追いかけて、遺跡に入るようになる。
(それでリフィルが言ってた解釈とかぽろっと溢して二人が盛り上がるといいよ。あとスレイの耳飾りはロイドに教わってミクリオが作ったものだったり、ミクリオのサークレットはロイドが何度か修理してたり)